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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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VS霊亀、偵察戦

「近くで見ると大きいですね」


 目の前に巨大な亀が一歩、また一歩と近付いてくる。

 その一歩で辺りには地震が起こり、ふらつきそうになる。


「そうだな」

「……逃げたくなります」

「気持ちは分かる」


 たった1ヶ月と少し前は他の勇者のおこぼれを貰っていたような立場だったはずなんだが……何時の間に他の勇者が勝てない相手と無謀にも戦おうとしているんだろう。

 ……引けない理由があるから、しょうがないのだが。

 ま、物は試しだ。

 危険だったら即時撤退をすれば良い。


「おっきな亀さんだね」

「ふぇえええええええ! イツキ様ー!」


 山から一つ目の甲羅をつけた蝙蝠のような魔物が群がってくる。

 これが霊亀の使い魔か。


「流星盾!」


 さっそく覚えた流星盾を展開させ、俺はリーシアを後ろに下がらせる。


「ヘイトリアクション!」


 霊亀の使い魔は目から光線を発射して俺達に群がる。

 ガギンガギンと結界にぶつかる音が響く。

 遠距離攻撃を使うのか。


「てい!」

「てりゃあ!」


 ラフタリアとフィーロが結界から出て霊亀の使い魔に攻撃する。


「ギィイイ!」


 霊亀の使い魔はそれぞれの攻撃を受けて事切れる。

 のだけど、根本的に数が多いな。

 こちらは偵察だから少ないのは致し方ないか。


「たあ!」

「おりゃあああ!」


 ガスガスとラフタリアとフィーロは霊亀の使い魔をなぎ払っている。

 思いのほか戦えていると分析するのが良いだろう。


「大丈夫か?」

「はい。少々、硬いと思いますが倒せなくはありません」

「そうか」


 ドスンと音が響き、霊亀から何かが零れ落ちる。

 ……今度は亀の甲羅を背負ったゴリラみたいな魔物が俺達に向って来る。


「ツヴァイト・オーラ!」


 援護魔法をラフタリアとフィーロに掛ける。


「ファスト・ガード!」


 同時にリーシアが俺に向けて防御力アップの魔法を施してくれた。

 判断としては間違っていないな。

 やはりステータスと頭の良さは別らしい。


「行きます! 陰陽剣!」


 ラフタリアの剣が白と黒、交互に輝いて魔物を切り裂く。

 その切り裂いた魔物が二つに裂けて白と黒の玉に変わり、それぞれが別の魔物にぶつかって消滅した。

 一石二鳥の必殺剣か!?


「ぷちくいっくー」


 フィーロがハイクイックのようにぶれて敵を蹴り飛ばす。

 なんだ? 同じ攻撃か?

