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三百二十話

(´・ω・`)おまたせしますた

「なんだか寂しいね、昨日まであんなに人が沢山いたのに」

「そんなもんさ。ここはもともとただの草原。昨日はたまたま人が多かったから市場も開かれていたんだろうさ」

「先日の件、ミササギから引き返した人が沢山いた……という事でしょうか」

「どうだろうなぁ。シンデリアは流通の要みたいな町だったから、そこを目指していた人も多かったんじゃないかな」


 照り焼きロール事件(命名俺)から一夜明け。

 朝日がテント越しにも眩しい中外へ出ると、ここで寝泊まりしていた他の人間が皆、一斉にテントを片付けているところだった。

 市場のあった方を見やれば、出店や露店の屋台骨を解体している姿や、多くの魔車がこの野営地を後にし、それぞれの目的地へと向かい走り去っていく場面だった。

 確かに、まるで祭りが終わった後のような、そんな一抹の寂しさを感じる光景だ。


「さて、じゃあ俺達もテント、片付けようか」




野営地を後にし、街道をひた進む。

 途中、やはり何台かの馬車や魔車とすれ違う事になったのだが、彼等もまたミササギから引き返してきた人間なのだろうか。

 出発したのは早朝なので、恐らく夕暮れ前にはミササギ領の入り口である山岳地帯にたどり着けるとダリアは言っていたのだが、はたしてそこで何が待っているのやら。

 まぁ結構ワクワクしているんですけどね? 知らない土地、そして知らない風習にまだ見ぬ種族が多くいるという話なのだし。


「このまま道沿いに進んで、山が右手に見えてきたら最初の分岐路を右に、だな」

「ま、さすがに間違わないか。じゃあしばらくはのんびり出来るな」


 御者席にダリアと座り、ぼんやりと流れていく景色を眺める。

 なかなかの速度だが、やはり我が家のドラゴン様ことケーニッヒには遠く及ばない。

 今頃何をしているのだろうか。


「なぁカイヴォン。もし何か揉め事が起きても――」

「安心しろ、剣は抜かんよ。その為にリュエ達に鞘を作ってもらったんだから」


 背中にくくりつけられた、ガッチリと剣に固定された鞘を見せつける。

 一応、装備状態は維持しているのだが、これを咄嗟に抜き放つのは不可能だ。

 つまり戦力的にはいつもより劣っている状態な訳だ。

 まぁ尤も、剣がなくとも俺のサブ職業である『拳闘士』が生きてくるのだが。


「そのうち手合わせしてやるよ。拳闘士として戦った事、殆どないんだろこの世界で」

「ああ、お手柔らかに頼む。俺も気になっていたんだよ、お前がこの世界でどこまで強くなったのか」

「……見たんだろ、俺のステータス」


 どこか自嘲気味なダリア。

 それは自分の力を誇るのでも、努力を自慢したいのでもない、後ろ向きな表情。

 なぜ、そんな顔をする。お前は間違いなく最強だぞ、俺を抜かせば。

 ……いや分からないけれども。


「こいつは俺が臆病者だって証明だ。術式にくっついてる俺を狙う人間は、今だってこの共和国のいたるところにいる。だから、俺は少しでも強くなろうと、国や術式うんぬんよりも、我が身可愛さに力を付けてきたんだよ」

