ある少女の救出作戦 ①
「いっつもあんな感じだよ、トワっちって」
「箒、不機嫌」
「ん、まあちょっとな……」
コンビニの僅かな日陰に隠れ、3人仲良く棒アイスを齧る。
2人から聞けるトワイライトの話にそこまで多くの情報はない、魔女という共通項を持ちながらもトワイライトは心を開いていないようだ。
「父親はともかく、母親はいるのか?」
「んー……聞いた事ないな、よくお父さんのためにとかお父さんに言われたからとか言ってるけど」
「となると既に離婚か……少なくとも別居してる可能性は高いな」
両親のどちらにも問題があるのなら、話のどこかに出てきてもおかしくはない。
だがトワイライトの口から母親の話が出てこないとなると、そもそも日常で接する機会がないのだ。
「あーね、とりまカチこむ? 糞オヤジぶん殴って本人から話聞いた方が早いっしょ」
「殺る?」
「待て待て待て、話が飛躍し過ぎだ馬鹿! トワイライトを刺激すると余計に拒絶されるだけだぞ!」
「「で、でもぉ」」
なさけない表情を顔を見合わせる二人、これまで魔女としての活動でポカをやらかさなかったのが不思議だ。
2人が出した強硬策は却下……少なくとも最終手段として、改めて状況を整理し直さなければ。
「……というか、協力してくれるんだな。 てっきりもっとドライな反応だと思ってたけど」
「んな薄情じゃねえし、アタシもトワっちの現状は良くないと思ってたよ。 ただ本人に滅茶苦茶拒絶されてただけ」
「彼女の魔法は脅威、魔女に対しても効力は一緒」
停止の魔法、万が一トワイライトが反発してその力を味方に向ければ魔女も壊滅する危険がある。
そしてそんな危険な力をギリギリのところで安定させる存在が父親というわけだ、だから手出しが出来ない。
「でも何か方法があるってなら考えるよ、仲間だし。 めっちゃ嫌がられてるけどムカつくからめっちゃお節介かくし」
「それにトワイライトの本格的な協力が得られたら魔法少女にも勝てる」
「それな、今度こそあいつらギャフンって言わせるわ」
「ぎゃふんって……」
動機はブルームスターとしては複雑なものだが、俺よりトワイライトの事を知る2人に協力してもらえるのは心強い。
と、そこまで談笑していると、ちょうど3人とも持っていたアイスを全て齧り尽くした。
「あっ、やった! 当たった! 日頃の行印が良いんだなぁアタシったら!」
「…………はずれ」
「同じく、おめっとさん」
外れたアイスの棒をゴミかごに投げ捨て、口元を拭う。
ヴィーラは嬉々として当たり棒を振り回し、その姿を羨ましそうにパニオットが見ていた。
「んじゃアタシはもう一本交換してくるから、あとでウチに集合ねー。 箒はさっきの友達の所に行ってきな、それそれ」
「ん……ああ、そうだった」
トワイライトの話で忘れかけていたアオのバッグを改めて指摘される。
デフォルメされたキャラクターが印字された手提げかばんの中身は貴重品が入っている、ついつい涼みながら時間を食ってしまったがアオも困っているだろう。
「そうそう、彼女をあんまり泣かせちゃ駄目だよ」
「修羅場、期待してる」
「お前ら……あとで覚えとけよ?」
――――――――…………
――――……
――…
『ダァーハッハッハッハッハ!! アーハハハハハハハハ!!!』
「お前後で覚えとけよ……」
『ヒィー……ヒィー……!! ソーリーソーリー、ごめんだヨ……!』
電話向こうでひとしきり笑い転げたコルトがようやく落ち着いたようだ。
そうかそうか、そんなにアオとのやり取りが面白かったかこの野郎。
「あいつの電話もバッグの中だからな、回収して後で渡しておいてくれよ」
『いやー、自分で渡したらどうカナ? 面白s……そっちの方が誠意が伝わるしネ』
「お? 今どこだお前? お???」
『やっだー、ブルームこわーいヨ。 でも本当に面白い状況にいるみたいだネ』
流石に魔法少女、ふざけていても真面目な話にはちゃんとついて来る。
それなりにいじり尽くした後は声色も仕事モードのそれだ。
「倒す……ってなら今はちょっと待ってくれ、先に片付けたい問題がある」
『OKOK、そっちの好きにするといいヨ。 局長たちに黙っておくからサ』
「助かるよ、それとアオにもフォローを……」
『そっちは自分で何とかした方がいいと思うヨー?』
こんちくしょう、アオに関しては一切譲る気が無いらしい。 良い性格をしている。
まあ咄嗟の事とは言え酷い対応をしたのは事実だ、コルトの言う事にも一理ある。
「ああ、分かったよ。 ……ただ、そっちでもトワイライトについては調べといてくれ」
『ん、あくまで私個人で出来る範囲までだヨ。 それと決して無茶だけはしないようにネ』
「はいはい、任せろって。 俺が今までそんなに無茶したことあるか?」
『HAHAHA、ジョークが上手いネこの野郎』
「ははは……切りまーす」
怒ったコルトの声を最後に通話を切る、こんなに暑いというのに背筋には冷や汗が垂れていた。
それにこのスマホから感じる怒気はコルトだけのものではないだろう。
「はぁー……悪かったって。 あと、そっちも盗み聞きとは趣味が悪いぞ」
「………………」
俺に指摘され、石垣の影から出て来たのは涼し気な薄いワンピースに身を包んだアオだった。
バツの悪そうな顔でそっぽを向き、明後日の空を見上げている。
「……さーて、どこから話したものかな」