表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
265/352

口伝第4話 スカーレットの事情

予告通り、スカーレットの口伝です。

口伝と言いつつ、本編と言って良いと思っています。

形式はセラの口伝と同じです。覚えている人がいるか疑問ですが。

 俺には、生まれた時から前世の知識があり、明確な自我があった。

 そして、尋常ではないレベルの空腹も一緒だった。


 スキルの存在を知ってから分かった事だが、これは俺の持つスキルのデメリットだ。

 ……知っているのかよ。

 何?その女も同じスキルを持っているだと?マジかよ……。


 ……ああ、俺にはジン達のスキルが見えねぇ。

 沢山のスキルがあるのは見えるが、個々の情報が霧の様なモノで隠されている感じだな。

 それもジンの力か。もう、何を聞いても驚かねぇ。


 話を戻すぞ。


 あの頃はまさしく地獄だった。

 腹が減って自我があり、泣くことしかできないんだぜ?

 乳母も1人じゃ足らなかったから、10人以上いたはずだ。

 横一列に並んだ女の胸に順繰りに吸い付く赤ん坊、中々に恐ろしい絵面だよな?


 しかも、自我と知識はあるのに記憶は無い。

 自分自身が何者かも理解できずに、悶々と赤子生活を続けるんだ。

 いっそ、中身まで赤ん坊だったら、どれほど気が楽だったか……。

 その女は転生者じゃないんだよな?羨ましいぜ。


 双子の弟であるヴァーミリオン……リオンは俺と違い、普通の赤ん坊だった。

 もしかしたらと思って、何度か確認したが、それらしき振る舞いが無かったから、早々に違うと判断し、『赤ん坊の正しい行動』のお手本にさせてもらったよ。

 双子だから当然だが、食事の時以外は一緒に育てられていたからな。


 厄介な知識と厄介なスキルを持っていた俺だが、帳尻が会っていると思った事もある。

 スキルのメリットの方に、身体能力が高くなるというモノがある。

 基本的にメリットなんだが、子供の身体能力が高すぎるというのは、いろんな意味で危険を伴うモノでもある。

 前世の知識と自我があったから、力加減による失敗をしないで済んだと考える事も出来る。高い身体能力を制御するために前世の知識があるのかと邪推したこともあるな。

 リリィ曰く、完全に偶然だそうだ。


 参考までに、その女、……セラとやらはどうだったんだ?

