第161話 ドラゴン殲滅と決断
前回は変なミスをしていて申し訳ありません。
まだ、ギルドには行きません。クロードが移動中です。
「1万には届かないくらいか。1時間もあれば終わりそうだな」
俺は結界の周囲を取り囲む群れを見て呟く。
「結構集まったんじゃない?本当に竜人種の事が嫌いなのね」
《ドーラもドラゴンきらーい!》
ミオの言葉に反応して、ドーラが「フーッ!」っと可愛く威嚇する。
俺達は現在、『竜人種の秘境』へと来ている。
その目標は『竜人種の秘境』をグルリと囲むドラゴンの生息地、『竜の森』に集まったドラゴン達の殲滅だ。
最初に『竜人種の秘境』を訪れた際に、『竜の森』に生息していたドラゴンを5万匹程殺したんだけど、しばらくしたらまた集まり始めた。
元々、『竜の森』ではドラゴンはほとんど発生しない(0ではない)。
ここに居るドラゴンのほとんどは、他の場所で生まれ、竜人種を殺す為に集まって来たのだ。
「腕が鳴りますわ!何としても、討伐数1位を取ってみせますわよ!」
《ドーラもがんばるー!》
「ご主人様とマリアちゃんが不参加なら、チャンスがあるものね」
「セラちゃん、ドーラちゃん、ミオちゃん、皆頑張ってくださいね……」
俺が管理する『竜人種の秘境』の結界が破られる心配はないが、鬱陶しいので集まったドラゴン達を狩り、その討伐数を競うと言う催しだ。
なお、俺、マリア、さくらの3名は不参加で、見学を決め込んでいる。
シンシア率いるエステア王国探索者組や、魔物娘達のアト諸国連合傭兵組、各地のメイド達がドラゴン狩りに参加している。
カスタール冒険者組も参加しているが、トップであるクロード達はギルド連合地区へと移動中なので、勢力としてはやや弱い。
他には、ドーラ以外の竜人種も何名か参加している。結界の外で訓練をした武闘派竜人種メイド達だ。……結局メイドかよ!
今回の討伐作戦は『竜の森』という人里離れた場所で行われ、かつ、相手はそれなりに強力な魔物であるドラゴンなので、普段はセーブしているステータスを出し惜しみ無しで使っても良い事にしている。
ただし、メインパーティはステータスが高すぎるので制限付きだ。それでも、スキルレベルや装備の性能でかなり有利な事には変わらない。
作戦開始時刻になると、参加者達は次々と『ポータル』で結界の外に出た。
「セラには悪いけど、優勝候補はドーラ一択なんだよな」
「やっぱり、仁君もそう思いますよね……」
ドーラが『竜の森』に転移すると、その近くで結界に対して無駄な攻撃を加え続けていたドラゴン達が一斉に反応した。
そして、ドーラの方に我先にと向かってくる。
《ふぁいあー!》
そんなドラゴン達を<竜魔法>で迎撃するドーラ。
<竜魔法>を放つ度に他の場所に居るドラゴン達もドーラに向かって行く。
以下、エンドレス。あ、敵の残機には限りがあります。
竜人種、及び<竜魔法>には、ドラゴンを集める性質がある。
それも、<竜魔法>のレベルが高い程にその性質は強くなる。
ドーラの<竜魔法>は色々あって上がっており、現在レベル8。これは、『竜人種の秘境』でも最大である。
