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第183話 語り部と皇帝

やっぱり、進行上お休みを貰うことになりそうです。1月近く執筆がほとんど進んでいないので。

「これで、彼らを排除する事は出来ません。長、排除は諦めてください」


 アッシュは精鋭エルフ達を気絶させた後、おっさんに向けて宣言した。


「彼らは僕が責任をもってエルフの里の外まで連れて行きます」


 流石にこの状況でエルフの里を観光するとは言えない。

 残念だが、今回は諦めるべきだろう。


「ならん!外敵は、排除以外有り得ん!」


 しかし、おっさんは尚も強硬な姿勢を崩さない。

 そして、おっさんは最後の手段を選んだ。


「もはや手段を選んではおられん!『世界樹の眷属であるゴーシュが命ずる。守護者達よ、顕現せよ!』」


 おっさんが呪文のようなモノを唱えると、空中にいくつもの魔法陣が現れた。

 その陣を通り抜けてきたのは、呪文の通り世界樹の守護者だった。

 えーっと、たったの15匹だな。


 アルタ、どういう機能?


A:『世界樹の保護者』にのみ許された権限で、大量のリソースを消費して世界樹の守護者を生み出す機能です。正規の手順プロセスを無視した最終手段の1つです。


 どうやら、おっさんは何が何でも俺を排除したいようだ。

 そこまでされたら、コチラも受けてあげなければ駄目だよな。


「な!?守護者を呼び出した!?そんな事が出来るなんて……」


 アッシュが驚いていると言う事は、あまり知られていない能力なのだろう。


「アッシュよ。これが私の奥の手だ。この数の守護者を相手にどれだけ戦える?」

「くっ……」


 アッシュも分が悪い……絶望的状況であることを理解しているのだろう。

 そりゃあ、アッシュ1人で戦うには、絶望的だけどさ……。


 俺はてくてくとアッシュの元に歩いて行く。


「アッシュさん、アレは壊して良いんだよな?手加減も不要って事だよな?」

「え、ええ。ですが、あの数は……」

「今度は、俺達に任せてもらえるか?どうせなら、長の誤解も解いてあげたいからな」


 俺達が弱いという勘違い、ここで改めて貰おう。


「……分かりました。お任せします」


 アッシュは色々と考えていたようだが、最後には俺達に任せてくれた。


「それじゃあ、今回は全員で戦闘だ。レベルは相手合わせで200相当にして、1人最低1匹倒してくれ。騎竜組もアレくらいなら倒せるだろうから参加だ。制限時間は1分、別に罰則はないが、それを過ぎたら残りは俺が全部倒すからな」


