第十一話:おっさんは神竜の騎士となる
ようやく神竜を倒せた。
想像した通り、死闘になった。
そんな死闘のなかで最後の切り札である【神剣ダーインスレイヴ】を使わずに済んだのは大きい。
ああいうチート武器に頼るのは良くない。
地力で勝ちきることに意味がある。
『このメンバーじゃなきゃ、レベル50で挑まなかった』
神竜は攻略wikiに【最後の試練】をクリアしてレベル70にしてから挑むことを推奨と書かれているような最強クラスのボス。
ゲーム時代ですら、【最後の試練】をクリアするまえに挑むのはやり込みプレイと言われていたぐらいだ。
俺があえてそれでも挑んだ理由は主に三つ。
一つ、浮遊大陸に来る機会は少なく、ここにいるうちに挑みたかった。
二つ、【最後の試練】は一年のうちに挑める日は決まっており、しばらくは挑めない。
三つ、俺たちなら勝てると思ったから。
そして、俺の期待どおり、いや期待以上の力をルーナたちは発揮して神竜を倒すことができた。
いよいよ、その報酬を受け取るときが来たようだ。
「さあ、来るぞ」
絶大な強敵を倒した後の報酬をいよいよ得られるときが来た。
地下だというのに光が溢れる。
「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONN!」
そして、半透明になった黄金の竜が咆哮と共に現れた。
「んっ、まだ生きてた」
「うえっ、もう戦えないよぅ」
「安心しろ、そういうのじゃない」
黄金の竜は襲いかかってくるわけでもなく、どことなく表情が柔らかい。
そして黄金の粒子が俺たちに降り注いでくる。
「暖かいわ。それに力が溢れてくる」
「ええ、まるで黄金の竜に包まれているようです」
降り注いだ黄金の粒子が俺たちに吸い込まれていき、力が高まっていくのを感じる。
「全員、ステータス画面を開いてみろ」
ルーナたちがステータス画面を開くのを見て、俺もそうする。
三竜を倒して得ていた称号が輝き、新たな称号が生まれる。
【神竜の騎士】。
その効果は、火・水(氷)・風(雷)の属性ダメージ25%カット。状態異常抵抗50%アップ。全ステータスに1.1倍の補正。
最上級アクセサリーすら上回る圧倒的な補正を装備枠なしで追加されるのは反則と言っていい。
属性ダメージ25%カットは数字以上に大きいのだ。
なにせ、三竜それぞれを倒したときの称号で、すでに火・水(氷)・風(雷)について25%カットを持っていた。つまり、俺たちは全属性攻撃が50%カット。ここにホワイトルビーのアクセサリーをつければなんと75%カットにもなる。つまり、属性ダメージ系の技はほとんど怖くなくなる。
状態異常耐性50%アップの強さは言うまでもない。
麻痺やスタンなどの状態異常は非常にやっかいで、それを半減にするだけで死亡率が一気に下がるし、アクセサリーと併せれば完全耐性にするのも容易。
そんな【神竜の騎士】だけでも、非常にありがたいがもう一つ大きなおまけがある。
「ユーヤ見て、ルーナのステータスがものすごく上がってる。防御力とか、魔力、知力とかがすごい」
「私もあがってるよ! 防御力とか体力。でも、筋力とか速さとかはあんまり上がってないよ」
「私のほうは筋力、魔力、速さ、知力がメインにあがっているわね」
「あれ、私はぜんぜん変わってません」
もう一つのおまけ。
それは【レベルリセット】と【ステータス上昇幅固定】の効果を適用させること。
具体的にはレベルリセットを行った際にもらえるスキルポイントと全ステータス上昇。そして、過去にさかのぼりレベル上昇時のステータスアップをすべて3として適用し、今後もすべて3あがる。むろん、マジックカスタムも使えるようになる。
だからこそ、ルーナたちのステータス上昇には個人差があり、俺とフィルには恩恵がなかった。
ぶっちゃけた話、ゲーム時代はたいしてありがたいと思わなかった。
