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第163話 迷宮攻略(正式版)と攻略報酬

前話の一番最後に裏伝を追加しました。暇だったら見てね。


この作品は、(ある意味)創作作品の禁忌の1つを躊躇なく踏み抜きます。

 夕方になるとエステア王国の迷宮探索者組であるシンシア、ケイト、カレン、ソウラの4人がやって来た。


「旦那様!迷宮に来てほしいのです!」

《シンシアさん、もう少し詳しく説明しないと旦那さまも分からないと思いますよ?》


 開口一番、説明のない要求を突き付けてきたシンシアをケイトが窘める。

 最初から、知的なケイトから話を聞きたい。シンシアわんこはハウスだ。


 俺の視線の意味に気付いたのか、ケイトが話を続ける。


《実は、私達のパーティがついに迷宮の50層、ボスの前まで到達したのです》

「ついに50層ボスまで到達したのか。よく頑張ったな」


 シンシア達の目的は迷宮の50層攻略だ。

 迷宮の50層攻略が近いと言う話は聞いていたが、知らない内にボス部屋の前まで到達していたようだ。


《いえ、むしろ時間がかかってしまった事を申し訳なく思うくらいです》

「30層台は大変だったよね、カレンちゃん」

「40層台も大変だったよね、ソウラちゃん」

「旦那様が50層をクリアしてから、大分時間が経ったのです」


 30層からは殺意が桁違いだから、20層台と同じ感覚で進むことは出来ない。

 時間がかかるのは当然だし、そもそも他の探索者はそこまで行っていない。


 シンシア達が特別遅かったと言う訳ではない。

 ただ、俺と比較するのが間違っているだけだ。


《旦那様、もしよろしければ、私達の迷宮最後の戦い、ご覧頂けないでしょうか?》

「頑張るのです!」


 なるほど、俺の命じた迷宮攻略を達成する瞬間を見て欲しいと言う事だな。

 ……と言うか、言われなくても出来れば見たいよ?


 クロード達がSランクになる時は、エルガント神国遠征中だったため、直接見に行くことが出来なかった(マップ上では見てた)。

 今回はエステア迷宮、つまり、俺ん家での戦いだから、見に行くのは全く苦ではない。

 むしろ、迷宮支配者ダンジョンマスターとして見ておく必要すらある。


「良いだろう。俺は迷宮支配者ダンジョンマスター専用の空間でお前達を見ている。……危なくなっても、手助けはしてやらないからな?」


 いくら配下とは言え、それはそれ、これはこれなのだ。


《もちろんです》

「やるのです!」

「「頑張ります!」」


 尤も、万が一シンシア達がボスに負けて死んだ場合、回収して蘇生させるつもりだ。

 ただし、二度と迷宮探索者として活動させることはない。

 表向きは死んだ扱いにして、迷宮の裏でこっそり生きて行ってもらう。

 死んだ探索者を助ける以上、完全なフェアとは言えないが、迷宮支配者ダンジョンマスターとしても譲れない部分はあるのだ。


 シンシア達が迷宮に向かう準備をしている間に、俺もダンジョンコアの間に入る。


 ダンジョンコアの間にはダンジョンコアがあり、迷宮支配者ダンジョンマスターしか入ることが出来ない。ただし、迷宮支配者ダンジョンマスターが決まっていない間は主任迷宮保護者チーフキーパー、つまりキャロも入れる。

 マリアであろうとも入れないので、マリアには申し訳ないがダンジョンコアの間の外、ダンジョンクリア後の空間に待機してもらっている。

 俺は帰って良いって言ったんだけど、マリアが意地でも残るって言うから……。


 どうでもいい話だけど、ダンジョンクリア後に行ける空間でマリアが待っているって、まるで真のラスボスみたいだよね?

