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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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煩悩の塊

「この辺りだったはずなんだが」


 山を登ると相変わらず生態系が狂ったままの状況だった。

 土地が汚染されているというか、魔力的に何が異常があるのだとわかる。


 またここに来るなんて夢にも思わなかった。

 谷子が村の方を振り返り、思いっきり睨んでいる。一体どうしたと言うのだろうか?

 道中遭遇する魔物はフィーロが蹴り飛ばしていたから殆ど戦わなかった。だけど今回は違う。


 戦闘で余計な時間が取らされる。しかも出現頻度が高い。

 まあ、サディナとラト、そしてメルティと谷子がいるから助かるけど。


『我ここに大地の力を導き、具現を望む。地脈よ。我に力を』

「ダークファイアパレット!」


 谷子の魔法によって出現した黒い炎で魔物が焼き払われる。

 なんか詠唱が俺の知る魔法とはちょっと違う。


「ここは周りの力で導ける力が悪い方向に行くみたい」

「というか、本当に変わった魔法だな」

「うん……あんまり難しいのは教えて貰ってないけど、この魔法は周りから力を借りるの」

「へぇ」

「お父さんはもっと難しい魔法を使えたんだけど」


 谷子も変った魔法を唱えるなぁ。その父親ってのもどんな魔法使いだったんだ?

 ラトが谷子の魔法に対して首を傾げている。


「その魔法って……」

「知っているのか?」

「人間が唱えるのとは系統が違う魔法だったはずなんだけど、もちろん亜人もね」


 そういや谷子って亜人ではあるんだよな。

 耳が犬っぽい亜人。のはず。

 何種かは聞いてないし、興味もないけど。


「特別な加護でも持っているのかしら?」

「お前は何の魔法が使えるんだ?」

「回復系」

「ああ、そうなのか。援護を頼む」

「わかってるわよ」


 サディナが無言で残った魔物を仕留める。


「あんまり、有名な系統の魔法じゃないけど無い訳じゃないわ。もう少し難しいのを覚えておいて貰おうかしら」


 くるくるとサディナは銛を回しながら、新しく現れた魔物に向かって魔法を唱え始める。そして何処からか水筒を取り出して構える。


『我、サディナが聖水の力を引き出し、顕在を望む。龍脈よ。我が敵を屠れ』

「セイントアクアブラスト」


 サディナが谷子と同じ詠唱で光る水の塊を生み出し、魔物にぶつけて仕留めた。

 その場にいる全員が呆気に取られる。


「ああ、ちなみにメジャーな魔法も唱えられるわよ」

『力の根源たる。私が命ずる。理を今一度読み解き。彼の者を水の弾で撃ち貫け』

「ファスト・アクアショット!」


 もう一匹の魔物を俺の良く知る魔法で倒す。

 無駄に芸が細かい奴だな。サディナって。

 奥深いというか、隠している訳じゃないのだろうけど、底が知れない奴だ。


「わかる? 周りから力を借りると言う事は、場所によって相性に問題が出てくるの。その時は自分の所持品をちゃんと意識するのよ」


 サディナが水筒を谷子に渡す。


「中には聖水が入っているからこの地の魔物には良く効くわ。でも使いすぎたら効果も落ちるから気を付けるのよ」

「う、うん」

「どうしても困ったら地では無く空から力を導いて、もちろん、コントロールは難しいわよ」

「お父さんと同じ魔法が使えるって、凄い」

「少しかじった程度。本当は自分の体に流れる力すらも使う物なのよ」

「どんな系統の魔法なんだ?」


 なんか便利そう。どうせ俺は使えないだろうけど。


「人間や亜人は特別な加護や祝福が必要だから覚えるのは難しいわねー。ナオフミちゃんならもしかしたら覚えられるかもしれないけど」

「どういう意味だ?」

「あ、でもフィーロちゃんがいると難しいかもしれないわねー」


 フィーロがいると習得が出来ない?

 どんな魔法なのかますます興味が湧いてくるぞ。


「……もしかしてそれって」


 ラトが気づいたようにサディナに問い詰める。


「消失魔法の一つじゃない? 高等魔物の一部のみに伝承されていると言われる。またの名を龍脈法」

「正解。私も昔、教わった物だけどねー」

「な、なんか凄いわね」


 メルティが見覚えのない魔法に呆気に取られている。


「ああ、メルティちゃんにはもしかしたら合唱魔法を唱えて貰うかもしれないからね」

「えー!?」


 合唱魔法? なんだそれ?

 儀式魔法とは違うのか?

 俺の読んだ魔法書にそんな魔法があったか? なんか聞き覚えがあるような気がするのだけど、思い出せない。


「無理無理無理!」

「大丈夫よ。メルティちゃん。髪の色にまで資質が顕現してる程の資質持ちでしょ? 頼りにしてるわよー」


 必死に否定するメルティ。

 あ、思い出した。確か合唱魔法って、あのヴィッチ達が唱えていた複数での同時魔法だったはず。


「相性抜群だから、メルティちゃん。頑張って」

「うう……」


 とはいえメルティのLvはそんなに高くない。期待も程々にした方が良いと思うがな。


「その時に備えて、少し講義しながら行きましょうねー」


 なんかピクニックになっているがそれ所じゃないのだけどな。フィーロの命の為にも。

 と、話しながら山を登って行くと腐竜の死骸が転がっていた場所に辿り着いた。既に三時間も経過してしまった。

 草木一本生えていない。

 未だにこの地の汚染は続いているのか……。


「ガエリオンは何処なんだろうな?」

「……たぶん、あっち」


 谷子が山の奥の方を指差す。

 なんだ?

