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第1話 野生のラスボスが現れた(挿絵あり)

皆様始めまして。M87光線と申します。

もしよければ、暇潰しにでも見てやって下さい。

 誰もが、動けなかった。

 玉座の王も兵士達も宮廷魔術師も。

 200年以上の時を生きる王の相談役も。

 誰もがその姿に呑まれ、惹かれ、そして恐れた。


 なびく髪はまるでグラデーションでもかけたかのような朱色混じりの黄金。

 全てを見渡す双眼は炎のような朱。

 穢れのない白い肌に、その身を包む純白のドレスと真紅の外套。

 その美貌は見ただけで、その完成度の差に惨めさすら感じる程に美しく、均整の取れた身体は非の打ち所がない。

 ――そして外套より覗くは天翼族の証たる、されど一族の禁忌とされる漆黒の大翼。


 まるで真の王の帰還に恐れ戦くように人々は頭を垂れる。

 顔を上げる事が出来ない。前を向く事が出来ない。

 膝は震え、臣下の礼を取るかのように地面に吸い付く。

 ただそこにいるだけで場を支配し、人々が平伏すその様はまさに王。

 疑いの余地を挟む事も出来ない覇者の貫禄にして、支配者の出で立ち。


 その渦中。

 城の全てに頭を垂れさせ、一挙動もなく場を制圧した少女は静かに微笑み、そして考えた。




(やばい、知らない人達が何か俺に頭下げてる。

なにこれ、ドッキリ? 俺にどうしろと?

一体何がどうしてこうなった? 誰か助けてくれ)




 ――他でもない彼女自身が、他の誰よりも混乱していた。




 俺が何故こんな事になっているのか。

 まずはそれを、順を追って説明しなければならないだろう。

 だが説明前に一つ言っておくべき事がある。

 ――俺は男だ。

 至って健全な一般男子だ。その事を前提に入れてから話を聞いて頂きたい。


 まずは……そうだな。

 俺はいつも通りゲームをしていたんだ。

 『エクスゲート・オンライン』。

 2027年より稼動を始めたオンラインゲームで、今年で稼動6年目になる。

 元々は異世界ミズガルズを舞台とした王道的な剣と魔法の家庭用RPGをTRPGにしたものを更にオンラインゲームにした物らしいが、あいにく元のゲームはゲーム機本体を持っていないので俺はやっていない。

 ……いや、うん、買おうとは思ったんだよ。ドリームステーション(通称ドリステ)ってゲーム機でさ。

 でもドリステって20年も前のゲーム機だからさ、なかなか見付からないんだわ。

 中古ゲームショップは近所にないし。

 まあ、とりあえずあれだ。変に捻りがない分、初心者にとっつき易い設定ではあった。

 人々は主に剣や魔法で戦い、魔物がいてエルフがいて妖精がいて、そして多種多様な種族が蔓延る。

 な? よく聞く設定だろ? 王道ってのは何だかんだで何年経っても親しまれるもんだ。


 このゲームが稼動した当時高校生だった俺は、何気なくこのゲームに手を出した。

 別に何か理由があったわけでも、友人に誘われたわけでもない。

 ほんの気紛れ……たまたま目について、基本無料だったから何となくやってみようと思った。それだけの簡単な動機だった。

 結果――俺はド嵌りした。熱中ってやつさ。

 とにかく時間を割いてプレイしたし、暇な時間は全てこのゲームに費やした。

 気付けば課金アイテムにも手を出していたし、課金アイテムを買うためだけに簡単なシール張りの内職なんかもしたりした。

 何で内職かって?

 ……外に出たらゲームが出来ないからだ。


 学校に行く時間すら惜しかった。

 部活動なんか当然帰宅部だ。

 俺にとって幸いだったのは――そして大半の時間を持て余したプレイヤーにとって不幸だったのは、このゲームのログイン時間が決まっていた事だ。

 増え続けるネトゲ廃人の防止だか何だか、とりあえずそんな理由でオンラインゲームを規制する法律が10年くらい前に出来たらしい。

 で、当然『エクスゲート・オンライン』も法律には逆らえず、一日のログインは10時間までと制限がかかっていた。

 おかげで俺は学校などに通いつつも他の廃人と大差ないログイン時間を実現出来たし、常にトッププレイヤーの位置をキープ出来たわけだ。

 

