[4a-38] FILE:赤薔薇の日記③
ルガルット王国宰相と内々に会談。
こちらに内務の『顔』が居ればわたしが出るまでもなかったのだけれど、現状では種族ごとに管理を委ねているような状態なので、適切な役職の者が居ない。
誰が要になっているかと言えばエヴェリスなのだけれど、彼女はあまり人前に姿を現したがらないし。
多少は怖がってもらう必要もあろうと、オーガの精鋭兵を親衛隊っぽく随行させ、わたし自身は頭を抱えて出向いた。
それなりに怖がってはもらえたようだ。
普段、最低限の防具のみ身につけて半裸にボディペイントで戦っているオーガたちは、窮屈だの暑いだのとぼやいていた。状況に応じて重武装させる作戦も今後準備しておきたい。
既に内容は事務方が詰めているので、たとえこの会談が公にならないとしても、半分はセレモニーだ。
今や遠く記憶の彼方となった前世の故郷には『立つ鳥跡を濁さず』という諺もある。
彼らには、わたしに協力したことを後悔しないまま別れてもらいたい。
とにかく何もかも、脅されて仕方なくやっていたというスタンスで人族世界に言い訳できるよう、彼らには配慮していた。その締めくくりが今回の秘密協定だ。
人質として預かっていたルガルット有力者たちの家族は、ケーニス帝国の進出に呼応したルガルットの勇士たち自身の手で解放させる……という芝居を打つ。同時に、事の真相に関しては、公に政治宣伝とせず、あくまでも噂として市中に流す。
またゲーゼンフォール大森林の『聖域』の破壊もタイミングがほぼ決定した。これはケーニス帝国の進出に先んじて破壊することで、帝国進出時にはルガルットが地脈の自主権を得られているよう取り計らうものだ。
わたしが去った後、ルガルットはケーニス帝国に降伏するしかないけれど、無血で降伏するのであればルガルットという国であったものはケーニス帝国の中に血脈を繋ぐ。
それはやがて、帝国を、ひいては人族世界を蝕む毒となるはずだ。
正義の名の下に、疑い、憎しみ、争えばいい。
シエル=テイラ亡国は、その血を啜って強くなるのだから。
どうせ読みに来ると思うけど今回は逃がさないわ
手を頭の後ろに組んで、ゆっくりと背後に振り返りなさい
※捕まえてどうするかはノープランだったので
部屋に置いてたクッキーを二人で食べた後、結局朝まで崖に吊した。
なおトレイシーは吊されたまま寝ていた。