流石のセラも、最強のドラゴン収集機能を持つドーラには勝てないだろう。
《すぺしゃるふぁいあー!》
おお、一撃で100匹以上のドラゴンが消し炭になった。
さて、そろそろドーラだけでなく、他の参加者の様子も見ておこうか。
当たり前のことだが、ドーラ以外の参加者も次々とドラゴンを狩り取っている。
ドラゴンは本能的にドーラの方に向かおうとするが、目の前の敵を無視してと言う訳ではない。戦闘中なら、そちらが優先されるのは当然のことだ。
今回の討伐作戦では、パーティによる討伐も許可している(討伐数は人数割り)。
貴重なドラゴンとの実戦経験なので(迷宮で無限湧きする火竜は除外)、討伐数を気にせず、普段のメンツで実力試しをしたいと言う者も多かったからだ。
実際のところ、大半がパーティでの参加だったりする。
もちろん、腕自慢はソロでドラゴン狩りをしている。
探索者組の人間の勇者がその良い例だ。
「殺るのです!」
-メキョ!-
ドラゴンに跳びかかり、その顔面を思い切り殴りつけるシンシア。
ドラゴンの顔面が陥没する。
「殺ったのです!」
最初は<杖術>を使っていたシンシアだが、<格闘術>を用いた籠手による近接戦闘術を実践レベルまで鍛え上げた。
今回、迷宮の攻略に関わらない戦いということで(ドラゴン戦がもうないから)、迷宮攻略用のパーティから離れ、ソロでの参加を望んだ。完全な実力試しのようだ。
そうそう、シンシアに並ぶ『良い例』がもう1人いたな。
シンシアと同じ現地産勇者、小人のリコである。
「……」
叫ぶシンシアとは対照的に、無言でソロ戦闘を続けるリコ。
リコの戦闘スタイルは、高速機動と暗器による……暗殺だ。
今も地竜の背後から接近し、首筋に毒のナイフを差し込んだ。
ドサッと倒れ、動かなくなる地竜。……おかしい。どうしてこうなった?
元々、リコの戦闘は特徴的だった。
予知スキルを持ち、要人の護衛を主目的として育てられた。ちなみに、要人とは俺の事だ。
メイン武器を定めず、メイド服に隠した複数の暗器を器用に扱い、必要とあらば投擲する。
小人の特性として小柄で小回りが利く上に、予知スキルを活かすため、意識して速さのステータスを伸ばしていた。
欠点である攻撃力の低さは、先にも述べた器用さで、正確に急所を突くことで補った。
ここまでは良い。
予知スキルにより、不意打ちが効きにくいリコは基本的に防御を捨てている。予知スキルと機動力でとにかく回避すればいいからだ。
加えて、護衛と言うのは戦闘時間が短い程良い。戦闘時間が長引くだけ、護衛対象の危険が増すのだから当然だ。
防御を捨てており、攻撃力にはあまり自信がなく、速さには自信があり、出来るだけ戦闘時間を短くしたい者は、どのような戦闘スタイルをとればいいか?
そう、暗殺者である(異論は認める)。
こうして、小柄な愛玩系少女は、暗殺者系少女へと変貌を遂げたのだった。
護衛と暗殺者って目的、真逆じゃね?
余談だが、毒を使うのは攻撃力の低さを補う為の一手である。
もう1つ余談だが、戦闘中に無駄口を叩かないのは、暗殺者修行の成果である。普段は明るい子だけど、戦闘中だけスイッチが入る仕様のようだ。
……どうしてこうなった?