 俺はとにかく自分のキャラクターを育て続けた。

 様々な職業レベルを上げに上げまくったし、転職も色々と試した。

 このゲームの魅力の一つが幅広いキャラクタークリエイトだ。

 全……確か8687500パーツだったかな。

 そのパーツを自在に組み合わせて千差万別のアバターを作り出す事が出来るそのシステムはより一層自キャラへの愛を育み、入れ込ませた。

 

 そのシステムで俺が作ったアバターの『ルファス・マファール』は天翼族の少女だ。

 天翼族っていうのはこのゲームで選べる種族の一つで、空を飛べて基礎能力が高水準な代わりに攻撃魔法の類を一切覚えないっていう種族だ。

 『王者の種族』とも呼ばれ、高いカリスマ性と他の動物を従える才能を生まれながらに有している。

 それはゲーム上でも反映されており、一定以上レベルの離れた相手を行動不能にする種族スキルなんかもある。

 まあ、ボス戦なんかだと全然役に立たない死にスキルだがな。


 俺はルファスを鍛えに鍛えた。

 課金アイテムだろうが装備させたし、公式発信の特典付きのイベントがあれば全部参加した。

 やがて俺は国――プレイヤーが立ち上げる勢力を立ち上げ、最初は小さかったが徐々にその規模を増して行った。


 このゲームの目玉の一つに『戦争』というシステムがある。

 二つの勢力が全力を賭けて戦い、負けた国は相手の国に吸収合併されてしまうというものだ。

 ルファスはこのシステムを存分に使い、あらゆる国を侵略した。

 勿論侵略といっても合意の上での戦争を行っての話だ。

 合意なしでそんな事をすればただの荒しだ。あっという間に晒し者にされて総スカンされてしまう。


 もう一つ、このゲームの目玉がある。

 『ノベルシステム』。

 ネット上最大手の小説投稿サイトとのタイアップで実現したシステムで、自分達の行った事が公式の歴史に小説付きで組み込まれるのだ。

 『自分はこんな理由で戦争を仕掛けました』。

 『自分達はこんなに苦労してあの依頼を達成しました』。

 そうした事を公式サイトに送り、採用されたものは公式HPに本当に載ったりする。

 金を払えば小さな出来事でも一つのストーリーとして作ってもらえるので『エクスゲートオンライン』は至る所に物語があり、プレイヤー全員が主人公であった。

 そして節目となる大きな出来事は公式によって無料で物語化されるのだ。

 

 俺のキャラクターであるルファスは、プレイヤーならば知らない者はいない半公式キャラクターにまで成り上がった。

 あらゆる敵対勢力を駆逐し統率し、そして有史以来初めて人類を一つの勢力圏に纏め上げた覇王。

 恐るべき黒翼、ルファス・マファール。

 そう、俺は一度は全勢力を傘下に治め一強時代を築き上げた。

 公式ラスボスである魔神王とその配下達は流石に部下に出来なかったが、フリー以外のプレイヤーは全てルファスの国民となったのだ。

 その事は上記のノベルシステムでも大々的に扱われ、魔神王と並んで『野生のラスボス』、『もうお前がラスボスでいいよ』とか色々言われたっけ。


 だが問題が起きた。

 一強時代はぶっちゃけゲーム的に面白くないのだ。

 せっかくの持ち味である戦争システムが機能しないし、初心者が新しい勢力を作り難い。

 そこで俺は他の高レベルプレイヤーと相談し、プレイヤー発案の大イベントを起こす事にした。

 上記の小説サイトで有名なネット作家にも声をかけ、新たな歴史の節目を自分達で作り上げたのだ。


 ストーリーはこうだ。

 覇王ルファスの武力によって侵略され、統一された世界。

 しかし勇者達は立ち上がった。

 支配されながらも逆転の機会を待ち、志を同じくする同志達と共に巨悪に果然と立ち向かったのだ!

 おお偉大なる勇者達よ。その勇気こそが真に気高きものである。

 さあ今こそ暴虐の限りを尽くす覇王を玉座から落としてみせよう!