「もともとお前のレベルは二◯◯だ。脅かす存在なんていないだろ」

「そうでもない。ステータス差をひっくり返す術なんていくらでもあるんだよ。まぁ、今じゃ全術式に対抗出来るだけの知識は得たがね」

「ああ、恐ろしい。つくづくお前が敵じゃなくて良かったよ」

「そいつは俺のセリフだ。なぁ、気がついているのか? ここからサーズガルドの方角を見てみろよ。俺は、お前の方が遥かに恐ろしいよ」


 チラリと、遥か北方の空へと視線を向ける。

 正確な国の位置なんて分かりゃしないが、ちょうど暗雲が立ち込めている場所が見える。

 ……雨季、という訳じゃないだろうな。


「……その時が来たら、絶対に俺に一言言ってくれ。国民を救う義務が、俺にはあるんだ」

「分かっているさ」


 戦いは、戦闘はまだ続いているのだ。

 俺がただで逃げると思うなよ、フェンネル。お前が敵対した男は、文字通り最強で最凶の、悪魔のような男なのだから。

 魔車は進む。いつか訪れるであろう決戦、その舞台となるであろう国に背を向けて。




 しばらくすると予定通り山が見えてくる。

 現在の御者は俺とリュエ。ダリアは絶賛レイスにいじられ中だ。

 苦手意識うんぬんは既に、小さい子供の面倒を見たいという彼女の母性本能に上書きされてしまっているようだ。

 実際、かなり小さいからなぁあいつ。


「よーしよし、いい子だ魔物くん。そっちに曲がるんだよ」


 手綱を巧みに操り、しっかりと分岐路を右に曲がっていく。

 初めは不慣れだった御者も、今ではすっかりお手の物だ。

 そんな娘の成長を見守るような気持ちでリュエの様子を見ていると、こちらの視線に気がついた彼女が、どこか満足げな笑みを向ける。


「手慣れたものだろう? みんな、ちゃんと話しかけてあげれば言うことを聞いてくれるんだ」

「なるほど。コミュニケーションが大事だと」

「そうさ。何事もコミュニケーションが第一だからね。ところでカイくん、そろそろ聞いておきたい事があるのだけれど」

「ん? どうしたんだい?」

「召喚された子。あまり私は好きな呼び方じゃないけれど、解放者についてさ。あの子の事、どうするつもりなんだい?」


 どうするつもり――か。

 解放者、中でも俺が龍神を殺害した後に召喚された人間は、何者かに『魔王討伐』の願いを託されている。

 ナオ君がそうだったのだ、恐らくミサトもまた、その任を担っていると見ていいだろう。

 なら、どうする。

まず解放をさせる訳にはいかない。現状この大陸は一種の安定期に入っているような状態だ。

無論、七星を殺害した方が手っ取り早いし未来の憂いもなくなる事だろう。

これはダリアと封印の拠点を見て回り、そして――リュエのような犠牲者を見つけ次第、どうするか決めるべきだ。

つまり、俺達は今の段階ではミサト達の目的を阻止する立場にある訳だ。

では、魔王討伐についてはどうする。

 これは、正直どうとでもなる。あの娘に俺を殺すのは不可能だ。無論それは付添の二人の剣士にも。

 そもそもの話だが、俺が魔王、つまりあの姿にならなければ問題はないのだから。

 だが――ここでネックになるのが、俺達三人が既にサーズガルドで手配済みだという事。

 俺は謁見の場に、魔王の姿で現れたのだ。恐らくあの姿で手配書が作られているはずだ。

 まぁ、ただの魔族だと言い張る事も出来るだろうが、それも時間稼ぎにしかなるまい。


「……討伐は不可能だって諦めてもらうしかない、か。ほら、俺は平和主義者……ではないけれど、悪い魔王ではないからね?」

「ふふふ、そうだね。たまに悪い事をするけど、悪い魔王ではないね」

「む、失敬な」

「えー?」


 以前ならば、このしがらみや制約、すべき事の多さに押しつぶされそうになっていただろう。

 だが、俺には彼女達がいる。

隣で笑ってくれるリュエが、隣で見守ってくれるレイスがいる。

そして今は、俺以上にタフなダリアまでいるのだ。

 これで不安がったり押しつぶされそうになるはずがないだろ?


「さて、そろそろ山岳地帯だ。確か麓に村があるっていう話だから、そこで少し話を聞いてから入ろうか」

「うん、分かった。よーし、じゃあ後少し、頑張っておくれよ魔物君」




 麓の村へ入ると、そこには多くの馬車や魔車が順番待ちをするように列をなしていた。

 ああそうか、この場所で既に入行許可を出すか出さないかを判断されるのか。

 となると……今のうち俺達も醤油とか用意しておいた方が良いのだろうか?

