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告白された

 なにか良い香りがして閉じていた瞼をゆっくりと開けると、携帯コンロのような魔法具で紅茶を淹れているジークさんの姿が目に映った。

 まだ少し寝ぼけている頭を軽く振りつつ体を起こすと、ジークさんがこちらに気付き微笑みを浮かべる。


「おはようございます。カイトさん」

「おはようございます……あの、俺どのぐらい寝てました?」

「二時間ぐらいですね」

「そ、そんなに……途中で起こしてくれても良かったんですが」

「気持ち良さそうに寝ていたので……ちょっと待ってください、今お茶を……」


 どうやら思っていたより長く寝ていたみたいで、少し申し訳ない気持ちを感じながら、ジークさんが差し出してくれた紅茶を受け取る。

 寝起きの体に暖かい紅茶の味が染み込んでいき、ゆっくりと目が覚めていく。


「カイトさん、これも」

「……これは?」

「フルーツスティックと言って、エルフ族に人気のあるお菓子ですよ」


 ジークさんが用意してくれたのは、掌ぐらいの大きさの細長いお菓子……見た目は春巻きっぽい。

 フルーツスティック……そう言えば、アリスがお土産に買ってくれとか言ってたっけ? 成程、リグフォレシアの名菓って所かな?


 一つ手に取って食べてみると、もちもちとした皮の中にジャムが入っているらしく、果実の自然な甘さと柔らかい歯ごたえがとても美味しい。

 ジャムパンと言う程パンって感じではないし、スコーン程固くもない。ジャムには大きめに切られた果実も一緒に入っており、時々変化する食感が素晴らしい一品だ。


「……凄く美味しいですね。俺、これ結構好きです」

「気に入っていただけたなら、私も嬉しいです」

「なんとなくですけど、初めてジークさんと出かけた時に買ったジャムクッキーを思い出しました」

「あそこのお店は、リグフォレシアから果物を仕入れていますからね」


 ジークさんと軽く雑談を交わしつつ、美味しい紅茶とフルーツスティックを頂く。

 昼食後に二時間寝たという事は、丁度ティータイムくらいだし時間的にも丁度いい感じだ。


「ただカイトさん、実は少しだけ違います……私がカイトさんの護衛として初めてついていったのは、あの日ではありません」

「え? そうなんですか?」

「ええ、カイトさんは気付いていなかったかもしれませんが……実は私は、カイトさんがこの世界に来た初日から、貴方の護衛についていました。まぁ、今は幻王様がいらっしゃるので任は解かれてますけどね」


 俺の印象ではジークさんと初めて会ったのは一緒に買い物に出かけた時だったが、実は俺が気付かなかっただけでずっとジークさんは俺が外出する際には離れて護衛をしてくれていたらしい。

 成程、だからイータとシータに襲撃を受けた時、真っ先にジークさんが現れてくれたのか……


「それは、気付きませんでした。ずっと前から、ジークさんにはお世話になっていたんですね」

「……初日でカイトさんを見失った駄目な護衛ですけどね」

「いえ、そんな……えっと、改めてありがとうございます」

「……お礼を言うのは、私の方ですよ」

「……え?」


 俺の知らない所でずっと俺を守っていてくれた。その事実にお礼の言葉を告げると、ジークさんはゆっくりと首を横に振り、碧色の瞳で俺を見つめる。


「カイトさんの事は、初め平凡でどこか頼り無い人だと思っていました……状況に流されて、確たる意思を持てぬまま戸惑っている。そんなどこにでもいる人だと思っていました」

「あはは、実際その通りだと思いますよ」

「いえ、その印象は私の目が曇っていただけでした。貴方は私なんかより、ずっと強くて立派な人でした」

「い、いや、そんな大層な存在では……」


 穏やかな口調で絶賛ともとれる言葉を投げかけてくるジークさんに、俺は気恥ずかしくなって頭をかきながら返答するが、ジークさんは迷いの無い目で俺を見つめている。

 伝わってくる感情は、親愛? 尊敬? ともかく、とても好意的で強いもの……


「……私は、カイトさんをずっと見ていました。見知らぬ世界に何の準備も無く来て、周りは己よりも強者ばかり、そして多くは自分に好意的では無い……それがどれだけ不安だったか、どれだけの重圧だったか、私には押し図る事すら出来ません」

