隠された武器
俺達はその足で既に閉店している武器屋の扉を叩きます。
まだ就寝はしていないのか薄らと明かりがもれていますぞ。
「なんだ? もう寝ようかと思っていたのに……ってアンタ等は昼間のアンちゃん達じゃないか」
「夜分遅くに申し訳ないですぞ」
「こんな遅くに何の用だ? 武器が欲しけりゃ明日にしてくれよ」
親父さんは少々不機嫌そうに言いますぞ。
ま、時間が時間だからしょうがありませんな。
「とりあえずこれを見てほしいのですぞ」
俺は赤豚が寄越したくさりかたびらを親父さんに見せますぞ。
すると親父さんはそのくさりかたびらを受け取って首を傾げました。
「おや? これは盾のアンちゃんが買って行った奴じゃねえか?」
親父さんは不思議そうにくさりかたびらを眺めながら調べています。
商品を取り扱っている店の主ですからな。わかって当然ですぞ。
それに最初の世界のお義父さんも親父さんは信用できる方だと言っていました。
これまでのループでも力になってくださいましたし、頼りになる人ですぞ。
「やっぱりだ。製造番号も間違いねえぞ」
親父さんの反応を錬と樹はマジマジと確認しています。
「どう言った経緯でこれを手に入れたんだアンちゃん達。まさか盾のアンちゃんから奪ったとか言わねえよな?」
「演技……ではなさそうですね」
「そうだな、これで演技なら相当だぞ」
「何を疑ってんだ? アンタ等」
「これはおと――尚文の仲間が先ほど俺に寄越した物ですぞ」
「なんだって!?」
親父さんが驚きの声を上げます。
やがてなにやら納得した様子で親父さんが言いました。
「あー……盾のアンちゃん、あの時の嬢ちゃんに鼻の下伸ばしていたからな。利用されちまったのか? そんな匂いはしてたからなぁ」
「気になっていたのですが、奴の正体を親父さんは知っているのですかな?」
お義父さんに協力的な武器屋の親父さんですが、国の事情を知っていたのですかな?
ここ等辺は知らないので聞いておきましょう。
「あ? どっかで見た様な気はするが知らねえな。俺も結構武器屋をやっちゃあいるが、初めての客だと思うぜ」
「奴はこの国の姫ですぞ。冒険者のフリをしているのですぞ」
「……聞いたことがあるな。この国の二人の姫の内、上の方は性格が悪くて留学していたって話を、下の方はまだ幼いはずだぜ」
そういえば赤豚が前に言っていた様な記憶がありますぞ。
こんな記憶、速攻で抹消したいですな。
奴の記録など全て吐いて捨てた方が良いと思いますぞ。
「で? これをアンちゃん達は盾のアンちゃんの物か確認しに来たのか? 前後が変な気がするが」
「そうですぞ。そのくさりかたびらは、間違いなくおと――尚文の物ですな?」
「ああ、俺が保証するぜ。これは間違いなく盾のアンちゃんに俺が売った品だ。アンちゃん達も見ておくと良い。この国の武具には誰が作ったのか管理番号が振られるんだ。ここにあるだろ?」
武器屋の親父さんがくさりかたびらに付けられた銘と番号を指差します。
錬と樹は異世界の文字で数字すらも読む事は出来ませんが、模様で判断してくれるでしょう。
「しっかし……盾のアンちゃんも災難だな。今頃身ぐるみ剥がされていなけりゃ良いけど」
既に剥がされていますな。
お義父さんの笑顔を俺は守りたいのですぞ。
未来でお義父さんはこの時の出来事からくさりかたびらの着用は拒んでおります。
どのループでも同じですな。
俺は……このくさりかたびらを着た笑顔のお義父さんを見たいのですぞ。
「俺も自分の店の物が犯罪に使われたとあっちゃ良い気分にはならねぇな。ま、アンちゃん達が返してくれるんなら次に来た時、少しくらいならサービスしとくぜ」
次に来る事はあるのですかな?