 その迷宮、クリアさせる気ねぇな……。


 ちなみに、本来のボスがこちら。

 もちろん、俺の戦った偽あずまではないし、マリアでもない。


悪魔王・ルシファー

LV150

スキル:

武術系

<槍術LV10><投擲術LV10><格闘術LV10>

魔法系

<火魔法LV10><水魔法LV10><氷魔法LV10><闇魔法LV10><並行詠唱LV10><無詠唱LV5>

身体系

<身体強化LV10><飛行LV10><浮遊LV10><物理攻撃耐性LV10><状態異常耐性LV10><魔法耐性LV10>

その他

<反転LV10><迷宮適応LV10><門番LV10><反逆LV10><黒輪LV10>

備考:迷宮内全ての悪魔を統べる者。


 久しぶりだから説明しておくと、迷宮の40層台(41~50層)では、日中は(見た目が)天国の様なエリアに、夜間は地獄の様なエリアになる(難易度はどちらも地獄)。

 ラスボスは<反転>のスキルにより、地獄モードでは悪魔王ルシファーになり、天国モードでは大天使ルシフェルになる。


 俺は50層までの構成に関して一切弄っていないので、これは前迷宮支配者ダンジョンマスターである東の趣味そのままである。

 エリア全体で天国・天使、地獄・悪魔のイメージを強くして、ラスボスに二面性を持つ堕天使を配置する。調和のとれた、美しいテーマを持つエリアと言えるだろう。

 逆に言えば、俺が戦った偽あずまが若干浮く。調和ェ……。


 補足しておくと、天使ルシフェル悪魔ルシファーも40層台の天使・悪魔達と同じように、マネキンの様なのっぺりとした顔をしている。

 顔以外は他の天使・悪魔と異なり、豪華な装飾品の付いた威厳のある服装だ。流石にそこまで同じだと、特別感がないからな。

 武器は大きな槍だ。悪魔と言ったら槍だ。天使ルシフェルの方は大剣だ。


 また、サイズは3mくらいと控えめで、他の階層のボスよりも小さい。

 東はラスボスだからと言って、無駄に大きくする趣味はないようだ。もちろん、小さいからと言って弱いなんてことはない。

 スキルを見てもらえればわかると思うが、ここまでの天使・悪魔達の集大成ともいえる構成となっている。逆に言えば、今までしっかり考えて戦っていれば、対策は身に付いているとも言える。

 ちゃっかり<反逆>スキルで勇者を殺しに行くのもポイントだ。


 ……………………あれ?

 今気付いたんだけど、ルシファーって名前、以前セラが倒した最終試練の魔神と同じじゃないか?

 同一個体……な訳はないけれど、何か関連があるのか?


A:単なる名前被りです。


 東……、最後の最後で何て締まらないポカを……。

 いや、魔神の存在を知らなかっただけなんだろうけどさ……。



 今は亡き友を偲んで待っていると、ボス部屋の前にシンシア達がやって来た。


 ふむ、思った以上に完全武装だな。

 シンシア達の迷宮攻略を見るのも久しぶりなのだが、装備はほぼ全て秘宝級アーティファクト以上で統一しているようだ。


 シンシアは『竜人種ドラゴニュートの里』でも見せてくれたように、完全に肉弾戦にシフトしており、武器は籠手、防具は最低限で金属をほとんど使っていない。

 いや、地味にドラゴンの皮で作った胸当とか使っているから、見た目ほど防御力は低くないのか。先日のドラゴン狩りとは別件で手に入れたモノだろうな。

 後、籠手は地味に伝説級レジェンダリー装備みたいだ。良くある、魔力を攻撃力に加算するタイプの代物だな。

 ついでに、40層のボス初回討伐報酬である『不死者の翼ノスフェラトゥ』も装備している。空中移動アイテムは最前線で戦うシンシアに使わせる方針のようだ。


 カレン、ソウラは戦闘スタイルを大きくは変えておらず、カレンは槍装備、ソウラは剣、盾装備となっている。

 シンシアと違い、動きを阻害しないようなオリハルコン製の軽鎧を着こんでいる。アレ、シンシア達が集めたオリハルコンかな?