 そう思ったのだけど、フィーロ自身の加速が途切れず、魔物を次々と蹴り飛ばしていく。


「えっとねー、瞬間的に早くなるはいくいっくの節約版なのー」


 維持しやすい攻撃か。

 確かに便利だな。


「ふぁ、ファスト・ウォーターショット!」


 リーシアが申し訳無さそうに結界に潜り込みながら使い魔に向けて水の魔法を放つ。

 うん。倒せていない。

 けど、動きは弱まっている。


「これはいけるかも知れないぞ」


 まあ、使い魔程度が余裕なのは大前提か。

 問題は本体。おそらく、他の勇者共も本体を相手に苦戦したのだろうし。

 もしかしたら体内で戦闘中の可能性もある。


「とにかく、戦ってみるぞ!」

「はい!」

「はーい」

「ふえぇええええ!」


 と、霊亀に近付くに連れて強力になっていく……はずの使い魔を退かせて、俺達は霊亀の前にまで来た。

 近くで見るとやはり巨大だ。

 顔だけで一つの村くらいはありそうだ。

 さて、どうしたものか。

 霊亀が俺達に視線を向ける。


「―――――――――――――――!」


 余りにも巨大な雄たけびに耳を押さえる。

 これは友好的な態度じゃないな。

 流星盾を唱えなおし、使い魔を弾いて霊亀の状態を確認する。

 霊亀が俺達目掛けて前足を前に出す。


「やば!」


 強大な足の蹴りだ。咄嗟に盾を構えて攻撃に備える。

 ガラスの砕けるような音と共に流星盾が壊れ、直後、俺に向って霊亀の足がぶつかる。

 衝撃が全身を突き抜ける。


「ぐ……」


 数歩だけ俺は後ろに下がった。


「な、ナオフミ様?」

「ごしゅじんさま?」


 ラフタリアとフィーロは咄嗟に俺を盾にして事なきを得ている。リーシアは俺のマントの下に潜り込んでいて事態を理解せずに「ふえぇえ」と漏らす。


「だ、大丈夫だ。次が来るぞ」


 霊亀の踏み付けや前進に巻き込まれても傷を負う事は無さそうだ。

 ……流星盾のクールタイムは過ぎたな。

 新たに展開させる。


 その直後、上空に雨雲が発生し、俺達に群がろうとしていた使い魔たちを一掃する。

 女王と連合の援護射撃だ。

 タイミングを練らないとラフタリア達を巻き込んでしまう攻撃だ。

 俺の流星盾を発生させた後に放つとは、考えているじゃないか。


「よし! お前等、とりあえず攻撃してみてくれ!」


 あんな化け物に通じるかが問題だが、見た目よりも弱いという可能性がある。


「とおおおおおお!」


 フィーロが力を込めて霊亀の巨大な顔の顎に蹴りを入れる。


「――――――――!?」


 霊亀の頭が上に仰け反った。


「わぁあああ……重いー」

「まだです!」


 ラフタリアが合わせて剣で仰け反る霊亀の首に水平切りをする。

 ザシュっという野菜を切る様な音がしたかと思うと霊亀の咽喉元に亀裂が刻まれた。

 血が噴出す。

 しかし、それ以上のダメージは入らず、霊亀の咽喉元の傷は直ぐに再生し、怒りに満ちた霊亀がラフタリアとフィーロを睨みつける。


 ……戦えなくは無い、か。

 というか物凄く強くなっているな、ラフタリア達は。

 俺も自身が強くなった自覚はあるけど、それ以上じゃないか?


 これなら多少苦戦するが勝てない敵でもないか。

 だとすると、アイツ等……勝てる相手なら何故、放置した?

 こりゃあ、俺への嫌がらせをしたという案も否定できなくなってきたぞ。


「――――――――――!」


 霊亀の前に巨大な魔法陣が展開される。

 ……これは嫌な予感。

 直後、ラフタリアやフィーロが地面に吸い付くようにうつぶせになる。


「ぐうぅうううう……」

「な、なんですかこれ……は」

「何があった?」

「わ、分かりません。ですが体が地面に吸い付いて……お、重いんです」


 やばい! 何がやばいかは分からないけどこのままじゃラフタリア達が危険だ!


「ふぇえ?」


 リーシアは間抜けな声を出しながら俺のマントの下にいる。

 コイツは問題が無い……のか?

 流星盾で生み出された結界が振動している。

 何かを守っていると見て良いだろう。

 俺はラフタリアとフィーロを結界の中に入るように近付く。


「あ、軽くなりました」


 近付くだけで二人とも立ち上がった。

 状況的に推理できるのは重力の魔法を使ったという所だろう。

 しかし、霊亀の魔法は俺の魔法防御を突破できなかったんだ。

 霊亀は俺達が動かないのを確認し、魔法陣を展開させながら巨大な足で踏み潰さんとする。

 させるか!


「シールドプリズン!」


 流星盾と一緒に檻を作り出して備える。

 ガツンという大きな音が檻に響く、そして檻が壊れると流星盾で足を受け止めた。

 ……一応、霊亀の体重を支える事は……。

 結界がミシミシと音を立てる。

 このままじゃ壊れるな。


「移動するから付いて来い」


 このまま踏み付けを受け続ける道理も無い。


「はい!」

「はーい」

「ふぇえ……分かりました」


 三人の了承を得てから俺達は走って霊亀の踏み付けを逃れる。

 ドスンと言う音がして霊亀は地響きを立てると土煙が上がった。

 あ、流星盾は土煙も防ぐようだ。


「とりあえず耐える事は出来るようだが……」

「土煙で私達の居場所が特定できないみたいですよ」

「フィーロ達を倒したと思ってるみたいだよ? 魔法が途切れたの」

「ふむ……攻撃のチャンスだが……」


 ゴロンゴロンと辺りに使い魔が落下してくる。

 随分と警戒されているのか、完全に倒したかを確認する気だ。

 時間が無い。どうする……?


