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盾の勇者の成り上がり  作者: アネコユサギ
盾の勇者の成り上がり
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ゲーム知識が牙を剥く時

 何が起こったのかが分かったのは更に数時間後だった。

 傷だらけになった他国の飛竜に乗った伝令兵が来た。


「一体何があったのです?」


 重傷を負いながら、使命に満ちた表情で伝令兵は玉座の間に集まった俺達に告げる。


「た、大変です! 封印された伝説の魔獣、霊亀の封印が破られました!」

「れいき……?」


 れいきって幽霊の霊に亀と書いて霊亀か?

 霊亀って確か俺の世界だと伝説に存在する幻獣の名前だったような。

 まあゲームでよく出てくる四聖獣に比べればマイナーなのだけど……。

 こっちも四霊と呼ばれたり瑞獣と呼ばれたりと負けず劣らずの立ち位置の生き物だ。


 四聖、四神が青竜、朱雀、白虎、玄武だとすると四霊は麒麟、鳳凰、霊亀、竜。

 似た様な生き物だから同じだと間違う人もいるだろうが違う。

 今回の霊亀に関してもそうだ。似た立ち位置だと玄武か。


 霊亀は蓬莱山を背負った巨大な亀。

 玄武は尻尾が蛇で描かれる事の多い足の長い北方の守護獣。

 蓬莱山は東にあるという仙人の住む山という話があるので北方の守護獣が東の山を背負っていると混合するのは不可能だ。


「まさか……」


 女王の顔色が変わる。

 ……相当、やばいんだな。俺が出ることになりそうだ。


「一応、霊亀に関しては俺の世界にも同じような話があるから分かるが……封印が破られた?」

「ええ。遥か昔、突如現れ、その時に召喚された勇者によって辛うじて封印された化け物の名前です」

「そうか……」


 波の影響で封印が破られた……のか? それと砂時計が止まった事に繋がっているという事か。

 普段の砂時計が止まったのはそれよりも大きな災害が発生したから……?


「そして……封印は決して破られることが無いように、その時の勇者が決して他者に話さず、解き方もわからないはずなのです」

「波の所為か?」

「おそらく……」

「だが、それでは7という数字の説明ができない」


 7――すごく不吉な意味が込められているように俺は感じる。

 出来れば七星勇者がこの件に関わっていてほしい。

 もしも違ったら、それは……。


「い、いえ……」


 口にするのも憚られるように伝令兵は顔を背ける。


「なんだ? 何かあるのか?」

「そ、それは……」


 とても言い辛そうに視線を逸らす伝令兵。

 ん? なんだ? チラチラと俺を見ている。


「言いなさい」

「じ、実は――」


 伝令兵が告げた言葉によって、何が起こったのかは決定的になってしまった。


「四聖勇者の剣、槍、弓の勇者によってこの封印が破られました!」

「それは確かな情報なのですか?」

「はい! 封印されていると言われる町に勇者たちが来訪し、それぞれおかしな儀式を始め、町の各所に鎮座してあった像を破壊しました。その直後に霊亀の封印が解かれ、霊亀へと向かっていく姿が多数目撃されています」