「……俺は、人に恵まれましたから……」


 確かにジークさんの言うように、なんだかんだ元気に振舞ってはいても、初めは凄く不安だった。

 己の常識が通用しない世界、見ず知らずの人達に頼るしかない状況……不安に感じない訳が無い。

 だけど、俺は運よく縁に……巡り合う人達に恵まれた。そのおかげで、今は本当に楽しく過ごせている。


「縁に恵まれる事、それも立派な才能だと思います。ですが、なによりカイトさんの人柄があったからこそ、貴方の周りには多くの人が集まって来たんだと思います」

「……ジークさん」

「力強く真っ直ぐで、なによりも誰かの事を考えられる優しく強い人……そんな貴方に、私は沢山の勇気を貰いました」

「……勇気、ですか?」


 穏やかながらしっかりと芯のある声……コレはたぶん、ジークさんにとってとても大事な話なんだと思う。

 それを感じたからこそ、俺も真剣な表情で真っ直ぐにジークさんを見つめて言葉を返す。


「はい……現状を変えたいと思いながらも、悪い方に向かってしまう事が怖く動けないままでいた私にとって、貴方はとても眩しい存在でした……そしてカイトさんは、私が何年かけても変えられなかったものを、いとも簡単に変えてしまった」

「……」

「リリとの関係、リリの心にある罪悪感、そして失っていた私の声……カイトさんは、沢山の奇跡を起こしてくれました。私が欲しかったもの、かつて壊れてしまったものを……一つ一つ拾って、私の前に差し出してくれました」

「……俺は、そんなに大層な事をしたつもりはありませんよ? もしジークさんにとって良い変化があったのなら、それは俺の力では無くジークさんの力だと思います」


 リリアさんとジークさんの関係が修復されたのは、二人が互いの事をしっかり想い合っていたからこそで……俺はほんの少しのきっかけになっただけだと思う。

 リリアさんの心の罪悪感が緩んだのも、リリアさん自身が強い心を持って、しっかりと前を見つめたから。

 そしてジークさんの声が戻ったのも、元を辿れはリリウッドさんのお陰……勿論少しぐらい手助けはできたかもしれないが、なによりもジークさん自身の力が大きいと思う。


 そんな風に言葉を返すと、ジークさんは俺がそう答えるのを分かっていたという感じで、優しく微笑みを浮かべる。


「ええ、カイトさんならそういうと思っていました。そんな優しい貴方だから、私は……」

「……ジークさん?」

「……例え、貴方がそう思っていたとしても、私の中にあるカイトさんへの感謝の思いは、言い表せるようなものではありません。改めて、本当にありがとうございました」

「あ、い、いえ、ど、どういたしまして?」


 ジークさんはそう言って深く頭を下げてお礼の言葉を告げた後、顔を上げ再び真っ直ぐに俺の目を見つめながら口を開く。


「……カイトさんは、私にとって太陽みたいな人です。眩しくて大きくて、それでいてとても暖かく力強い導き……そんな素敵な貴方を……」

「……じ、ジークさん?」

「……私は弱いエルフです。今までずっと勇気が出ませんでした。でもようやく、この抱き続けてきた想いを伝える勇気が出ました。私は、これから先も貴方を見ていたい。もっと今までより近くで……」

「……」


 なん、だろう? 胸が物凄く高鳴る。真剣な声で告げられる言葉の一つ一つが、やけに大きく鮮明に響いてくる。

 それに戸惑いながらもジークさんから目を外せない、いや、外してはいけない気がする。

 そしてジークさんは少し沈黙した後、とても強い想いと共にその言葉を口にした。


「……カイトさん、貴方が好きです。一人の異性として……」

「ッ!?」


 万感の想いを込めて告げられたその言葉に、完全に俺の思考は硬直した。


 拝啓、母さん、父さん――全く予想外……という訳ではない。ジークさんから好意的な感情を向けられていたのには気付いていた。だけどそれは親愛に近いものだと……勝手に思い込んでいた。だけどそんな俺の考えは間違っていて、今日、俺は、ジークさんに――告白された。





200話ジャストで告白、一話丸々告白話、出会いから今までを思い返しながら告白と言うシチュエーション……なんてヒロイン力。


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