「何か決定打は無いか?」

「……あります。次は出せませんが」

「うん。一回撃つとヘロヘロ」

「頼めるか?」


 霊亀の首にあれだけの攻撃が出来るんだ。本気で行けば倒せるかも知れない。


「お任せを」

「うん」


 ラフタリアとフィーロがそれぞれ必殺技を撃つ為の構えを取る。

 フィーロのは見覚えがあるな。

 翼を上下に構える。

 後方に風の流れができているのが誰の目にも見えるほど、魔力が凝縮されている。


「何時でもいけるよラフタリアお姉ちゃん」


 前よりも早い! 実戦に使えるようになったのか。


「もう少し待って」


 ラフタリアも尻尾が膨れている。

 あれは相当魔力を凝縮しているな。


「準備出来ました。行きますよ」

「うん!」


 ラフタリアはフィーロの背に乗って魔力を解放する。


「すぱいらる……」

「八極陣……」


 土煙が渦を巻き、フィーロの周りに光が集まる。

 その光が陰陽の玉となって八つに別れる。

 どうもラフタリアの攻撃は東洋の匂いがするものが多いな。


「すとらいく!」

「天命剣!」


 一筋の光となってラフタリアとフィーロは霊亀の咽喉元を突き抜ける。

 霊亀の目が驚愕に彩られる。

 いや……既に体と切り離されているから反応は仕切れていない。

 そう、霊亀の巨大な首と胴体が見事に貫かれて千切れ飛んでいた。

 霊亀の首から鮮血が飛び散り、辺りに血の雨が降る。

 ドスンと霊亀の胴体が地に付く。


「やったな」


 頭が吹き飛ばされたらさすがに死ぬだろう。

 思いのほかアッサリ倒せた。

 体内に侵入して心臓を封印しなくてはいけないほどの敵ではないようだな。

 遥か後方から歓声が響き渡る。


「ふへぇ……」


 着地したフィーロがへたり込む。それはラフタリアも同様だ。


「やりましたね」

「ああ、お前達。よくやった」


 これだけの高威力の必殺技を放てるのなら負ける事は無い。

 他の勇者共よりも遥かに強くなった実感が現実味を帯びてくるな。


「凄いです」

「リーシア、お前もあんなふうになれる様に頑張るんだぞ」

「ふぇえええええ!? 無理ですよ」

「無理じゃない。なるんだ!」

「私なんかじゃ出来ませんよ!」


 ブンブンと霊亀と同じく首が千切れるんじゃないかと思うくらいリーシアが否定する。

 こりゃあ精神から鍛えないとな。


「さて、それじゃあ戦勝会を――」


 何かが蠢くような音が霊亀の方から響き渡る。

 全員が音に気づいて霊亀に目線を向ける。

 霊亀の胴体が立ち上がり……首から先の肉が蠢いて……。

 ドバァっと音を立てて何事も無いかのように頭が再生した。


「な……」


 何が起こった?

 どれだけの再生能力を持っているんだよ? 頭を落としたんだぞ? ヒドラかっての。

 過去の勇者が心臓を封印するだけに留まったと言うのはこの再生能力が関わっていたんだ。


「――――――――――――――――!」

「くっ!?」


 霊亀が口を開いて吼える。

 いや……胴体から光り輝く何かが咽喉を通じて昇ってくるのが見える。

 背筋がざわめく。

 俺は咄嗟に全員の前に出て流星盾を展開し、プリズンを唱える。

 霊亀の口から高濃度の雷が吐き出された。

 もはやアニメとかで打ち出される粒子砲のようだ。


「ぐ……う……」

「な、ナオフミ様!?」

「わー!」

「ふえぇええええ!?」


 檻が砕け、結界も呆気なく突破、肌の焼ける匂いが俺の鼻を掠める。

 だが、それよりも全身を貫く痛みで意識を失うことも出来ない。

 永遠とも一瞬とも言える長い時間を俺は感じていた。


「はぁ……はぁ……」


 朦朧とする意識の中、霊亀の攻撃が止んだのを俺は理解する。

 ここまでのダメージを受けた事はブルートオプファーを放った時以来だ。

 いや、それ以上か……。

 肉の深い所が焼けているのを感じる。


「ごしゅじんさま!?」

「ナオフミ様!?」

「勇者様!」


 く……回復魔法を唱えようと思うが意識を集中できない。

 その瞬間、俺を中心に暖かな光が降り注ぐ。

 俺の傷が見る見る治っていく。

 ただ、完治するにはまだ時間が足りない。


「ツヴァイト・ヒール!」


 ここ数日の成果で覚えた回復魔法を自分に掛け、トドメとばかりに俺達に足を出す霊亀の足を受け止める。

 よし、思考ができるようになった。

 おそらく、女王の後方援護魔法だ。

 助かった。ソウルイーターシールドでは耐え切れない程の攻撃だった。

 幸いな事に霊亀の必殺技も、チャージに時間を要するようだ。

 振り返ると、俺が守っていた所以外が消し飛び、後方にあった山が跡形も無くなっている。


「フィーロ、魔力を回復しておけ」

「うん!」


 こんな事もあろうかと準備していた魔力水をフィーロへ投げ、飲ませる。


「パチパチするー果物入れようよ」

「……人は、それを炭酸飲料と呼ぶ」


 確かに魔力水は砂糖の入っていないソーダ、炭酸水みたいな味だとは思っていたが、俺の世界の飲料水の基本的な作り方を一口で考え付くとは……さすが野生児、妙な所で鋭いな。

 それはともあれ、これでフィーロを最大限使える。


「外部からの攻撃では無理そうだ。一度撤退する」


 霊亀の攻撃に耐えつつ、流星盾を展開。その結界で霊亀の足を避ける。

 地響きが起こり、霊亀がもう一度俺達を踏み潰す為に足を上げる。

 だが、その隙が俺達にとってもチャンスだ。


「はいくいっくー!」


 フィーロが俺たちを担ぎ上げて高速で離脱する。

 まったく、俺の防御力を突破し、驚異的な生命力で頭すらも再生させる奴に正攻法で勝つなんて不可能だろ。

 これは予定通り心臓部を叩くしか無さそうだな。

 俺達はフィーロに乗って霊亀から撤退するのだった。


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