 圧倒的なパゥワーにより一瞬で全滅させてもいいが、今回は全員が強い事を示したい。

 俺の指示を聞き、全員が戦闘態勢になる。


「ふむ、其方達が戦うというのか、それならば、アッシュを排除する手間が省けるな。良かろう、やれ!守護者達よ!」


 おっさんの号令と共に、世界樹の守護者達が襲い掛かってきた。

 なお、世界樹の守護者に遠距離攻撃は1つもないため、全員が飛んで近づいてきた。


 折角羽があって空を飛べるのに、遠距離攻撃手段がないから活かせない。

 エルフの里なんだから、せめて弓くらい持たせればいいのに……。


 散開した仲間達が世界樹の守護者達に相対する。

 世界樹の守護者15に対し、俺を除いた仲間は8名。1人2匹倒せば事足りる計算だ。

 ステータスはレベル200相当に落としているが、スキルや装備はそのままなので、苦戦するような相手でもないだろう。


 マリアが急所を一突きにして、セラが真っ二つにぶった切り、さくらが焼き払い、ミオが撃ち落とし、ドーラが叩き潰す。

 単独戦闘に慣れていない騎竜3人娘は竜形態での<竜魔法>で1匹ずつ倒している。

 ドーラの<竜魔法>は過剰戦力だから、集団戦闘では基本的に使わないように言ってある。また、さくらの魔法も低級のモノに限定している。


 制限時間1分って言ったけど、30秒もしないで戦いは終わった。

 知性の無い守護者なんて、こんなものだよな。

 当然、俺の出番は無し。



 全ての守護者が消滅し、おっさんは愕然としている。


「ば、馬鹿な……。守護者達が……全滅しただと……」


 アッシュとクロアも信じられない物を見たような表情だ。


「これ程とは……。僕の見る目もまだまだですね……」

「もしかして、スカーレットよりも強いのでは……?」


A:マスター、来ています。


 おっと、予定よりも早かったな。


「しゅ、守護者が足りなかったのだな……。もっと、もっと多くの守護者を顕現すれば……」


 おっさんがブルブル震えながら、正気を失いかけた目で物騒な事を言う。

 もし、世界樹の守護者を今以上に呼ぶとしたら、世界樹のリソースの大部分を失うことになる。当然、迷いの霧は消えるし、おっさん自身無事では済まないだろう。

 何故なら、明らかに『世界樹の保護者』の権限を越える行いだからである。


-ドオオオオオン!!!-


 しかし、おっさん捨て身の大技は、直後に襲い掛かる衝撃によって失敗に終わる。

 近くに重量物が落ち、衝撃が広がり、砂煙が舞った。


「止めよ、ゴーシュ!」


 立ち上る砂煙の中から、女性の声が響き渡る。


「リリィ様!?何故ここに!?お目覚めになるのはまだ先のはず!」

「リソースを大量に使って暴れられたら、嫌でも目が覚めるわい」


 砂煙が晴れた時、そこに居たのは、真紅帝国皇帝、スカーレット・クリムゾンとエルフの語り部、リリィの2人だった。

 簡単に言うと、リリィを抱えたスカーレットが、大ジャンプして着地したのである。


「なんとか間に合ったみたいだな」

「うむ、近くにお主が居たのは僥倖じゃったぞ」


 リリィはその喋り方に反して、見た目は10歳くらいにしか見えない。

 成長著しいドーラよりも幼く見える。


 『姫巫女』に共通した銀髪は、地面に着く程に長い……いや、明らかに身長以上に伸びているな。今はスカーレットがまとめて持ち上げているみたいだ。


 全体的な印象も『姫巫女』で共通しているが、固有の特徴もある。

 ユリアは『真面目』、ユリシーズは『穏やか』、(ユリ)スズは『精悍』、ユリエラは『苛烈

』、そして、リリィは『儚げ』となる。


「ゴーシュよ、それ以上無意味なことは止めるが良い」

「何故止めるのです!外敵は、排除しなければ!」

「それが無意味と言っておるのじゃ。ワシがお主に頼んだのは、そんな事ではない。エルフの里と民の安寧じゃ。融通の効かん守護者の代わりに、状況に応じた最善を選ぶのがお主の役割じゃと言うのに、同じくらいの堅物になるとは嘆かわしい……」

「そ、それは申し訳なく……」


 先程までのおっさんの様子では、状況に合わせた対応をしていたようには見えない。


「世界樹が拒む条件を満たしていたとはいえ、レット坊の客であり、アッシュ坊が問題ないと判断した者じゃ。お主が余計な事をせねば、ここまで大事にはならなかったろうに……」


 そもそもの話、世界樹の守護者は自動迎撃装置ではないので、『世界樹の保護者』の承認がなければ出撃しない。

 つまり、初手で大事が確定したのである。


「さて、何時までも客人を放っておくわけにも行かぬな」

「降ろすか?」

「頼む」


 スカーレットがリリィを地面に降ろす。

 地面に立ったリリィは少しフラつきながら、服が汚れるのも構わず地面に正座した。


「ゴーシュの起こした無作法、エルフの里を代表して謝罪するのじゃ。大変、申し訳ない」


 そして、見事な土下座を決めた。

 ハイエルフって土下座文化があるのかね?スズも前に全裸土下座決めてきたし……。


 そう言えば、おっさんを無視して里を代表しちゃっているけど、良いのかな?

 代表できるの、おっさんだけじゃないの?


A:世界樹に対する権限はリリィの方が上位です。ゴーシュの役割は、基本的にリリィの代行です。


 なるほど。

 普段は眠っているけど、リリィがエルフの里の最高責任者と言う訳か。


「お止め下さい!貴女は里で最も尊いのです!地に伏すなどしてはなりません!」

「部下の不始末は責任者の不始末、ワシが謝らねば治まるまい。それより、ゴーシュ、お主も早う土下座をするのじゃ」

「し、しかし……」

「早う!」


 強い口調で言われたら、おっさんにも抵抗は出来ないのだろう。

 渋々ではあるが、おっさんもリリィの横に並んで土下座をした。


「仁さん、僕の口から言える事ではないのは承知の上でお願いします。どうか、長を許していただけないでしょうか?」


 アッシュが申し訳なさそうに言うが、俺としても少し困る。


「ええと……、そもそも、特に怒っていないのだが?」

「え?」


 アッシュが疑問符を浮かべる。


「俺が怪しげなのは自分で理解しているから、守護者を差し向けられても仕方ない。ここに来る前の話で、戦闘が発生する可能性、巻き込まれる可能性は織り込み済み。どちらも納得しているのだから、怒る理由がない」