 カレンは<火魔法>、ソウラは<氷魔法>を使うので、魔法の発動を補助する魔法の道具マジックアイテムも複数装備している。

 言い方はあまり良くないが、シンシアやケイトと異なり、2人は圧倒的な天才と言う訳ではないので、地に足の着いた堅実な装備だ。


 一番ぶっ飛んでいるのがケイトの装備だ。

 肉弾戦をするつもりがないようで、完全に魔法特化の装備となっている。

 まず、武器は魔法の補助をする為の短いロッドだけだ。アレは殴るための武器としては使えそうにない。

 防具はほとんど着けておらず、攻撃は回避するモノと割り切っているようだ。

 <千里眼システムウィンドウ>による詳細なマップで世界を見ているケイトだからこそできる割り切り方だな。

 その代わり、魔法の道具マジックアイテムは大量に保持しており、魔法の補助、味方への支援を一手に担っている。


 シンシア達は最後のミーティングをボス部屋の前で行った後、覚悟を決めてボス部屋の扉を開いた。

 部屋の扉が閉まり、ルシファーが姿を現す。


《予想通り、悪魔型の魔物ですね》

「ケイトちゃんの予想的中なのです!」


 ケイトはラスボスの性質をある程度予想していたようだ。

 それらしい魔法の道具マジックアイテムを多めに持っているね。正解だよ。


「それじゃあ、行くのです!」


 いつものように、まずはシンシアが特攻する。

 50層まで来たけど、結局シンシアの性質は変わらなかったな。


 迎え撃つルシファーが大槍を振るうが、シンシアは素早く避け、ルシファーの脇腹に一撃を入れる。吹き飛ぶルシファー。

 ……流石のラスボスも、今のシンシアを相手に近接戦をするのは分が悪いな。


 ルシファーは距離を取り、<無詠唱>の魔法攻撃に切り替えようとする。

 ルシファーの<無詠唱>はLV5なので、LV5までの魔法なら無詠唱で放てる。消費MPは増えるが、ラスボスの最大MPがそんなに低く設定してあると言う事はない。


 ルシファーがシンシアに向けて<闇魔法LV5>の『ダークジャベリン』を放とうとした瞬間、ケイトが事前に放っていた『アイスバレット』が着弾して、ルシファーの魔法が大きく逸れる。

 ルシファーの移動地点を予測し、行動を阻害すると言うケイトお得意の離れ業だ。

 LV5魔法である『ダークジャベリン』にLV1魔法である『アイスバレット』を当てても相殺することは出来ないが、発動前に当てて攻撃を逸らせることは可能だ。


 魔法の直撃により体勢を崩したルシファーにカレン、ソウラが刺突、斬撃を加える。

 ダメージはシンシアの一撃に比べれば多くないが、確実に蓄積されていくことだろう。


《引いてください!》


 ケイトの指示が出ると同時にカレン、ソウラが飛び退く。

 次の瞬間ルシファーは槍を大きく横回転させ、範囲攻撃を仕掛けてきた。


 残念ながら、攻撃範囲には誰もいない。


「食らうのです!」


 それどころか、『不死者の翼ノスフェラトゥ』で空中を移動していたシンシアがルシファーの真上から思い切り殴りつけた。

 シンシアもマリア程ではないけど器用だから、『不死者の翼ノスフェラトゥ』を完全に使いこなしているな。


 シンシア達とルシファーの戦いを見始めて5分。

 凡そ、最初の攻防から戦いの経過は変わっていない。


 一撃の威力は低いが、バランスの取れた連携でカレン、ソウラがルシファーに攻撃を繰り出し、シンシアの大ダメージ攻撃の補助をする。

 ルシファーの攻撃は回避されるか、放たれる前にケイトによって潰される。

 シンシア達は基本的に回避主体の戦闘スタイルで、どうしても回避できない攻撃はカレン、ソウラが受けるという役回りだ。


 ……あー、もしかして、パターン入った?