今回、大型の魔物相手に暗殺を成功させる修行として参加したそうだ。
正面突破のシンシアに、背面暗殺のリコ。
現地産勇者と言うのは、どうしてこうも極端な連中ばかりなのか……。
ああ、1番極端な奴なら今、俺の横に居るよ。
予想よりも早く、30分程で約1万のドラゴンの軍勢は消滅することになった。
《ドーラのかちー!》
「負けましたわ!」
こちらは予想通り、討伐数はドーラがダントツの1位でフィニッシュでした。
「まあ、仕方ないわよねー。マップが使えれば、必殺コンボが使えたんだけど……」
「それは流石にズルいですわ」
ミオの神話級の弓には、自動追尾機能がある。
マップと組み合わせると、マップ上の好きな相手を勝手に追尾して打ち殺す極悪コンボが完成する。流石にそれは何も面白くないので許容できない。
そんな理由もあり、今回は異能の使用を全面禁止しました。マップとか念話とかアルタのサポートとかだね。
「皆、お疲れ様。ドーラ、すっきりしたか?」
《うん!》
ドラゴンが竜人種を嫌うように、竜人種もドラゴンを嫌っている。
ドーラにとって、ドラゴン狩りは良いストレス発散になるのだ。ちなみに、ドラゴンが近くに居るだけでストレスになるそうだ。
《ドーラ、ドラゴンにはぜったいまけないから!》
おお、ドーラがやる気を出している。
……そう言えば、災竜ってドラゴン扱いになるのかな?多分、違うと思うけど……。
A:ドラゴンとは別扱いです。
うむ、それは良かった。
もしドーラが災竜に対抗意識を持ったら、流石に止めざるを得ないからな。
危険すぎる。
「じゃあ、またドラゴンが溜まってきたら皆殺しにしような?」
《みなごろすー!》
「ご主人様、ご主人様。ドーラちゃんの教育に良くないからね?」
ミオの言う通りだ。
ドーラの教育に良くない発言は止めるべきだろう。
「そうだな。ドーラ、修正だ。消し飛ばそうな?」
《けしとばすー!》
「ギリギリセーフ、かな?微妙だけど……」
ミオが首を傾げていた。
『殺す』のように物騒なワードは使っていないよ?
A:マスター。『竜の森』の全滅ボーナス魔物が発生しました。
俺達が雑談をしていると、アルタがボーナス発生の報告をしてくれた。
魔物の領域において、1つのエリアに存在する魔物を減らすと、レアな魔物が発生しやすくなる。いくつか条件はあるが、全滅させると、ほぼ確実に最初の1匹はレア魔物になる。
今回も『竜の森』の魔物を全滅させたから、全滅ボーナス魔物が発生するだろう。
倒すにしろテイムするにしろ、見ておいて損はないだろう。
………………あかん。
俺はマップに映る全滅ボーナスレア魔物を見て、頭を抱えたくなった。
フェザードラゴン(レア)
LV1
<竜術LV1><飛行LV1>
備考:羽毛の生えた翼を持つドラゴン。非常に希少で非常に美味。
そう、ドーラの竜形態と同じ種族のドラゴンだったのだ。
「……ご主人様、どうするの?」
「待って。今ちょっと考えてる」
俺は頭をフル回転させる。
竜人種には、人間形態と竜形態があり、竜形態は実在するドラゴンと同じ姿になる。
ドーラの竜形態はフェザードラゴンであり、レアだが絶対に出会えない存在ではない。
しかし、今まで出会わなかったせいか、出会った時の事を全く考えていなかった。
俺達が魔物に対してとれる選択肢は、基本的に『殺す』か『テイム』のどちらかだ。
しかし、『テイム』が選べない事は分かっている。
以前、試してみたのだが、竜人種が近くに居る状況では、ドラゴンをテイムすることは出来ない。
簡単に言うと、ドラゴンは死ぬまで竜人種に攻撃を加え、テイムを受け入れなくなる。そんなに竜人種が嫌いか……。
そして、残る選択肢は『殺す』だが……。
ドーラの前で、ドーラと同じ姿をしたドラゴンを殺すのか?
いくら、嫌いなドラゴンとは言え、決していい気分はしないだろう。
俺も出来れば遠慮したい。
隠されし第3の選択肢、『見逃す』はどうだろうか?
次の討伐作戦で確実に死ぬな。今も『竜人種の秘境』の結界に攻撃を始めたし……。
「ドーラはどうしたい?」
選択肢から選べなかった俺は、素直にドーラに聞くことにした。
《たおしてたべるー!》
「え?」
躊躇なく答えたドーラに対し、俺の方が困惑してしまう。
《だって、おいしいんでしょー?》
確かに、フェザードラゴンは美味と言う話は聞く。
聞くんだけど……。
「ドーラの竜形態と同じ姿だけど、構わないのか?」
《あれはドーラじゃないよー?それにドラゴンだからきらいー!》
ドーラちゃん、意外とドライ!
