[4a-28] FILE:聖印の描かれた日誌
昨夜はほとんど眠れず、朝から胸がドキドキしていた。
どうして天使様のお世話係に私が選ばれたのかまだ分からない。
司教様は『純粋な子どもこそが相応しいのだ』とおっしゃっていた。
純粋、と言っていただけるのはうれしいのだけれど、私よりも心のきれいな子どもは居るのではないだろうか。
そんな中で私を選んだことには、きっと考えがおありなのだろうけれど、私はその期待に応えられるのだろうか。
光栄だし、うれしいのに、とても不安で、自分が何を考えているかも分からない。
まるで雲の上を歩いているみたいに足下がふわふわしていた。
今日、私は初めて天使様にお会いする。
何ものどを通らないほどだったけれど、お腹がすいて倒れてしまってはいけないと思い、朝食のサンドイッチを一つだけ、むりやり牛乳で流しこんだ。
今はいつもの修道服を着て、一欠片の失礼も無いように身だしなみを整えている。
神様。そしてお母さん。
どうか空の上から私を見守っていて。
ここからは面会を終えた後に書いた
何から書けばいいか分からない。
天使様はすてきな方だった。
新聞にのった似姿のさし絵を見た事はあったけれど、あの絵はもっと勇ましくて冷たかった。
本物の天使様はとてもお優しい方で、このような言い方は失礼かも知れないのだけれど、私はお母さんのことを少し思い出した。
天使様は、大神殿の一番奥の方にある『天空宮』にいらっしゃった。
ここは天にある神様方のお住まいを再現した場所であるとのことで、おやしきのようではあるけれど普段は誰が住むことも泊まることもないそうだ。
しかし、今はそこに天使様がいらっしゃる。
天使様は最初、私を見てちょっと首をかしげた。
司教様が私を紹介してくださると、私の生まれ育ちや家族のことなどを色々とおたずねになった。
どうしてこんなことを聞かれているのかふしぎに思っていたけれど、なぜだかとても話しやすくて、後から考えると調子に乗って余計なことまで言ってしまったような気がする。
ひとまず今日はお会いするだけとのことで、お話をするだけでお別れを言った。
帰り道で司教様は『気に入っていただけたようだ』とおっしゃり、お世話係としてのおつとめに励むよう私を激励してくださった。
司教様がおっしゃるには、天使様は気難しく、何人ものお世話係が追い出され、何人もが音を上げて逃げ出したのだとか。
私はぜんぜんそんな風に思えなかったのでふしぎだった。
それと私は最初、天使様を『天使様』と呼んだのだけれど、『そう呼ばないでほしい』とおっしゃって、お名前を教えてくださった。
ディアナというのだそうだ。
その名前は私にとって少しだけ特別だった。
お母さんのお姉さんもディアナという名前で、その人はムーンイーターで邪悪な者たちと戦うおつとめをしているのだと、いつかお母さんが言っていた。
本当にお姉さんのことが好きで、ほこらしく思っているのだということが小さな私にも分かった。
だけどある日、お母さんはお姉さんの話をしなくなって、私が彼女の事を言うと「もうあの人の事は聞かないで」と、さびしい秋の風みたいな声で返された。
小さな頃の出来事だけれど、それからずっとモヤモヤしていたので、今でもその人の名前を覚えていたのだ。