なにせ、【三竜の祭壇】の推奨は【最後の試練】でレベル上限を突破、レベルリセット・ステータス上昇幅固定までやってから挑むこと。
だから、神竜を倒せるようなパーティだとほとんど意味がない。
せいぜい、やりこみ勢がレベルリセットをしてから育て直す手間を排除できるぐらいのメリットしかない。
しかし、俺たちにとってはありがたい。
……正直、ここからルーナ・ティル・セレネの三人をレベルリセットして、レベルを上げ直すのは辛いと思っていた。
ちなみに、俺がここを目指さず、【レベルリセット】をしたのは、あのときの俺には【レベルリセット】なしに【最後の試練】も【三竜の祭壇】もクリアできる気がまったくしていなかったからだ。
「んっ、うれしい。かなり打たれ強くなった」
「私もだよ。これで一発喰らったら終わりなんてことはないし、もう私達は最強だよね」
「魔力、知力が増えたのはありがたいわ。スキルや魔法の使える回数が増えたし、【回復】の回復量もあがったもの」
ここにいる三人は、なにか特別な力が働き、それぞれ主要なステータスでは常に3を引いていた。
だが、あくまで主要ステータスだけであり穴が多いステータスになっているのは否めない。
それが補われることでさらなる強さと対応力を手に入れている。
「全員、理論上最強のレベル50だ。まだ体を鍛える余地も技を磨く余地もあるし、装備を見直す必要もあるけどな」
ステータスやレベルの強化はもう無理だ。
ここから先はより良い装備を手に入れるか、【最後の試練】を突破してレベル上限幅を70にする。
あとはそれぞれが鍛錬をすること。
「それもいいけどさ、これ以上レベルが上がらないなら【最後の試練】に挑むしかないよね! ふふふっ、これで私たちも英雄だよ!」
「そうだな。だけど【最後の試練】のダンジョンがある島は三ヶ月に一度、満月の夜にしか浮かび上がらないんだ。次は二ヶ月ちょっと後だな」
そうでなければ、【三竜の祭壇】より先に行っていた。
なにせ、ここに比べれば【最後の試練】のほうがぬるい。
……ぬるいだけで、ここより更に長期戦になるのはそれはそれで辛いのだが。
「ええ、この勢いで行きたかったのに」
ティルはさきほどまで疲れて動きたくないと言っていたのに、ご褒美をもらって乗り気になっていたらしい。
「これからどうするか考えているんですか?」
「ああ、最強の装備を手に入れつつ、うまいものを集める旅だな。全員分の最強装備が揃うころ、ちょうど【最後の試練】がある島が浮かぶだろう」
「んっ、楽しそう!」
「美味しいご飯!」
「温泉とかがあると良いわね」
「……観光じゃないですよ」
半分は観光でもある。
世界を回るのだから楽しまないと損だ。
俺は微笑して、神竜のドロップアイテムを拾い上げる。
「今回のドロップは盛りだくさんですね」
「ああ、【神竜の宝玉】【神竜の牙】【神竜の爪】【神竜の翼】【神竜の鱗】【神竜の皮】。必ず一式ドロップするようになっているんだ。そのどれもが最強装備の材料になる。ただな、最高素材だけあって、脇を固めるのも普通の素材じゃだめで、相応のものがいる。そいつを探す旅だ」
ハイエンドに近い隠しボスだけあって、その素材一つひとつが最強装備になる。
問題は、組み合わせる材料が素材ランク指定ではなく、ユニークな名称指定なこと。
かなり骨が折れるがそれに見合う価値がある。
「がんばる! 美味しいもの食べて遊びながら!」
ルーナが尻尾をぶんぶんと揺らした。
「ああ、まずは帰ろうか。思いっきりうまい酒を飲んで肉汁したたるような汁気がある肉が食いたい気分だよ。少しでも荷物を減らすために干し肉ばっかだったからな。……それも日の光を浴びながらやりたい。今日の祝勝会、オープンテラスでエールと肉ってのはどうだ?」
「「「「賛成!!」」」」
今からダンジョンを出れば、まだ日は昇っている。
ずっと地下にこもり鬱屈した気分をジューシーな肉とエールで吹き飛ばして、今日の勝利を祝うとしよう。