表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
198/1262

目的

 さて、存分に公開処刑を見させて貰おうじゃないか。

 あのカースに浸食された錬を相手に女騎士がどれだけ善戦できるか見ものだな。

 とりあえずは分析をしてみるとするか。


 もちろん、避難はしている。

 今の錬の状態は、どうなっているんだろう?


 強欲のまま、剣が変化した。

 よくよく見ると、剣に色々と装飾されている。

 鍔の部分は犬っぽい生き物……狐か? 他に豚っぽいものが柄にあるなぁ。

 だが……変化した時に錬の言葉がおかしくなっていたな。

 全てを手に入れてクラウか。


 ここから察するに、喰らうと変換すると、暴食も覚醒してしまった可能性がある。

 安易に倒すとその分、カースが増大する可能性があるな。

 樹とかと戦う機会があった場合は注意せねば。


 元康? アイツには近づきたくない。

 最近現れないから平和で良い。

 一方その頃、フィーロが追いかけられているかもな。


 ……激しく無駄な思考だ。

 今は前に集中しよう。


「オレ、は最強になる! 今、この瞬間でさえも成長し、永遠の先の単位の強さで動くように、也、お前等を倒し、経験値を喰らってミセる!」


 大剣を振り上げ、錬は駆け出す。

 動きがぎこちないがかなり早くなっている。

 ガエリオンが言うとおり、さっきよりも強くなっているのはわかるな。

 今の状況だと、ガエリオンが放った魔法の影響で俺もポータルシールドが使えないんだよなぁ。

 一応、人員を集めて後退しておくか。


「リーシア、ガエリオン、谷子。アトラを連れて、もっと下がるぞ」


 俺は気絶しているアトラをお姫様抱っこで抱えて下がる。


「で、でも……」

「今のままじゃアイツも戦いづらいだろ?」


 口から出任せだが、実際援護するだけならもう少し離れても問題無い。


「でりゃあああああああああああ!」


 錬が大剣をがむしゃらに振り回し始める。戦いの型も糞も無いな。

 女騎士はそれを体をのけぞらせたり、屈んだりして避け続けている。

 子供のチャンバラ攻撃のような予測が付き辛い斬りをよくもまあ見切れたものだ。


「わかった」


 谷子もリーシアも頷いて俺の指示通りに下がった。

 ガエリオンは俺の意図を察知したのか、何時でも逃げ出せるよう翼を広げて待機している。


「く……当たれ! 俺の攻撃は、どんな物すらも破壊する最強の一撃になっているはずだ!」

「当たるものか。そんな力の入っていない剣の太刀筋、工夫の無い攻撃など、当てる意思がないのと同意義だ」


 女騎士のステータスは知らないが、案外、高いのかもしれない。

 無駄が無く避けていると言えば避けている。


「何故だ、何故当たらない!?」

「……何故、イワタニ殿が盾の勇者なのだ? 私が見るにイワタニ殿に剣を持たせた方が良いぞ」

「だまれええええぇぇぇぇ!」


 ラフタリアやフィーロだったら、どんな風に避けるかな?

 あんな紙一重で避けたりせず、単純な早さで避けるかな?

 同門の弟子であるリーシアに聞くか。


「なあリーシア。見た感じはどうだ?」

「ふぇえ? えっとですね。剣の勇者様の攻撃は全て単調です。あれでは戦闘慣れした者なら誰でも避けられると思います」

「ほー……」


 ま、そうだよな。早くはあるけど、俺でも避ける事は出来そう。

 それくらい、単純に剣を振り回している。

 基本、縦切りか横凪ぎしかない。時々、直角に曲げたりもするけど、曲げる瞬間が丸見え。

 兵士と稽古していると目が肥えてくるからわかる。アトラも然りだな。


 天才肌のアトラの攻撃こそ、本能的な工夫があって、俺も受け流しが難しい。

 むしろ戦うたびに強くなっていくのはアトラだろ。

 アトラほど、戦いの中で目に見えて強くなっていく奴はいない。

 ステータス魔法外での工夫という意味でだけど。


 先程、女騎士に負けたのはクラスアップとLvだな。

 良く考えれば騎士をやっている様な人物がLv40以下とは考え難い。

 アトラはまだクラスアップをしていないし、今まで魔物との戦いしか経験していない。

 俺とは戦ったが、あれは戦ったというより、訓練と言った方が正しい。


 それに比べれば今の錬の攻撃は子供のチャンバラ程度だ。

 むしろカースに浸食される前の方が工夫があって強いんじゃないか?

