2話 置き去り
ぼくたちがいるのは、S級ダンジョンのひとつ。
冒険者に等級があるように、ダンジョンにも難易度に合わせてランク付けされているのだ。
「おらぁ! 【烈破斬】!」
ザックさんの振り上げた大剣が、モンスターの頭を両断する。
「へっへーん。どうよぉ!」
「ザック……あんまり大きな音と声を立てないで……モンスターが寄ってくるでしょ?」
「うっせーなぁ! おれに命令すんじゃねえよぉ!」
得意がるザックさんに、アスナさんがため息をつく。
「大丈夫ですよ、アスナさん。敵は近くにいません。ランがそう言ってます」
使い魔の狼ランは、耳が良いのだ。
彼女が周辺の敵情報を教えてくれる。
「エレン……それに、ラン。ほんと、いつもありがとう」
淡く微笑み、アスナさんがぼくと、ランの頭を撫でる。
「おいおいアスナよぉ。そんな畜生ばっちいだろ。触るんじゃあねえぞ」
「仲間に対してそんな言い方しないで。ランも立派な私たちのパーティメンバーよ」
「はいはい、さーせん……っと、いよいよボス部屋に到着だな。なんだ、案外敵に会わなかったじゃん。らくしょ~」
たどり着いたのは、石造りの、巨大な扉の前だ。
「……ランが敵の少ないルートを教えてくれたし、罠の位置も見抜いてくれたし、雑魚は威嚇して追い払ってくれたからでしょ?」
アスナさんだけは、ちゃんとランの功績をわかってくれている。
「あー? そんなのしーらね。それの何が重要なんだよ。大事なのは敵を追っ払う腕っ節。そんだけっしょ? なぁみんなぁ?」
「「そうだそうだ!」」
だがザックさんをはじめとして、他のパーティメンバーさんたちは認めてくれない。
「よっしゃぁ! いくぜ野郎ども! ボスなんてパパッと倒してさっさと帰還だ!」
ザックさんが石造りの扉を、ぐっ、と押し開く。
「エレン、それにラン。あなたたちは外で待ってて」
アスナさんが微笑んで、ぼくの頭を撫でる。
「……やっぱり、足手まといだからですか?」
「ううん。違うわ。あなたたちが大事だからよ。それに帰り道にふたりがいないと、安全に帰れないからね」
……優しい人だ。
足手まといだってことを、決して口にはしない。
ぼくらをいつも尊重してくれる。
「じゃ、いってきます」
「はい、いってらっしゃい」「わんっ!」
アスナさんは微笑むと、ザックさん達と一緒に、部屋の中へと入っていく。
ぼくたちだけが残される。
「ラン……ぼく、悔しいよ。いつまでたっても、ぼくはアスナさんに守られてばっかりだもん」
「きゅーん……」
ランがぼくの隣に座り、頭をこすりつけてくる。
「慰めてくれるのかい? ありがとう、ラン……大好きだよ、ぼくの親友」
『……わたしもですよ、若様』
「え、なに……今の声?」
キョロキョロと周りを見渡す。
だがぼくと狼のランしかいない。
「ラン、敵いるの?」
「きゅ、きゅーん?」
はて? みたいな顔をする。
若干汗をかいているような。
「狼って汗かくの? そう言えば前から思ってたけど、君って賢すぎない?」
「きゅ、きゅーん……。! ワンワンッ!」
そのときだ。
ランが急に立ち上がり、毛を逆立てたのだ。
「ど、どうしたのラン?」
「そこをどけぇぇぇえええええ!」
扉から勢い良く出てきたのは、ザックさんだった。
「な、何かあったんですか!?」
ザックさん達は汗びっしょりになりながら、部屋のドアを閉めようとする。
「リーダー! ダメだ! 扉が閉まらねえ!」
「くそっ! 逃げるぞてめぇら!」
ザックさんが一目散に逃げていく。
最後尾に、アスナさんがいた。
「エレン! 逃げるわよ!」
アスナさんはぼくの腕をひっぱって、走り出す。
「な、何があったんですか?」
「ブモォオオオオオオオオオオオ!」
振り返ると、そこにいたのは……一つ目の巨人だった。
「さ、単眼巨人だぁ!」
「しかも何体もいたの! 走るわよ、エレン!」
アスナさんに手を引かれ、ぼくらは全力で来た道を戻る。
だが向こうの方が早かった。
距離がどんどんと縮まっていく。
「くそっ! このままだと捕まっちまう! どうする……そうだ!」
にやり、とザックさんが邪悪に笑う。
「おいディーナ!」
パーティメンバーのひとり、賢者のエルフの少女が立ち止まる。
「やれ、そのお荷物野郎をエサにしろ」
「承知したわ」
「なっ!? 何をするのディーナ!」
ディーナさんは杖を、ぼくに向ける。
「【麻痺】」
「ガッ……!」
突如、ぼくの体に、電流が走る。
体がしびれて、一歩も動けなくなった。
「エレン! しっかり!」
「アスナ。その子は捨ててくわ。生き残るためのエサとしてね」
「なんて酷いことを!」
「合理的な判断よ」
「言い争ってる場合じゃねえぞ! 逃げるぞ!」
ザックさんとディーナさんが、ぼくを置いて走ろうとする。
アスナさんだけが残り、剣を構える。
「おいアスナ! そんなゴミ捨ててけ!」
「黙りなさい! 逃げたいならあなたたちだけでいけばいい!」
せまりくる単眼巨人たちを前に、アスナさんは一歩も引かず、剣を向ける。
「エレンは仲間! エサじゃない! せやぁあああああああ!」
アスナさんは単眼巨人に向かって切りかかる。
「ああくそバカ女! てめえなんて知らねえ! 死んじまえクソが!」
ザックさんは悪態をついて、ディーナさんたちとともに走って行く。
「ま、待って……このままじゃ……アスナさんが……死んじゃいます……」
ぼくはザックさんの足を掴んで引き留める。
全員で挑めば、まだなんとかなるかも知れないから。
「うっせえ! てめえはクビだ! あのビッチもまたクビだクビ! 化け物のエサになって死にやがれバーカ!」
ゲシッ! と顔を蹴って、ザックさんは立ち去っていく。
その姿に……ぼくは初めて、怒りを覚えた。
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【不死鳥の精霊核】孵化まで残り60秒。
また、パーティから離脱したザック、ディーナ他パーティメンバーの精霊核は自動喪失します。
※精霊の加護を失ったので著しい能力の減退にご注意ください
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