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第十九話:おっさんは破産する

 さっそく、最上級魔物同士を戦わせて見世物にするギャンブルが始まった。

 紳士淑女ばかりだというのに、血の匂いに酔って、品性を捨て去っている。

 無理もない、ここで賭けの対象になっている最上級魔物は、それ一匹で村や街を滅ぼすような奴ばかり。

 突き抜けた強さというのは畏怖の対象であり、それらが殺し合うのを安全な場所から眺めるのは最高の愉悦なのだ。


 四方の門が開き、最上位モンスターたちがなだれ込んでくる。

 凶暴化させる魔法をかけており、すでに全ての魔物が怒り狂っている。


 最初に動いたのは俺の予想通り、フレイムレックス。

 一直線にミスリルベアに向かって突進。その牙が超高温の炎を纒って赤熱する。

 あれならミスリルすら溶かして穿つ。

 しかし、そんなフレイムレックスの足首に蛇が噛み付いた。

 強力な麻痺毒を流し込まれて動きが鈍る。苛立たしげに蛇を尻尾で打ち払おうとするが、地を這っていた蛇は羽ばたいて空へ逃げてしまう。フレイムレックスは怒りの咆哮をぶつけるも、とどかない以上、なにもできない。

 そして、やり場のない怒りをミスリルベアにぶつけようとするが、麻痺毒のせいでひどく動きが緩慢。

 迎え撃つミスリルベアが両腕を広げた。


「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」

「ギュオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 ……これはまずいな。

 素の戦闘力ではフレイムレックスが圧倒しているが、強力な麻痺毒はあまりにも大きなハンデだ。

 フレイムレックスの赤熱した牙が躱され、逆にミスリルベアの爪がフレイムレックスの胸に突き刺さる。


「キョオオオオオオオオオオオオオン」


 反撃すら鈍い、ミスリルベアが首筋に噛み付いて、血が飛び散り、血に酔った観客たちが歓声を上げる。

 結局、フレイムレックスはそのままミスリルベアに返り討ちにされてしまった。

 これがバトルロイヤルの怖さだ。いくら強くとも、状況次第ではあっさり敗北する。


「この勝負の結果は見えたな。ミスリルベアの勝ちだ」

「んっ、ルーナの読みどおり」


 ルーナがキツネ尻尾をぶんぶん振ってる。

 偶然じゃなく、ちゃんと考えてミスリルベアを選んだのだろう。


「うわぁ、蛇さん何やってるんだよぅ。その恐竜はミスリルベアが倒されてからじゃないとだめなのに」


 ティルの言う通り、ミスリルベアを倒せる唯一の存在がフレイムレックスだった。もはや蛇と亀には、毒も光魔法も効かないミスリルベアを倒す手段はないのだ。


 ◇


 あのあとは順当にミスリルベアが勝った。


「やった、賭けたお金が五割増し!」

「蛇さんが勝ってたら十倍だったのにぃぃ……」


 チップが増えてルーナが尻尾を振っている。

 このギャンブルでは魔物の強さによって倍率が変わる。

 今回の場合はミスリルベアはがちがちの本命であり低倍率だったし、逆にティルのかけていた蛇は十倍など、かなりの高倍率。

 ちなみに俺のかけたフレイムレックスは三倍とまあまあだ。


「ルーナが当てたけど、パーティ全体でみると、かなり痛い損失ね」


 本命を当てて五割増しは大きいのだが、それ以上に俺とティルが負けている。

 しかも俺は五百枚という大勝負だった。


「まあな、だが負けてもいいギャンブルだ。ほら、来た」


 ここでのイベントフラグは、一勝負で五百枚以上負けて、なおかつチップと所持金がゼロになること。

 その条件を満たすために、チップ五百枚と今着ている服以外の所持金・持ち物すべてをフィルに渡していた。

 俺が待っていたのは、ここに案内してくれた支配人。


「お客様、さきほどの勝負は残念でしたね。ですが、しびれるような大勝負で感動致しました。そして、とても惜しかった! お客様は目のつけどころがいい。次は勝てるでしょう。……どうですか、もう一勝負!」

「そうしたいのはやまやまだが、手持ちが尽きてな」


 ここの返事も重要だ。勝負をしたいが金がないというのを明確に伝えないと、フラグが折れる。


「ご心配なく、VIPのお客様には千枚ほどチップをお貸しすることができるのです。そちらを使ってもう一勝負してみてはいかがでしょう? ……なに、何も問題ありません。勝てばすぐに返せますよ」

「じゃあ、借りようか」

「ええ、喜んで。ただし、一割増しで返していただきますので、ご注意を」


 ディーラが笑いながら、千枚のチップを渡してくる。

 ……渡されたのはチップだが、実質一千万円の借金をしているし、そもそも借りた時点で一割増しという闇金並の超金利。

 ディーラーが会釈をして立ち去っていく。


「よしっ、軍資金が出来た。また賭けるとするか……ふむ、次のメンツも面白いな。特にグランシーザーなんて、超レア魔物だ。俺ですら実物を見たのは初めてだな。せっかくだし、こいつに千枚賭けるとしよう」


 賭けの処理をさっと終わらせる。


「ちょっ、ユーヤ兄さん待って、それ大金だよ!? しかも借りてるお金! 利子一割って言ってたけど、千枚の一割って百枚!? うええええ、それだけあったら、二、三ヶ月の生活費になるじゃん」