このままだとメルロマルクにいる事はきっと出来ないでしょう。
ならば、今すぐにサービスを受けたいですが、生憎と手持ちのお金は少ないですぞ。
……そういえば親父さんは隕鉄の盾を持っていましたな。
あの盾と同じ規格の剣や弓があると助かるでしょうな。
聞いてみますか。
「では隕鉄で作られた武器……剣と弓があるならこの場で俺達に数分だけ貸してほしいですぞ」
「は? 槍のアンちゃん、なんでこの店にそれがあると知ってんだ?」
この親父さんの反応に錬と樹が目を光らせましたぞ。
まあ、とても強力なスキルを内包していますし、店に並んでいない武器と聞いたからですな。
「正直、見せたくはねえがしょうがねえな。槍はいらねえのか?」
「俺は必要ないのですぞ」
親父さんは渋々武器屋の奥の方へ行って錬と樹がコピーできるように剣と弓を持ってきてくださいました。
お義父さんの分は……余裕があったら頼みに行きましょう。
「非売品だぞ」
「問題ないですぞ。ほら、錬も樹も、今日気付いたコピーをするのですぞ」
「わかった。その武器はどんな効果があるんだ?」
「流星シリーズと言えばわかりますかな?」
「おお……」
錬と樹がそれぞれ武器に触れてコピーを完了させます。
困惑している様ですが、思わぬ所でレアな武器が手に入って嬉しそうですぞ。
まあここで手に入れなければ、ゼルトブルまで行かないとダメですからな。
時間的に相当短縮した気分になるはずですぞ。
「コピーってなんだ?」
「それはですな、勇者の武器は店売りの武器に触れることでコピーして使えるようになるのですぞ」
「元康――」
「それは今言っちゃいけない事です!」
俺は武器屋の親父さんに勇者の武器の特性を説明しましたぞ。
「ほう……つまり剣と弓のアンちゃん達は俺の店の品を盗んだ様なもんじゃねえか!」
ボキボキと武器屋の親父さんは指を鳴らしておりますぞ。
錬と樹が冷や汗を流しながら数歩、後退いたします。
が、俺が槍を横に掲げて親父さんを見つめます。
「その件はこうして謝罪致しますぞ。それに……この店にまた来られるか分からないので、無茶を承知でお願いしたのですぞ」
俺の言葉に親父さんは顎に指を当てて考え込みます。
「ふむ……色々と滅茶苦茶なアンちゃんだが、誠意は伝わったぜ。盾のアンちゃんも災難みたいだし、それを助けてやれるならオマケしてやるよ」
さすが最初の世界でお義父さんが信用していた方ですな。
話が通じますぞ。
「では用は済んだのですぞ。明日は少々騒がしくなるので、用心をお願いしますぞ」
「あいよ。まあ、いきなり何かが起こるよりは良いか……」
こうして俺達は武器屋を後にしました。
店を出ると錬と樹が溜め息を吐いてから言いました。
「ふー……どうなるかと思ったぞ」
「ええ、殺されるかと思いました。元康さん、素直に言い過ぎですよ」
「未来でも良い人だったので、話せば通じると思ったのですぞ。それより、とりあえず見てほしいですぞ」
俺は槍を隕鉄の槍に変えて見せます。
コピーしていない槍に変えた事になりますな。
まあ、先にコピーしていたんだ、などと言われる可能性があるので証拠としては微妙ですな。
とはいえ、隕鉄の槍に変化させるにはLvが必要な事を二人ならわかるはずですぞ。
「流星槍!」
上に向けて放ち、綺麗な星が伸びて行きます。
「おお……」
「もうわかりましたかな? 俺は……未来から来たのですぞ。強さもその証明ですな。いろんな理由を付けて俺を疑う事は出来るでしょうが、今は争っている暇は無いでしょう。この俺が、錬、樹、お義父さんが生き残れるようにがんばって守りますぞ」
錬と樹の目に光る星が浮かんでいますな。
「国の陰謀……この夜が明けた後に元康さんの言う通りの事が起こる……」
「確かに疑う事は簡単だ。だが、その意味を俺はまだ理由付けする材料が無い。今は……信じよう」
俺は錬と樹と頷き合って、これから起こる出来事への対処に思いを募らせたのですぞ。
やっと信じてもらえましたな。
次はお義父さんですぞ。
「さて、今度はお義父さんを救わなければいけませんな」
「今から起こして話すんですか?」
「いや、今起こしたら尚文的に俺達が犯人という事にならないか?」
「そうですな。今までのループ知識を頼るに、冤罪を掛けられた際に助けに入ると良いと思いますぞ」
「……そうですね。騙されたと気付いた尚文さんを僕達が庇えば、尚文さんも信用してくれる可能性が高いですよね」
「じゃあ明日、各々城に呼ばれたら演技をして――」
俺達はお義父さんを救う相談をしました。
錬と樹がこの調子なら、きっとお義父さんを救えますぞ!