ドーラの名前の由来は『ドラゴン』ではなく、『ドライ』だった?
よく考えれば、『竜人種の秘境』がピンチの時も割かしドライな反応だった気がする。
「ドーラが良いんなら問題はないんだけど……」
《ごしゅじんさまもいっしょにたべよー!》
「それはちょっと考えさせてくれ」
《えー……》
残念そうに言われても、これは譲れない。
ドーラの中で倒すことが確定だと言うのは良い。
しかし、食べるのは抵抗がある。俺が食うのはもちろん、ドーラに食わせる事もだ。
《あ、そうだ!ミオがいちばんりょうり上手だから、ミオがちょうりしてね?》
「え?……え!?」
ミオが驚愕する。
「私に、抱き枕にしている子と同じ姿をした生き物を、捌けと……!?」
《うん!》
一番の問題はそこなんだよな。
いくらドーラ本人じゃないとしても、日常的に愛でているモノと同じ姿のモノを殺せ、食えと言うのは少々ハードルが高すぎる。
当然と言うか何と言うか、さくらも青い顔をしている。
絶対に食べないだろうな。
ちなみに、マリアとセラは意外と平気そうな顔をしている。割り切れているのだろう。
「……駄目だな。どう考えてもフェザードラゴンを食べる気にはなれない。出来れば、殺すことも控えたい」
俺にしては珍しく消極的な意見かもしれない。
しかし、どうしても『同族食い』をイメージしてしまう。
一身上の都合により、『同族食い』は俺にとってNGなのである。
なお、『一身上の都合』のヒントは織原だ。
アルタ、ドラゴンから竜人種への敵意を消すことは出来ないか?
A:始祖神竜のように、殺し、吸収し、再構築すれば敵意は消えます。もしくは、精神を破壊してからテイムをして、修復すると言う方法。<生殺与奪>のレベル9効果及び<多重存在>のレベル7効果を使っても良いかと思います。
意外と方法はあるんだな。
折角だから、<生殺与奪LV9>と<多重存在LV7>のコンボを使ってみようか。
今までは使う相手もいなかったから、試したことがないんだよね。
「とりあえず、フェザードラゴンはテイムする事にしました」
《えー!》
俺の決定にドーラが抗議の声を上げる。
「ほっ……。料理は流石に無理だって……」
「良かったです……」
ミオとさくらも安心した表情を見せる。
「とても残念ですわ……」
セラはフェザードラゴンを食う気満々だったようだ。ダメです。
《ドラゴンきらーい!》
「ドーラの気持ちは分かるけど、今回は我慢してくれ。俺達が嫌なんだ」
《むー……》
ドーラがむくれているので、俺は丹念に撫でて機嫌を取る。
徐々にドーラの機嫌が回復していく。
《せめて、ごしゅじんさまはテイムしないでー……》
ある程度機嫌が回復した辺りでドーラが言う。
「ああ、分かった。ミオ、頼んでも良いか?」
「おっけー!私専用の抱き枕候補ね!」
ドーラの頼みを聞き、ミオにテイムを任せる事にした。
マップに従い、俺達は結界に攻撃を加えるフェザードラゴンの元にやって来た。
「キュイ!キュイ!」
フェザードラゴンはドーラの様子を見るや、迷わずに攻撃を仕掛けてきた。
風属性の<竜術>が飛んできたので、軽く叩いて消し飛ばす。
「こんな小さなドラゴンでも、竜人種への敵意は変わらないんだな」
《むー!》
ドーラはドーラでドラゴンが嫌いな様子。
「キュウ!」
<竜術>が通じないと見るや、今度は空を飛んで体当たりを仕掛けてきた。
「よっと」
「キュムグッ!?」
飛んでくるフェザードラゴンの口を塞ぐように掴み、動くことも<竜術>を吐くことも出来なくする。
殺さないように、<手加減>は全力発動中だ。