 するとその時、最後尾に並んだこちらに、前にいる馬車の御者から冊子が届けられた。


「兄さん達もこの先に向かうのなら、こいつに目を通しときな。このリストにある物を一定量見せないと通してもらえないんだ」

「あ、ありがとうございます。どうです、貴方は通れそうですか?」

「ああ、なんとかな。まいったな、この場所で商品の一割を納める事になりそうだよ」


そうぼやきながら戻っていく男性。

 やはり一定量この場で納めなければならないのか……ちょっと異例じゃないか?

 余程物資に困っているのだろうか? だとしたら無条件に受け入れたほうが良い気もするのだが。


「なぁダリア、聞こえるか?」

「なんじゃらほい?」

「ほら、今渡されたリスト、お前も一緒に目を通してみろ」


客車でぐったりしていたダリアを呼び寄せる。

 さてはレイスに構われすぎて気疲れしたな?

 ともあれ、今渡された、ミササギが今求めている物資一覧が載っているというリストを開く。

 ……ふむ。五十音順でもカテゴリ順でもない、無造作に品名が書かれているな。

 誰だこれ作ったの。もっと見る人の事考えた書類を作って、どうぞ。


「醤油に反物、木材に木工品……お、アギダル産の米もあるな」

「アギダル! そうそう、俺一度そこに行ってみたいんだよなー」

「俺は行ったぞ。なんだか懐かしい雰囲気だった」

「く、羨ましい。にしても……なんか妙な偏りがあるな、このリスト」


 そうなのだ。このリストを見ると、特定の物ばかり求めているように思えるのだ。

 茶器、和紙、竹細工、砂糖菓子、それにアギダル産の加工食品などなど。

 他にも酒、この場合は日本酒に、何に使うか分からないが大量の粘土とある。

 そしてこれらの共通点というより、ぼんやりと朧気に見えてくる『求めている物』。

 それは――


「なんか、和っぽい物ばかり求めていないか?」

「あー……たぶんその予測は合ってるな」

「なんだ、何か心当たりでもあるのか?」


 リストに目を通したダリアが、おもむろにこめかみを押さえ始める。

 頭痛の種がそこにあるかのような仕草だ。

 話してみろと、せっつくように促してみると――


「……前に俺が、ミササギに行ったら驚くぞってお前に言っただろ? その……ミササギと俺の交流って、実はサーズガルドが出来る前、四百年以上前からあるんだよ」

「ほう、そりゃ凄いな。してその心は」

「俺が口出しした。当時まだ国だったここの連中に、効率的な都の作り方を語って聞かせたんだ。その結果、二百年ちょっとでこの場所は、まぁ日本チックになったんだよ」


 ほう、日本チック……チック? なんだか海外の映画監督が作るなんちゃって日本みたいな、微妙に間違った場所にでもなってしまったんですかね?


「リストを見る限り、今でもそういう場所を目指しているのだとは思うが、ちょいとこれは異常だよな。やっぱりなんかあったっぽいな」

「ふぅむ……まぁ幸い、リストにある品は俺も沢山所持しているし、入行許可は得られるはずだ。色々考えるのは向こうに着いてから、だな」


 列が捌かれるまでにまだしばらく時間がかかりそうだからと、客車の二人も交えて、手放しても良い品、一先ずこの場所で差し出す品を決めようと相談する事になった。

 幸いにして、リストには食材関連も多く上げられており、十分にこの検問を突破出来そうだ。


「新鮮な海の幸っていうのもあるね。カイくん、川の魚を海のだって言い張るのはどうだろう?」

「さすがにすぐバレるよそれは。鮮度に関しては問題ないだろうけど」


 ならマグロ、もといカジキの身を一ブロックでも差し出せば、諸手を挙げて通してくれるのではないだろうかと挙げてみる。

 だがその瞬間、レイスが今にも泣きそうな顔で、ただ静かに無言で首を横に振る。

 ごめんなさい、そんな顔しないでください。


「だめです……あれは私達が食べる物です……」

「分かった、分かったから……じゃあそうだなぁ……俺が前に釣った魚にしようか」

「あー、懐かしいねぇ。セミフィナルに向かう途中に釣った魚だよね?」

「そうそう。鯵とかブリっぽいのとか、結構釣ってたんだよ」

「は? ブリあるん? ダメだダメだもったいない。もっと他にないのか」


 ダリアからのダメ出しである。

 ええい、埒が明かない!