 女王の顔色が青ざめている。

 実の娘がその場に居たはずなのだ。当然の反応だ。


「イツキ様ー!」


 リーシアがどこか知れない事件現場へと走り出す。


「フィーロ、リーシアを捕まえて来い」

「はーい」


 颯爽とその後姿をフィーロは追いかけて捕まえる。


「放してください! 私はイツキ様を助けに行くんです。イツキ様ー!」


 あれだけの事をされても一途に思い続けるとは樹も幸せだな。


「しかし……勇者様方は何故そのような真似を……そもそも消失している封印解除の方法をどうして知ったのでしょう?」

「俺以外の勇者はこの世界に詳しいはずなんだろ?」


 大方、元となったゲームの知識を使って封印を解いたのだろう。

 そういえば今考えると樹がソレを思わせる発言をしているな。

 ラフタリアに『アナタもいずれ僕に頼る様になるはずです』とか言っていたし。俺にも『調子に乗っていられるのも今のうちですからね』とか言っていた。

 その時は感情に任せた負け犬の遠吠え的な何かだと思っていたが、これが理由か。


 おそらく霊亀とやらは経験値が異様に美味しいか、性能の良い武器になるのだろう。

 三人とも同じ場所に向かったという事は80Lv前後で倒せる敵って所か。もしくはソレで余裕なんだな。


 またゲーム知識か。いい加減にしてもらいたいな。

 きっと霊亀を倒した事で俺よりも能力が上昇するとか、そんな所だろう。

 何が腹を割って話すだ。結局自分だけ強くなる方を選んでいるじゃないか。

 これはまたアイツ等に文句を言ってやんないとダメだな。


「そのようですが……」

「封印は解けたが退治されたとかか?」


 その割に砂時計は止まったままだけど、ゲーム知識で動いているアイツ等が勝てない戦いをするはずがない。

 今頃、霊亀とやらを倒した奴が、どこかの街で祝勝会でもしているだろうよ。

 他人を出し抜いた後の飯は美味いからな。


「いえ……勇者様達は霊亀の封印が解かれた後の混乱で行方知れずとなり、霊亀は人の多い地域へと進行中です」

「なに?」


 どういう事だ?

 アイツ等が勝算も無しに戦いに挑むとかありえない。

 いや、先程の視線は四聖勇者である俺に対する物か。

 少なくともあまり良い物では無かった。

 霊亀とやらの封印が解けた現場に居て、俺に対する反応がこれという事は奴等に何かあった可能性が高い。


 というか、封印される程の化け物が人口密集地に進行中って……。

 おいおい、これって相当ヤバイ状況なんじゃないか?


「影からの情報は?」

「それぞれの勇者に付けておりますが……」


 影が女王の隣に現れて耳元で囁く。

 どうやら俺と親交の深いごじゃるでは無い影だ。


「……消息、不明のようです」



 二日後。

 その後、俺達は女王が手配した騎士団を連れて対霊亀戦に備えて近隣の国と合わせて連合軍を組むこととなった。

 最前線を受け持つのが俺。

 その道中で、霊亀の被害が逐一伝えられた。


 既に都市が5つ、砦が3つ、城が2つ墜ちている。被害者数も相当な数が犠牲になってしまっている。

 霊亀は巨大な化け物で、その周りに霊亀の放った使い魔もいるらしい。霊亀自身が出す被害もあれば使い魔が辛うじて逃げ延びた人々を襲ってトドメを刺しているとか。

 意図的に人が多い地域に移動していると分析されている。


「七星勇者とやらも来るのか?」

「要請はしておりますが……こちらの方が数日早く到着する予定です」


 逃げて七星勇者の到着を待つのも良いが……その分、犠牲者が増え、勇者の面子に関わる。

 そもそも七星勇者の強さを信用するには些か厳しい。

 というか……他の勇者共が行方不明になるくらいの強さと考えると、俺だってヤバイかもしれない。


 だが、俺は逃げることが出来そうに無い。

 こんな事をしたのが四聖勇者だと言うのが伝わっているからな。早急に対処しないと、四聖勇者を全員殺して新しく召喚した方が良い。なんて言われてしまいそうだ。

 もちろん仮にそうなったら抵抗はする。

 だとしても世界の為にと一丸になって俺を殺しに来る連中と戦い続けるのと天秤に掛けると引く訳にはいかない。


 やるしかあるまい。


 もしくは他の勇者共……俺を優遇している女王へ最大限の嫌がらせをするために封印を解いて逃げた、とかじゃないだろうな。

 否定できないのが厳しいな。

 その場合のリスクが大きいからまずやらないだろうが。


 後は考え難いが勇者三人が死んでいる場合か。

 ゲームの知識……世界の全てを知っているという考えが牙を剥いたと考えれば、以前から少数ながら問題は上がっていた。

 でなければ各地での失敗を説明できない。

 そう考えるにゲーム知識と封印されていた魔物が違ったという所か。


「……どちらにしてもやるしかないか。で、こちらの兵力はどの程度なんだ?」

「近隣諸国の騎士、兵士、冒険者を集めた連合軍が集まっております。ただ……一部の国が先行して戦闘し、惨敗した模様です」

「勇者が到着していないのに攻めたのか?」

「自国が目の前で滅ぼされようとしているのです」

「……そうか」


 無謀とは言え、行かねばならなかったという事か。

 感情として分からなくも無い。


「頼れる勇者は俺だけ……か」


 1人でも犠牲者を少なくなるようにしないと、風聞で殺されかねない。

 行方不明の勇者3人が犯人であると断定されている以上、盾の勇者である俺は勇者らしく行動しないといけないな。

 ……正直、勇者らしくなんて柄ではないが。

 これだけの大被害を出している魔物に対して勇者一人、それも防御特化の盾だけでは些か無謀だと思う。だが、とりあえずどんな化け物かを拝まなくては始らない。


「見えてきたそうです」


 フィーロの馬車に並走して女王が指差す。

 俺は地平線を見つめ――絶句した。


「ええっと……地平線の先にある山が動いているように見えるのだが……」


 あんなのと戦うのか?

