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伯爵級高位魔族だった



 火の二月一日目、六王祭が終わり暦の上でも半年が過ぎた。ちなみに、この世界の暦は火の月、水の月、木の月、土の月、風の月という順番で過ぎていき、光の月のあとに再度火の月から風の月を繰り返して天の月となる。

 一年で火から風の月は二度巡ってくることになるので、区別のために後半の月に関しては『二月』という言い方をするらしい。


 まぁ、それはそれとして、今日は六王祭の疲れもあるので俺としてはのんびりと過ごしたいという考えになるのだが……なんというか、この世界の方々は本当に元気である。

 そんなことを考えつつ、背もたれになってくれているベルの頭を撫で、訓練に精を出しているリリアさんたちを眺める。


 訓練に参加しているのは、リリアさん、ルナさん、ジークさん、それにアニマとイータとシータだ。葵ちゃんと陽菜ちゃんは、俺と同じように六王祭の疲れがあるのか、今日は訓練には参加せず、ふたりで街に出かけて行った。

 俺も誘われたのだが、ベルのブラッシングをしたかったので断って、それが終わったあとに訓練を見学しに来ていた。


 なんとなく訓練に参加している全員が、普段より気合が入っているように見えるのは、俺の気のせいではないだろう。

 するとちょうどそのタイミングで、リリアさんが剣を止めて汗をぬぐう。そして俺に気付いたみたいで、こちらの方に向かって歩いてきたので声をかける。


「リリアさん、お疲れ様です」

「ありがとうございます」

「なんだか、すごく気合入ってる感じでしたね」

「……そうですね。初代勇者様との一件に六王祭でのアグニ様への挑戦……力不足を感じる機会が多かったからでしょうね」


 なるほど……たぶんアニマもイプシロンさんとの再戦に向けて気合を入れているんだろうし、ルナさんやジークさん、イータとシータもリリアさんと同じく、六王祭でアグニさんにハンデありで完封されたことで、訓練に熱が入っているのかもしれない。

 

「さて、それではもうひと頑張りしてきます」

「え? もうですか? まだ全然休んでないんじゃ……」

「私は仕事もあるので、あまり訓練に多くの時間は割けませんから、頑張れるときに頑張っておきたいんですよ」

「そ、そうですか……じゃあ、せめてこのドリンクを……」

「いや、だから、そんな水と同じような感覚で、世界樹の果実のドリンクを取り出さないでください。飲みませんからね」


 少し話しただけで訓練に戻るというリリアさんに、せめて疲労回復をしてもらおうと世界樹の果実のドリンクを取り出したが、断られてしまった。

 リリアさんはそのまま苦笑を浮かべ「お気持ちだけ受け取っておきます」といって、訓練に戻っていった。


 う~ん、皆頑張っているみたいだし、俺もなにか力になりたいところだけど……戦闘方面はからっきしだしなぁ。


「どうしました~? 難しい顔をしてぇ?」

「……イルネスさん?」

「こんにちは~洗濯の帰りに通りかかったらぁ、なにやら考えているみたいでしたので~」

「あ、いえ……リリアさんたちが訓練を頑張ってるので、なにか力になれたらなぁって」


 偶然近くを通りがかり声をかけてくれたイルネスさんに、先ほど考えていたことを告げる。するとイルネスさんは、訓練をしているリリアさんたちをチラリと見たあとで、頷いて口を開く。


「……なるほど~『伸び悩んでる』みたいですしねぇ。焦っているのかもしれませんねぇ~。訓練方法が~間違っているともぉ、いえますが~」

「え? そ、そうなんですか?」

「ええ~特に~お嬢様とぉ、アニマはぁ、大きめの壁に当たってますね~。大きく成長するチャンスでもありますけどぉ」


 俺にはまったく分からなかったが、イルネスさんは確信を持った様子で告げる。リリアさんとアニマが壁に当たっている? 大きめのチャンス?

 俺が混乱していると、イルネスさんはそっと手を伸ばして俺の頭を少し撫でるという行動をとったあと、ゆっくりした足取りでリリアさんたちの方へ近づいていく。


 そして少し距離を開けたところで、パンッと手を叩き、リリアさんたちが訓練の手を止めたのを見計らって口を開いた。


「すこし聞いてください~。カイト様の~お願いでぇ、少しだけぇ、アドバイスをしますぅ」

「イルネス?」


 イルネスさんの言葉を聞いて、リリアさんは不思議そうに首をかしげる。


「まず~お嬢様ぁ、身体能力や~技術ではなく~魔力運用を鍛えるのをお勧めしますよぉ」

「へ? え、えっと……はい?」

「次にぃ、アニマは~技術を磨いてください~。ジークリンデは~術式の平行発動を中心にするといいですよぉ。ルナマリアは~相手との距離感に注意してくださいねぇ。イータとぉ、シータはぁ、基礎が不足していますねぇ」

