第170.5話 魂について
2話投稿の1話目。
短編ですが、本編で入れ損ねたそれなりに重要な要素の説明をしています。
今後、唐突に出てくることもあるので、出来れば見ておいてください。
これは、異能のレベルが上がり、<生殺与奪>がLV9に、<多重存在>がLV7になった後のお話。
「『魂への接触』と『魂の操作』が可能となった事の副産物として、『個性』と言う概念にアクセスできるようになった」
「もう少し詳しく」
仁のあまりにもざっくりとした説明に対し、ミオが言えたのはそれだけだった。
ミオだけでなく、メインメンバーの全員がハテナマークを浮かべている。
「実は、人や魔物には、スキルとは違う、個人個人のもつ性質、特性と言う物が存在する。今回、分かり易くそれらを『個性』と呼ぶことにした」
「更にもう少し詳しく」
ミオの合いの手を受け、仁は話を進める。
「この『個性』は魂に刻まれた情報であり、スキル程は簡単に変化しない。……そうだな。分かり易くするため、少し例え話をしようか」
仁は頭の中で『個性』と『スキル』の違いについてまとめる。
「俺達の魂と言う物を、1つの粘土とイメージしてくれ」
「油粘土?紙粘土?どっち?意外と大事よ?」
「確かに、印象が大きく変わりますよね……」
日本人組が苦笑する。
「油粘土だな。繰り返し弄れるという意味では、油粘土の方が近いだろう」
「OK。イメージしたわ」
「俺達の魂は、油粘土で出来た棚みたいなものだ。スキルと言うのは、その棚に置いた小物と考えてくれ。成長するスキルは、鉢植えのトマトと考えても良いな」
「至高のサラダね」
「アレはサラダとは言わない」
ミオが一部にしか伝わらないネタ話をする。
「話を戻すぞ。『個性』と言うのは、スキルとは異なり、油粘土自体への混ぜ物だ。油粘土、魂本体とかなり強固に繋がり、混ざっている。そして、一度混ざるとほぼ不可逆だ」
「その『個性』と言うのは、どの程度の影響力がありますか?スキルと同程度ですか?」
マリアが尋ねたのは、仁の護衛として、『個性』にどの程度の脅威度があるかが気になるからである。
「いや、大部分の『個性』はスキルほどの影響力を持たない。ただ、意外と重要な物もある」
少しだけ、深刻そうな顔をする仁。
「一番分かり易いのが、俺の『個性』の1つだな」
「ご主人様、スキルは覚えられないのに、『個性』とやらは持っているのね」
ミオが茶化すように言った。
「それだよ。<スキル習得不可>、それが一番分かり易い『個性』だ」
「うん!超重要ね!」
ミオ、超納得した。
「スキルに関わる『個性』は結構多いな。俺で言えば、<作成系スキル阻害(大)><料理系スキル阻害(特大)>だな」
今明かされる、仁のマイナスな性質の理由。
「『(パーソナル)』が原因だったのね。もしかして、ドーラちゃんの<調剤>も?」
「ああ、<製薬系スキル補助(中)>がある。他にも、マリア達<勇者>スキル持ちには、<スキル習得補助(大)>があるな」
「マリアちゃんですら(大)なのに、ご主人様の<料理>はマイナス方向に(特大)なのね」
「それは言わないでくれ」
仁、これまで、料理に手を出さなかったわけではない。
出して、駄目だったのである。『肉を焼く』が仁に許されたMAX料理なのだ。
「『個性』は、スキルの様にステータスで確認する事が出来ない。棚を見て、何が置かれているかは分かっても、棚自体に何が混ざっているか、分からないだろ?」
「でも、ご主人様は先程、『個性』にアクセスできるようになったと仰っていましたわよね?例外もあると言う事ですわよね?」
セラが言ったのは、仁の最初の発言だ。確かに言っていた。
「ああ、異能のレベルアップで得た『魂への接触』により、棚の混ざり物が分かるようになった。……ただ、相手の身体に触れないと、つまり、本当に魂に触れないと他人の『個性』は分からないんだよ」
<千里眼>では、魂の中までは分からない。
接触によるスキャンをしなければ、魂の情報は得られないのだ。
「スキルの様に、奪ったり、与える事は可能ですか?もう1つの異能、『魂の操作』を用いれば、出来るのではありませんか?」
「現時点では不可能だ。今の俺に出来るのは、『個性』の削除がせいぜいだな」
マリアの問いに即答する仁。
「十分じゃない?少なくとも<スキル習得不可>は消せるのだし……。ようやく、ご主人様もスキルを習得できるのね……出来ないの?」
話の途中で、仁の顔が苦々しい物に変わった為、ミオが恐る恐る尋ねた。
