第十六話:おっさんはカジノに挑む!
遅くなって申し訳ないです!
神々のオークション一日目が終わったあと、買ったものを片付け、売れたものをチェックした。
売れ残りがない上に、想像以上に高く売れた。これは嬉しい誤算だ。
それが終わると街へでる。
「うわぁ、どこの店もめちゃくちゃ人で溢れてるね」
「ルーナは美味しいもの食べたい。でも、並びたくない」
ルーナやティルがきょろきょろと辺りを見ている。
「二人とも絶対にはぐれるなよ。……はぐれたときは」
「わかってるよ。ちゃんと待ち合わせ場所にいくって」
ゴルドバランは人で溢れかえっていた。
オークションが終われば、街で観光をしたいと思うのはみんな一緒だ。しかも、持ち込んだものが売れて懐があったかいと来ている。
この状況は必然と言える。
「本当にすごい人ね。それに並んでいる商品がとても高いわ。みて、バルムの実が一つであんな値段」
バルムの実というのはヤシの実のようなもので、てっぺんに穴をあけたものにストローとスプーンをつけて売るのが一般的だ。
てっぺんの穴にストローを刺してジュースを楽しんだあと、叩き割って中の実をスプーンでいただく人気フルーツ。
そんなバルムの実が相場の三倍で売られている。
「これだけ人がいるとその値段でも売れるんだ」
需要と供給というやつだ。
その高いバルム売りの屋台に行列ができてる。
「ふう、【魔法袋】にたっぷり飲み物とか食べ物とか入れといてよかったよ」
そう言いつつティルは水筒を取り出して喉を潤す。
「ユーヤが空中大陸を出る前に補給をしっかりしていたのってこのためなんですね」
「ああ、その通りだ。ここじゃ食い物を手に入れるのも一苦労だからな」
並んで高いのを買う羽目になる。
三日もの長丁場でそれはきつい。
いっそ、オークションに出されている食材を競り落としたほうがいいぐらいだ。
「ユーヤ、どこに向かってる?」
「カジノだ。出品したものが想像以上に良い値で売れた。オークションの軍資金にとっておく分を差し引いても、カジノに挑めるだけの金がある」
カジノは最終日の翌日と考えていたが、金が出来たので予定を前倒しにした。
「そういうわけですね。ちょっと、残念です。普通のほうのオークションも見てみたかったです」
「たしかにそうね、そっちも楽しそうよね」
「でも、やっぱりいいです。この様子だと、しんどそうですし」
「言われてみればそのとおりね」
周囲を見渡して、二人は首を振る。
「どういう心変わりだ」
「たしかに興味はあったのだけど、この人混みを見ると尻込みをしてしまうわ」
「ですよね。……ぜったいにすごい人数が詰めかけてます。人混みにうんざりしちゃいました」
気持ちはわからなくはない。
普通のオークションは神々のオークションのあとに開かれる。当然、そちらも見ようと人が押し寄せる。
「その想像はあっているな。あれは凄まじい。でも、こういうチケットがある」
俺は密かに仕入れたチケットを取り出した。
「ねえ、ユーヤ、それ何?」
「オークションのプラチナチケット。日付は明日だが食事をしながらゆったりした特別席でオークションを楽しめる。高いだけあって、食事も酒もうまいのが出されるんだ」
基本的にオークションの参加費は安く、一般席はぎゅうぎゅうで息苦しいぐらいなのだが、例外はある。
それが特別席。
金のなる木を商人たちが見落とすわけがなく、高い金を払うことで快適さを提供するサービスを始めた。
「いつの間に。よくそんなものが手に入りましたね。完売していないほうが不思議です」
「昨日、知り合いに会って融通してもらったんだ。何十年も冒険者をやっているからな、いろいろと顔が効く」
古い知人の計らいだ。
しっかりと金は取っていったが、このプラチナチケットを定価で渡してくれるのはひどく良心的だ。
「それがあるから、今日は思いっきりカジノをやって、明日は普通のオークションを楽しむというわけね」
「正解だ。というわけで、カジノに行こうか」
「そのカジノが人で溢れてなければいいですけど」
「人に溢れているが大丈夫だ。きっと見ると驚くぞ」
あれを最初に見たときは度肝が抜かれたものだ。
◇
神々に作られただけあって、なんでもあり。エレベーターどころか転送装置で一瞬にして指定階にたどり着ける。
三十階のカジノ、そこについた瞬間、俺以外が言葉を失う。
「思ったほど人はいないな、やっぱりオークションのほうに流れているのか。たった、二、三千人だ」
「十分多いよね?」
「そうだな。だが、それでも問題なく捌けてしまう。世界最大のカジノは伊達じゃない」
まず、広さが東京ドーム並にある。
明らかに外から見えているより面積が大きい。神々の塔なので物理法則ガン無視の広さだ。
そしてその広い空間には無数のスロット台が並び、ディーラーが必要なゲームはそれぞれの道具と、ゴーレムが並んでいた。
その総数は数千。
これだけの数があれば一万人以上が詰めかけてもなんとでもなる。
それだけでなく、ゴーレムたちが売店を経営しており、飲食物はおろか葉巻などの嗜好品、果てはドレスやスーツなんてものまで取り扱っていた。