「「「「「……」」」」」

「以上ですぅ。なにか~質問はぁ、ありますかぁ?」


 いつも通りの様子でアドバイスを告げるイルネスさんを、リリアさんたちは思考が追い付いていないのか唖然とした様子で見ていた。

 そんな中で一番早く混乱から立ち直ったアニマが、片手をあげた。


「はい~なんですかぁ?」

「イルネス殿、ソレを行えば……自分はいまより強くなれるのですか?」


 ちなみにアニマも、イルネスさんには手紙の書き方を教わったりとお世話になっているので、彼女に対してはしっかりと敬語を使う。


「そうですねぇ、少し~試してみますか~?」

「試す、とは?」

「私に~攻撃してみてください~。私は~『魔力を一切使いません』のでぇ~全力でぇ、攻撃してみてください~」

「は? い、いえ、しかし、それでは……」


 アニマの戸惑いもよく分かる。魔力を一切使わないということは、身体強化も障壁も一切使わないということ……そんな状態で子爵級高位魔族に匹敵するアニマの攻撃を受けるのは、いくらなんでも無茶だ。


「強くなりたいのでしたらぁ、迷わず攻撃してみてください~そこにぃ、答えがあるかもしれませんよぉ?」

「……わ、分かりました」


 一切の迷いなく告げるイルネスさんの言葉を聞いて、アニマは覚悟を決めたように頷いて拳を引いて構える。

 リリアさんたちも心配そうな表情で見守る中、構えひとつ取らないイルネスさんに向かってアニマが駆け……全力で拳を叩き込ん……。


「……え?」


 なにが起こったのか分からなかった。気が付いた時には、殴りかかったはずのアニマが、地面に仰向けに倒れて驚愕の表情を浮かべていた。


「怪我は~しないように投げましたがぁ、大丈夫ですかぁ?」

「は、はい」

「イルネス!? い、いま、なにをしたんですか? 私には、アニマさんがイルネスに触れられた瞬間、回転していたようにしか……」


 投げた? 触れられた瞬間回転した? も、もしかして、イルネスさんが使ったのは……合気道なんだろうか?


「アニマが自分から飛ぶようにぃ、力の加え方を~調整しただけですよぉ」

「は? え、えっと……」

「まぁ~そういう技術もあるということですよぉ」


 やっぱりそれっぽい感じがする。もちろん世界が違うので合気道とは呼ばないだろうが、同じような技術なのかもしれない。

 というか、イルネスさん……強っ!? 本当に魔力を使わずに簡単にアニマの攻撃を捌いてしまった。


「とりあえず~そちらの詳細はぁ、のちほどにしましょう~。アニマぁ」

「は、はい!」

「貴女の身体能力は~伯爵級高位魔族にも~十分通用しますぅ。ですが~貴女はぁ、攻撃パターンがとても単純になってしまっていますぅ。貴方~負けパターンはぁ、攻撃を当てられないまま~捌き切られてしまう形でしょうねぇ」

「ッ!?」


 イルネスさんの言葉を聞き、頭に思い浮かんだのは六王祭での戦い。果敢に攻めるも、すべての攻撃をイプシロンさんに捌かれてしまうアニマの姿。


「貴女が~私のような技術をぉ、身に着ける必要はありません。広く浅く~技術を学ぶといいですよぉ。攻撃を当てるための技術を学べば~攻撃を避ける技術も~身に付きますぅ。防御の術を学べば~防御の崩し方がぁ、分かってきますぅ。そうすれば~貴女の攻撃力もぉ、十二分に生きてくるでしょう~」

「は、はい! 肝に銘じます!」


 イルネスさんのアドバイスを聞いたアニマは、慌てて立ち上がって敬礼をする。それを見てイルネスさんは、にた~っと満足げに笑みを浮かべて頷いた。

 すると、驚いた表情のままだったリリアさんが、少し慌てた様子でイルネスさんに話しかけ……。


「……イ、イルネス。貴女、こ、こんなに強かったんですか?」

「まぁ~私はこれでもぉ、『伯爵級高位魔族』ですしぃ。ある程度は~」

「な、なるほど伯爵級高位魔族……伯爵級……伯爵……え? えぇぇぇぇ!?」


 アッサリと告げられたイルネスさんの言葉を聞いて、絶叫した。


 拝啓、母さん、父さん――リリアさんの絶叫はもっともだろう。というか、俺も叫びそうだった。アニマを簡単に倒したので強いだろうとは思っていたが、イルネスさんは――伯爵級高位魔族だった。





???「凄くいい話と、ちょっといい話と、悪い話がある」

シリアス先輩「ちょっといい話? とりあえず、悪い話から聞こう」

???「書籍版三巻に店舗特典SSはない」

シリアス先輩「なんでや! そこは頑張らんとあかんやろう作者!! ……で、ちょっといい話は?」

???「カバー裏のシリアス先輩のSSはある」

シリアス先輩「よし! 来た、私の時代!! って、え? それがちょっといい話? じゃあ、すごくいい話は?」

???「……コミカライズ企画が進行中だ」

シリアス先輩「……ゑ?」

???「コミカライズ企画が進行中だ」

シリアス先輩「な、なんだってぇぇぇぇぇ!?」

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