1 脱・悪役令嬢計画 1
翌日、私は学園を休んだ。
「体調が悪い」と言って家族の前でふらついてみせたら、あっさりと欠席が許可されたのだ。
元々、ゆるい学園だし、ルチアーナがズル休みをするのもいつものことだったので、学園を休むことは思った以上に簡単だった。
『あーあ、こんな簡単にズル休みが承認されるなんて、ルチアーナの怠けっぷりは家族も承知の上なんだわ』と残念に感じながら、部屋の中で一人、今後の作戦を練る。
まず、私が絶対に回避すべきことは、『断罪され、侯爵家お取りつぶしの上、家族で追放されること』だ。
そのためには、主人公に近付かないことが一番だと結論付ける。
主人公に近付きさえしなければ、主人公の恋路を邪魔することもないし、恋路を邪魔するために悪逆非道な行いをしたと、謗られて断罪されることもないだろう。
閃いたわ、私!
自分のアイディアににまにまとしながら、具体的な方策を模索する。
……そうだ! 私が学園を辞めるのはどうだろう?
あるいは、謎の難病にかかって、1年間休学するのは?
物理的に距離を取るのが一番だよね!
上機嫌で具体案を模索していた私だったけれど、しばらくして、そのアイディアを投げ捨てた。
……駄目だわ、これは。
実行した場合、下手をすると、私はこの家から追い出されてしまう。
なぜなら、リリウム魔術学園は王国の貴族にとって最高峰の学府だからだ。
王国の花である百合を名前に冠した王国直営の学園で、上級貴族は全員……本当に全員、この学園を卒業している。
この学園を卒業することが、上級貴族出身の証と言ってもいい。
だから、学園を辞めた場合、私は瑕疵のない上級貴族とは見做されなくなってしまう。
伝統と格式を重んじる貴族たちが、そんな私をどう扱い出すかは火を見るよりも明らかだ。
私にはまっとうな待遇も結婚も見込めなくて、そんな私を両親が今まで通りに扱うことはないだろう。
何と言っても、王国有数の上流貴族であるダイアンサス侯爵家だ。
平民に嫁がせるくらいなら修道院に押し込めるとか、それより前に家から追い出すとか、両親ならやりかねない。
私への愛情うんぬんの前に、侯爵家としてのプライドが先にくるのだ。
学園を休学するというのはぎりぎり大丈夫なような気もするが、休学中の1年の間に、回復の見込みなしと判断した両親から見限られるという可能性も捨てきれない。
両親の侯爵家としてのプライドは、天井知らずだからね。
そして、1番恐ろしいのは、―――この世界がゲームの世界だと仮定しての話だけど―――ゲームの強制力がどこまであるのかが全く不明だということだ。
たとえ学園を辞めていたとしても、謎の病で休学していたとしても、街中でばったり主人公と出会ったりしたらどうなるのだろう?
たった1度の出会いでいちゃもんをつけられ、断罪されるということはないだろうか?
そこまで考えた私は、腕を組んでう―――んと考え込んだ。
そして、考えて、考えた末、決意した。
『どうせ断罪されるのならば、学園に行こう』
なぜなら、今の私に一番必要なことは学問だから。
ルチアーナは怠け者だったため、これまで全く勉強をしてこなかった。
授業もほとんど聞いていなかったようで、この頭の中には知識がほとんど入っていない。
入っているのは、どこそこの子息はイケメンだとか、どこそこのドレスは可愛らしいとか、そういうことばかりだ。
もうほんと、我ながら何をしていたんだろうと思うけれど、異性とファッションのことだけを考えていたんだろうな。
そして、上級貴族出身だというのに、魔力も強くない。
こんな私が断罪され、放逐された後、どんな仕事に就けるというのか?
家族は当てにならない。
父親も母親も銀のスプーンをくわえて生まれてきた、生粋の貴族だ。
汗水たらして働くという考えは、全くないだろう。兄と弟にしても同様だ。
だったら、私が家族を養えるくらいのお金を稼げるスキルを身につけないといけない。
つまり、1にも2にも学習だ。
よし、まずは、自分に何が向いているのかを知ることから始めるぞ!
結局、ゲームの強制力が強いならば、どこにいても一緒。
でも、弱いならば、生き残れるかもしれない。
まず、今までの傲慢な態度を改め、誰にも突っかからず、喧嘩を吹っ掛けず、平和主義に転向しよう。計画が上手くいかずに放逐された際、『前からあいつが気に入らなかった』と没落の手助けをされないためにも、敵を作らないようにするのだ。
そして、可能な限り気配を消し、目立たないようにする。
もちろん、王太子を始めとした攻略対象者に一切近寄らない。
ルチアーナは王太子に激しく恋をしていたようだけれど、背に腹は代えられない。諦めてもらおう。
そして、半年後に主人公が入学してきたら、こちらにも一切近寄らない。
悪役令嬢初心者がよく行う失敗は、嫌われずに好かれようと思って主人公に近寄っていくことだ。
けれど、これは愚の骨頂に他ならない。
なぜなら、どんなに親切にしたとしても、主人公に「意地悪をされた!」と言われた途端、その行為は意地悪になるのだから。
ほほほ、こう見えても、私は前世で乙女ゲームをやりまくり、少女漫画、乙女小説を読みまくっていたのだ。
乙女世界の適応力は高いのよ!
さらに言うと、私は元・日本人。
控えめでつつましやかな態度はお手の物ですよ!
目立たず、出しゃばらず、「え、ルチアーナ様いましたの?」と言われるようになるのが目標だ。
よし、がんばるぞ!