 なるほど、常に空腹で、力が出なかったと……。

 それはそれで1つの解決法だが、羨ましくは無ぇな。


 空腹と言う問題はあるものの、一応は順調に育っていく俺だが、双子の宿命としてリオンとは比較され続けた。

 俺には前世の知識と高い身体能力がある。

 対するリオンは、あるスキルのデメリットにより、他のスキルを覚える事が出来なかった。


 ……ああ、<勇者>のスキルだ。当然のように知っているんだな。

 しかも、ここに来る前から、リオンが<勇者>持ちだと予想していたと……。

 もう、絶対に驚かねぇぞ。


 その娘が<勇者>スキル持ちだと!?驚かねぇって言った側からこれか……。

 なら、ルージュから聞いた情報だけで、<勇者>スキルまで予想できた事にも納得だな。

 それにしても、本当にビックリ箱みたいな連中だな、オイ。


 さて、当時の俺はスキルの事を知らなかったが、少なくとも自分が有利だと理解していた。

 だからこそ、比較され続けるリオンにも申し訳ないと思っていた。……結論から言えば、大きなお世話だったんだけどな。


 何故なら、リオンは俺の予想を超え、俺と対等な存在であり続けたからだ。


 ああ、スキルに類する才能は無かった。

 『スキルを得る才能』は無かったが、その代わりにリオンには『考える才能』があった。

 これは、スキルとは別次元の話だ。


 リオンは子供の頃から、物事を深く考える奴だった。

 物事が上手く行かない時、何が悪かったのか、どうすれば上手く行くのかを徹底的に考えるんだ。そして、考えた結果明らかになった足りない部分を、徹底的な努力で補う。


「思考と努力を突き詰めれば、才能に匹敵する」


 それがリオンの信条だった。


 ああ、本当に凄い奴だったよ。

 俺も色んな部分でリオンの考えを参考にさせてもらったからな。


 だが、思考と努力にも限界はある。

 最も顕著だったのが、『武術』……つまり、戦闘に関する部分だった。

 真紅帝国では、個人の武力も重要視されており、皇子にとって避けて通れないモノだった。


 俺はスキルの影響もあり、歳を重ねるごとに、異常なレベルで身体能力が伸びていった。

 対するリオンは、スキルの影響により身体能力の成長が遅かった。

 当然、リオンは身体能力に頼らない、技術を中心とした戦い方を学んでいく訳だが、武術に関してはスキルの影響が大きく、リオンのやり方に限界が来るのは早かった。


 それでも、10歳を過ぎるまで俺と互角だっただけで、十分に凄いんだが……。

 その当時、軍人の8割は俺達に勝てなかった。つまり、最低でも軍の精鋭くらいの実力はあった訳だ。


 10歳を過ぎてしばらく経つと、徐々に勝率に偏りが出来た。

 11歳になる頃には、9割以上が俺の勝ちになった。時々、とんでもない奇策で負ける事はあったが……。

 一度差が出来た後、リオンは無理をして張り合ったりはしなかった。鍛錬は怠っていないようだったが、模擬戦の回数は明らかに減っていった。

 それより、得意分野とも言える勉学の方に重きを置くようになった。


「レットが『武』を極めるなら、僕は『文』を極めようと思う。皇帝になるのはレットの方が合っていると思うから、僕はそれを支えられるように頑張るよ」


 俺も勉学は苦手ではなかったが、リオンの思考には敵わなかった。

 色々と偏りはあるが、二人合わせれば丁度いい兄弟だったと思うぜ。


 ちなみに、芸術はリオンの得意分野だった。

 一番好きなのは絵を描くことで、遠出をすると最低一枚は行った先の絵を描いていた。


 なんだ、博物館に行っていたのか。

 ああ、リオンの作品を偽名で展示させたのは俺だ。


「僕の未熟な絵を他人に見られるのは少し恥ずかしいけど、人に見られない絵に存在意義は無いと思う。いつか、見せる機会があれば良いんだけど……」


 そんな話をしていた事があったからな。

 実名で展示しても面倒なだけだし、リオンの名前を出さない形で無理言って展示させた。

 意外と、好評らしいぞ?


 おっと、話が逸れたな。


 その後、12歳の頃に三人目の兄妹、妹のルージュが産まれる訳だが……。


 なあ、1つ聞きたいんだが、俺の前世候補である浅井って奴に妹はいなかったか?

 ああ、やっぱりいるのか。


 いや、ルージュが産まれた時、不思議な懐かしさを感じたんだ。

 前世の俺に妹がいたと考えても、不思議じゃないだろ?

 しかし、本当に妹がいたとなると、ますます浅井とやらが俺の前世の可能性が高くなるな。


 妹に懐かしさを感じるものの、その当時、俺は既に軍に入り、魔物の討伐に出ていたから、あまり構う事は無かった。

 同じく軍属ながら、執務の勉強もしていたリオンの方が接触は多かったくらいだ。


 末の娘で可愛かったのだろう。

 両親もルージュの事を甘やかしていたみたいだ。

 リオンは苦言を呈することもあったらしいが、あまり聞き入れられなかったと聞いたな。



 それから数年経ち、俺もいよいよ妻を娶る事になった。


 ああ、当然のように政略結婚だ。

 生まれが生まれだから、理解はしていたが、日本の感覚が残っているせいで、簡単に納得する事が出来なかったな。

 だからだろう。俺は妻達を愛する事は出来なかった。


 その割には子供の人数が多いって?

