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第十話:おっさんは神竜と決着をつける

 神竜フェルグラントとの戦いもいよいよクライマックスだ。

 目論見どおり、氷盾竜の首だけ残したことで立ち回りやすくなっている。

 しかし、防御力が向上しているのは厄介だ。

 長期戦の様相を見せている。


 もともと、何日もダンジョンで泊まって疲れがたまっている。ここに来る前には地獄のマラソンをした。非常に貴重な薬を使って体調を整えたとはいえ、ベストコンディションには程遠い。

 そんな中での長期戦は厳しい。

 それでもみんな良くやってくれている。


「セレネ、ここから【城壁】は使用禁止だ」

「ええ、わかったわ」


 守りの要である【城壁】ではあるが、クールタイムが長い。

 奴の切り札に備えるためには、温存しておく必要がある。

 乱戦であり、ダメージ計算がかなり雑になっているが、おそらくそろそろくるはずだ。


「きゅいっ!!」


 神竜の氷を纒った体当たり、それをエルリクの【スタンブレス】が止める。

 神竜とエルリクのサイズ差は大人と子供ほどある。だがエルリクの【スタンブレス】は発生確率こそ低いが、耐性無視で問答無用で止める非常に強力なスキル。

 数ある使い魔の中でも、あたりと言われる最大の理由がこれだ。


「んっ、エルリク。よくやった」


 そして、スタンで完全な隙を作れば、ルーナは確実に【アサシンエッジ】を叩き込む。

 クリティカル音が鳴り響く。

 もちろん、動いているのはルーナだけじゃない。

 俺やティルなどのアタッカー陣もだ。


「【バッシュ】!」

「【神雷】!」


 剣閃と雷、エルフ姉妹の矢が降り注ぎ、一気にダメージを稼ぐ。


「GYUOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNN!」


 悲鳴が響き渡る。

 ただの悲鳴じゃない。

 そこに怒りと殺意が交じっている。

 いよいよ来るか。


「全員、備えろ!」


 俺の叫びで、専用のフォーメーションを作る。

 奴の切り札に対抗するためだけに練習をしたもの。

 奴の体が黄金に輝く。

 そして、さらなる咆哮。


「くっ」


 次の咆哮はスキル、【神竜の咆哮】。

 おまけの効果だけでエルリクの【スタンブレス】の完全上位互換。

 効果範囲はさらに広がり、部屋の全域で回避不可能。

 全員が強制的に三秒、奪われる。

 しかし、それはおまけに過ぎない。奴の咆哮は竜を呼ぶ。


 信じられない光景が目の前に広がった。

 ゛四体゛の竜が目の前にいる。

 小さくなった黄金の竜を囲むように、炎帝竜、氷盾竜、雷轟竜、の揃い踏みだ。

 三首形態に戻ったのではなく、三竜召喚。


 これこそが奴の切り札。

 取り込んだ力を開放することで三竜たちを召喚する。首を落としたはずの炎と雷すらも体内に残った残骸から作り出してしまう。

 しかも呼び出された三竜たちは発狂状態。


 そして、それらは見掛け倒しじゃない。すべての竜が本来の力を持っている。

 これに比べたら三首状態のほうがまだマシ。

 もっとも巨大な氷盾竜が前にでて、小さくなった黄金竜を隠してしまい、その両隣には炎帝竜、雷轟竜。

 絶望的な光景だ。


 四体の竜が一斉に咆哮し、やっと俺たちのスタンが解ける。

 神竜だけじゃなく五人がかりでようやく勝てた竜が三体並び、しかも三竜はすべて発狂状態。まともにやって勝てるはずがない。

 あの三竜は神竜がいる限り無限に復活するおまけつき。

 やるべきことはただ一つ。

 神竜を倒す。

 今の奴は三竜の力を体外に排出したことで生命力はほとんどない。

 一撃いいのを当てれば倒せる。

 それはむろん、三竜をかいくぐればの話だが。

 初見では無理だろう。

 しかし、対策はある。なにせ、この四竜が最初に行う攻撃パターンは固定なのだから。

 その固定パターンに対応するフォーメーションが今の陣形、セレネを先頭、俺がその後ろ、両隣にフィルとティル、最後尾にルーナというように逆十字を描くようになっている。

 逆十字陣形。

 スタンが解けた。そして、このタイミングこそが奴らの攻撃開始タイミング。

 ……さあ、来る!