 あえて言うのなら、おっさんの行動は少々過激過ぎたとは思うが、事が終わったら渋々とは言え土下座で謝罪までしている。

 怒りの炎にくべる薪がどこにもない以上、燃え上がる事も無い。


「そうですか。それは良かったです」

「ところで、1つ聞きたいんだが、俺達はここを出て行った方が良いのか?」


 俺はリリィに向けて尋ねる。

 なお、リリィもおっさんもスカーレットも、現時点で敬意の対象外なので、敬語を使う予定はない。


 殺されてやる訳には行かないが、出て行けと言われたら出て行くのは問題ない。

 アッシュにも「エルフに出て行けと言われたら出て行く」と宣言しているからね。

 その宣言はまだ生きているので、最初に確認しておいた方が良いだろう。


「なら、出て行……」


 おっさんのセリフは、リリィの肘鉄が鳩尾に入った事により中断された。

 のたうち回るおっさん


「いや、出来れば里に来て欲しいのじゃ。折角来てもらったのに、無作法だけで帰すのはこちらの立つ瀬がない。大したことは出来ぬが、せめて客として持て成させてほしいのじゃ。お主がどうしても嫌だというのなら、無理に引き止める事も出来ぬが……」

「いや、是非お邪魔させてほしい」

「承知したのじゃ」


 そう言う事なら、有難く持て成されようと思う。


「これで一件落着みたいだな。いやー、一時はどうなるかと思ったぜ」


 話が落ち着いたところで、今まで大人しかったスカーレットが話に入ってきた。


「婆さん、悪かったな。面倒かけて」

「レット坊が気にすることは無い。ゴーシュもいい勉強になったじゃろうし、……結果を見れば、穏便に済んだからのう」

「向こうは死屍累々って感じだけどな」


 スカーレットが目を向けた方には、アッシュによって倒されたエルフ達の亡骸(死んでない)が横たわっている。


「まあ、見た限り、酷い怪我をしている奴はいないみたいだが」


 ざっと見渡しただけでエルフ達の状態まで把握した模様。


「それは重畳。アッシュ坊も強くなったのう」

「いえ、僕なんてまだまだです」

「謙遜すんなよ。まさか、エルフの精鋭を鎧袖一触とは思わなかったぜ。っと、そうだ。アッシュ、クロア、お疲れさん。助かった。他に問題はあったか?」

「どういたしまして。問題は、アッシュに聞いてください」

「問題はありました。ここで言うのもアレなので、後で……」


 アッシュが言い難そうにしている。

 仮にも皇族の醜聞だからね。大っぴらには言いたくないよね。


「やっぱ、問題あったかー……。まあ、仕方ねぇか」


 スカーレットも予想はしていたようだ。

 そして、俺の方に目を向ける。


「んで、アッシュが連れてきたって事は、そちらがジン御一行様と言う訳だ。おうおう、規格外が並んでやがる」

「ん?俺の事を知っているんじゃないのか?」


 今までの情報から、レガリア獣人国のシャロンと同じように、転生前の縁で俺を呼んだのだと思っていたが、スカーレットの言い方は、知人に対するモノではなかった。


「いや、今の俺は知らねぇよ。知っているのは、前世の俺だ。尤も、全ての記憶がある訳じゃないから、知っているというのが正しい表現か微妙な所だけどな」


 スカーレットは隠すことなく言い切った。

 つまり、スカーレットは、記憶が全ては残っていない方の転生者、と言う訳だ。


 今のところ、転生者には二通りあり、ミオや魔族の成瀬母娘の様に、記憶が全て残っているタイプの転生者と、ティラミスの様に記憶が断片化しているタイプの転生者がいる。

 ティラミスは前の自分の事も碌に覚えていなかった。前の世界の常識などは多く覚えていた事を考えると、消えやすい記憶、残りやすい記憶があるのだろう。


「驚かないんだな?」

「驚いて欲しいのか?」


 俺が聞くと、スカーレットは首を横に振った。

 何だよ。驚いて欲しいなら、盛大に驚いてやるのに。


「いや、安心したんだよ。俺の記憶の欠片の通り、ジンがマジモンの規格外だったからな」


 それは、安心して良い内容なのだろうか?