 ――うん、俺完全に悪役だね。

 かくして勢力を二つに分け、ルファス率いる覇王軍と勇者達率いる光の軍とで、公式ラスボス置いてけぼりのゲーム史上最大の大決戦が行われた。


 これの結果だけを先に言うなら、俺は負けた。

 だって有力プレイヤーのほとんどが向こうに付いたんだもん。勝てるわけねーじゃん。

 それでも俺は頑張った。

 気付いたら俺一人になっていたが、それでも暴れに暴れた。

 種族スキルで弱いプレイヤー――全体の8割は無力化したし、超頑張って相手勢力長との一騎打ちにまでもつれ込んだ。

 ……まあ、その時点で俺のHP残り2だったけどな。

 うん、一撃だよ。

 先制攻撃で相手の体力も一度は0にしてやったけど相手はそこで『大逆転』という主役的なスキルを使用して復活し、奇跡的な大逆転勝利を演出しやがった。

 ていうか、あいつ絶対わざと攻撃喰らったろ。

 最後はオーバーキルとばかりに勢力長+高レベルプレイヤー全員で必殺技打ち込んできた挙句、亜空間封印(亜空間に追放するという設定の魔法。これで止めを刺されると復活までの時間が長くなる)までぶち込んできた。

 もうやめて! 俺のライフは0よ!

 まあ、何も言わずやられるのもアレなので負ける前に俺も「見事だ勇者達よ! よくぞ余を越えてみせた! 其方等ならば勝てるやもしれん、あの魔神王にすら!」とか格好つけたりしたのは……まあ、うん。若気の至りだ。


 かくしてルファスは敗れ、世界は彼女の支配より解き放たれた――というのがこのイベントによって完成したストーリーだ。

 これはかなり評判がよく、『もうこれでエンディングでいいよ』、『いい最終回だった』、『おい、魔神王(笑)さんの事を忘れるなよ!』、『魔神王? ああ、ルファス様がやられるまで隠れてたあいつね。ええと、名前なんていったっけ?』、『お前らひどすぎwww』と祭りになった程だ。

 負けたとはいえ俺も一大イベントを終えて満足し、掲示板を眺めてニヤニヤしていた。


 で、その次の日になって再びログインしようとしたら画面に普段見慣れないキャラクターが湧いて出てきた。

 名を創世神アロヴィナス。エクスゲートの世界を創世したという設定の女神で、身も蓋もない言い方をするならば運営の化身だ。

 プレイヤーがゲームを起動した時や公式発のイベント開催の時などに姿を現すチートキャラで、一応HPや攻撃力、防御力は設定されているが倒せる事を想定した値じゃない。

 何だ、HP9999億って。ふざけてんのか。ボスキャラでも100万はそうそう超えないんだぞ、このゲーム。


 で、そんな公式チートのアロヴィナスが出て来て俺に言うわけだ。

 『貴女に新たな役割を与えましょう』と。

 俺はこれを公式からのメッセージか何かと思った。

 ルファスというキャラは今や魔神王と並ぶ『エクスゲートオンライン』の大ボスキャラだ。

 そりゃ公式も放置出来なくなるだろうし、あれだけ劇的にやられておいて次の日に何事もなかったかのようにログインしてきたら……まあ、うん。何か格好つかないと俺だって思う。


 俺自身このまま何事もなく復活してストーリーどうするのよ? と思っていたので渡りに船だった。

 だから俺は提示された選択肢にYesと答えた。

 どんなイベントかは知らないが、今までだって公式イベントは全部こなしてきた。

 だからどんな役割だろうとドンと来いだ。

 そう思い――。


 そして、俺の視界はホワイトアウトした。




*




 そして冒頭に至る。

 周囲には平伏する人々。

 やけに重くなった胸と軽くなった股間の喪失感。

 身に纏ったドレスと外套。視界の端に映る長い髪の毛に背中の翼。

 妙によくなった視力で離れた位置にある窓を見れば、そこには信じ難い冗談のような美少女が映り込んでいた。


 俺……ルファスになってね?


 いやいやいや、ねーよ。

 俺男だよ?

 ルファスは女だよ?

 野郎見ながらプレイするよりは可愛い子の方がやる気出るよね、なんて馬鹿げた理由で数時間悩んで作った自キャラの美少女だよ?

 自分がそれになってどうするよ。これじゃ見れないだろうが。


「……ふむ。さて、いまいち状況が掴めぬのだが……誰か、余に説明をしてはくれぬのか?」


 ……おいぃ。

 声が変わっているのは分かる。予想の範囲だ。

 だが口調、これどういうことだ。

 『ごめんなさい、いまいち状態がわからないのですがどなたか私に説明をお願いします』と言おうとしたら、何か無駄に尊大な口調になって口から出てきた。

 これゲームの時にロールプレイしてたルファスの口調じゃねーか。


「どうした人の子らよ、面を上げよ。

いつまでそうして平伏しておるか。それとも其方等の間ではそれは普通の姿勢なのか?