 強くなるってステータス的にだろ? 意味が違うと思うのだが。


「さて、お前の本気とはその程度なのか? では私からも出させて貰おう」

「く……まだだ! 俺は、一方的に勝てる!」


 凄いセリフだ。攻撃こそ全てってか?

 あーそういや、錬のやってたVRMMOは盾職が死んでいるんだったな。

 だからこそ、反撃を許す前に倒すとかそんな事を言っているのか?

 回避前提とかも言っていたが……なんか怪しい。


 古来ネットゲーム関連で、防御職が存在する意味なんて対人に関わってくるものが多い。

 元康も錬も樹も、対人戦に関しては相当の素人だと俺は最近思っている。

 もちろん、奴等の言葉通りのゲームであるのだろう。だけどこの世界では違う。

 これは確信して言える。


「喰らえ!」


 無謀にも錬が大きく剣を振り下ろす。

 その切っ先が地面に触れた瞬間。地響きと共に地割れが発生した。

 おー、地面すら切り開く攻撃って奴だな。威力が高そうだ。

 ……ガエリオンの見た目だけ派手な魔法も良い勝負だよな。


「隙あり!」


 女騎士が剣で錬の肩目掛けて突く。

 ガツンと音を立てて、錬への突きは虚しく響いた。


「くっくっく……今俺が使っているこの剣には自動回復(大)が付いている。お前の貧弱な攻撃など意味が無い。素直に負けを認めろ」


 錬が邪悪に笑い。目を光らせている。

 ああ、女騎士に決定打が無い事を理解して笑っているんだな。


 なんで、説明口調なんだ?

 まあ俺が付けている鎧も自動回復付いてたけどさ。


「ふむ……イワタニ殿に比べれば柔らかいのだろうが、斬ったその場で回復されるか。厄介な」


 剣先を見てから女騎士は呟く。


「大人しく負けを認めて経験値になれ! 刹那・流星剣!」


 またそれか!

 大剣だからか、範囲が大きくなった飛び散る黒い星。

 女騎士はそのすべてを……なんか存在がぶれながら避ける。


「あ、あれは変幻無双流、回避の型の一つ、陽炎!」


 ……うん。中二病率は女騎士も変わりません。

 後リーシア、説明キャラやめろ。

 そんな事言われても『なに!? あれが!』とか言える程詳しく無いから。

 後、外野がそういう事言っていると俺達が弱くなった気がするからやめてくれ。


「まだだ! チェーンバインド!」

「ふん!」


 錬が呼び出した鎖が女騎士に向かって飛んで行くのだが、女騎士が剣を振るうと鎖が砕け散った。


「なに!?」

「やはりそうか……強固な鎖、防御も点を活用すればいとも容易く砕ける……イワタニ殿の檻に比べれば容易い」


 数秒で破壊した癖によくもまあ言うな。


「まだだ! 俺の必殺スキルを受けてみろ! ハイドソード!」


 ゆらぁっと錬の姿が闇に消える。

 お前……攻撃がワンパターンだぞ。

 ハンドレットソードとか、雷鳴剣はどうしたんだよ。

 攻撃の手段が無数にあるのなら工夫しないと女騎士にも勝てないぞ。


「ぬるいな。ラフタリアは目の前で消えても気を追えないぞ」


 スパンと女騎士は剣を横に凪ぐ。

 それだけで錬の隠蔽スキルが掻き消されて姿を表した。

 気って……まさか、あの錬から流れている魔力の流れか?


 ……おい。何故か、気とやらがわかりはじめてきた。


 ど、どういう事だ?

 俺は他人の戦いを見て、強くなる!

 なんて言うと思ったか、ボケ。


 ……アトラや女騎士に点とやらを突かれ過ぎておかしくなったんじゃないか?