A:入りました。


 思っていた以上に早かったな。


 実は、この迷宮に存在する魔物のほとんどは、特定の行動ルーチンにより決まった行動をとるように設定されている。

 魔物と言いつつも、感情のようなものはなく、ある意味ではロボットに近い。

 これは東の趣味ではなく、迷宮の基本仕様だ。


 意外な事に、ボスの方が行動ルーチンの種類は少ない。

 条件の決まったボス部屋でしか戦わないから、そこまで複雑に行動ルーチンを指定しなくて良いと言うのが理由である。


 考えてみて欲しい。

 『行動予測が得意なケイト』と『比較的単純な行動ルーチンしかないボス』の組み合わせが、何をもたらすと言うかを……。


 そう、ケイトの前に、大抵のボスは行動を読まれ、何も出来ずに潰されるのである。

 ラスボスも同じかー……。


 <物理攻撃耐性LV10>と<魔法耐性LV10>があるから、時間はかかるだろうけど、それこそ時間の問題でしかないよな。


 ケイトの用意周到なところは、態々ボスに挑むのをPM7時開始にしたところだ。

 先にも述べた通り、40層台は時間によって天国モードと地獄モードが切り替わる。その境界はAM/PM7時だ。

 そして、モードの変更が入ると迷宮内の魔物が<反転>するように、ラスボスのルシファーもAM7時にはルシフェルに<反転>する(HPは据え置き)。

 PM7時に戦闘開始すれば、12時間はルシファーのままとなり、2パターンの敵と戦わなくて済む。長期戦を見越し、同じモードで戦い続けられるよう配慮されているのだ。


 用意周到に準備して、危なげなく勝利する。

 これがケイト達の、いや、ケイトの基本方針だ。


 探索者と言うのは、1戦して終わりではなく、継続的に戦い続ける必要がある。ギリギリの勝利と言うのは後の事を考えれば負けに等しいのだ。

 ケイト達は探索者として、徹底的に継続戦闘能力やスタミナを強化していた。

 回避を主体にするのも、防御に比べれば武器の損耗を押さえられるからだ。

 そして、ケイトの方針は耐性が多く、長期戦がほぼ確定しているルシファーとの戦いでは、非常に有効に働いた。


 ここまで噛み合った相手なら、負ける要素がほとんどないよな。



 それから4時間後、ルシファーは倒れた。



 ……本当にケイトは凄まじいな。

 HPが0になり消滅する悪魔ルシファーを見て、今更ながらにそう思う。


 正直に言うと、エステア迷宮を攻略するための同行者、後の探索者組を集めた時、最終的には勇者であるシンシアが中心人物になると考えていた。

 しかし、気付いたらパーティの中心、リーダーはケイトになっていた。


 シンシアにリーダーの適性がない事は最初の戦闘(大暴走)で分かったが、ケイトがここまで伸びるとは思っていなかった。

 持ち前の<空間把握>と<演算>を駆使し、状況把握、行動予測をして後衛から指示、援護をする司令塔に成長した。

 まさか、ラスボスまでほとんどダメージを受けずに倒すとは……。これは本当に嬉しい誤算と言ったところだ。


「やったのです!」

「「勝てたー」」

《皆さん、お疲れさまでした》

「「ケイトちゃんもお疲れ様」」

「お疲れ様なのです!」


 ボスを完封したシンシア達が、腰を下ろしてお互いを労う。

 完封したとはいえ、長期戦であったこと自体は間違いがなく、疲労の色が見える。


 そして、ラスボスの登場地点から光の柱、ワープポイントが現れる。

 ワープポイントの先がダンジョンクリア後の空間に繋がっている。


《旦那様を待たせる訳にもいきませんね。さあ、行きましょう》

「少しだけ休ませてほしいのです……」

「1分で良いですから」