だとすれば余の無知を詫びよう」


 どうしたのですか、顔を上げて下さい。いつまでもそうしていても埒があきません。

 それとも失礼ですが、それが貴方達の間の普通の姿勢なのでしょうか? もしそうだったら常識知らずですみません――と、言おうとしたんだ。

 だがこれでは余計圧迫してしまう。

 やばい、この口調だと何言っても尊大になるぞ。どうしたらいいんだ。


 ……あ、そうか!

 あれだ、種族スキルの『威圧』!

 多分あれが発動してしまっている。

 ええと、確かONOFF出来たはず……鎮まれ、静まれ、俺の威圧よ。

 ぐうっ、威圧が疼きやがる……!


「……ああ、そうか。

済まぬな、余としたことがうっかりしていた。これでは話し難いのも無理はない」


 威圧OFF!

 便利なウィンドウなんかないが、そこは気合と感覚でどうにかする。

 その試みは上手くいったのか、今まで平伏していた人々はようやく顔を上げ、そして怯えるように俺へ視線を向けてきた。


「お、おおお……こ、この姿は……そんな……。

い、生きていたのか……」


 俺を見て耳の長い、神官みたいな格好をした優男が震えながら声を発する。

 失礼な奴だな。俺は一度も死んだ覚えなぞない。

 あ、でもルファスは先日死んだばっかだったな。


「お、おお……我等はとんでもない過ちを犯してしまった……。

許されぬ……許されぬ過ち……。

勇者降臨の儀式が、なぜ……我等は勇者どころか、覇王の封印を解いてしまった……」

「――ふむ、なるほど。

どうやら其方は余の事を知っているようだ。

ならばこの状況、其方に説明してもらうとしようか」


 この優男は俺の事を知っているらしい。

 ならば彼に説明を求めれば少しはマシになるだろう。

 俺は彼を安心させるべく微笑みを浮かべ、そして無害である事を教えるべく優しく言った。


「そう怯えるな人の子よ。

余は其方等に何もせぬ……安心して、余に全てを語ればよいのだ」




 ――しかしこの口調、ホントどうにかならんもんかね。

【覚えなくてもいい設定】

・エクスゲートオンライン

元々はドリームステーションというゲーム機で出ていた家庭用ゲームがTRPG化し、更にそれを元に作られたMMOゲーム。VRではない。

ゲームシステムは従来のMMORPGよりもTRPGに近く、転職などがその最たる例であり、前のクラスの能力を保持したままクラスチェンジを行える。

大手ネットSSサイトとのタイアップにより、プレイヤー達の道筋などが物語として描かれる。

(ただし実際に書いてもらえるかはSS作家の気紛れ次第。プレイヤーは『こういう冒険をしました!』という草案を投稿し、運よくそれを作家が拾ってくれれば物語化する。

ただし有料で受付を行う作家もおり、狙って物語化してもらう事は充分可能。

尚、このSS作家は全員参加可能というわけではなく、ちゃんと運営側で選り分けするので文章力が壊滅している地雷作家は基本的にはいない)

RPGとTRPGの中間に位置しつつ、ライトノベルの要素も加えた、いわばMMONRPGノベル・ロールプレイングとでも言うべき一風変わったゲームである。

このシステムはマイキャラやマイ設定に拘りを持つプレイヤーにはかなり好評で、自分のキャラの道筋が物語化する事にこの上ない快感を感じるプレイヤーも少なくない。

現在稼動6年目であり、プレイヤー総数は海外含めて800万人以上。

(海外プレイヤーの為の通訳班もいるので、作られた物語はちゃんとそれぞれの国の言葉に翻訳されて発信される。ただし翻訳者は日本人なのでたまに変な訳し方をしてしまう事もある)

基本プレイ無料。しかし無料で楽しませた後に至る所で課金を迫ってくる悪質な一面もある。

制作はニエンテ株式会社。


※イラストは有り難い頂き物です。

圧倒的感謝……っ!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
DSが2004年11月21日発売(19年と11ヶ月前くらい)であることを考えたら割と簡単に手に入りそうなもんだけど、DSは超人気ゲームだから比べるのは悪いか、
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