「それじゃあ、<生殺与奪>と<多重存在>のコンボを使ってみるとするか」
「仁様の新しい力、拝見させていただきます」
マリアの心構えが違う。
「あ、ご主人様。<魔物調教>使っておかなくても良いの?」
「後からでも大丈夫だろ?」
A:大丈夫です。
「アルタのお墨付きもあるし、早速発動!」
俺はフェザードラゴンに<生殺与奪LV9>&<多重存在LV7>を使用する。
「ムグ!?ムググググ……?」
ジタバタと暴れるフェザードラゴン。
暴れ方は徐々に激しくなっていった。
ある程度時間が経つと、今度は暴れ方が弱くなる。そして、フェザードラゴンは失禁した。口の隙間からは涎が垂れ、目からは涙、後に血涙が流れる。
最後には暴れる力を失い、ピクピクと痙攣するだけになった。
「よし、上手く行ったな」
「……え?これで?」
俺に掴まれ、色々と垂れ流しながら力なく垂れ下がるフェザードラゴンを見て、ミオが若干引きながら尋ねてくる。
「ああ、もう竜人種への敵意は残っていないはずだ。テイムして良いぞ」
「う、うん……」
恐る恐るミオが<魔物調教>を発動する。
掴まれたままのフェザードラゴンに、テイム用の陣が当たる。
「……何の抵抗も無くテイムできたわね」
「抵抗できるように見えるか?」
俺はぐったりしているフェザードラゴンを見せて尋ねる。
「無理でしょうね……」
「経過はどうあれ、フェザードラゴンはミオがテイムしたんだ。はい、あげる」
「ありがと……」
俺はミオにフェザードラゴンを渡す。
色々垂れ流していたので、『清浄』を一発かけておいた。
「よいしょっと。……メスね」
ミオはフェザードラゴンを持ち上げ、股を確認して判別する。
動物の性別に関して、ミオは割と躊躇せずに確認する。
「名前はどうしようかしら?」
「シロは駄目だからな」
元の世界の飼い猫、現在のレガリア獣人国女王シャロンの前世と被る。
「いくら何でも、そんな安直な名前つけないわよ」
「安直で悪かったな」
俺はネーミングセンスがいまいちだって公言しているだろ。
「そうね。『ブラン』にしましょう」
「その心は?」
パッと理由が思いつかないので尋ねる。
「空を飛ぶ白いドラゴンから『空白』。少し弄って『ブラン』よ」
「『ク』は何処に行った?」
「死んだわ」
死んだのか……。
とりあえず、フェザードラゴンの名前は『ブラン』で決まりました。
しばらくすると、フェザードラゴン改めブランが目を覚ました。
「キュウ!」
「おー!モフモフねー」
テイムされたことは分かるようで、ミオに飛びついた。
……ふと、気になったことがある。
「おいで」
「キュ!?」
俺が声をかけると、ブランは慌てて俺の方に飛んできて、俺の目の前で仰向けになった。
少し震えながら腹や股を見せ、敵意は無く、従順であることを示している。
「ふ、服従してる……!」
「多分、<多重存在LV7>の副作用みたいなものだろうな」
「また……寝取られた……」
ガックリと肩を落とすミオ。
以前、ミオの従魔である犬猫をモフモフしたら、俺の虜になってしまった。
またしても、主人であるミオ以上に心を奪ってしまったようだ。
「私の味方は狼だけなのね……」
「ああ、ミオ、今度ポテチをモフモフしても良いか?」
「や・め・て!」
ポテチの方は毛触りがゴワゴワらしいから、あまり興味はないんだけどね。
その日の夜、俺の部屋をセラが尋ねてきた。
人払いを頼まれたので、部屋で遊んでいた始祖神竜、天空竜、灰人の3人を退室させる。
なお、ドーラはさくらの元で抱き枕だ。
「ご主人様に報告……謝罪?したい事がありますわ」
「どっちなんだ?」
報告なの?謝罪なの?