 いや、それは俺の都合じゃなくて、国としての都合だからな。

 皇族の人数が減少傾向にあって、ここらで補充しておこうって話になったんだよ。

 政略結婚+種馬扱いなんて、愛情が育まれる要素が無いだろ?


 そして、それは妻達の方にも言える事だった。

 彼女達が求めたのは子種と権力であり、俺と言う一人の人間ではなかった。

 当然、彼女達の愛情を感じる事も無かった。


 そんな相手との間に子供が産まれたと言われても、愛情の対象になる訳が無い。

 教育も母親の実家側で行われて、関与する余地がほとんどなかったのも問題だったな。

 産まれた時から頻繁に接していれば、愛情が芽生える事もあっただろうに……。


 いや、真紅帝国内にリオンの妻はいない。

 俺が皇帝になる事がほぼ確定していたからだろう。態々リオンの方に嫁がせようとする貴族がいなかったという話だ。

 この国では、皇帝とそれ以外の間には、大きな隔たりがあるからな。


 今考えても、見る目の無い連中だよ。


 知っての通り、俺はスキルを見るスキルを持っている。

 当時はスキルの存在を知らなかったが、リオンに『悪い物』が憑いているのが見えていた。

 何とかして取り除いてやろうと、色々と調べていた。

 もし、『悪い物』を取り除けたら、リオンが皇帝になっても良いとすら思っていた。


 ああ、俺は当時から皇帝の座に興味は無かったからな。

 リオンは俺が皇帝に向いていると言ったが、俺はリオンの方が向いていると思っていた。

 今、皇帝をやっているのは、必要にかられた結果であって、望んだ訳じゃねぇ。


 そして、今から12年前、俺はついにリオンの『悪い物』を取り除く方法を見つけた。


 灯台下暗しって言えば良いのか?

 それは、真紅帝国の国宝、代々受け継がれてきた宝剣だった。

 名前は『王剣・神授』……ああ、この剣だ。正確に言えば、この剣の元々の姿、と言うべきだが……。


 次期皇帝として、宝剣を使うことになったんだ。

 ウチの国では、国宝の宝剣だろうと、有用な武器なら使う方針だからな。


 この剣で斬った魔物のスキル……当時はもっと曖昧な存在だったが、それが消える事があった。

 最初は意味が分からなかったが、色々試している内に分かったのが、この剣にはスキルを移す効果があるという事だった。

 斬ったスキルを奪い、別の相手に与えると言う、恐ろしい効果だ。


 斬った相手・・のスキルでは無く、斬った・・・スキルと言ったのは訳がある。

 相手を斬った時、その部分に相手のスキルがなければ、奪う事は出来ねぇんだ。

 スキルの位置は、俺の『眼』には、常に身体中を移動しているように見える。その動きに合わせて斬る事で、初めて効果が表れる。

 この剣は相手のスキルが見えていなければ、ただの剣と変わらねぇって事だ。

 まさしく、俺の為にあるような武器だと当時は喜んだな。


 ちなみに、貯めておけるスキルは1つで、次に斬った相手に強制的にそれを与える。

 これ、後で出て来るから、覚えておけよ。


 俺の『眼』には、リオンのスキルに『悪い物』が纏わりついているように見えた。

 『王剣・神授』で『悪い物』を奪えれば良し。失敗して悪くない方のスキルを奪っても、元々何の役にも立っていないスキルだから問題無し。その後、もう1回やれば良し。

 な?やらない理由が無いだろう?


 俺はリオンと話し合い、スキルを取り除く事にした。

 上手く行ったらリオンが皇帝になると言う話は拒否されちまったけどな。


 結論から言えば、この判断は失敗だった。


 リオンの『悪い物』の除去に成功した直後、俺達の前に最終試練が現れた。

 最終試練……当然、知っているよな?