「『個性』と魂の結びつきの強さには段階がある。把握している限りで5段階だな。今の俺には、一番下、第一段階の『個性』しか削除できない」
「<スキル習得不可>の段階は?」
「第五段階だ」
「Oh!」
ネイティブな発音で頭を抱えるミオ。
余談だが、マリアの<スキル習得補助(大)>は第四段階なのに対し、<作成系スキル阻害(大)>も<料理系スキル阻害(特大)>も第五段階である。
世界は、仁に厳しい(他の要素は別の話)。
「逆に、第一段階の『個性』には、何があるんですか……?」
今度はさくらが尋ねる。
「アルタ曰く、ドラゴンが持つ<竜人種嫌悪(特大)>だそうだ」
「それも、『個性』なんですね……」
「ちなみに、竜人種の方に<ドラゴン嫌悪>は存在しない」
仁が直接触れなくても、既に配下となった者の『個性』は全て確認できる。
竜人種は、1人として<ドラゴン嫌悪>を持っていなかった。
「ドラゴンの習性はてっきり、種族特性だと思っていたわね」
この後、ミオがテイムする予定のフェザードラゴンから、<竜人種嫌悪(特大)>を削除するのは、また別のお話。
「ちなみに、種族特性は『個性』とは別の扱いだ」
種族固有の特性は、基本的に『個性』として現れない。
「本当に個人に付随する性質なのね」
「だから個性って名前の通りだろ?」
仁にしては、まともなネーミングである。
「今のところ、『個性』ってご主人様にしか見えないのよね?」
「ステータスに映らないからな。把握済みの『個性』をステータス画面に追加するくらいなら出来そうだが?」
「見せて!隠しパラメータ見せて!」
ミオ、ゲーム脳である。
なお、仁も同じような事を考えたことはある。
「じゃあ、とりあえず俺の『個性』を見せるよ」
進堂仁
個性:
資質系
<スキル習得不可Rank5><作成系スキル阻害(大)Rank5><料理系スキル阻害(特大)Rank5>etc
体質系
<始祖神竜の適性Rank2><鬼神の適性Rank2><魔神の適性Rank2>etc
その他
<地災竜の権能Rank4>etc
*話の都合上、一部個性は非公開となります。
「Rankって書いてあるのが、さっき言っていた段階よね?」
「ああ、他に丁度いい記載場所が無かったから、レベルの位置に書くことにした」
Rankが高い程、他からの影響を受けにくい、つまり、魂と強く結びついている証拠だ。
比較対象が無いので分かり難いが、仁の『個性』Rankは非常に高い。
「『資質系』とか書いてあるのは何?これもスキルと同じような分類?」
「ああ、今回は適当に決めたモノだけどな。資質系はスキルの習得や使用に影響する『個性』。体質系は肉体の性質に関わる『個性』。その他はその他だ」
分類できない物は『その他』でまとめられる。
「災竜の能力も『個性』なのね。スキルに無かったから、どこに反映されているのかと思ったけど……」
『個性』は基本的に個人の中で完結する。
しかし、災竜関連の『個性』は例外的に外部へ大きな影響を与える。
そして、『個性』は基本的にコスト不要なので、MPなどを消費しない。
これだけで災竜の能力の異常性が伝わるだろう。
「俺の体質系とその他は、後付けで得た物が多い。<生殺与奪>で吸収した魂の性質は、『個性』に紐付くと言う事だろう」
「これで、今までイマイチ理屈の分からなかった部分が解明された訳ね」
「そうだな」
今まで、スキルや異能では説明できない話があった。
それらは基本的に『個性』によって説明できる。
実は、アルタも『個性』についての知識はあった。
しかし、その時点ではアクセスできない情報であり、確定したことが何も言えない為、あえて仁に伝えていなかったのである。
「ところで、異能は『個性』と関係ないの?」
「異能は異能だ。スキルでも『祝福』でも『呪印』でも『個性』でも無い。全くの別モノだ」
「分かってはいたけど、異能が一番意味不明よね……」
『個性』は異能によってアクセスできるようになった情報であり、異能によって『個性』が増える事はある。
しかし、『個性』の側から異能に影響する要素は何処にもなかった。
これは、異能が『個性』より上位の存在である証明とも言える。
そう、『個性』と言う新しい理屈を理解したのは良いが、一番身近な能力が理解不能な状況は変わっていないのである。
魂関連は結構設定を練っています。
説明がクドくなるので、出来るだけマイルドにしたいと思っています。
2019/05/12改稿:
時系列とレベル間違いの修正。