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悪魔の科学者 ②

「っ――――――!?」


その刃に見覚えがないはずがない。 あれは過去の残骸だ、私が斬り捨てたものだ。 

花嫁のような白いドレス、華やかなその姿に似合わぬ長い髪に片目が隠れたその風貌。

ああしまった、やはりあの時に片付けておくべきだったか。 自らの怠惰を呪うしかない。


「……()()()()!!」


「ひ、久しぶりだねぇローレル……そしてさようなら」


再開の挨拶もそこそこに、オーキスは局長を抱えたまま、床面を切り裂いて姿を消す。

忌々しいほどに撤退の判断が早い、そもそもなぜ彼女がここにいるのか。

まさかこうなる事すらも危惧していたのか? そのために本来ならば京都に身柄を預けていたはずのオーキスすら引っ張り出すとは……


「なんて人……ええ、臆病という評価は改めますよ、局長。 まったくもって用心深い……!」


憎たらしい。 自分を信じておきたい、と言いながら最悪の想定は抜かりがない。

ちょっとは感動してウルっとしたのがバカみたいだ、ああ酷い人。


「……オーキスの魔法に魔力を持たない人間は持ち込めない、となれば移動経路は物理的な距離に等しい」


爪を噛み、思考を言葉に変えて反芻しながら状況を整理する。

張り巡らせた“根”から探るが、既に魔法局内に人影はない。 

すでに手を打っていたのか? 本当に用心深い男だ、その能力は仕事に生かせなかったのだろうか。


「ちょっかいは掛けてみるけど追いかけるのは無理ね。 ふふふ、やるじゃない局長。 ええ、今回はあなたの勝ちです」


油断が無かったというなら嘘になる、だがこうも見事に嵌められてしまったのなら油断を誘った局長の勝ちと言わざるを得ない。

もはや正体は隠せない、懸念要素こそ多いが計画を進めるしかない。


「ドクターたちは……ああ、負けちゃったか。 仕方ない」


魔力のパイプが繋がっているため、ドクターやトワイライトの動向は手に取るようにわかる。

二人とも戦意喪失による変身解除、最後の最後で情に絆されるとはやはり子供だ。

ドクターと繋がるパイプを握りつぶすように切断し、大きく背伸びをする。


「んん~~~……!! あーあ、いよいよ魔法局ともお別れか。 さらば愛しきカフェイン剤……なんてね」


狭い資料室の中でバキバキと肩が鳴る、長年のデスクワークで随分と凝り固まってしまったようだ。

だがそれも今日で終わりだ。 魔力研究家としての桂樹 縁は今日死んだ。


「……さて、退職届は派手にしないとね」



――――――――…………

――――……

――…


後悔が募る、局長さんは大丈夫だろうか。

「大丈夫だ」とは言っていた、だが黒幕との一騎打ちなんて無謀にもほどがある。

本当に逃げて良いんだろうか? 私が暴いた真実だ、本当なら局長さんだって知りたくなかった真相だ。


「う、うぅうぅぅうぅぅ……!」


悔しくて悲しくて怖くて声も出ない。 魔女になってはしゃいでいたが所詮中身はただの子供だと痛感させられる。

私に作戦を話してくれた時、局長さんは本当に辛そうな顔をしていた。

私にしか任せられないという言葉は、きっと前向きな意味を込めたものじゃなかったんだ。


「せめて、せめて私がこのことを―――――びゃぁっ!?」


誰もいない魔法局の中を一人駆けるその途中、天井をバターのように切り裂いて現れた人影に心臓が飛び出しかけた。

綺麗なウエディングドレスのような格好と、片手に持った巨大なカミソリじみた刃物から多分魔法少女だとは思う。

そして彼女の肩には真っ青な顔でぐったりとした局長さんが担がれていた。


「だ、だ、だ、誰!? というか局長さん!?」


「魔法少女オーキス、悠長に話している暇は多分ないかなぁ……来るよ」


「く、来るって何が……」


彼女が指さす先、つまり私の背後からは―――――通路を目いっぱいに広がりながらこちらに伸びてくるツタの波が押し寄せていた。


「ギャアアアアアアアア!!? なにあれ、気持ち悪っ!?」


「ローレルだ、やっぱり簡単に逃がしちゃくれないよねぇ……死にたくなかったら頑張って走って」


いちもにもなく頷き、全速力でツタの濁流から逃げ出す。

迫りくるツタの速度はすさまじい、身体能力も強化されているとはいえ、モタつけばあっという間に呑まれてしまう。

だがしかし、無情にも進行方向に立ちはだかるのは壁だ。 道を曲がろうと少しでも減速すればツタの餌食になる。


「も、もう駄目だぁ!!」


「ああ、パワー無い子……? 速度落とさなくていいよぉ」


すると、ウエディングドレスの魔法少女は握りしめたカミソリを大きく振りかぶり―――――そのまま前方の壁へと投げつけた。

綺麗に回転しながら一直線に飛んで行ったカミソリは、そのまま壁をバターのように切り裂いた。


「え、えええぇぇえぇ!? 切れ味すっご!?」


「ま、まあ物理的に切ってるわけじゃないからねぇ……飛び込んで」


「こ、こうなったらやけよー!!」


目を瞑り、カミソリが開いた切れ目に飛び込む……というより飛び降りる。

ここは魔法局の上階、つまり外に飛び出せば空中に放り出される。

自由落下を迎えるまでどうしても減速は免れない、そして背後から迫るツタは呑気に落っこちるのを待ってはくれない。


「お、追いつかれるわ! どうするの!?」


「うーん、私はお荷物あるから……頑張れる?」


片手に局長さんを抱えた彼女は確かに動きが鈍い、空中であのツタたちを切り裂くのは少し辛い所だろう。

……とはいってもこちらにパスされたところで、だ……


「私戦えないんですけどぉ!!」


「だ、大丈夫だよォ……ほら、間に合ったぁ」


「――――2人とも、避けろ!」


≪BURNING STAKE!!≫


ツタが私達に届く―――――その寸前、凄まじい速度で飛んで来た一筋の光が、私達の間をすり抜けてツタの群れを焼き払っていった。

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