「ぐぬぬ……じゃあ大人しく木材にするかね? 俺、そこまで沢山アイテムボックスに入れてないぞ?」

「私も、ヘアバンドを作る為に少し持っているだけだしなぁ」


 リュエさん、それはヘアバンドではなくカブトムシヘッドです。

 人の事は言えないが、リュエのアイテムボックスの中身って謎だよね。

 タルタルソースの材料と木材……他に何が入っているのやら。

 それを尋ねると、何故か彼女は顔を赤くしながら『乙女の秘密だよ』とそっぽをむいてしまった。実に気になる。

 ならばと、今度はレイスに聞いてみると――


「私の場合は、古着や布、毛糸が多いですね。それと非常食になるような物が」

「肉ですね、分かります」

「そ、そんな事はありませんよ? 確かにありますけど……むむ、このリストにあるような物は私も持っていませんね」

「うーん、じゃあやっぱり俺の魚にするかねぇ」

「カジキ以外でお願いしますね」


 ははは、了解了解。

 じゃあダリアには悪いがブリを一尾、そしてイカとタコを二匹ずつ。

 それと念のためにアギダルで購入した食料の一部を放出しようかね。

 そして、気がつくと列もだいぶ進み、俺達の前に大きな空きが出来ていた。

 急ぎ列を詰めると、検問の人間と思われる、三角の耳を生やした男性が近寄ってくる。


「はい、では先にこの魔車の目的をお願いします」

「観光です。ですが、このリストにある商品を幾つか所持していますので、それを売ろうかと思っています」

「商人ではないのですか? そうなりますと、無断での売買は商人ギルドから手数料を取られる事になりますが……」

「構いません、お願いします」


 ならばと、彼はそのまま検問所へと戻っていった。

 するとレイスが『こんな事ならば、あの紋章を持っていた方がよかったかもしれませんね』と苦笑いを浮かべる。

 いやぁ、それもどうかと思うんですけどね? ちゃっかりしてますねお姉さん。

 というか、いつの間にか御者席には俺とレイスの二人になっているんですが。

 ……本当にちゃっかりしていますね?


「ふふ、なんだか楽しいですね。知らない場所で、こんな風に一緒にいるのは」

「駆け出し行商人の若夫婦って感じに見られているかもしれないね」

「嬉しい事を言ってくれますね? では、こうした方がよりそれらしく見えるかもしれません」


 彼女の手が、手綱を握るこちらの手に触れる。

 やさしく手を繋がれ、そして彼女が嬉しそうにこちらを見つめる。

 うむ、照れる。そして幸福感が凄い。語彙力が消え失せるほどに。

 精神力がガリガリ音を立てながら削られていきます。

 そんな心の試練に一人耐えながら、自分たちの番を待つのであった。




「はい、では品物を見せて頂けますか? 可能でしたらかの場で買い取らせて頂きますが」

「では、この米俵を買い取って頂けますか? アギダルで今年収穫されたものです」

「おお、米俵一つまるごとですか。そうですね……ここでは買い取れませんが、ミササギに到着しましたら、それを街の入り口近くにある『布施屋』にお持ち頂けないでしょうか?」