 俺は俺自身がわからなくなってきた。


 ともあれ、いきなりは無理そうだが訓練すれば防御比例攻撃の対策が取れそうだぞ。

 重要なのは、体内の魔力に流れを作る事だな。

 柔らかいもクソも無い。

 流れている魔力で相手の攻撃が暴れ出す前に乗っけてやれば良いだけだ。

 柔らかい部分を作るのは初心者の方法だな。

 ババアも解り辛い事を言いやがって……。


 おそらくは変幻無双流はこの力を攻撃と察知に使っているんだろう。

 現に女騎士は避ける事はあっても、防御に気を使っていない。

 だから、ババアは俺に教える事ができなかったのかもしれない。


 わかる事と言えば、俺の防御力が極端に突出している所為で気の流れが変だ。

 これでは狙ってくれと言っている様な物だぞ。

 気、というか魔力の流れ、とも言えるが。


 なるほど、強いと言われる意味が少しは理解できた。

 後三回だ。あの攻撃を二、三回受ければ見切れる……気がする。


 こりゃあ、会得すれば今後に役立つな。

 女騎士の才能がどの程度だったのかは不明だが、剣だけとはいえ二週間で覚えてきたんだから、村の連中なら一月もあれば覚えられるか?

 いや、変幻無双流を本気で覚えようとすると、百年の逸材と公言されているリーシアでも一ヶ月掛かっている。

 初期から修行に向かったラフタリアに至っては、まだ完全習得していない。


 半信半疑で出遅れた。

 武術というから攻撃が重要で、防御の俺は関係ないと思っていた。

 これなら覚える価値がありそうだ。

 勇者が武術を学んではいけない、なんてルールは無いからな。


 まあどちらにしても、ステータスの高い奴にこの流派を覚えさせるのは上策だ。

 何も武術は女騎士やリーシアだけの物では無いから、使える物なら取り入れるまで。

 ここ等辺、村に帰ったらリーシア辺りに尋ねるとしよう。


 ちなみに気の流れがこの場にいる中でおかしい奴は俺以外にもいる。


 剣の勇者、錬だ。


 カースシリーズの影響かもしれないが、明らかに他とは違う。

 これで元康や樹まで他と違ったら勇者は特別な要素を持っている事になる。


 ん? リーシアは……凄く微妙。

 言っては難だが、気の流れが無い。

 いや、無い訳じゃないんだが……薄い。

 どうなってんだ?


 でも、あのババアが逸材とか喜んでいたんだから、どうなんだ?

 比較対象が少ないな。村に戻ったら確認しよう。


「その攻撃は相手に察知されていない時に使うのが定石だ。隠れたって無駄だ」


 そうこう考えている内に女騎士が錬をあぶり出し、剣先を向けた。

 案外善戦するな。

 決定打は持っていないようだが。


「さて、私からも受けさせるとしようか」


 腰を低く屈めた女騎士は錬に向かって駆けだして剣を突きだす。

 錬の奴も、防御の必要性が無いと思って……いや、咄嗟に大きく後ろに下がる。


「無駄だ」


 下がった錬よりも早く女騎士は錬の懐に入り。


「フォークロス!」


 アトラを昏倒させた攻撃を錬に放った。


「ふ……」


 女騎士の放った攻撃が錬に命中。

 なんとなく光の様な物が錬の体を突きぬけたように見えたな。

 しかしダメージが入ったその場で傷が塞がっていく、錬は何事も無かった様に立っており、笑みを浮かべた。


「俺に攻撃を当てるとは、なかなかやるじゃないか。少し本気で相手してやろう」


 ……何言ってんだ?

 錬の奴、思いっきり苦戦していたくせに演技でしたってか?


 いやいや、お前は何回敗北したよ。

 俺を相手に必殺スキルを撃って倒せず逃亡、ガエリオンに思いっきり負けてるじゃないか。

 それでカースシリーズを追加して立ち上がって、またも攻撃喰らってるぞ。

 というか錬にカースシリーズの呪いは効果が無いのか? 普通に動き回っているけどさ。


 中二病も力になるってか?

 俺に呪いは効かない、呪いこそが俺の力になるとか言いそうだから突っ込まない。


「戯けたことを、実戦で相手に手加減するなど失礼にも程がある。余裕を見せたふりをするな愚か者が! イワタニ殿は本気で殺しにきたぞ! 私の編み出した必殺の一撃を受けて、ちょっと痛かったみたいな顔をしたのだぞ! あれを編み出すのに何年掛かったと思っているんだ!」


 おい、俺への愚痴が入ってないか?


