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ある魔法少女について ②

「……まあ、天はんの予感やからなぁ」


「当たるって事か? アタシは良く知らないけどさ」


目の前に出されたお茶を一口啜り、代わりに溜息を零す。

入れ方が上手いのか相変わらず美味しいお茶だ、しかし今は舌鼓を打つ余裕もない。


「天はんの勘はよう当たる、ここぞって時は更に拍車もかかるなぁ」


「つまりその……ブルームスターって子が世界を滅ぼすって予感も当たるってのか?」


小埜寺はんの当たり前な質問に対する返答は出てこない。

あまりにも突拍子のない話だ、今回ばかりは笑い話で終わらせてしまいたい。

しかし私は彼女の虫の知らせの良さを知っている、だからこそ笑えない話だ。


「天はん。 一応確認やけど、ブルームスターで間違いないんやな?」


「この目で変身した姿を見るまで確証が無かったが……ほぼ間違いないとみている、私が見たビジョンと背格好や顔立ちが酷似していた。 服装は違うものだったがな」


「服装……? 魔法少女衣装が変わるっちゅう事? どないな感じに変わってたん」


「丈の長いローブを纏っていた、色相は逆光でよく分からない。 頭には三角帽子、手には錫杖のようなものを握っていた」


「錫杖か……あの子の武器って箒だろ? イメージが全然違うな」


「せやな、それだとまるで……」


「ああ……賢者(ワイズマン)のような出で立ちだ」



――――――――…………

――――……

――…



「やあ、ボクは泥園 終里(でいえん おわり)。 もちろん偽名だ、仲良くしてくれたまえ」


「……コルト、知り合いですか?」


「何で3人の中から私をチョイスしたのか知らないけど違うヨ、シルヴァ―ガールは?」


「我違う! め、盟友……」


「俺も知らないよ、誰だこの人……?」


「ははは、なぁに。 互いに初対面だ、緊張することはない」


スラっと伸びた足を組み替え、青髪の女性が笑う。

出会って数十秒の付き合いだが確信した、日向さんとは別ベクトルに面倒くさい人だこれ。


「はぁ……では我々はこれで失礼しますね」


「おっと、手慣れた対応だ。 だがその程度でボクがめげると思わないで欲しい、なにせいつも咲良から熱烈な塩対応を喰らっているからね」


「思った以上にヤバいヨこの人!!」


「ぼ、防犯ブザーなら持っておるぞ!」


「そ、それで俺たちに何か用ですか……?」


避けると余計に面倒くさくなりそうだ、ここはそれとなく付き合って相手を適度に満足させた方が良い。

それに咲良というのは確かロウゼキさんの下の名前だったか、やけに親しげだがこの人は一体……


「なに、昔は咲良……ロウゼキと共に肩を並べて戦った仲さ、今じゃ牢獄の中だけどたまにこうして脱獄していてね」


「シルヴァ、急いでロウゼキさんに連絡を!」


「わ、分かったー!!」


どうしよう、会話を重ねる度にこの人への警戒レベルが上がって行く。

それ以前に会話どころか心を読まれたような気がしたが気のせいだろうか。


「ふむ、咲良が駆けつけるまで猶予は数分か。 まあいいさ、それより話をしよう」


「いいのか……」


「なに、それより君の事だ。 どうやら相当なお宝を抱えているようだね」


泥園と名乗った胡散臭い女性がずいっと顔を寄せてくる。

胡散臭い笑顔に海のように青い瞳、染めたにしては綺麗な色だ。

派手な色彩は魔法少女の後遺症だろうか、大気中に満ちる魔力のせいで髪や瞳が変色する人は少なくない。


「……咲良のいる執務室には無数の盗聴器を仕掛けてある」


「シルヴァ、早く戻ってきてくれ! この人と一緒の空間に耐えられる気がしない!!」


「ははは、そう褒めないでくれ。 その時にキミの話が出て来たんだよ、ブルームスター」


「……? 俺の?」


「ああ、なんでも君が―――――おっと、時間切れか」


残念そうな溜息と共に、彼女が後方に顔を引くと同時に目の前に赤い炎が一陣横切った。

食堂の入口へと目を向ける、するとそこには背中に修羅を背負ったロウゼキが炎を燻らせる剣を片手に立っていた。


「……チッ、仕留め損ねたわ」


「あはは、容赦がないね咲良! なに、君とボクの仲だ、気にしなくていいとも」


「容赦……? 一切加減ないように見えたケド……」


「ゴルドロス、余計な事は言わない方が吉ですよ」


ロウゼキが泥園を見る目はかつての戦友に向けるものではなく、明らかな敵意だ。

一体この二人の間に何があったんだろう。


「ふむ、辺り一帯を更地にしない辺りまだ理性が残っているね。 今のうちに退散しよう、さらばだ諸君!」


「あっ、逃げた」


ロウゼキの怒りが爆発する前に、開け放たれた窓から身を乗り出して泥園が逃亡する。

後を追って窓の外を覗き込むが、既に青髪が目立つ彼女の姿はどこにもなかった。


「まーたあいつか……ロウゼキも抑えろって、後輩たちの前だぞ」


「……ふぅ、変な所見せてもうたわ。 ごめんな皆、あの変態になんか変な事されてへん?」


「え、ええ。 ……あの、さっきの人は一体?」


「…………公式には登録されてないけどあれも一応元魔法少女だよ、まだ野良魔法少女って定義も無い時代から勝手に魔法少女やってた」


「はー、つまりブルームの大先輩って事だネ」


「いやだなぁあんな先輩……」


ロウゼキと同期、ともなれば歴史上ほぼ最古の野良魔法少女か。

その時代から野良とは一体何をやらかしていたのか、気になるような知りたくないような。


「ろくでもない火事場泥棒や、またムショに送り返さんと……小埜寺はん、その子たちの事ちょっと頼むわ。 うちはあの阿呆とっ捕まえてくる」


「あっ、ちょっと待っ……」


思わずロウゼキを呼び止めるが、その次の言葉が出てこない。

泥園はロウゼキ達が俺について話をしていた、なんて言っていたが……はたして素直に聞いて答えてくれるものだろうか。


「ん、どないしたブルームはん?」


「…………いや、なんでもない。 頑張ってくれ」


結局、俺は何も聞けないままにロウゼキの背中を見送った。

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