「んっ、やりすぎ」

「まあな。だが、グランシーザーの倍率は六倍、勝てば借金なんて一瞬で返せるし、五千枚も残るぞ」


 凄まじい呆れ顔で全員が俺を見る。

 いや、もとから種明かしをしているフィルと、これが必勝法の一環だと確信しているセレネはわりと落ちついているか。


「おまえたちは賭けないのか?」

「そんな気になれない」

「ユーヤ兄さんが気になりすぎるんだよ。ぜったい勝ってね」

「絶対勝てるなんてギャンブルじゃないだろう」


 そうして時間切れ。

 さきほどと同じように四体の魔物が四方にある門から現れて戦い始め……俺が賭けたグランシーザーはあっさり負けてしまう。


「二連敗か。グランシーザーのポテンシャルを考えるとこの倍率は破格だったんだがな。実に惜しかった」

「前から思っていたのですが、ユーヤってものすっごく賭け事に弱いですよね」

「ええ、運が絡むと全部悪い方へいっている気がするわ。さっきの戦いも、今回の戦いもユーヤおじ様が賭けた魔物が真っ先に狙われているもの」

「まあ、こういうこともあるさ」


 不思議だ。ここのバトルロイヤルだけは、ディーラーがイカサマをしない唯一公平なギャンブルだというのに……。

 やはり、俺にはギャンブルは向いてない。


「って、笑ってる場合じゃないよ! ユーヤ兄さんは利子分も含めると、もう千六百枚も負けてるんだよ。ちょっとは反省して! 私たちががんばって稼いだ分、ほとんどぱーだよ」

「ああ大丈夫だ。次は絶対勝つから、次で今まで込んだ負けを全部取り返す!」

「ユーヤ、それ一番だめなやつ」

「きゅいっ!」


 氷のような冷たい目でお子様二人組が俺を見ている。

 ルーナとティルにこんな目を向けられたのは初めてだ。

 しかし、そんな二人が追撃をする前に再び支配人が現れる。

 さきほどと同じく笑顔だが、目が笑っていない。


「お客様、困りましたね。貸したチップをすべてすってしまうとは……お客様には二つ選択肢があります。一つ、二十四時間以内にチップを返却すること。パーティの皆様にお金を無心することをおすすめします。もし返済期限を過ぎた場合はお客様を迎えに行き、体を切り売りさせていただきます」


 切り売り、内臓でも売るのかもしれない。少し気になる。

 ゲームの場合は即死キャラデリートなので実際にどうやって金を作るのかは知らないのだ。


「もう一つの選択肢は、お客様にここで働いてもらうことです。……お客様、いえ、クズとお呼びしましょう。あなたは金がないどころか我々に借金を作ってしまった。もはやお客様ではなくただのクズでございます。ゆえに、金を賭けて楽しむのではなく、金を賭けられる見世物となるのです。たった一回見世物になるだけで、莫大な借金がチャラになる。とても良心的な提案かと思いますが……どうでしょう?」


 きた。

 これこそが唯一、このギャンブルでの必勝法。


「なら、後者だ」

「では、こちらに。控室で着替えなさい。見世物にふさわしい服を用意しております。借金返済の足しに、衣服を含めて手持ちのものはすべて没収させていただきますね」


 支配人が指を鳴らすと屈強な男たちが現れ、俺を羽交い締めにする。そしてその場で俺の身ぐるみを剥がして、下着姿にし、さらにはパンツの中にまで手を突っ込まれ、所持品がないかを確認された。

 ……ここでもし装備品や所持品などがあると、奪われてたとえ戦いに生き残っても、金を払うと言っても取り戻せない。このイベントを初めて見つけた奴は、絶望したらしい。


「まったくしけてますね。チップ十枚分にしかなりません。……そのクズを連れていけ」


 パンツ一枚のまま連行される。

 ……そんな俺の姿をまじまじとルーナとティルは見て、セレネは顔を手で隠しながらしっかりと隙間から見て顔を赤くしていた。


「フィル、後は任せた」

「はい。でも、必ず無事に帰ってきてください」

「もちろんだ。やっと必勝法にたどり着いたんだからな」


 このモンスターバトルロワイヤルの唯一の必勝法とは、確実に勝てる魔物の組み合わせを引き出すことだ。俺という駒をバトルロイヤルに組み込む。

 借金のカタに、剣奴として戦わされるイベントを逆利用するのだ。


 もっとも装備を全部没収された状態で最上級モンスター三体と対峙するのは、通常なら無理ゲーだ。

 なにせ、最上級モンスターとは装備を整えた状態で、パーティで挑むことを前提に作られている。

 素手で挑めば、一対一ですら虐殺されるだろう。

 だが、そこは立ち回り次第。ここで生き残るには、魔物の習性を知り尽くし、利用すればいい。

 並の冒険者には不可能だが、俺にならできる。


 ……さて、どれだけ愉快な倍率をつけてもらえるだろう?

 魔物に比べて人間は弱い、しかも俺は剣を持たない魔法剣士という、あまりにも情けない存在としてリングに上がる。

 倍率が十倍以上になるのは間違いない。

 そこに一千枚のチップを賭けるのだから、莫大なチップが手に入る。必要な最強武器素材だけじゃない、たんまりと土産をもってこのカジノを出ることができるだろう。

 

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