「布施屋……ですか。了解しました」


 魚を見せるまでもなく、米俵を見せただけで通行出来てしまった。

 しかし布施屋とな……いよいよもって平安時代のような、旧日本じみてきたな。

 本来、無料の宿のような、今で言う道の駅のようなものだったと記憶しているが。


「ダリア、一体どんな風に当時の人間に教えたんだ?」


 客車に向かい尋ねると、ダリアが窓から顔を出しながら話し出す。


「具体的に言うと京都だな。平安から江戸末期までに生まれた制度とか制作」

「ほほう。じゃあ結構それっぽい街並みなのかね」

「……俺が最後に見た時は、まだ京都と言い張れそうだったな」


 やだ、不安になってきた。


「キョウト……? それはどういうものなんですか?」

「そうだなぁ……俺の世界というか出身国にある都市の一つで、古い時代の美しい姿を、現代まで失わずに残している数少ない都市の一つ、かな」

「ちなみに俺は実際には一度も行ったことがないので想像で話しました。ではさらば」

「あ、逃げやがった」


 お前はもぐらたたきのもぐらか。


「カイさんの国……アギダルのような場所なのでしょうか?」

「どうだろうなぁ……ダリアの弁だと、もっと栄えていそうだけど」

「楽しみです。ワクワクしてしまいますね」


 頼む、どうかちゃんと和風な都市であってくれ。このワクワクと笑顔を浮かべている彼女の期待を裏切らないでくれ。

 そんな願いとともに、魔車はゆっくりと山岳地帯へと入っていくのだった。

 山の中にそんな都があるとはどうにも思えないのですが……。






「カイさん、前方に少し魔力の流れが変わっている場所が見えます」

「ん? 異常事態かい?」


 山岳地帯に入ると、すぐに緩やかな上り坂へと差し掛かったのだが、そこで隣のレイスが警戒した様子で声をあげる。

 見れば、彼女の両の目が赤い輝きを宿している。


「結界……でしょうか。周囲の魔力の流れを遮断している風に見えます。ダリアさん、顔を出してくださいますか?」

「なんじゃらほい……うわ、なんで頭撫でるんだよ」

「ついつい……それで、この先に見える結界なんですけれど」


 やっぱりもぐらたたきじゃないか。ダリアたたき。


「ああ、環境維持結界だ。ほら、ブライトネスアーチ全体を覆う結界があっただろ? あれの原型になったものだ。ここの連中の術の大半は結界に関わるものなんだよ」

「え! 私も見たい!」

「ぐぇ! 狭い、狭い!」


 狭い窓から頭二つ。じゃあリュエさんの方は俺が撫でておきますね。

 なでりこなでりこ。何気に久しぶりな気がするな。


「もうすぐ景色が一変するぞ。右手側の山の斜面を見てみろ」

「ふむ? 変わった様子は見られないが」

「結界内に入らないと見えんよ。認識阻害もかねてんだ」


 戦争時代の名残だろうか。

 と、その時。以前感じたように、身体で感じる空気が一変した。

 熱帯地域特有のまとわりつくような暖気が幾分薄れる。

 カラリと乾燥しているという程ではないのだが、どこか過ごしやすい気候だ。

 が、それよりもレイスの感嘆の声に気を取られる。


「カイさん! 見て下さい、山の斜面が一面ピンク色です!」

「これは……芝桜……か?」

「うわぁ! 凄い、まるで染め物みたいだねカイくん!」

「確かにこれは……綺麗だ、凄く」


 まるで、いちごミルクでも流したかのような一面のピンク色。

 そんな香りなんてしないのに、思わず甘そうだと、そう思えてしまうほどの。

 どうやらこの辺りの気候は、日本の春のような状態に留められているようだ。


「常春の都ってやつだな。桜の木をこの世界で見つける事は出来なかったが、代わりにこの花を見つけたんだ」

「そういやお前、結構花に詳しかったよな」

「伊達に『ダリア』は名乗っていないさ」


 ああ、そういえば『ダリア』もまた、花の名前だったな。


「綺麗ですね……こんなに一面の花畑を見るのは初めてです」

「私もだよ、凄いねぇ……なんだか美味しそうな色をしているね」

「ははは、俺も一瞬そう思ったよ。なんだかいちごミルクみたいだなって」

「むむ……それはどういう物なんだい? 今度アイスにしてみるよ?」


 無邪気に笑う。うっとりと微笑む。自慢げに笑みを浮かべる。

 三者三様の表情を見ていると、それもまた花のようだ、なんて柄にもない事を考える。

 かすかな風に舞い上がる花びらを眺めながら、その常春の都へと向かうのだった。


(´・ω・`)13章はここまで 次回からミササギ編

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