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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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終点・ノンストップ ⑤

「……大丈夫? 歩けるカナ?」


「な、なんとか……腕のいい医者がいたものっすね」


「HAHAHA、その言葉はもっと似合う奴がいたんだけどネ、着いたヨ」


ゴルドロスに手を引かれ、連れてこられたのは厳かな雰囲気を放つ高層マンションだった。

見上げるほどの階層に、煌びやかな入り口には屈強な警備員とカードキー式の扉が設置されている。 とてもそこらのアパートにあるセキュリティではない。


「ほ、本当におじゃまして良いんすかねこれ……」


「遠慮することないヨ、あんな河川敷よりはずっと安全だからサ」


「コルト、お前こんなとこに泊まってたのかよ」


「お、おっきぃ……」


自分の肩を支えてくれているブルームさんが呆れた声を漏らす。

その後ろからはシルヴァさん(変身を解いたら雰囲気が変わった)がひょっこり顔を覗かせて目の前の建物を見上げている。


「んー、ちょっと待ってネみんな。 ハーイ元気してるガードマンのおじさん!」


「おや、コルトちゃんかい。 今日はお友達連れてきたのかな?」


「ソダヨー、けど一人足挫いちゃってサー」


人懐っこい笑みを浮かべた、入り口横の警備員に駆け寄ったゴルドロスさんが適当な言い訳を噛ませた説得を始める。


「……ブルームさん、随分慣れた調子みたいっすけどもしかしてあの人って」


「ああ、どちらかというと野良(おれたち)向きの人材だぞ」


「はぁー、世も末っすね」


「なーにコソコソ喋ってるんだヨ! 全員OK貰ったからさっさと行くヨー!」


すでに警備員と話を付けたゴルドロスさんがこっちにに向けて手を振って来る。

はたして魔法少女が住まうところがこんなに緩いセキュリティで良いのだろうか。


「まさか当人が危険分子連れてくるとは思わないだろ、それに魔法局がドタバタしている今ならこっそり入り込んだところで誰も気づかないさ」


「な、なんか悪い事してる気分っす……」


「あはは、今さらだなぁ」



――――――――…………

――――……

――…


「……そういえば、ラピリスさんは呼ばないんすか?」


「ラピリスはまぁ……こういう隠し事と一番相性が悪い奴だから」


「たぶん……余計に事態がこじれる、かな?」


「だから可哀想だけど仲間外れだネ、ほら着いたヨー」


「着いたってエレベーターがだろ、お前の部屋は何号室だ?」


ほぼ無音に等しい乗り心地のエレ―ベーターがチンッと軽い音を立てて到着を知らせる。

無駄に豪奢な扉が開けば長い廊下と部屋番が割り振られた扉がずらっと並んでいる……かに思われた。


「だから着いたって言ってるデショ、この階が私の部屋だヨ」


「………………は?」


扉が開いた先には電子ロックで閉ざされたガラス扉、その向こうから透けて見えるのは毛の細かいカーペットが敷き詰められたリビングルームが見える。

だがその面積たるや店のホールの何倍あるだろうか、この扉越しに見える範囲だけでも相当広い。


「……コルト、テレビやソファが置いてあるスペースは差っ引いたとしてもどれだけあるんだ?」


「んー、詳しくは分かんないヤ。 けど部屋全部合わせたらこの階層目一杯の広さはあるヨ」


「えっ、このフロア全部ゴルドロスさんの部屋なんすか!?」


「ひ、ひえぇ……」


家賃を想像してしまったのか、後ろに控えていたシルヴァさんが蒼い顔で二~三歩後退する。

無理もない、しかし魔法少女の給料は高いと聞くがこれは流石に……


「AHAHA、賃貸はポケットマネーだヨ。 まっさかお給料をこんな所で使っちゃいないヨー」


「コルト、ちゃん。 それはそれで、どこからお金が……?」


「………………企業秘密ダヨー?」


「ブルームさん、本当にこの人信じていいもんなんすかね」


「分からなくなってきたな……」


ゴルドロスさんが指紋か静脈か分からないが何らかの認証装置に掌をかざすと、軽い電子音の後にガラス扉が自動で開く。

かなりの透明度で全く気付かなかったが、扉は数十㎝はありそうな厚みがある頑丈な造りだ。


「特注の防弾ガラスらしいヨ、まあ魔法少女か魔物が襲ってきたら意味がないんだけどネ」


住民の後に続いてゾロゾロと部屋に入る。

扉を抜けるとまず感じるのは他人の家の独特な匂い、そして足裏をくすぐるカーペットのこしょばゆい感覚。

そして部屋に入るなり、ゴルドロスさんの腰に下がったぬいぐるみから飛び出した犬(?)がとてとてとソファーの方に駆け寄り丸くなった。


「……あれって、魔物っすか?」


「警戒しなくていいヨ、バンクは無害な方だからサ。 ただお気に入りのソファに座る時は一声かけた方がいいヨ、かみつくから」


「噛みつくんすか……あいたたっ」


「わt、おい馬鹿無茶するな!」


思わず距離を取ろう、と無理に重心をずらした歩き方をしたら治りかけの傷が痛み、つい膝をつく。

やはり見た目こそ塞がってはいるがあくまで完全には治っていないか。


「んー、待ってネ、 今痛み止め出すからサ、適当にくつろいでてヨー」


「くつろいでてって……全く、勝手だなあいつは。 大丈夫か花子ちゃん?」


「あ、あはは……すみません、ちょっと傷が痛んだだけっす」


「無理すんなって……よっと」


「ひゃわぁ!?」


ブルームさんに痛みを抑えて立ち上がろうとしたところを制され、そのまま私の身体は両手で抱えあげられてしまった。

それほど体重に自信があるわけではないが随分軽々と、しかもこの格好は……


「お、お姫様抱っこ……!」


「ちょちょちょ、降ろしてっすブルームさん! 自分重いっすから!」


「こんくらい軽い軽い。 悪いなバンク、ちょっと隣借りるよ」


『モッキュー』


されるがままで私の身体はソファへと座らされてしまった。


「あまり無茶はしないでくれよ、痛いなら痛いってちゃんと言ってくれた方が俺は助かるな」


「う、うぅ……どうもっす……」


そのまま慣れた手つきで髪を梳くように頭を撫でられる。

……なるほど、巷のブルームスター人気も頷ける。 同年代から見てもこれは……。


「……いや、本当にブルームさんって同年代っすか? 実はロウゼキさんみたいに年誤魔化してたり」


「え゛っ? あはははやだなそんなわけないじゃないかあはははは」


何故だかその笑顔は今日一番引きつったものに見えた。

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