「何なら30秒で良いです」

《……分かりました。少しだけですよ。旦那様、申し訳ありません》


 少し休むくらいで文句は言わないからな。

 アルタ、1分でも5分でも休んで良いって伝えておいてくれ。


A:承知しました。


 さて、俺も迷宮をクリアしたシンシア達を労いに行こうか。

 ダンジョンコアの間から出て、ダンジョンクリア後の空間に戻る。

 こちらにも光の柱が立ち上がっている。


「マリア、待たせたな」

「いえ、問題ありません。シンシアちゃん達は勝ちましたか?」


 マリアのいたダンジョンクリア後の空間からはボス戦が見えない。

 少し汗をかいているところを見ると、1人で訓練していたようだ。


「ああ、危なげのない戦いだった」

「それは良かったです。仁様のお望み通りになったのですね」


 シンシア達の無事じゃなくて、俺に都合良く話が進んだから『良かった』なのか。

 マリアは本当にブレないな。

 流石にシンシア達の無事を全く喜んでいないと言う訳ではないだろうが……。


-ブーン-


 マリアと話をしていたら、光の柱から転移の音と共にシンシア達4人が現れた。


「旦那様、勝ったのです!シンシア、勝ったのです!」

《シンシアさん、先に行かないで下さい!》

「「失礼しまーす」」


 全員が通り終わると、光の柱は弾けるように消えた。


 思ったよりも休憩時間は短かったようだが、全員しっかりと回復したようだ。


「お疲れ様、良い戦いだった」

「「「《ありがとうございます!》」」」


 人によっては盛り上がりや面白みに欠ける戦いと言うかもしれないが、俺は策によって危なげなく勝つと言うのも『良い戦い』だと思う。

 暴論ではあるが、居ると分かっているボス相手に危機ピンチになると言う事は、準備が足りていないか、予想が甘いかのどちらかでしかないのだからな。


「それじゃあ早速、迷宮のクリア報酬を渡そうか」

「やったのです!劣風竜ワイバーンなのです!」

「いや、劣風竜ワイバーンは迷宮から・・のクリア報酬じゃないぞ」


 勘違いしているシンシアに修正を入れる。


「そうなのです?」

「ああ、劣風竜ワイバーンはあくまでも女王騎士ジーンとして贈る予定だ。これから渡すのは、迷宮支配者ダンジョンマスターとして贈るクリア報酬だ」


 より正確に言うと、前迷宮支配者ダンジョンマスターである東が用意した報酬だ。

 隠しルートで迷宮支配者ダンジョンマスターになった俺にはダンジョンコアが贈られたが、本来のルートでクリアした者の為の報酬も東は用意していたのだ。

 俺は迷宮に関しては、基本的に東の方針を引き継ぐ予定なので、報酬もそのまま使わせてもらう事にした。


「お前達に渡す物は大きく2つある。1つは普通のクリア報酬、もう1つはラスボスの初回討伐報酬だ。今までのエリアボスにも初回討伐報酬は在っただろ?」

「『不死者の翼ノスフェラトゥ』使えるのです。でも長時間は疲れるのです」


 人間、空を飛べるようには出来ていないからね。

 使わない機能を無理に使うイメージなので、それなりに精神的負担はあるよ。


「長時間飛行なら今後は劣風竜ワイバーン一択だな。……それはさておき、当然ラスボスにも初回討伐報酬はある。それがコレだ」


 俺は手に持った石を見せる。


《相転移石……ですか?》


 見た目は迷宮からの帰還、復帰用アイテムである相転移石と大差がない。

 しかし、その効果は大きく異なっている。


「惜しいけど違うな。これはその名も『転移石』だ。簡単に言えば、迷宮上の好きな場所に転移できる。回数無制限、移動距離無制限だ。俺の迷宮支配者ダンジョンマスター権限の転移と似たようなモノだな」