 それはそれとして……。


「1つ聞かせてほしい」

「何だ?」

「エステア王国を侵略する意思はあるのか?」


 色々と話す事はある。

 だが、今後の方針を決める為にも、これだけは最初に聞いておかないといけない。


「ん?……ああ!ルージュ経由の情報か!そこまで話したって事は、ルージュはジンの軍門に下ったと考えて良さそうだな。まあ、ある意味、一番安全な場所だし、構わねぇか」


 俺の一言でスカーレットは色々と把握したようだ。

 しばらく独り言を繰り返し、はっと気付いたように俺を見る。


「ああ、わりわりぃ。結論から言えば、俺にエステア王国侵攻の意志は無ぇ。ルージュから聞いた話なんだろうが、それはルージュを帝国から追い出す口実だ」


 またしても隠すことなく言い切る。どうやら、本心のようだ。

 これで、スカーレットを排除する理由が無くなったと考えても良さそうだ。

 詳しい事は後で聞くとして、一安心である。


「ん?つー事は、ルージュも戻って来てんだよな?」

「戻って来ていますね」

「うわっ、面倒臭ぇ……」


 アッシュが認めると、スカーレットはとても嫌そうな顔をした。


「レット坊、仁殿、立ち話も何じゃから、エルフの里に入らぬか?ワシも、いつまでも薄着で地面に座るのは辛いのでな」


 土下座の後、そのままの格好なので、リリィは地面に座りっぱなしである。

 リリィの服装は、神官のような白衣であり、比較的薄手だ。


「それもそうだな。じゃあ、一旦エルフの里に行くとするか」

「ゴーシュ、お主は人を集め、気絶しているエルフを介抱するのじゃ」

「承知いたしました」


 ようやく、エルフの里に入れるみたいだ。



 俺達はスカーレットに抱えられたリリィ(足腰が弱っている)に連れられ、エルフの里(集落部分)へと足を踏み入れる。


《思いっきり、想像通りのエルフの集落よね》

《ああ、分かり易くていいな》


 ミオが念話で言うように、エルフの里はイメージに限りなく近かった。


 全ての建物は木製、二階建て以上の建物は無し。

 丸太小屋ログハウスが多いが、樹の上に建てられたツリーハウスもある。

 更には、創作物ファンタジーでしか見かけない、デカい樹をくり抜いて、その中に住むと言う、素敵ハウスまで存在していた。


 住民は簡素な服を着ており、男女問わず装飾品は一切付けていない。

 店などは無く、基本的に物々交換。


 エルフ達はもれなく俺達の事を遠目に見ているが、リリィと一緒と言う事もあるのか、話しかけるどころか、近づいても来ない。


 なお、ここに来るまで、『世界樹』はその姿を見せていない。

 アルタに聞いた所、『姿を隠しており見えない』とのこと。


「先程は大急ぎで通り過ぎたが、9年前と変わっておらぬな」

「そりゃ、エルフの里が10年程度で変わる訳ねぇって」


 スカーレットがリリィにツッコミを入れる。


「ここがワシの家じゃ。尤も、ワシも入るのは9年ぶりじゃがな」


 到着したのは、エルフの里で二番目に大きい素敵ハウスだった。

 1番はおさの家である。


「掃除は定期的にしていますし、リリィ様が目覚めると言う事で、ここ数日は毎日掃除しているので、綺麗だと思いますよ」

「偶にしか使わないのに申し訳ないのう。そろそろ、家を明け渡した方が良いかもしれんな」

「そんな事を言わないで下さい。掃除係も光栄だと思っているくらいですから」


 おっさんの様子を見ても分かるように、リリィは敬意をもって接されている。


「そう言ってくれるなら、このままでも良いか。さあ、入るのじゃ」


 リリィ……ではなく、スカーレットが扉を開けたので、俺達はリリィ宅に入った。


「それでは、私はこれで」


 おっさんは人を呼びに行くので別行動だ。


 家に入ると、スカーレットはリリィを木製の揺り椅子に座らせる。

 語り部感、高まる。