 ああ、ソレだ。


 奴は『死神・モルド』と名乗った。

 どうした?変な顔をして?ああ、似たような異名の冒険者とやり合ったのか。


 『死神・モルド』は言った。


「ボクは理に反した存在を狩る死神。まさか、ボクに仕事が回ってくるとは思わなかったよ。残念だけど、キミ達は女神様の作ったルールに逆らった。ボクの記念すべき初仕事だ。キミ達には、悪いけど死んでもらうよ?」


 どうやら、女神は自分の与えたデメリットに逆らう者を許すつもりはないそうだ。


 当然、俺達は抗った。


 『死神・モルド』は最終試練、それも、女神の意向に逆らった者を狩る存在だけあって、滅茶苦茶強かった。

 ただ、幸いなのは人型の魔物であり、武器も鎌なので攻撃範囲も限られていたから、被害自体は大きく広がらなかった点だな。

 範囲魔法とか使う相手だったら、俺は平気だが周囲がヤバかっただろうな。


 既に身体が出来上がっていた俺と、『技』をさらに深めていたリオンのコンビネーションは、『死神・モルド』に決して劣る事は無かった。

 有効打を与える事は出来なかったが、それは相手も同じだったからな。

 ああ、そうだ。まともにやり合えば、俺達は負けなかったはずなんだ。


 ……しばらくすると、リオンの動きが徐々に悪くなっていった。


 その程度で体力をなくすような、ヤワな鍛え方じゃなかったはずだから、戦いの合間を縫って理由を聞いた。


 馬鹿な話だよ。

 俺の妻達がリオンに毒を盛っていたそうだ。

 俺を皇帝にする為。……もっと言えば、自分の子供達を最終的に皇帝にする為、邪魔なリオンを弱らせるのが目的だったそうだ。


 厄介なのはそれだけじゃねぇ……。

 リオンは、死ぬような毒では無いと分かっていたから、あえてそれを受け入れていたんだ。

 俺を皇帝にしたいのはリオンも同じだったからな。


「まさか、こんな風に裏目に出るとは思わなかったよ。彼女達を許してやって欲しい。止めなかった僕にも責任はあるから」


 リオンは最後まで恨み言を言わなかった。


 流石の俺も、1人で『死神・モルド』の相手をするのは厳しい。

 だが、このままではリオンが倒れ、俺も倒れることになるのは時間の問題だ。


「長くは持たないか……。僕が隙を作るから、後は任せたよ」


 そう言って、リオンは『死神・モルド』に無茶な特攻を仕掛けた。

 いや、無茶な特攻に見えるように攻撃をした。


 ……この時点で、リオンは死を覚悟していたんだろうな。


 俺が止めるのも聞かず、リオンの猛攻は続いた。

 そして、リオンが大きく体勢を崩した瞬間を、『死神・モルド』は見逃さなかった。


 ……リオンの心臓を、奴の持っていた鎌の石突きが貫いた。


「……アッシュを頼む」


 リオンの最後の言葉だ。

 その当時は意味が理解できなかったけどな。


 リオンは死んだ。

 だが、リオンは身体を張って俺にチャンスを与えた。


 俺は、リオンの死体ごと、『死神・モルド』に突きを放っていた。

 リオンは、位置関係を調整して、自分の死体で死角を作ったんだ。


 『王剣・神授』は『死神・モルド』に刺さった。

 致命傷には程遠いが、確かに刺さったんだ。


 その瞬間、リオンを苛んでいた『悪い物』が『死神・モルド』に移った。

 ああ、最初から、一撃でも与えれば俺達の勝ちだったんだよ。


 『死神・モルド』は狼狽えた。


 今まで使えていたスキルがほとんど使えなくなっていたからだ。

 そこから先は話す程の価値も無い。


 醜く命乞いする『死神・モルド』を殺しただけだからな。


 『死神・モルド』を倒しても、リオンが生き返る訳じゃない。

 とてもじゃないが、『勝った』とは言えなかった。

 不甲斐ない自分が許せず、女神とやらは呪い殺したかった。


 その後、最終試練を倒したことで、俺と武器の『格』が上がることになった。


 余程、俺は怒り狂っていたんだろう。

 『王剣・神授』は『王剣・神呪』となった。

 ああ、読みは同じだな。『神から授かる』が『神を呪う』に変わったんだ。

 見えた訳じゃないが、俺にはその変化が理解できたよ。



 リオンの葬儀を終えても、俺の怒りは治まらなかった。


 俺の妻達の事は、リオンの願いもあって不問にした。

 女神は会う方法すら分からない。

 だから、俺の怒りは最終試練、つまり魔物へと向いた。


 真紅帝国周辺の魔物と言う魔物を狩りまくった。

 我ながら、荒れていたと思う。

 国内では飽き足らず、周辺諸国に足を伸ばすこともあったくらいだ。


 ああ、そうだ。

 金孤を殺したのもこの時期だ。

 正確に言えば、金孤を殺したのが、荒れていた時期の最後だ。

 それが、丁度10年ほど前の話だな。


 俺は噂になっていた金孤を見つけ、問答無用で襲い掛かった。

 最終試練と同じ、人型の魔物と言う事で、俺はいつもより荒れていたからな。


 金孤の夫婦は、強かった。

 魔法が効かないと分かっても、消して諦めず、魔法を囮にして近接戦で俺を翻弄した。


 だが、戦いの中、徐々に二人の動きに無理をするようなものが増えてきた。

 それは、娘を隠した場所に近づいた俺を、何とかして引き離そうとした為に生じたものだった。


 二人が子供を庇っていた事に気付いたのは、無理をして隙が出来た二人に、致命傷に近い傷を与えた後だった。


 俺は自分の行いが虚しくなった。

 ただの八つ当たりで、数少ない子を思いやる魔物を狩る事に意味があるのか?