 双方向の転移石ではない。ただの転移石だ。

 余計な制限が付いていないと言う事でもある。


「それは凄いのです!採取依頼が捗るのです」

「採取依頼とかしていないけどね」

「迷宮攻略しかしなかったからね」

《『ポータル』で事足りる、とは言うべきではないですよね?》


 意外と評価が低いですね。

 まあ、既にバンバン転移している俺達からしてみると、価値も微妙になってしまうのは仕方のない事かもしれないな。

 それじゃあ、テコ入れをしようか。


「……実は、迷宮の好きな場所に転移できるって部分には裏の意味がある。ケイト、迷宮のには何がある?」

《エステア王国がありますよね……もしかして!?》

「ああ、エステア王国内なら、迷宮だろうが、地上だろうが、好きな場所に転移できる」


 これがあれば、エステア王国内ならばどこにでも転移できる。

 王城だろうが金庫の中だろうがどこでも、である。


「あれ?もしかして旦那様もエステア王国内ならどこにでも転移できるのです?」

「言ってなかったか?出来るぞ」


 シンシアの問いに答える。


「初耳なのです」


 アイテムに出来て、迷宮支配者ダンジョンマスターに出来ない訳がない。

 今までも迷宮内とエステア王国の屋敷を行き来するときには使っていた。


 よく考えてみれば、この国が一番完全に掌握できているんだよな。

 他の国はトップを配下に置いたり、経済的に掌握しているだけだが、この国だけは全ての土地、資源を完全に掌握できている。

 まさしく、この国全ての生殺与奪を握っているのだ。握るだけで、特に何もしないけど。


《便利……ですけど、持っているだけで命を狙われかねませんね》

「その辺の判断はケイト達に任せるよ。転移石は4つ渡すけど、所有者登録出来るのは1つにつき1人だけだからな。後、所有権の譲渡は可能だが、再登録は出来ないようにしてある。脅して奪うことは出来るが、殺して奪うことは出来ないって事だ」


 東も危険性は理解していたようで、保険のような機能がいくつかある。


《分かりました。転移石の扱いに関しては、後でみんなで話し合いましょう》

「物騒なアイテムだね、カレンちゃん」

「厄介なアイテムだね、ソウラちゃん」

「便利なアイテムは使いたいのです!」


 問題なのは、便利すぎる事なんだよね。

 初回討伐報酬だからって奮発しすぎだよ。


「それと、通常のクリア報酬は選択式になっているからな。結構バリエーションがあって、今までのボスの限定ドロップ詰め合わせとか、初回ボーナス詰め合わせ等があるぞ」


 初回討伐報酬詰め合わせは、『不死者の翼ノスフェラトゥ』を始めとする、各エリアボスの初回討伐報酬4つ入りとなっている。

 限定ドロップ詰め合わせの方は、部位欠損を治す『神薬 ソーマ』や超レア鉱石の『ヒヒイロカネ』のように、ドロップ率の超渋いエリアボスドロップの詰め合わせだ。

 どちらも、売れば一財産である。売る奴は滅多にいない。


「後は数に限りがあるけど、東がコレクションした伝説級レジェンダリー装備を貰う事も出来る。……正直、ここまで到達できる探索者なら、伝説級レジェンダリー装備くらい持っているだろうから、今更過ぎると言えば今更過ぎるんだけどな」


