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外伝「遅すぎた女」その1

書籍の続刊が望めないようなので、SS用に考えていたネタや後日談などを外伝という形で書いていこうと思います。

更新は不定期になりますが。宜しければ、お付き合いください。

 グランク王国は朝昼夕の三回、町中で鐘が鳴らされます。涼やかな音色で時を知らせる鐘は王国の風物詩であり、これを聞くと家に帰ってきた実感がわくものです。


「……起きますか」


 旅の空では無く、自宅のベッドで目覚めるのもようやく慣れてきました。

 リビングからは妻が朝食を用意する音と、子供達の賑やかな声が聞こえてきます。

 この家ではわたしが一番最後に起きるのです。


 わたしはピルン。グランク王国特使であり、魔王城で顧問をやっているピット族です。

 目覚めた私は手早く着替え、リビングへ行くと最初の仕事をします。


「おはよう」

「パパ! おはよう!」


 一番下の娘を皮切りに家族が挨拶してくれます。テーブルには美味しそうな朝食が並んでいます。ピット族はでかけた後に二回目の朝食があるので軽めのメニューですね。


「パパ! おいのり、する?」

「もちろん。これは大切な仕事だからね」


 仕事と違う、家族だけへの口調で喋りながら、私は部屋の一角で跪きます。

 そこにあるのは簡易神殿。木で作られた小さな神殿には私の信仰する神の像が並んでいます。

 

 調和神バーツ様と破壊神フィンディ様。

 

 一年半ほど前、共に旅をし、この世界のために遠い存在になったお二人に祈るための施設です。

 寄り添うように置かれた二人の神像の後ろには、金色の円盤が置かれています。お二人の偉業の成果である月を模した置物です。

 

 この簡易神殿はグランク国王ダイテツと魔王サイカ様の共同製作の品です。

 最初は派手好きなダイテツが巨大で豪勢なものを作ってしまい、サイカ様に「なによそれ、仏壇みたいじゃない。縁起でも無い」と言われて言い争いになっていました。

 私には何のことかわかりませんでしたが、異世界出身の二人にとっては色々と問題だったのでしょう。


 その後、何度か修正が入り、簡易神殿は現在の小さな形となりました。ピット族の小さな家に入る大きさになってくれたので助かります。


「バーツ様、フィンディ様。今日も良き一日となりますように」

「なりますように……」


 私と娘が祈ると、お二人の神像が淡く輝きました。それを見て、娘が嬉しそうに笑います。


「ふたりとも、よろこんでる?」

「もちろん。お二人とも、喜んでいるよ」


 お二人が神になって以来、神像に祈ると、たまに淡く輝くようになりました。「神像が光った日は良いことがある」と巷では言われています。実際、何らかの加護を与えてくれているのでしょう。


 ちなみに、我が家は神像が光ることが非常に多いです。お二人なりの気遣いでしょうか。


「さあ、ご飯にしようか」


 朝のお勤めを終えた後は、楽しい朝食です。


 ○○○


「あなた。はい、これ」

「ありがとう」


 妻からリュックを貰い。私は仕事場である王城に向かう準備を整えます。

 大陸中を放浪する特使時代と違って。リュックは小さめ。武装も最低限です。

 ただ、出かける前に必ず身につけていくものがあります。

 

 あの旅で、バーツ様から頂いた幸運のお守りです。

 あの時は、手軽な装飾品のような感覚で頂いたものですが、今となっては世界に一つの神具となってしまいました。

 調和と破壊、双方の神を信仰し、共に旅した身であるわたしは、このお守りを必ずつけて仕事に挑むことにしています。

 特に、今日のような場合は、このお守りの力が必要でしょう。


「今日は遅くなるから、先に寝ていてくれ」

「わかりました。気をつけてね」


 妻に見送られ、わたしは王城に向かいます。

 今日は、緊急の要件で会議があるのです。


○○○



「全員、揃ったみたいだな」


 王城の会議室にサイカ様とクルッポ様が到着したのを見て、ダイテツが言いました。

 今日の会議は緊急で極秘のため、参加者はダイテツ、魔王サイカ様、クルッポ様、そしてわたしの四人です。

 本当はサイカ様の恋人であり優秀な冒険者でもあるロビン様も同席して欲しかったのですが、残念ながら出張中です。


「ええ、言われた通り、とりあえずクルッポを連れてきたけど。何が起きたの?」

「少なくとも、子供とふれ合う行事の話ではなさそうですな」

「そんな穏やかな内容だったら、こんなに慌てねぇよ」

「それで、今日の議題はなんなの?」


 ダイテツが気まずそうに言います。


「えーと、あー、なんだ。この王都にサキュバスが出現した」

「………………」


 サイカ様とクルッポ様が真っ青になりました。いえ、クルッポ様の顔は鳥のそれなので顔色はわからないのですが、小刻みに震えているのでかなり動揺しているのは間違いありません。

 とりあえず、話を進めましょうか。


「被害にあったのは三名ほどです。その全員が、気弱そうな美少年だったそうです」


 わたしが言うと、サイカ様とクルッポ様が机に突っ伏しました。

 そして、


「クラーニャァァァっ……」

「なぜ、なぜ今頃ぉぉ……っ」


 怒り混じりの呻き声を上げながら、ゆっくりと起き上がりました。ちょっと恐いです。


「お察しの通り、犯人はクラーニャ様と推測されます。以前、ドーファンで事件を起こした時と同じく、少年達は幸せそうにしていたそうですが」


 バーツ様達と訪れた黎明の国ドーファン。

 そこで会ったのが四大魔族の一人、大淫魔クラーニャ様でした。

 方向感覚が不自由なのと、サキュバスとしての本能に忠実なのを除けば、非常に良い方なのですが、今は非常にタイミングが悪いです。


「わかってると思うが。大事になるとまずい。魔族のイメージダウンになる」

「我が軍の幹部が不始末をして申し訳ありませんっ!」


 クルッポ様が机に頭を叩き付ける勢いで謝罪しました。隣のサイカ様はまだ顔色が悪いです。

 現在、グランク王国と魔王軍は同盟関係にあり、魔族と人間の共存を掲げて日夜活動しています。最近は調和神の神殿の建築計画(隣に破壊神の神殿つき)もあり、順調だったのですが、


「もし、冒険者に捕まって魔王軍の幹部であることが知られたら……」

「ピルンさん、言わないで。頭痛くなってきた……」


 サイカ様がうつろな目で言ってきました。心労、察するに余りあります。


「この事件、早急に片づけなきゃならねぇ。サキュバス捕獲、手伝って貰うぜ」


 ダイテツの言葉に、ガクガクと頭を揺らしながら、サイカ様とクルッポ様が首を縦に振りました。

外伝について「このキャラのエピソードが見たい」といったものがあれば感想欄などでご要望ください。話を思いついたら書こうと思います。

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