 ……当然、意味なんてある訳が無い。


 可能ならば、二人を治療してやりたかったが、当時の俺に<回復魔法>は使えなかった。

 ああ、その後で覚えた。結構、努力したんだぜ。


 ともあれ、死を目前にした二人を前に、俺に出来る事は何も無かった。


 二人は、俺が子供に気付いたことを理解し、子供だけは助けてくれと懇願してきた。

 その時には俺も殺意を失っており、それを受け入れた。


 とは言え、その子供もこの場に放っておけばいずれは死ぬだろう。

 子供を引き取って育てる事も考えたが、それも道理から外れていると思う。

 どうすべきか悩んだよ。


 しかし、母親の方は何かを知っているようで、俺にこの場を離れるように言った。

 俺は気がかりを残しつつ、その言葉に従ってその場を離れた。


 ジンの話じゃ、二人の知り合いがそこに来て、子供を引き取ったみたいだな。

 ああ、ずっと気になっていたんだ。少し後にそこに行った時には、何も残っていなかったからな。


 そして、本当に悪い事をしたと思っている。

 少なくとも女神の奴を殴るまでは殺されてやる訳には行かねぇ。

 だが、殴られる覚悟は出来ている。女神と同じだ。ケジメって奴だな。

 ああ、機会があったら呼んでくれ。


 それから、俺は無暗に魔物を狩る事を止めた。

 当然、害のある魔物は倒すが、無害な魔物を探し出してまで殺すような事はしなくなった。


 そして、自分なりにリオンの死を受け入れる事にした。

 まずは俺の指示でそのままにさせておいた、リオンの遺品の整理から行った。


 その整理の最中、俺はある事に気が付いた。

 リオンの遺した絵の中に、見覚えのない樹の絵があったんだ。

 リオンは想像で物を描かないから、実際に見て描いたことは間違いがない。


 不思議に思った俺は、その絵が描かれた当時の事を調べ始めた。

 几帳面なリオンは、絵を作成順に保管していたから、調べるのは思いのほか簡単だったな。


 その調査の途中、俺はある計画を知った。

 それは俺の妻達が、ルージュにも毒を盛ろうとしているという内容だった。

 当時、ルージュも徐々に力を付け始めていたからな。

 少しでも脅威となり得るなら、潰そうという方針だったんだろう。


 ……一応、警告はしたんだぞ。

 リオンが死んだ後、毒を盛ったという事実を妻達に突きつけて、二度とするなってな。

 もしかしたら、リオンの遺志に従い、罰を与えなかったのが悪かったのかもしれねぇな。

 罰が無いという事を、許されたと勘違いした可能性はある。


 許した訳じゃねぇが、そこで止めるならまだ救いようもあった。

 だが、アイツらは同じことを繰り返そうとした。


 もう無理だった。

 生かしておくことに、欠片の価値も見いだせなかった。

 証拠もあったからな。全員まとめて処刑することにした。


 正直、金孤の夫婦が羨ましいとすら思っちまったよ。

 それを壊した俺が言う事でもねぇがな……。


 そんな理由もあって、俺は妻もガキも愛していない。