 俺が迷宮を攻略して迷宮支配者ダンジョンマスターになった時、マリア、ドーラに伝説級レジェンダリー装備を渡した。

 実はこれは東コレクションだったのである。

 ボスを倒していないとは言え、実質的に迷宮クリアをしているのだから、クリア報酬を渡しても問題ないと判断した。


「旦那様、その報酬はパーティで1つなのです?」

「ああ、そのつもりだ。ただ、伝説級レジェンダリー装備だけは4つまで貰えるな」


 ここまで苦労して伝説級レジェンダリー装備1つだけではショボすぎるが、人数分渡すわけにも行かない(大人数の方がボス攻略は楽なので)。

 そこで東は、ゲームで良く使われる4人パーティを基準にして、パーティ1つにつき4つまで装備を渡すように設定していた。


「よく考えて選ぶのです!」

《そうですね。まず、限定ドロップは選択肢から外れます。今の私達は転移石のおかげでボス攻略が容易です。どうしても欲しければ、ボス部屋付近に転移すればいいのです。旦那様の幸運をお裾分けいただいていますので、ドロップ自体も難しくは無いでしょう。次に伝説級レジェンダリー装備ですが、これもそれ程重要とは言えません。ここでしか手に入らないのは間違いないでしょうが、伝説級レジェンダリー装備自体はここ以外でも入手できます。それに、現時点で伝説級レジェンダリー装備は複数ありますので、同格の装備を増やすメリットは多くありません。となると、初回討伐報酬が一番有力でしょう。迷宮攻略に役立つのは勿論、汎用性が高いアイテムが多いようですからね。火竜フレイムドラゴンから得られる『タフネスリング』はもちろん、エルダートレントとミノタウロスの初回討伐報酬も役立つ物だったとお聞きします。そして何より、『不死者の翼ノスフェラトゥ』を再入手出来ると言うのが大きいです。パーティの戦力的に1つ目はシンシアちゃんが使用していますが、2つ目が手に入れば私が使うのが良いでしょう。2つあれば別ですが、1つだけだとカレンさん、ソウラさんの連携が崩れかねません。つまり、今度こそ旦那様とお揃いになれます!これだけでも手に入れる価値があるはずです!》

「な、なのです……」


 シンシアが引くほどケイトが考えていた。


《シンシアさん、カレンさん、ソウラさん、私は今までのボスの初回討伐報酬を選択したいと思っています。何か意見はありますか?》

「無いのです」

「「ありません」」


 意見を促しているが、直前の様子を見て反論する者はいないだろう。

 最後は感情論も入ったが、基本的にはパーティのメリットを論理的に考えていたからな。


《旦那様、ボスの初回報酬詰め合わせでお願いいたします》

「ああ、分かった」


 俺はボスの初回討伐報酬4つをシンシア達に手渡す。


《うふふふふ……》


 話していた通り、『不死者の翼ノスフェラトゥ』はケイトが使うようだ。

 滅茶苦茶嬉しそう……と言うか少し目がヤバい。虚ろな目で『不死者の翼ノスフェラトゥ』に頬ずりをしている。


「ああ、そうだ。1つ頼みたい事がある」

《何でも仰ってください》


 思い出したことがあるので声をかけると、正気に戻ったケイトが即答した。

 頼みの内容を問うのではなく、まず最初に承認するのか……。


「4人には俺の存在を秘匿して欲しい。今回は身内の挑戦と言う事で直接俺が報酬を手渡したけど、本来は主任迷宮保護者チーフキーパーであるキャロの役割なんだ」

「そうだったのです?」


 本来、迷宮支配者ダンジョンマスターが迷宮の挑戦者の前に現れる事はない。

 俺達が迷宮を攻略した時同様、キャロが攻略者に対する説明を行うことになっている。


「キャロ、出てきてくれ」

「お呼びでしょうか?ピョン」


 俺が声をかけると、バニーガールの服装(正装)をしたキャロが現れた。

 相変わらず、無理矢理とってつけたような語尾は健在だ。


「彼女がキャロだ。会った事はあるか?」

《はい、エステアの屋敷などで何度かお会いしました》

「シンシアも会ったことあるのです」

「「私達もです」」


 配下が多すぎて、誰と誰が知り合いなのか把握しきれていません。

 俺の配下で人物相関図を書くと凄いことになりそうだな。


「知り合いなら手間が省けたな。キャロ、済まないがケイト達に本来の『攻略者への説明』をしてくれないか?ケイト達は俺の存在を出さず、その説明を公式回答にしてくれ」


 史上初の迷宮攻略ともなれば、しかるべき場所で説明を求められるだろう。

 その時、俺の存在を公にしないで説明をする為にも、キャロから『本来の説明』を受けておく必要がある。そちらならば公に答えても良いだろう。

 一応言っておくと、東の方針でもある。


《分かりました。では、キャロさん、お聞かせ願えますか?》

「はい、では最初から説明させていただきます、ピョン」

「シンシアは聞かなくても良いのです?」

《しっかり、聞いてください。口裏合わせは確実に行う必要があります》


 その場を離れようとするシンシアが、ケイトに捕まった。


「なのです……」


 渋々と話を聞く姿勢を見せるシンシア。

 キャロの説明はほとんど俺の説明と変わらないだろうし、シンシアには退屈だろうな。


「じゃあ、悪いけど俺は先に戻るぞ。……っと、そうだ。これは秘密の情報なんだけど、ラスボスの再出現リポップ周期は1年だ。今日から丁度1年後、またラスボスが現れるから、楽しみにしておけよ」