 ともあれ、女騎士は完全に錬を見抜いたな。

 早くはあるけど、早いだけで見切られている。あれじゃ早い意味が無い。


 しかし、女騎士の方も攻撃力に難がある。

 例の防御比例攻撃も俺みたいな、極端に高い防御力が無いと成立しない。

 元々剣術に秀でていたんだろうが、カースに侵食された勇者相手では分が悪いか。


 大体、あの攻撃って対盾の勇者みたいな、不自然さがあるよな。

 変幻無双流が生まれた土地がどこか知らないが、メルロマルクであった場合、敵対国の関係で対盾の勇者用に作られた技かもしれない。

 何か裏があるかもな。本気で対策を考えておこう。


 気の概念がわかってきたおかげで、対抗策が何個も出てくるのが救いだ。

 これって防御比例攻撃以外でも使えるんじゃないか?


「俺の攻撃は全てを喰らう。そう、貴様の経験値さえも!」

「どんなに強力な攻撃も当てなければ意味が無い!」


 しかし戦況が拮抗したな。

 攻撃を当てられない錬と攻撃が通らない女騎士。

 長期戦になれば女騎士の方が不利だ。

 当たらないだけで威力まで無くなった訳じゃないからな。

 この勝負、現状錬の方が勝つ見込みが高い。


 ま、仮に錬を倒せても、またカースに覚醒して起き上がってくるかもしれない。

 もしもそうなったら今度こそ処分を検討するしかなくなる。

 そこまで来てしまったら、もう戻れないな。

 にしてもコイツ……。


「さて剣の勇者。お前は何が目的なんだ? ちなみにイワタニ殿は元の世界に帰りたいそうだぞ?」

「うるせぇ! いちいち俺と錬を比べんな!」


 俺の叫びは届かなかった。

 おや? 錬が少しうろたえている。


「俺は……」

「目的だ。お前は何を目指して、強くなりたいんだ!」


 おいおい。そんな質問しても馬鹿な返答が返ってくるだけだろ。

 錬の目付きがおかしいし、あれはもう何も考えちゃいない。


「俺は最強にならなきゃ我慢できない! 全ての世界、全ての時間、全ての時空で俺は最強になる! それこそが俺の強欲であり、全ての経験値を求め喰らう暴食だ!」


 そう言い放った錬から真っ黒なオーラの様な物が噴出する。

 何か使う気だな。


「だから、お前も、俺が強くなる為の経験値になれ!」

『その愚かなる罪人への我が決めたる罰の名は神の名の元による捕食! 我が得た大地の力を贄する事によって放たれる腐敗をその身に刻み、喰われるが良い!』 

「シュタルクファアファル!」


 錬が大きく拳を握りしめると、全身から蛍火のような何かが漏れ出し、地面に消えて行く。

 ゴゴゴと辺りが揺れ始め、女騎士の足もとが突然割れる。

 ああ、さっきの地割れを起こす攻撃の派生? 詠唱がプルートオプファーと似てたけど。

 ジャキっと地割れで出来た亀裂に牙が生えて、女騎士に向かって食らいつく。


「その攻撃は隙が多過ぎる! イワタニ殿なら当ててくるぞ!」

「だから、うるせぇ! 比較対象に出すな!」


 ちなみに錬の攻撃は避けられた。

 ……なんか、プルートオプファーそっくりなんだけど。

 あ、でもちょっと違うみたいだ。


 ドバっと地面から何か、灰色の異臭を放つ物体が吹きつけられる。

 さっき使っていた気色の悪い金の像もそうだが、さすがの俺もアレに当たったら厳しそうだな。


 それって要するにプルートオプファーも避けられたら代償だけ支払うって事なんだよな。

 間接的な事実だが、俺の現状を鑑みるに外したら目も当てられないぞ。

 うん。もしも次に使う機会があったら、確実に当てられる状況で使わないとな。

 教皇の時は女王が足止めして、霊亀の時は的が無駄に大きかったから当てられたって事を肝に銘じておこう。


「ふ、ふぇええ……なんですかあれ!?」

「さあな。だが触れたら危なそうだ」


 一応、距離があるからまだ大丈夫だけど、地面がドロドロと溶けだしている。

 焼け野原になっていた周りにキノコとかカビが生え始め、凄い異臭を放ちだした。

 その腐敗した大地、腐海……ハエの化け物みたいな生き物を形作る。


 カーススキルのオンパレードだ。

 ターゲットは女騎士だけみたいだな。

 やがてハエの化け物が女騎士に向かって降り注いだ。


「狙いは定めろ。そして攻撃の覚悟が足らん。イワタニ殿がその身を削って放った攻撃はもっと凶悪で力強かったぞ。私は……あの攻撃が来ると思ったのに、期待はずれも良い所だ」 


 サッと女騎士がハエの化け物による浸食攻撃を……なんと正面から乗り越えて錬の前に立った。

 行き場を失ったハエの化け物は無残にもそのまま走り抜け、やがて崩れ落ちて消えて行った。

 あー……なんかこの辺り、汚染が酷くなってないか?