「長い話になりそうじゃな。椅子は人数分あるかのう?」

「簡易椅子なら有りますね」


 俺達はアッシュに配られた切り株のような椅子に座ることになった。

 エルフの里感、高まる。


「さて、じゃあ、どこから話をするか……」


 スカーレットが腕を組んで考える。


「俺達を呼んだ理由から話して欲しい」

「ああ、確かにそれが最初だな。細かい話は後でするとして、結論から言わせてもらうぞ」


 ようやく、スカーレットの目的が分かるようだ。


「ジンには、女神の奴をぶん殴る手伝いをして欲しい」


 スカーレットの目的、それはまさしく、この世界の神に弓引く行為だった。

 目を見れば分かるが、冗談ではなさそうだ。


「と言っても、これだけじゃあ、話が分からないよな。順を追って話そうか」

「そうしてくれ。正直、全体像がまだ見えてこない」

「これで分かったら化け物だ」


 スカーレットは『くっくっく』と笑う。


「リリィの婆さんは、この里の語り部だ。滅茶苦茶長く生きていて、誰も知らないような事を大量に知っている」


 見た目は幼女なのに……。

 あっ、うちの元災竜ペスも似たようなモノだったね。


「俺が今から話す内容の大半も婆さんからの受け売りだ。そして、俺も知らない事はまだ沢山ある。ジンには、俺と一緒にその話を聞いて、俺の目標に協力するかを決めて欲しい」


 エルフの語り部の話を聞くのも、スカーレットの真意を聞くのも予定にあったので、一気に済ませられるのは、正直有り難い。

 ただ、話はとても長くなりそうだが……。


「まず、この世界を創った女神だが、気付いているかは知らないが、実は相当に性格が悪い」

「女神教が聞いたら、襲い掛かってくるような話だな。まあ、予想はしていたが……」


 今までの行いから考えて、性格が良いとは言えないよな。


「ジンなら、気付いていても驚かねぇよ。それなら、『スキル』の事も知っているか?」

「ああ、それも知っている」


 スキルの事を知らない相手に話すつもりはないが、知っている相手に隠す気もない。


「ホント、話が早ぇな。面倒な説明を省けて助かるぜ。……女神は、一部のスキルにデメリットを与えた。それは、下手をすれば命にも関わるレベルのデメリットだ」


 やはり、デメリットを付けたのは女神だったのか。


 スカーレットの持つ<英雄の証>。

 コレも分かり易く命に関わるデメリットを持つスキルだよな。貧乏な家だったら、食費で破産するか、腹が減って死ぬ。

 後、多分<勇者>スキルも同様なのだろう。


「これも知っているみたいだな。……このクソデメリット。何で付けられたか、理由を知っているか?」

「いや、そこまでは知らない。多分、碌でもない理由だと思っているけどな」


 女神の正確の悪さを考えれば、碌でもない理由であることだけは想像できる。


「その通り、碌でもない話だよ。『自分を脅かすスキルだから、デメリットを与えて持ち主が成長しないようにした』。……これが、女神がデメリットを付与した理由だ」

「デメリットを与えるくらいなら、スキルを消せばいいんじゃないか?いや、そもそも、そんなスキルを作らなければ良いだろう?」

「無理だな。女神は何かを創る事は出来ても、消す事は出来ない。スキルに対して出来る事は、後からデメリットを付けるくらいのモンだ」


 どんどん重要な情報が出て来るな。

 アルタが知らない話なんだよな?


A:申し訳ありません。女神関連の情報はほとんど得られないのです。


 いや、責めるつもりはない。

 それを知っていて、その不足を補う為にここに来たのだから。


「スキルって、自然発生するモノなのか?」

「ああ、この世界は女神が創ったと言っても、自然発生に任せる部分も多く、一から十まで女神作と言う訳じゃないらしい。当然、スキルも同じだ。……勝手に出来た物が気に食わないからって、後付けでデメリットを与えるなんて、大人げないにも程がある」