「恐らく、ご主人様の許容範囲に入っているとは思うのですが、実際に聞いてみないと確証が得られない内容なのですわ」
「ふむ、とりあえず聞かせてもらおうか」
俺が促すとセラは気まずそうに話し始めた。
「実は私、以前フェザードラゴンの肉を食べた事があるんですの」
「……もしかして、俺がフェザードラゴンを食べるのを禁じた時、残念そうにしていたのは、前に食べて美味かったからか?」
フェザードラゴンを食べる話の時、1人だけ反応が違ったからな。
「ええ、その通りですわ。前に食べ歩きをしていた時に、希少な食材を使った料理と言う事で、ドーラさんには申し訳ないと思いつつ、好奇心に負けて食べてしまいました」
「まあ、希少な食材のようだし、見かけたら食べてしまうのも無理はないか……」
美味で希少な魔物となれば、セラに無視することは難しいだろう。
「ご主人様が私達に『絶対にフェザードラゴンを食べるな』と言うのでしたら、私は既にその命令に背いていることになりますので、ご主人様へ謝罪いたしますわ」
「俺は命令の前にしていた事を咎めるつもりはないし、そもそも、そんな命令をするつもりもない。俺やドーラの目の前でフェザードラゴンが死ぬのが嫌だっただけで、知らない場所で死んだフェザードラゴンにまでは興味がないから」
はっきり言えば、俺とドーラの見ていない場所なら、配下がフェザードラゴンを殺しても文句は言わない。
まあ、ドーラの存在を知っている配下は、手が引けてしまうとは思うが……。
「もちろん、ミオがテイムしたフェザードラゴンに手を出すことは許さないぞ?」
「私、そこまで外道ではありませんわ」
俺が冗談を言うと、セラも苦笑しつつ反論した。
「それで、フェザードラゴンは美味かったのか?食うつもりはないが、多少気になる」
俺の中でフェザードラゴンは既に食材カテゴリから外れている。
今後も食べるつもりはないが、話くらいは聞いておきたい。
「ええ、とても美味しかったですわ。食感は鳥肉なのですが、味付けをしなくても最初から十分すぎるほどの旨みがあり、シンプルに焼いただけでも美味しく、調理してもしっかりと味の自己主張をしてきますわ」
少なくとも、『焼いただけ』と『調理した物』の2パターンは食べた事が明らかになった。
「ただ、美味しいのは美味しいのですが、罪悪感は消えませんでしたわ。ご主人様とドーラさんがフェザードラゴンを食す事を是とすれば、大手を振ってフェザードラゴンを食べられたので、残念だと思ったのですわ」
あの場で食べたかったと言うよりは、食べても良いという空気が望みだったようだ。
食う気だけに……。
「俺とドーラの目につかない場所でなら、食べる事を禁止はしないぞ」
「良いんですの!?」
セラが大げさに反応する。
「ああ、ただし、調理済みの物を外で食べる場合に限る。食材として持ってきて、メイドに捌かせるのも避けて欲しい」
「メイドの手料理が食べられないのは少し残念ですけど、了解ですわ。つまり、屋敷には一切持ってくるなと言う事ですわね?」
「その通りだ。ただ、メイドを連れて行くこと自体は禁止はしないぞ」
「!?」
セラがカッと目を見開く。
「ミオさんはフェザードラゴンを捌くのを嫌がっていましたから、他の料理メイドが必要ですわね。ニノさんに声をかけてみましょう。ああ、でもニノさんもドーラさんと交流があるから、捌くのを嫌がるかもしれませんわね。ドーラさんと交流が無く、比較的<料理>レベルの高い料理メイドの方を探さないといけませんわ」
検討がガチなんですけど……。
ブラン「……」
ク「殺せ」
新しい形のくっころ。