 それに呼応するかのように黒い霧が立ちこめ始める。


「あらー……なんかやばそうね」

「行くしかないだろ」


 俺は谷子に視線を移す。


「知っているのか?」

「うん……こっち」


 谷子がまるで慣れた道であるかのように歩いて俺たちを案内する。


「なるほどねー」

「なんだ? どうしたんだ?」


 サディナが納得したように何度も頷いている。説明しなきゃわからない。


「ナオフミちゃんは人の過去が気になるタイプ? ならお姉さんの過去を話しちゃおうかしら」

「知らん!」


 なんかはぐらかされたような気がする。

 過去? 谷子はこの辺りの地元の住民だったのか?

 例えばドラゴンを信仰する隠れ里の亜人だったとか……で、この地のドラゴンが殺されて里は疫病で壊滅。奴隷として捕まったとか、その辺り。

 で、魔法は里独特の物で。

 辺りかな?



「いた!」


 二時間程進んだ所で谷子が振り返って指差す。もちろん。魔物との戦闘を込みだ。フィーロの残り時間が少ないというのに、こんな所で時間を食うとは……。

 ガエリオンが、洞穴の前で横になっていた。

 眠っているのか? ピクリとも動かない。


 物陰に隠れながら接近する。

 打ち合わせでは、ガエリオンに接近出来たらシールドプリズンで動けないようにしてから近づき。檻が消えると同時に魔法をぶつけて弱らせ、ラトがマヒさせる。

 後は、俺がマヒをしたガエリオンから核を奪って終わりだ。

 上手く行けばの話だけど。


 シールドプリズンの射程は五メートル。ガエリオンまではまだ二〇メートルある。

 もう少し近づかないといけない。

 ステータス魔法で確認する限り、Lvは55。フィーロから20Lvも吸い取ったのか。果てしないな。


「ギャオオ!」


 パチッと目を覚ましたガエリオンが洞穴の中に行ってしまった。


「チッ!」


 失敗か。

 とはいえ洞穴の脇まで接近は容易になった。

 洞穴の壁を背に様子を見る。

 ガエリオンは洞穴の中で何かをキョロキョロと探しているようだ。


「何をしているんだろうな?」

「たぶん、宝を探しているんだと思う……村の連中に取られちゃった宝を」

「ドラゴンって収集癖あるからねぇ。ガエリオンの体を乗っ取っている核に宿る意思はそこが未練だったのかしらね」


 なるほど。ドラゴンにはそんな性質があるのか。


「……」


 谷子がぼそりと何かを呟いた。

 だが、今はそれ所では無い。


「よし、行くぞ」

「ガエリオン!」


 と、俺達が接近しようとした矢先。


「ギャオオオオオオオ!」


 ガエリオンが咆哮をする。

 ドクン!

 盾がその咆哮に合わせて脈動した。

 な……なんだ!?

 最初にガエリオンが咆哮した時には何もなかったと言うのに。


「ちょっとこれってやばそうねー、少し距離を取りましょう」

「ガエリオン! 聞いて! ねえ!」

「下がれ! 死にたいのか!」


 だが、俺の盾の脈動は強まり続けている。

 目に見えて盾から黒い何かが溢れ出てガエリオンを取り囲む。

 そして辺りの大気と言うか汚染された何かすらもガエリオンは吸い込み始めた。

 ボコボコと音を立ててガエリオンの全身が少しずつ巨大化していく。


「かなり危険な感じがするのだが、ラト、何かわからないか?」

「わかる訳ないでしょ! 伯爵の盾が余計な事をしているんじゃないの!?」

「そうなんだよなー……俺もフィーロと同じく何かを吸われている気がするし」

「ねえナオフミ。なんでちょっと楽しげにしてるの?」

「は?」


 まあ、なんかボス戦って感じでワクワクしてるけどさ。

 ……なんか凄く危険な気がしてきた。俺自身が何処かおかしい。


「ナオフミ、腐竜の核ってナオフミにも力を与えていたのよね」

「ああ、霊亀を倒した時に使っていた盾であるラースシールドは腐竜の核の力も作用しているっぽい」

「確か、その盾ってナオフミに取って、姉上や父上への怒りが元で出たのよね」

「姉? ああ……何されたんだっけ?」

「「「それだーーーーーーーー!」」」


 なんかメルティとラトとサディナが俺を指差して確信の声をあげる。


「ナオフミ、あなた。姉上への怒りとか殺意が吸われてる!」

「な、なんだってー」


 やばい。思い出せない。

 思い出さない方が良いような気がするのだけど、何かが違うような気がする。

 良く見たら……サディナ以外美少女じゃん。

 なんで気づかなかったんだ?


「ナオフミ、目付きが気持ち悪い。元に戻って」

「そんな事言われてもなぁ~」


 ラフタリアは、思い出したらドキドキしてきた。

 弱ってるフィーロ、鳥の姿だけど可愛かったな。人の姿だったら元康じゃないけど惚れそう。

 うん、メルティもツンデレっぽくて中々良いんじゃないか?

 アトラも盲目美幼女とか萌え要素だろう。フォウルがシスコンになるのも頷ける。

 ふふ、エロゲで言えば寝取りだな。


 ……本格的にヤバイ! 何がヤバイのかわからないけど。

 何が寝取りだ。くだらん。


 というか、怒りや殺意、恨みの無い俺って煩悩の塊なの?

 早急にガエリオンから取り返さないと危ない!

 色々な意味で。

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