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第一話:おっさんは守護者に挑む

 三竜の祭壇で最初の関門である立体大迷路。

 そのゴールがようやく見えた。

 重く、巨大な鉄扉。そして、それを守る守護者ガーディアン。それは作られた命であるゴーレム。

 守護者は、侵入者が足を踏み入れない限りは無害。だから、その最奥の部屋を眺めているだけの俺たちには反応しない。


「ユーヤ、大きい」

「ふつーのゴーレムって三メートルぐらいだよね。でも、こいつ、もっとあるよね」


 お子様二人組が目を見開いている。

 守護者ガーディアンはでかい。

 そのサイズはおおよそ、五メートル。横幅も三メートル半はある。

 しっかりとした作りの2階建ての家がちょうどそのぐらいのサイズだ。そんな大質量が襲いかかってくるのは悪夢でしかない。


「ユーヤおじ様に聞いていた通りね。鉄でも、ミスリルでもない。あの輝き」

「間違いないですね。伝説金属オリハルコン。ミスリル以上の魔力親和性。アダマンタイト以上の硬さ。世界最強の金属です」

「全員、話した通りの戦術でいく。油断するなよ」


 この巨大な守護者の種族名は、オリハルコン・ゴーレム。

 ゴーレム種は、使用されている金属の格と強さが比例する。

 オリハルコン、世界最強の金属を使っているが故に、こいつは最強のゴーレム足り得る。

 全員で頷いて、最後の部屋に入るとオリハルコン・ゴーレムが起動、侵入者である俺たちの排除を開始する。

 フィルとティルの矢がやつを襲う。

 しかし……。


「……通りませんね。傷をつけるのがやっとです」

「これ、弱点属性とかないの!?」


 二人のステータスで放った矢ですら、ほとんどダメージを与えられない。

 物理攻撃はほとんど無効なのだ。

 物理攻撃が効かない場合、いつもならフィルの【魔力付与エンチャント】で、炎、水(氷)、風(雷)のいずれかに属性を切り替える。ほとんどの物理に強い魔物はなにか弱点が用意されており、属性を変えれば容易に崩せるからだ。