 何処までも人に被害を与える奴だな。


「おい」


 ガエリオンが耳元で囁く。


「他人事みたいな顔をしているが、汝の放った呪いの炎も大地を汚すのだぞ」


 知らんな。それこそ時間が解決してくれる。


「さて、では再度私は尋ねるとしよう。お前は最強になってその後、何を望む?」

「最強の……後、だとっ……!?」

「そうだ。その最強とやらにお前はなったのだろう? その力で何をするんだ?」

「ぐ……」


 言葉に詰まっている。

 ああ、やっぱりそうか。錬の強欲がなんで弱いかと俺も思ったが。

 過程と目的が逆転しているとは前も思った。

 だが、その先が……錬の強欲には無い。


 俺が強欲に目覚めないのもそれが理由かもしれないな。

 俺は金を強欲に稼ぎたい。

 だが、俺に取ってこの世界の金銭はあくまで波を生き残るために必要な物であって、それ以上に興味はない。

 どうせ帰るんだし、精々帰る直前にラフタリアへ今までの報酬としてやる位しかない。

 もちろん、贅沢は少しくらいはしてみたいとも思うが、そんな金があったら装備や施設投資に金を掛けたい。


 暴食もそうだな。

 強くなりたいから派生して覚醒したのだろうが、どっちにしても相手を経験値として喰らった後の事が無い。

 最強になったら満足してしまう。満腹になったら満足してしまう程度の暴食なのだ。

 際限無き飢え、食べても満足できない飢えから来る暴食では無い。


 俺のカースは憤怒。

 理不尽に対して気が狂いそうになる程の怒りをその身に宿す。

 その矛先はヴィッチを筆頭にしてこの世界の全てに向かっている。


 もちろん、この世界から帰ったら俺の憤怒は消えるのかという期待はあるが……おそらく、現実の世界でも理不尽な怒りがあると思う。それに堪えて行かねばならない。

 終わりの無い怒りに呑まれ続けるのと、手に入れたくても手に入らない最強、どっちの方が強く身を苦しめるんだろうな。


「お、俺は……俺は最強になって……せ、世界を救うんだ!」

「他者から与えられた使命をここで語るな!」


 女騎士がズバッと錬の返答を切り捨てる。


「そんなに認めたくないのなら私が直々に教えてやろう」

「何!?」


 錬の奴、思いっきり目が泳いでいる。


「お前は強くなりたいんじゃない。失ったモノを取り戻したいだけなのだ!」

「う……」

「お前が愚かにも考えなしに突き進み、失った仲間、人々、信頼、そのすべてを、ただ取り戻したくて、最強と言う目に見えた力を欲しているに過ぎない!」

「だ、黙れ!」

「そんな事、例え神であろうとも、いや神である勇者であろうとも出来はしないのだ。お前が今しなくてはならないのは最強になる事か!?」

「黙れぇえええええええええええええええええ!」


 錬が女騎士に大きく剣を振りかぶった。

 ギリギリ避けられそうな範囲だが、一発位援護しておかないと恩を着せられない。

 ……しょうがないな。力を貸してやろう。

 という算段の元、俺は走り出し、スキルの射程圏内に入り。


「エアストシールド、セカンドシールド!」


 バキバキと音を立てて錬の攻撃は止められる。

 女騎士が俺を睨むが、知った事では無いな。

 決闘に水を差すなってか?


 だが、こうする事によって女騎士による錬への拘束力が緩まる。

 何か文句を言われても、あの錬に本当に勝てたのか?

