1.仇の娘は同級生
「おい間抜け!」
金髪で容姿の整った男が俺をあだ名を呼ぶ。公爵家嫡男でクラス委員長のボマルだ
「なにか用?」
「ふん、これを大講義室に運んでおけ」
ボマルは先生から運ぶように指示された大量のプリントを俺の机の上に置くと仲間元に帰っていく。
「ボマル、これは君の仕事だろ?」
「おい間抜け、俺は仲間との勉強で忙しいんだ。ろくに魔法も使えないお前がやっておけ。あと、俺を呼ぶときはさんを付けろと言っただろ忘れたか間抜け」
そう言うと俺を無視してエリート仲間の輪に入り談笑し出す。こうなると俺が何を言っても彼の耳には俺の声は届かない。
このクラスは全部で30人の生徒がいる。そのうち5人がエリートで家柄成績共に優秀で残りの生徒は没落貴族と平民で構成されている。
この学校の方針として学生のときからエリートは部下や平民を扱うすべを学ばせるためにこういう構成にしているのだと言う。
つまり俺は落ちこぼれなのだ。
彼らエリートの腕にはエリートの証である腕章が付けられており俺たちとの差別化が図られている。腕章には貴族の家の紋章も縫い付けられておりどこの誰だかすぐに分かるようになっている。
「アディ、私も手伝うわ」
白い髪の美しい少女が俺の上につまれたプリントを半分持ちにこやかに笑う。
「おいティア、それは俺が間抜けにやらせた仕事だ。お前がやるのはルールに反するぞ」
ボマルが俺に優しくするティアに余計なことをするなと釘を指す。ティアもボマルと同じようにエリートなのだ。しかも王国聖騎士の騎士団長グリム・トルステンの娘、つまり俺の両親の仇の娘だ。
入学早々挨拶をしてきた彼女に俺は睨んで無視をした。彼女としては、なぜ俺が自分に悪意を向けるのかわからなかったろう。公式的には俺の両親には子は居ないことになっている。それは当然だろうアンデッドと人間の間に子供など生まれるわけなどないのだから。だからこそ子供がいるなど、聖騎士団としても予想などしていなかったのだ。
「ルールには反していないわよ。分け隔てなく優しく接する、それが歴代聖騎士団長を排出する我が家の家訓よ」
そう言われボマルは黙る。貴族としてのルールは大まかには一緒だが家毎に微妙に違う、その家の色があるのだ。だからそれに異を唱えることは学園のルールや他家の者にはできない。
「行きましょアディ」
俺はティアが半分持ったプリントを取り返すと残りのプリントを持つと大講義室へと向かった。俺のその態度にティアは少し驚いた顔をするが俺からつかず離れずで大講義室へとついてくる。
ティアが俺を気にかけるのはなぜだかは分からない。だが俺は彼女と仲良くなる気はない。ティアは両親の仇ではない、それは分かっている。頭では分かっていても体が拒否をするのだ。
両親の訃報を知った俺は暴走しかかった、俺の中にある聖騎士の力と不死王の力が俺の身体を異形の者へと変質させようとした。
しかし、師匠の慰めのお陰で俺は自我を保つことができた。人間のままでいられた。ただその副作用のせいか俺の魔力量は飛躍的に上昇した。常人の1000倍にもなるほどの魔力量を保持していた。これは母である常闇ノ不死王の魔力量に匹敵すると師匠は言っていた。
両親が死んで行き場を失った俺は師匠の子供になった。師匠は俺を自分の後継者として魔法使いにしようとし魔法の勉強をさせられた。始めこそ全属性が使える天才と師匠に言われたが、その後わかったのは初級魔法しか使えないと言うことだ。全属性を使えても初級では役にはたたない。
だからと言って師匠は俺を見放すようなことはしなかったが俺は師匠のあとを継げるようになるため学園に通うことを望んだ。師匠は反対したが俺の熱意に負け許可をしてくれた。人と交わることが両親の望みでもあったからだ。
ただ学園に通う条件として、俺の能力は封印された。魔力だけじゃなく聖騎士の力や不死王の力等すべてだ。しかし魔力量は常識を遥かに越えているので封印が上手くいかず常人の10倍までしか押さえることが出来なかった。
魔力量が常人の10倍で全属性魔法が使えるのに初級しか使えないだから俺のあだ名は魔抜けで間抜けなのだ。
大講義室の前に行くとティアがドアを開けてくれる。正直ティアがいなければこのドアは開けられなかった。一応軽くティアに会釈をして教室に入り教壇の上にプリントを置くとティアを無視して教室を出る。
俺は教室に戻らずに図書室へと向かった。貸し出し禁止の魔導書を見るためだ。師匠と勉強しているときに魔法の違和感に気がついた。師匠にその違和感の話をしても首をかしげるだけで分かってもらえなかった。これは全属性が使える俺だからこそ分かったのかもしれない。
図書館へ行く俺の後ろをティアがトコトコとついてくる。プリントはすでに運び終わったと言うのになんのようだ?
「なにか用か?」
「アディ、私なにかあなたに嫌われるようなことした?」
「あのな? この世にはお前に興味がない人間だっているんだぞ。美人だからと言って全員が全員お前を気にかけると思うなよ」
俺にそう言われたティアは動きが固まり顔を青くする。蝶よ花よと育てられ自分を好きにならない人間がいることに驚きを隠せないのだろう。俺は固まるティアをその場に置いてさっさと図書室に行くとお目当ての魔導書を広げ内容を解き読む。
昼休みが終わり、図書室を出るとティアがドアの前にいて俺をじっと見つめる。
「まだ用があるのか?」
「私、あなたが振り向いてもらえるように頑張るから」
そう言い捨ててティアは逃げるように教室へと戻っていった。なんなんだいったい。