 しかし、こいつの場合物理以外の全属性が無効だ。

 物理はほとんど無効なだけまだマシといえる。

 最強の守りを持ち、ゴーレム種特有の莫大な体力、それがさらにボス補正まで受けているのだからやっていられない。


「セレネ、ルーナ、手はず通りにいくぞ」

「ええ、任せて」

「んっ、全部避ける」


 俺たちは散開する。

 いつもであれば、壁役のセレネが先行して、その後ろに隠れるように動く。

 しかし、今回は三人でバラけて包囲する。

 理由は簡単、あまりにもパワーが有りすぎて受けが成立しない。壁を使う戦術が実質的に不可能。

 俺めがけて、蹴りが飛んでくる。

 でかいということはリーチが長く、攻撃範囲が広いということ。

 想像してほしい、一メートル以上の幅をもった鉄塊が瞬間時速100kmで迫り来る姿を。


 せめてもの救いは初動が大きく、モーションを読みやすいこと。

 ぎりぎりで躱して伸びきった足首を狙う。

 わずかに一筋、傷がついた。

 そのまま無茶をせずに、奴の死角に回る。

 ゴーレムが感情のない金属の単眼を俺に向ける。

 そこに何本かの矢が襲来し、傷をつける。


「うわぁ、当たったけど結構難しいよ。これ」

「無駄口はやめなさい」


 フィルとティルの仕事は目を潰すことだ。

 奴の瞳もオリハルコン製。ゆえに砕くなんて真似はできない。

 しかし、傷はつけられる。

 あれはカメラの役割を果たしている。つまるところ、レンズに傷を入れて視界を塞ぐだけで十分。


 ゴーレムは両手をルーナに向けた。両指を突き出す独特のポーズ。

 そのパターンを予習していたルーナは俺が忠告する前に、全力で前へと跳んでいた。

 その数秒後に、指がオリハルコンの散弾となりルーナがいたあたりを蹂躙し尽くす。

 指関節×指数、合計二十八発の弾丸が音速を超える速度でランダムに前方に散らばる。

 散らばるというのが厄介で、普通の躱し方なら運任せになる。


 しかし、奴のでかさから必然的に攻撃に角度ができる。つまり、足元に近づけばいい。それだけが確実に回避できる方法だ。

 ルーナはそのまま足元で、さきほど俺が狙った足首を何度も斬りつける。

 散弾を放ったあとの硬直が解けるのを見て、後ろに飛び、足元への攻撃を回避。その隙に今度は、セレネがスパイクを同じポイントに突き立てた。


 ……俺たちの戦術はシンプル。 

 後衛たちが目を潰して攻撃の精度を落としつつ、前衛組はやつを囲むようにして奴の死角から攻撃を加えられるものがひたすら足首だけを狙う。

 こいつの場合、防御力が高すぎてこちらの最大火力をぶつけたところでろくに損傷はない。

 確実に躱し、着実に当てていく。

 ひたすら根比べだ。


「ユーヤ、攻撃は見えてるし、回避が追いつく。なんとかなりそう」

「そうね。集中力が持てばだけど」

「……あのグールたち倒しといてよかったね。こいつの相手しながらとか無理だよ」

「ですね。でも、こいつだけなら倒せます」


 頼もしい仲間たちの声。

 今はまだいい。問題は、地獄のような長期戦で最後までその調子が続けられるかだ。


 ◇


 戦いが始まって三時間が経った。

 全員の疲労がそろそろ限界に近い。

 無理もない、いくら大ぶりでわかりやすい攻撃とはいえ、でかいが故に射程は長く攻撃範囲は広い、パワーがあるが故に速い、威力は一発で致命傷を受けるほど。

 そんな化物と三時間も戦い続けている。


 それだけじゃなく、徒労感が凄まじいのだ。

 無機物であるがゆえに、ゴーレムは疲れも痛みも見せない。

 足首を狙い続けているが、ダメージを与えているようにはまるで見えず、終わりがまったく見えない。

 ……それがこういうぎりぎりの戦いではそういうのが”くる”。不安や焦燥は疲れを何倍にもする。

 だから……。


「あと少しだ! 後少しで勝てる!」


 希望があると声で告げる。

 見た目にダメージはなくても仕込みは十分。着実に勝利に近づいている。


「んっ、がんばる」

「ええ、まだやれる」

「ううう、また目の傷回復されたよぅ」

「なら、また傷をつければいいだけです」

「きゅいっ!」


 俺の声で、少しだけ元気が戻った。

 こういうのもリーダーの役割だ。

 それからさらに十分後、異変が起こった。

 オリハルコン・ゴーレムが足を踏み出そうとしたが、もつれた。


 ……やっとか。

 その隙を見逃さず、俺は距離を詰めて渾身の一撃を放つ。

 三時間以上、ひたすら執拗に足首に与え続けたダメージがついに実を結ぶ。

 右足首が砕けて転倒。

 これでもう、やつは満足に動けない。

 そして、狙いは何も動きを封じるだけではない。

 奴の砕けた右足首はその断面を晒していた。

 実のところ、奴は身体すべてがオリハルコンというわけじゃない。ほとんどがオリハルコンではあるが、制御命令を伝達するための回路が身体に張り巡らされている。

 むろん、それを狙うことは通常状態では不可能。

 しかし、こうして露出してくれれば話は別だ。


「ティル、フィル!」

「任せて。ふふふ、手こずらせてくれたね。【雷矢】!」

「【魔力付与:風(雷)】」


 初級雷撃魔法、【雷矢】の電撃が露出した足首断面、つまりは制御回路に流れ込む。


「グオオオオオオオオオオオオオオオ」


 初めてゴーレムが吠える。 

 強力な電流が、制御回路を伝い全身を蹂躙する。

 最強の守りであるオリハルコンを纏うゴーレム。しかし、その中身は極めて脆弱だ。

 こいつを倒す、もっとも手早い方法がこれだ。

 弱い一点を砕き、内側から焼き尽くす。

 フィルの魔力付与で雷属性を得た俺たちもあとに続き、砕けた足首から電撃を流し込む。

 奴はこちらの攻撃を躱そうとするが、足首を砕かれろくに動けない状態ではそれもかなわない。


 足首を壊すのに三時間以上かけたオリハルコン・ゴーレムがたかが数分で沈黙する。

 青い粒子になって、ようやく守護者が消滅した。

 奥の鉄扉が地響きを立てて光る。

 これで、あの扉は押せば開くようになった。


「疲れた。もう動けない」

「さすがに参ったわね」

「あの大迷路の終わりがこれって嫌がらせ以外のなにものでもないよ!」

「はい、絶対わざとですよね」

「ああ、そうだ。この大迷路のコンセプトがひたすら疲れさせることだからな」


 苦笑する。

 地獄のように体力と精神力をすり減らす大迷路を超えたあとに、超長期戦のオリハルコン・ゴーレム。

 オリハルコン・ゴーレムは攻撃は単調で対処事態はさほど難しくない。しかし、超威力で一発当たればおしまい。何時間も一発もらえばおしまいの戦いをさせられるのは、大迷路と同じく地獄のように体力と精神力をすり減らす。

 ……はっきり言って殺意しかわかない。


「ただ、入ってくる前にも言っただろう。難易度に見合う報酬はあると。奴のドロップアイテムを見てみろ。……確定でオリハルコンを超えたオリハルコンγが手に入る」

「ユーヤ兄さん、ねえねえこれって、めちゃくちゃ防御力高くて、ほとんどの属性シャットアウトする奴だよね! めちゃくちゃ強い装備にできるじゃん!」

「ああ、ここでしか手に入らない類の超希少鉱石だ」


 オリハルコンを超えた、オリハルコンγ。

 このためだけにでもここに来た価値がある。

 ゲーム時代は、オリハルコンγを複数手に入れるためにマラソンをしたことがあるが、俺はここまで辛いマラソンを他に知らない。


「ユーヤ、次いこっ」

「いや、今日はここまでだな。ここで夜を明かそう。幸い、この部屋に入ってくるのはグールだけだ。ちゃんとグール掃除をしていれば数少ないセーフポイントになる。それに、全員が疲れ切っている状態で進めば死ぬ」


 俺の言葉にみんながうなずく。

 今は勝利の喜びと興奮で麻痺しているが、みんなはぼろぼろだ。

 無理はできない。


「フィル、できるだけうまいものを作ってくれ。疲れが吹き飛ぶようなものをな」

「はい、がんばります!」


 これで今日の探索は終わりだ。

 このダンジョンは高い難易度だけでなく、数日かけての長いダンジョンであるということも踏破を難しくしている。

 ここを踏破するには、翌日に疲れを残さないように身体を休める。

 それもまた、非常に重要な要素だ。

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