「めちゃくちゃするわね」
「神々のカジノだからな。さっそく一勝負やってみようか」
最初に向かったのはポーカーテーブル。
用意されているゲームはオーソドックスに、スロット、ポーカー、ブラックジャック、ルーレット、バカラなど。
ゴーレムがチップがあるか聞いてくるので、所持していない旨と購入したい旨を伝える。
そして、大量の金貨を差し出してチップを受け取る。
「あの、ユーヤ。それ、チップ十枚あれば、一月分ぐらい暮らせませんか?」
「ああ、それが最少単位。そんなチップがあっという間に消えていくのがこのカジノの面白いところだ」
ちなみにだが、チップ一枚の値段をこの世界の物価をもとに日本円換算すると、大凡一万円ぐらいだ。
スロットなどはチップを入れて回す。つまり、一度回すごとに一万円が吹き飛ぶ計算。十秒で一枚ぐらい消えてしまうので、一度も揃わなければ一時間で三百六十万円ほど吹き飛んでしまう。
逆に、一番でかいあたりで五百枚のチップが吐き出される。
こんな絶好の観光スポットに二、三千人ほどしかいないのはそういうわけだ。
なにせ、よほどの金持ちじゃない限りあっという間に手持ちの金が尽きてしまう。
くどいようだが、このカジノは普通にやれば手持ちが減っていくように設定されているのだから。
「ちなみにですが、ユーヤが欲しがっている素材はどれぐらいのチップが必要なんですか」
「七千八百枚だ」
「……それ、贅沢しなければ一生暮らしていけますよね」
「だな。この金額をチップを買うだけで払うのはきつい。だから増やす。全員にチップをやろう。せっかくだから存分にカジノを楽しめ。そうだな、ゼロになるか三倍に増やすまで好きなゲームをするといい。ゴーレムに聞けばルールを教えてくれる」
「わーい、ルーナはむこうのくるくるしてるの面白そうって思ってた」
「私はスロットっていうのが気になるよ」
「きゅいっ!」
お子様二人組が目的のゲームに飛んでいく。
「いまさらっと、四百枚ずつチップを渡しましたね」
「同じ条件でフィルとセレネも遊んできてくれ」
「そう言われても、こんな大金賭けられませんよ」
「ええ、あの子達みたいにぱーっと使うだけの度胸はないわね」
普通はそうだ。
四百万円分のチップをぽんと渡されてギャンブルに使えなんて言われて、すぐ実行できるほうがおかしい。
「気持ちはわかるがそうしてもらわないと困る。実はな、この部屋を出るまでに勝った負けたに関わらず、一パーティでチップを四千枚賭けることが、特別なギャンブルを可能にする条件なんだ」
期待値から逆算すると、勝ったり負けたりしながら賭け続けると、二千枚ほどの元手があれば四千枚分、ベットできる。……もっとも徐々に元手は減っていって、始めの二千枚が尽きるかどうかというタイミングにはなってしまう。
つまり、始めから二千枚のチップは消えてなくなるものと考えている。
「つまり、二千枚ぜんぶ負けても、そのギャンブルに挑めるようになることで元がとれるということですね」
「ああ、そうだ。そして、このカジノで唯一確実に勝てるギャンブルがそいつだ」
だからこそ元手が必要だった。
まず負けてもいい二千万円分、そしてそのギャンブルに賭けられるチップ数の上限が千枚だから、その分もいる。
三千万円分のチップがあって初めて挑める必勝法。
稼いでいる冒険者でも、これだけの金額を遊びに使うことはためらわれる。
今回だって、【三竜の祭壇】で得たお宝の数々がなければ、とてもそれだけ使う気にはなれなかっただろう。
そのため必勝法の発見が遅れた。
だが、そのイベントの出現条件が判明してからは稼ぎの鉄板になっている。
……その特別なギャンブルは極めて危険であり、命を賭ける必要があるが。
「なら、ぱーっと賭けちゃいます」
「ええ、気兼ねなく賭けるわ」
「一応言っておくが、できれば勝ってくれよ。なにせ、条件は四千枚チップをかけることだから、勝つにこしたことはない。まあ、普通にしていたら四百枚程度のチップ、二時間もしないうちに消えるが」
「全力を尽くします」
「ええ、勝とうとしないとギャンブルなんて面白くないもの」
二人は別のゲームに向かう。
なんだかんだ言って、カジノには興味があったようで、負けてもいいとなれば純粋に楽しめるようだ。
ただ、お子様二人組と違うのはいろんなゲームのルールを聞き、見比べ、勝率が高そうなものを選んでいること。
……さて、じゃあ、俺もかけるか。
さっそくいい手が来た。
フルハウス。
幸先がいい。
負けてもいいとはいえ、負けるのは好きじゃない。
俺なりに元手を増やせるよう、がんばってみよう。
……ただ、基本俺は運がないからな。運があればレベルリセット前のステータスはもっとマシだったのだ。
その証拠にフルハウスで挑んで、フォーカードに負けた。
「まだまだこれからだ」
とにかく頑張るとしようか。
ポーカーはまだ、ここにあるゲームの中では運要素が少ないほうで勝ち目がある……かもしれない。
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