 心底不愉快そうにスカーレットが吐き捨てる。

 見れば、マリアとセラも同意するように小さく頷いている。

 二人もスカーレットと同じ、デメリット付きスキルの被害者だからね。


竜人種ドラゴニュートも同じじゃよ」


 そこで、今まで口を挟まなかったリリィが発言した。


「ん?婆さん、どういう意味だ?」

竜人種ドラゴニュートも、女神が用意した種族ではない。自然発生した種族じゃ」

「……デメリットは?」

「簡単じゃ。世間的に、魔物扱いされて駆除の対象になる」


 スカーレットの問いにあっさりと答えるリリィ。

 ふと、思いついたことを尋ねてみる。


「もしかして、魔石の無い魔物は……」

「漏れなく、女神の思惑から外れた生物達じゃよ。大半は人と大差のない身体の造りをしておる。それを、あえて魔物扱いする事で、人との関わりを阻害しておるのじゃ。尤も、一部の条件では、人の側で扱われることもあるようじゃが……」


 納得のできる話だった。

 何故、竜人種ドラゴニュートが人ではなく、魔物扱いだったのか?

 何故、魔石を持つ他の魔物は冒険者になれないのに、ドーラは冒険者になれたのか?

 はっきり言えば、女神が魔物だと言い張っているだけで、人類種と大差は無いのだ。


「まあ、中でも竜人種ドラゴニュートは特別じゃが……。なんせ、天敵としてドラゴンと言う生物まで用意しおった」

「マジか。ドラゴンよりも竜人種ドラゴニュートの方が先に発生したのかよ……」


 普通ならドラゴンが先に生まれ、その後に竜人種ドラゴニュートが産まれそうだ。

 まあ、この世界では両者には生物学的な繋がりが無いようなので、そこまで不自然な話でもないだろう……多分。


「ドラゴン自身に竜人種ドラゴニュートへの敵意を植え付けると同時に、ドラゴンを人間の敵とすることで、竜人種ドラゴニュートも人間の敵と言う立場に追い込む。……嫌がらせとしては、完璧と言ってもいいじゃろうな」

「クソがっ……」


 リリィもスカーレットも不機嫌さを隠さない。

 ある程度、想像はしていたが、本格的にクソ女神だね。


「……それにしても、スカーレットだけでなく、仁殿の陣営にも竜人種ドラゴニュートがいるようじゃが、『秘境』の結界が解けたのかのう?」


 リリィがドーラ、ブルー、リーフ、ミカヅキを見て言う。

 おっと、まさか『竜人種ドラゴニュートの秘境』に関わりがあるのか?


「俺の方……クロアは何も知らねぇみたいだな。真紅帝国内の遺跡近くで、記憶喪失になった状態で見つけたから無理もねぇが……」

「その遺跡は『竜の門』じゃろうな。遠くにある『秘境』と繋がっておる。何かが起きているのなら、把握しておきたいのじゃが……」


 どうやら、結構深く関わっていそうだ。

 無駄骨を折らせるのも申し訳ないので、軽く説明しておこう。


「行っても無駄だと思うぞ。既に門は閉ざされているから」

「な!?一体、何があったというのじゃ……」


 なるほど、リリィは昔の話は詳しいけど、現状全てを把握している訳では無いと言う事だ。

 その点に関して言えば、俺に圧倒的なアドバンテージがある、かもしれない。


「その話は後で良いか?徐々に話が逸れている気がするからな」

「う、うむ。後で聞かせてほしいのじゃ」

「俺にも聞かせてくれ。クロアに関わる話となれば、俺も無視できねぇ」

「分かった。まずは話を進めてくれ」


 二人からの要請を受け、俺は頷いた。


「話を戻すと、聞いての通り、女神は様々なデメリット……悪意をばら撒いてやがる。その内の1つに巻き込まれて死んだ奴がいる。直接、手を下したのは女神じゃねぇ。だが、原因は女神にある。……許せねぇよな?一発、ぶん殴ってやらないと気が済まねぇよな?」


 もしかして、巻き込まれた奴と言うのは、ヴァーミリオンの事なのか?


「だから、俺は女神をぶん殴ってやると決めた。ケジメは絶対に付けさせてやる」


 ぐっと拳を握るスカーレット。


「今までは俺1人でやるつもりだった。だが、つい最近、状況が変わった。そして、前世の記憶に従い、ジン、お前に手伝ってもらう事に決めたってワケだ」


 次は、スカーレットの前世について話を聞くことになりそうだ。


ゴリゴリ明かされていく真実。

今までの話と矛盾があったら、脊髄反射で間違って書いた部分だと思います。

本章の内容の方を先に決めたはずなので。

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