「【城壁】!」


 先頭のセレネが最硬のスキルを発動させる。

 さらに【プロテクト】で防御を強化。


 氷盾竜の後ろから黄金に輝く神竜が飛翔し、ブレスを放つ。

 放たれたブレスは、本来は三竜の力を複合させることのみによって放たれる、ありとあらゆる耐性を無視する神属性のブレスだった。


 横に避けたいところだが、それはできない。

 なにせ、俺たちから見て両側の床が白く光り、神竜までの道のように光が伸びている。

 これは雷轟竜の雷が降り注ぐ前兆。しかも発狂時の強化版だ。雷耐性装備なしに受ければ即死。

 だから、正面からくる黄金のブレスを受けるしか無く、神属性を受けるには純然たる防御力の高さが必要。


 レベル50で挑むのであれば、【城壁】のような強力なスキルが必須。

 それだけじゃない、炎帝竜が頭上から、これもまた発狂時のみに放たれる、温度が極限まで高まり、赤から青にさらには白く変わった超高温の炎、それも爆発型のものを連射してくる。


「私達の仕事だね」

「一発でも撃ち漏らしたら全滅ですよ」


 そう、相手は四体いる。順番に攻撃なんて温くない。

 雷で回避を封じられ、正面からは神属性のブレス、さらには上からは爆発する炎ブレスが降り注ぐという飽和攻撃。

 黄金のブレスが盾とぶつかり激しく光り、頭上で次々と炎のブレスが矢に当たると同時に爆発して轟音と衝撃。

 目も耳も塞がれてしまう。

 そんななかで俺は詠唱を始める。


「お姉ちゃん、もう、これ」

「できます。やりなさい」


 その状態ですら、フィルとティルは確実に炎ブレスを迎撃し、歯を食いしばりながらセレネは黄金のブレスを受けきってくれた。


 ようやく光が収まる。

 すると目の前には、氷山、いやそう表現するしかない三竜最大の巨躯を持つ氷盾竜がせまってきていた。

 黄金のブレスと炎の爆発を目隠しに突っ込んできていたのだ。

 超質量の突撃は躱すスペースはなく、【城壁】を使ったあとのセレネに受けることはできない。

 だから、俺の仕事だ。

 詠唱をしていた魔法は、中級火炎魔法【炎嵐】カスタム。

 吹き荒れる炎を、手のひらを覆うまでに超圧縮して威力を引き出した、俺の十八番。

 その名を……。


「【爆熱神掌】!」


 セレネの後ろから飛び出した俺は、奴の鼻先に極限の炎を叩き込む。

 止められないなら、止めない。

 奴の鼻先は弱点であり、炎属性で大ダメージを与えるとノックバックする。

 氷の突進と超炎熱がぶつかり、悲鳴と共に氷盾竜が後退する、それと同時に白く光っていた両サイドの床に雷が落ちてくる。


 もし、あのブレスや突進を横に躱していれば、雷の餌食だった。

 俺の肩に軽い衝撃、ルーナが俺の肩を踏み台にして跳び、氷盾竜の巨躯に飛び乗り、その上を駆け抜けていく。

 目指すのは、氷盾竜の巨躯に隠れた神竜。

 ルーナ以外四人の役割は竜たちの攻撃をしのぎ、道を作ること。

 これは最初で最後のチャンス。


 最初のみ行動パターンが固定だからこそ、四竜の同時攻撃に対応できた。

 だが、ここから先はランダムだ。

 いくら俺たちでも、パターンがわからない四竜の同時攻撃なんて防げるわけがない。

 尻尾をたなびかせて走るルーナを見つめる。

 四竜すべてが、大技を使ったゆえの硬直をしている。

 ルーナは氷盾竜の体を走りきり、跳ぶ。

 ルーナの構える短刀が神竜の放つ黄金の気を受けてきらめく。


「もらった」


 ルーナの空中突き、しかしぎりぎりで神竜の硬直が溶けて、羽ばたいて回避。


「っ、まだ!!」


 しかし、ルーナは空中を蹴り、追いすがる。

 ここで二段ジャンプが生きた。

 そして、その刃が……


「GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」


 突き刺さり、神竜が悲鳴をあげた。

 その一刀で神竜が青い粒子になっていき、それに呼応するように三竜の体が薄れていく。

 からんっと音がなる。

 ドロップアイテムが落ちた音。

 四竜がすべて消えた。


「……かてた?」


 半信半疑でルーナがつぶやく。


「ああ、勝てたな。神竜を凌駕した」

「……んっ。やった、やった!!」

「ついに勝ったよ! つっよ、馬鹿じゃないの!! 明らかに強すぎるよ! ユーヤ兄さんに聞いてたのより百倍強いよ!」

「えげつなかったわね。……さすがにもうこれ以上のボスはいないわよね」

「正直、これ以上となったらもう戦いたくないです」


 あまりにも強すぎて、セレネやフィルなどは喜びよりも安堵が勝っているようだ。

 全員、緊張の糸が切れてその場に座り込む。

 あのフィルですらそうだ。


「少し休んだらドロップアイテムを拾って帰ろう。……それに、そろそろだな」


 ゲームのときから難易度に相応しい報酬があった。

 この理不尽なまでに強い神竜を倒した報酬は破格。

 それはドロップアイテムがいいだけじゃない。

 アレが得られるのが楽しみで仕方なかった。


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