 そうなのだ。

 他のエリアのボスと同じように、ラスボスも再出現リポップする。初回・・討伐報酬と言ったのだから、予想は出来たと思う。

 再出現リポップが周期1年と言うのは長いと思うが、クリア報酬が確定で貰えるラスボスなので、これでもサービスしすぎだと思う。


「楽しみなのです!」

《『不死者の翼ノスフェラトゥ』……3枚目!?》

「絶対に言えないね、カレンちゃん!」

「誰にも言えないね、ソウラちゃん!」


 何よりも特筆すべきは、他の到達者が居なければ、初回討伐者が連続で討伐できる点だ。

 加えて言えば、再出現リポップ周期を知っていれば狙い撃ちさえできる。バレなければ、何度でも報酬を入手できる。……少し、贔屓しすぎかな?


 興奮冷めやらぬシンシア達をキャロに任せ、俺は屋敷へと戻ることにした。

 と言うか、もう夜遅いので寝る。眠い。


 ああ、そうだ。明日か明後日くらいには、シンシア達の迷宮クリア記念のパーティ開かないと……。


「ふぁああ……」



*************************************************************


設定


・瘴気と魔物の関係

 この世界における瘴気とは、主にある一定以上濃い魔力の淀みの事を言う。


 魔力と言うのは世界中に満遍なく存在し(旧精霊界周辺除く)、循環しているが(旧精霊界周辺除く)、ほとんどの魔力が多かれ少なかれ淀んでいる。

 淀む原因は様々だが、主な原因は魔力の循環が滞る事である(旧精霊界周辺は滞るどころか、空白地帯になっていた)。

 この淀みがある一定以上強く、濃くなると、その領域には魔物が湧出ポップするようになる。そして、魔物が湧出ポップする領域を『魔物の領域』と呼ぶ。

 魔力の淀みは仁の認識しているエリア単位で均一化され、エリア単位で湧出ポップの頻度が決まる。濃度が高い程、頻度も多くなる。


 『魔物の領域』にいる魔物は、特別な理由(魔物の暴走スタンピード等)がなければ、基本的に自身を産んだ領域からは出ない。


 『魔物の領域』が生んだ魔物を全滅させると、ボーナスの様に希少レアな魔物が湧出ポップする。

 これは一旦全滅させた後、数匹湧出ポップした魔物を全滅させても、レアポップはしない。再度飽和する程に増えてからでなければ、全滅させても意味はない。


 厳密に言えば、魔物は瘴気から産まれるのではなく、魔力の淀みが魔石となり、それを基準に不思議な力で魔物になる。つまり、魔物の身体は瘴気で出来ている訳ではない。

 また、『魔物の領域』で湧出ポップする魔物は必ず魔石を体内に持っている。

 魔物には魔石を持つものと持たないものがいるが、魔石を持つ魔物のルーツはほぼ必ず、『魔物の領域』における湧出ポップである(湧出ポップ後に繁殖することもある)。


創作作品において、登場キャラクターの名前被りしている物をほとんど見た事がありません。

関係者の名前を子供に付ける、以外で、偶然の一致をしたパターンなんて、ほぼ皆無でしょう。

普通に考えたら、学校1つ転移していたら、名字や名前も被りますよね?各地を移動する以上、同じ名前の人が居ても不自然じゃないですよね?

ただ、呼び方に困るので、同じ名前が出る場合、必ずどちらかは死にます(あるいは全滅)。

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