 遠目で良く見えないけど、モンスターをハンティングするゲームだと山のように巨大なドラゴンが登場するが、それよりも大きい。

 昔の世界地図で大陸を支えていると信じられていた亀を想像するのが一番近い造形かもしれない。

 上には町があったかのような残骸があり、山の甲羅を背負った化け物。

 これが霊亀か。


「所で女王、霊亀と戦った勇者の伝説ではどう戦ったんだ?」

「背負っている山脈の中から体内に侵入し心臓を封じた事で辛うじて封印することが出来たそうです」


 となるとあの化け物の足を止めて体内に……いや、あの化け物の足を止めるなど連合軍では多大な被害が想定される。


「作戦はあるのか?」

「一応はあります。どうも霊亀は人口の多い地域を重点的に狙う習性があるようなので、進行方向にある村や町、砦にいる者を避難させ、攻撃しやすい地に誘導し、そこで叩く事を考えております」

「それだけじゃないんだろ?」

「ええ、伝承の通り霊亀の体内に勇者様を導き、心臓部を叩きます」


 ラースシールドのアイアンメイデンかブルートオプファーで叩く方法か?

 やっと治ってきた盾の呪いだが、あれを見たらしょうがないか。


「だが、その方法だと被害も甚大なんじゃないか?」


 俺達が霊亀の体内に入ってもずっと霊亀は暴れ続けるだろう。

 ともなれば……倒すまでに相当な被害が出る。


「……はい」

「放せ! ワシは、ワシは戦わんぞ! 盾! 盾が行けぇええええ!」


「…………」


 クズが女王の隣の席で喚く。

 女王はクズの顔面を片手で掴んで馬車に押し込んだ。

 ……ダメだこりゃ。


「分かっております。ですが確実な手であの化け物を倒すしか道は無いのです」


 クズの所為で空気が台無しだ。

 というか、なんでコイツがここにいる。

 将軍らしいが、こんなんじゃいない方がマシだ。


 やはり杖の勇者や英知の賢王という話はガセネタの様だ。


「ダメだな。いろんな意味で」

「というと?」

「お前の夫もダメだが、それだと大きな被害が出る」


 無謀だとは思うが、被害が増える。

 霊亀の攻撃がどれだけの物なのかを確かめなければ話にならない。

 あくまでこの世界の連中がどう戦って負けたかの情報だけなんだ。


「……試しに俺が戦ってみるとする」


 耐えられるのなら、それで、耐えられないのなら、女王の案で行くしかない。


「ふぇ……」

「リーシア、俺達は偵察を兼ねて霊亀と一戦交える。状況によってお前には女王へ伝達を頼みたい」

「で、ですが」

「分かっている。そのきぐるみの力で足も速くなっている。戦えるかどうかもあるんだ」


 そう……見た感じ、勇者の力で勝てるとかそんな相手には見えない。

 だけど恐れて逃げている場合でも無い。

 あんな山みたいなモンスターが出るあのゲームだって、怖いからと逃げていたら何時まで経っても敵を倒すことなんて出来ないからな。

 まずは戦えるか、だ。


「分かりました。状況次第で作戦を変更いたします」

「後方援護を任せる。最悪、俺も撤退し、他の勇者の到着を待つ」

「わかりました。イワタニ様、以降の士気に関わります。必ずご帰還ください」

「了解した」


 女王が敬礼し、俺はフィーロに一旦馬車を停めて、フィーロに全員で乗って霊亀に向けて走るように指示を出す。


「フィーロ、あのデカブツの所へ向かえ」

「はーい!」


「ラフタリア、いつも通りやれば良い。女王にも言ったが、それでダメなら次の手を考える」

「わかりました」


「リーシア、お前は自分の事だけを考えろ。最悪戦線離脱して女王に保護してもらえ」

「は、はい」


 各々に命令を出し、準備を整える。


「いっくよー」


 フィーロが走り出し、俺達は霊亀に向って突撃を開始した。

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