 と、煽ったり、錬に説教をしている時も横槍を入れる事ができる。

 少々小者臭いが、後々の事を考えるとこんな物だろう。


「邪魔が入ったな。だが私は話を続けよう。お前は本当はわかっているんだ。こんな所で腐っている暇があるのなら、その罪を背負って生きて行く覚悟を持って、散って逝った者の為に戦うのが――贖罪だ!」

「う、うるさああああああああああああああああい!」


 それでも錬は止まらず、女騎士に振りかぶる。


「最後までお前を信じ、散って逝った者達の代わりに、私は剣を振るおう!」


 剣を胸に掲げた女騎士が錬に向けて技を放つ。


「変幻無双流剣技! 多層崩撃!」


 俺に放った女騎士の連撃が全て、錬に向けて注ぎこまれる。

 あれだけの攻撃を、防御比例で受けたら堪った物では無い。

 俺の背筋にひやりとしたものが伝う。


「ガハ!」

「剣の勇者よ、お前は弱い。だからこそ、その弱さを受け入れる事でもっと強くなれる。失った者は帰ってこない。だが、これから罪を償って行けば良いんだ。私も出来る限り力を貸そう」


 と、告げて女騎士は剣を鞘へと戻した。


 かっこつけてはいるが、実際のダメージはそんなに無いみたいだ。

 まあ腐っても勇者だし、カースシリーズが二種も出ているんだ。

 女騎士としても相当な接戦だっただろう。

 仮に錬の攻撃を一撃でも喰らったら真っ二つだったんじゃないか?


 後な、かっこつけてはいるが、民衆や、その王である女王が死刑って言ったら意味無いぞ。

 罪を償うのは良いが、代償は命になってしまうかもしれないな。

 まあ俺はそれでも良いけどさ。


「う……ぐは……」


 その直後、錬は昏倒し、倒れる。

 おお、アニメみたいに倒されたな。


「自分の犯した罪から逃げるな。逃げる度に私はお前の前に立ち塞がろうじゃないか」

「う……」


 錬が倒れたまま目から涙を流している。

 無意識か? それ以上ピクリとも動かない。

 そして、大剣が普通の剣に戻った。禍々しい様子も無い。


「やったか?」

「トドメを刺したみたいに言うんじゃない!」


 女騎士が俺を睨む。

 だから言ってやった。


「精神攻撃とは、お前も中々やるじゃないか」

「嫌な言い方をする……」


 実際、物理的に倒した訳じゃないしな。


「イワタニ殿は、自分の罪から逃げはしていない」

「褒めてるのか?」

「違う! 逃げずに、わかっていて罪を重ね続ける。それは剣の勇者よりも性質が悪い」

「知らんな」


 女騎士が思いっきり溜息をついた。


「どうしてこんな者が人々を救っているのか……私はイワタニ殿が一番謎で、更生させれる自信が無い」

「更生? 何をするんだ?」

「……ラフタリアの苦労が身に染みてわかった。すまんラフタリア、お前からのお願いを成就できそうにない……」


 ラフタリア、この堅物に何を頼んだんだ?

 まあいいや。

 どうせ聞いても碌な事が返ってこないだろうし。


「さて、錬を倒したようだからな、約束は守るぞ。管理はお前に任せるからな」

「何が約束だ。私をハメただけじゃないか!」

「ははは」

「笑うな!」


 そうこうしていると、アトラがやっと意識を取り戻した。

 まったく、頼りにならない奴だ。

 俺の盾になりたいとか言っていたが、夢のまた夢だな。


「ふぇえ……これからどうするんですかぁ?」


 腐海化している元焼け野原を見渡しながらリーシアが尋ねる。


「もちろん、逃げるんだよ」

「イワタニ殿!」

「俺に何をしろって? こんな事をしたのはそこに居る剣の勇者だ。お前は錬の保護者だろ。責任を持つんだ!」

「むっ……そういう事になるのか? はぁ……女王に報告してこの地の浄化を依頼しておく」


 女騎士が頭を抱えて言った。


「任せたぞ」

「なんで偉そうなんだ、イワタニ殿は!」

「責任者はお前だからだ。責任追及は楽しいからなぁ。目覚めた錬にも嫌味を言おう」


 俗に言う中間管理職だ。

 これから女騎士はストレスで胃に穴が空く様な生活が始まるんだろうな。


「傷に塩を塗るのも大概にしないか!」


 と、嫌味と雑談を交えながら、気絶した錬を俺達は村へと輸送したのだった。

 この後、城へ連行するのかは知らないが、錬の意識が戻らないと話にならない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