 俺の血を引いているとは言え、アイツらの血も引いているガキに、愛情をもって接すると言う方が無理な話だ。

 さっきも言ったが、関わり自体薄かったからな。


 ガキ自身に罪は無ぇから、罰を与えるような事は無かったが、関心も無くなった。

 教育は実家と関わりの無い連中に任せて、俺は極力口を出さないようにした。

 一番マシな奴に後を継がせれば良いって考えだな。

 正直、あまり期待はしてなかったが、マシに育った奴がそれなりに居るようで安心したよ。

 残念ながら、そうじゃない奴もいるようだが……。


 妻とガキの話はこれくらいにして、リオンの話に戻すぞ。


 調査の結果、俺はリオンが定期的に未開領域に向かっていた事を知った。

 そりゃあ、行くしかないよな?


 と言う訳で、俺も未開領域へと向かった。

 迷いの霧は俺のスキルで無効化して、あっさりとエルフの里に到着した訳だ。


 エルフの里では、驚く事ばかりだった。


 ああ、エルフ側も驚いていたんだよな。

 婆さんに言われなくても分かってるさ。


 まず、一番驚いたのはアッシュの存在だった。

 まさか、リオンがエルフの里で子供を作っていたとは夢にも思わなかったからな。

 その上、母親がリオンと同じスキルを持っているなんて、誰が想像できるかよ。


 ただ、リオンに愛する人と子供がいたというのは、俺にとっては救いでもあった。

 ここで、リオンの最後の言葉を思い出した。

 リオンの奴、俺がいずれエルフの里に行くと確信していたんだろうな。


 アッシュの将来の夢が『旅』だと聞いて、真紅帝国で外の常識を教える事にした。

 リオンの子供だとバレると面倒だから、俺のガキって事にして連れ帰ったワケだ。

 もちろん、アッシュの母親は納得済みだぞ。


 そして、そこでリリィの婆さんから、この世界の真実……女神の悪意について、色々と話を聞いた訳だ。

 ……いや、その時点で全ての話を聞くのは無理だった。


 リリィの婆さんは9年寝て1年起きるってサイクルを繰り返しているんだよ。

 語り部として、安定して生存するための工夫だそうだ。

 俺がここに来たのは、寝る直前ギリギリだったんだ。


 だから、その時点で重要な話だけを聞いた。

 そして、女神を殴ると決め、婆さんが次に起きる9年後までに準備を進める事にした。


 そこから先の9年間は今言った通り、準備に費やしたワケで、ダイジェストの軽い説明でも良いだろう。


 まず、行動の地盤を固めるために皇帝になった。

 これは、元々次期皇帝だったから、難しい話じゃない。


 次に背中から刺されたら堪ったモノじゃないから、国内の膿を出した。

 思った以上に腐った貴族が多くて辟易したぜ……。


 その後は周辺諸国へ小競り合いを仕掛ける事にした。

 自国と他国、両方に危機意識を持たせるためだ。

 今のやり方だと、魔族関連の問題を、全てを勇者任せにすることになるからな。


 最悪、真紅帝国が爪弾きにされる可能性を考えて、食料自給率も上げた。

 自国だけで国家を存続するための土台は、元々あったから簡単だった。


 後、他になんか話す事あったかな……?


