女子力が高い気がする
ルナさんに案内されて家の中に入り、廊下を少し歩くとリビングらしき場所に辿り着いた。
「おかえりなさい、ルーちゃん。あら? あらあら……ミヤマさん?」
「こんにちは、ノアさん。突然お邪魔してすみません」
リビングにはノアさんの姿があり、俺の姿を見て少し驚いたような表情を浮かべた。
「えぇ、こんにちは、ようこそいらっしゃいました。ですが……申し訳ありません、少し席を外させていただきますね」
「え? あ、はい」
「お母さん?」
ノアさんは上品な微笑みを浮かべて挨拶を返してくれたあと、なにやらそそくさとリビングから出て行ってしまった。
その様子を疑問に感じたのは俺だけでなく、ルナさんも不思議そうな表情で首をかしげている。
「……どうしたんでしょう? いえ、まぁ、いまは気にしないことにしましょう。どうぞ、ミヤマ様、おかけください」
「えっと、はい……では、失礼します」
ノアさんの行動に怪訝そうな表情を浮かべつつも、ルナさんは俺を招いた目的を果たすため、俺を席に座らせてキッチンに向かった。
キッチンはリビングから見える位置にあり、俺の座っている席からもテキパキを用意をするルナさんの姿を見ることができた。
なんというか、こうして見ると……ルナさんもすごい美人だよなぁ。メイドとして培ったであろう無駄のない動きは、家事にもいかんなく発揮されており、家事も完璧にこなせる大人の女性って印象すら受ける。
まぁ、だいたい喋ると台無しになるんだけど……。
「お待たせしました。どうぞ、少し熱いのでお気を付けください」
「ありがとうございます。いただきます」
少ししてルナさんは木のコップに入ったホットミルクと、いくつかのお菓子を俺の前に並べてくれた。そしてプライベートだからか、屋敷の時とは違って立って待機したりせず俺の対面の席に座る。
お礼を言ってからホットミルクを口に運ぶと、少し砂糖を入れてあるのか甘くて心地よい味が口の中に広がってくる。
「ルナさんの腕がいいんですかね? くどくないちょうどいい甘さで、凄く美味しいです」
「そう言っていただけると、光栄です」
俺の感想を聞いて満足げに微笑んだあと、ルナさんは自分用に用意したホットミルクを飲み始める。そしてそのまましばらくの間、俺とルナさんは他愛のない雑談を交わす。
プライベートだからか、ルナさんも普段よりリラックスしている感じて、結構いい感じに話は弾んでいく。
互いに笑顔が多くなってきたとそう感じたタイミングで、リビングの扉が開かれ、ノアさんが戻ってきた。
「お待たせしました。申し訳ありません、ミヤマさん。ロクな挨拶もせずに席を外してしまって」
「あっ、いえ、お気になさらず……って、あれ?」
「お母さん!? なにしてるんですか!! というか、なにしてきたんですか!?」
戻ってきたノアさんは、先ほどみた普段着っぽいワンピースではなく、上品なドレスに身を包んでおり、ルナさんが慌てた様子で椅子から立ち上がって詰め寄る。
するとノアさんは、頬を少し赤く染め両手を頬に添えながら口を開いた。
「だって、ほら、ルーちゃんが急にミヤマさんを連れてくるから……お母さん、部屋着でしたし、お化粧もちゃんとしていませんでしたし、下着もあまりいいデザインじゃなかったですし……とても、ミヤマさまにお会いできる姿じゃないと、少しだけ支度をしてきました」
「なに完全に臨戦態勢になってるんですか!? って、その髪……お風呂にも入りましたね? その上、香水まで……」
「やっぱり、お母さんも女ですから……素敵な男性とお会いするときは、身だしなみには気を使いたいんですよ」
「どんどん色目が露骨になってるじゃないですか!? いい加減にしてください! 毎度毎度、私もそろそろリリみたいに胃痛になりますよ!?」
女性の色気満載で現れたノアさんに対し、ルナさんは必至の形相で叫ぶ。なんというか、うん……自然に胃痛の代名詞として出されるリリアさんの名前には、突っ込まない方がいいだろう。原因代表的に考えて……。
「あら? そ、そう、そういうことなんですね。ごめんなさい、ルーちゃん、お母さんの考えが足りませんでした」
「……わ、分かってくれましたか」
「ルーちゃん、お母さんに『やきもち』妬いてしまったんですね。そうですよね、折角ルーちゃんが勇気を出してミヤマさんをおうちに誘ったのに、お母さんが居ると恥ずかしくてアプローチ出来ないんですね」
「全然! なにひとつ! 分かってないじゃないですかぁぁぁぁ!!」
あのルナさんが完全に手玉に取られているというか、思いっきり振り回されてる。流石のノアさんである。
ルナさんは頭を抱えるようにして叫んだあと、チラリと俺の方に視線を向け、口を開いた。
「ミヤマ様、二階に上がって突き当りの部屋……私の部屋に行ってください。私はお母さんに話をつけてから行きます。というか、お願いなので移動してください。ミヤマ様にこの場に居られると、私の精神が酷いことになりそうです」
「……わ、わかりました」
「ルーちゃん……そ、そうなんですか……もう、『大人の階段』を上るつもりなんですね」
「だから! いい加減そっちの方向から離れてください!!」
親子喧嘩? うん、ある意味では親子喧嘩と言えなくもない状況から、そっと抜け出し、ルナさんに言われた通り二階に移動する。
そして突き当りの部屋……ルナさんの私室のドアをゆっくり開けて中に入った。
すると俺の目に飛び込んできたのは……なんというか『女子力の高い』部屋だった。
枕元にぬいぐるみの並んだベッド、可愛らしい花柄のカーテン、色とりどりの瓶詰マシュマロが並んでいる棚、綺麗に整頓されているがところどころに可愛いデザインの小物が置いてある机……いかにも女の子らしい部屋という感じで、思わず唖然としてしまった。
拝啓、母さん、父さん――よくよく考えてみれば、ルナさんって……髪型とかもお洒落だし、家事も抜群、当主付きのメイドになれるぐらい優秀、可愛らしいものや甘いものが好きと、かなり――女子力が高い気がする。
シリアス先輩「……シリアスはよ、はよ」
???「懲りないっすねぇ」