 ん?真紅帝国の転生者?……ああ、それも知っているのか。

 そうだ。真紅帝国には俺以外にも時々、転生者が産まれるみたいだからな。

 招集して日本の知識を集めている。

 上手く活かすのはなかなか難しいけどな。


 ……それも言ってなかったな。

 ルージュをエステア王国の迷宮に送ったのは、ルージュの身を守るためだ。

 女神の力は、迷宮の中まで及ばねぇからな。


 ああ、少しアホだが、俺の大切な妹だ。

 女神との戦いに巻き込まれる可能性を考えたら、安全な場所に居て欲しいと思って当然だろ?

 ……その時点で、俺が守りたいと思うのはルージュとアッシュくらいだったからな。

 両親は既に死んでいるし、アッシュはその頃には国を出ているだろうから、気にすべきはルージュだけで良かったんだよ。

 事情を知らないルージュを守るには、適当な理由を付けて、迷宮に送るのが一番手っ取り早かった。

 エステア王国を攻めるって言うのは、その為の『適当な理由』だ。本気じゃねぇよ。


 誤算だったのは、ルージュが思いのほか迷宮攻略に乗り気だった事だ。

 迷宮自体の危険性も理解しているから、もう少しゆっくりと攻略を進めてくれて良かったのに、ガンガン進んで行ったのには焦った。

 建前が『迷宮の攻略』である以上、遅くしろとも言えないからな。


 何にせよ、ルージュが無事で良かった。

 ……え?無事じゃなかっただと?

 魔王軍の四天王とぶつかって、肉団子になってた?意味が分からん……。


 ふむふむ、うわぁ……。


 ……ジンに拾われて本当に良かったな。

 その状態を治すために奴隷にしたのか。理屈は分からんが、理解した。

 まぁ、あれだ。……適当に可愛がってやってくれ。


 9年の準備期間についての話は、こんなもんだな。



 最後に、直近の話をしようか。


 実は、何人もの転生者を見た事で、相手が転生者かどうか分かるようになったんだ。

 具体的な説明は難しいんだが、何となく分かるんだよ。


 ああ、もちろんローズの事は気付いていた。

 当然、危険な組み合わせだとも思った。

 荒れていた時はやらかしたが、本当は危険と言うだけで排除するのは嫌いなんだよ。


 だから、何かをやらかすまでは放置していた。

 だが、やらかした以上、容赦はしない。


 そして最近、偶然だが魔王軍の四天王と遭遇する事があった。

 その時、四天王が転生者だって気付いたんだ。


 気になったんでエルフの里に来て、長から話を聞いた。

 いや、長だってある程度の話は知っているんだよ。

 語り部では無くても、長く生きているし、リリィの婆さんから話を聞いているからな。


 何?全体の20%くらいは知っているのか?

 多いんだか少ないんだか分からんな。


 長曰く、魔王は勇者でなければ倒せない。

 四天王は異世界から呼び出された魂を元にしている。

 勇者以外が四天王を倒した場合、新たな四天王を呼ぶ事が出来る。


 流石に勇者抜きでは魔王を倒せそうにないと思ったから、気に食わないが勇者支援国になる事を選んだってワケだ。

 この辺りからは、ジンも知っているだろ?


 そして、9年経ったから、婆さんが起きるのをエルフの里で待っていたワケだ。


 大分長くなったが、俺の話は以上だ。

 質問があるなら受け付けるぜ。


スカーレット達が倒していなかった場合、マリアの<封印>を取り除いた時、『死神・モルド』が現れていました。

当時の仁には厳しい相手だったと思いますが、何だかんだ倒したことでしょう。

そして、当時の装備だった「ゴブリン将軍の剣(希少級)」がランクアップして伝説級になっていました。勿体ない……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[気になる点] とっても読みづらい
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