第157話 公開処刑と光の剣
決闘イベント、有体に言って舐めプですね。
ある意味、とても珍しいことになっている。
「おい、本当にあの小娘をぶちのめせば、俺様の罪は軽減されるんだよな」
「ああ、レガリア獣人国の国王として誓うよ。ただし、この決闘で君に降参する権利はない。もちろん、彼女には降参する権利があるから、降参したのに攻撃したら君の負け扱いで、処刑は確定になるよ」
「ちっ……。決闘じゃなくて、公開処刑のつもりなんだろ。だが、あんな小娘が相手とは、俺様も舐められたもんだな」
「僕も小娘だよ。僕に負けたレオパルド君」
「てめぇ……」
バルコニーで話をしているのはシャロンとレオパルドだ。
レオパルドは拘束されているが、<回復魔法>がかけられたので大分回復している。
ただ、シャロンパンチで潰れた鼻は元に戻っていない。
これから始まるのは、レオパルドとマリアの決闘である。
間違えた。マリアによるレオパルドの公開処刑である。
遡る事1時間前。
マリアがシャロンを止めた直後だ。
「本気かい?そんな事にユリシーズ救出の対価を使うなんて……」
「ああ、本気だ。出来れば、もう少し何かお願いさせてほしいけど」
「それは勿論構わないよ。そんな事だけで対価を払い切れるとは思っていないし……」
バルコニーに降りた俺は、シャロンにユリシーズ救出の対価、その一部としてレオパルドとの決闘をさせて欲しいと頼んだ。
脱獄からの一連の流れにより、レオパルドは死刑以外ありえない状況になった。
王族だろうが後ろ盾があろうが、あそこまでやりきったら死刑以外はありえない。
だから、シャロンがこの場でレオパルドを殺しても、表立って文句を言える者はいない。
しかし、折角殺すことが確定したのならば、レアスキルを複数持っているレオパルドをそのまま死なせるのは惜しい。
俺か、俺の関係者の手に掛かり、貴重なスキルポイントとなって欲しいと思うのは当然の事だろう。
シャロンを配下にしてからレオパルドを処刑させ、スキルポイントを得ると言う事も考えたが、シャロンが望まぬ形で配下にするつもりはないので却下した。
シャロンは俺と対等な関係を望んでいるみたいだから、それを尊重したい。
処刑の執行者としてスキルポイントを得ると言う事も考えたが、趣味じゃないので却下。
最終的に決闘でレオパルドに止めを刺して、スキルポイントを得ることにした。
問題は誰が戦うかと言う事だ。
「仁様、私にお任せください」
俺の頼みを叶えるためにシャロンが奔走する中、俺達は誰がレオパルドと戦うか相談することにした。
なお、身内だけなので本名呼びである。
「よし、マリアに任せよう」
「はい!」
マリアに任せることに決めました。
「そこで任せるんですの!? あら?よく考えれば、決闘関連は結構マリアさんがやっているような……。むしろ、私ほぼ決闘したことありませんわ」
言われてみれば、マリアは割と決闘イベントの担当みたいになっているよね。
もちろん、セラも強いのだが、セラは身長が高いため、それなりに迫力がある。
どうせ決闘をするのなら、見た目の迫力が無い者が活躍する方が絵になる。セラが戦っても意外性が低いが、マリアが戦うと意外性があるのだ。
そのせいで、意外性のないセラの決闘イベントが起きないというのもアレだが……。
「一応、真面目な理由もあるぞ。レオパルドを決闘で殺す以上、多少は恨みも向けられるだろうし、面倒が増える可能性もある。その際、他国の騎士に殺されるよりは、他国の者とは言え同じ獣人に殺される方が反感は少なくなるだろうという、立派な理由がな」
試合後に外野が何か言おうとしても、無手の獣人同士で戦った結果だと言われたら、口をつぐむしかなくなるだろう。騎士よりは大分マシだ。
尤も、レオパルド派は事実上の壊滅状態なので、そこまで気にする必要があるかは微妙なところではあるが……。
「マリアの面倒が増えるのは申し訳ないと思うが……」
「お気になさらないでください」
むしろ、俺に面倒を掛けられるのを喜んでいる節さえある。
今回の事は俺が言い出したことだから、余計に張り切っているようだ。
「よく考えれば、俺の方から決闘を申し込むのは初めてだったな」
力を誇示する目的ではなく、戦いの体で処刑する事が目的とは言え、俺の方から決闘を申し出るのは初めてだったな。
もちろん、最終的な着地点が既に決まっている公開処刑を決闘と呼ぶことが許されるのならば、と言う但し書きが付くが。
「そう言えば、ご主人様の主義的に高慢な貴族のイベントはノーセンキューじゃないの?それなのに、態々こっちからイベントを起こしに行くの?」
「いや、レオパルドは既に処刑の決まった罪人だ。そんな奴、貴族として扱う理由はないだろ?つまり、今のレオパルドは、ただのスキルポイントだ。そして、貴族との決闘ではなく、ただのスキルポイントを取得するためだけのイベントだ」
ミオの問いかけに、俺の考え方を答える。
「ご主人様が人をスキルポイント扱いしている」
「真っ当じゃない奴に真っ当な扱いは不要だろ?」
「ご主人様、『真っ当』の基準以下の相手に対して滅茶苦茶辛辣よね」
人間的に真っ当でもなければ面白みも無く、所持スキルだけが少し面白い奴はスキルポイント扱いになります。
レオパルドはまさにドンピシャです。
レガリア獣人国において、決闘と言うのはそれほど珍しいものではない。
元々、獣人と言う脳筋種族が主体の国家だから、弁論より腕力が重視される風潮がある。
お互いに譲れない物を賭け合ったり、どちらの方が強いかハッキリさせたり、力づくでいう事を聞かせたりするために決闘が行われていた。
その為、この国の認識として、決闘とは『比較的メジャーな見世物』なのである。
当然、元『八臣獣』レオパルドの、最後になるかもしれない決闘には注目が集まる。
シャロンから見学を望む声が非常に多かったと言われたが、俺としては人殺しを見世物にするつもりはないので、全員バッサリ断った。
なので、バルコニーにいるのは関係者以外、最低限必要な人材だけなのである。
「安心して欲しい。ジンの要望通り、この区画に関しては一切の立ち入りを禁止するって王命を出しておいたから」
「そう言っておきながら、今日だけで2度、王命破りがあったんだけどな」
シャロンが自信満々に言うので、話の腰を折ってみた。
後、王命を滅多に使わない宣言は何処へ行ったのだろうか?
俺達は現在、レオパルドとバルコニーを二分して決闘の準備をしている。
俺やシャロンがいる側に無関係な者はおらず、概ね、レオパルドへの監視要員である。
「うぐっ……!あ、安心して欲しい。レオパルドの件を踏まえ、今度王命を破った者は一族郎党全員処刑すると念を入れて脅しておいたから」
「知らない間にシャロンが暴君になっている……」
暴君系美少女二重人格獣王。これは新しいキャラかもしれない。
「ジンに嘘を付くことになったの、シャロンは本気で気にしている」
ファロンがフォローをしてくれた。
ファロンとフォローって字面が似ているよね。どうでもいいね。
「ジンが帰ったら、レオパルド派を全力で締め上げるつもりだよ。ちょっと、彼らはやり過ぎたんだ。ちょっと、僕も我慢の限界だからね」
「頑張れ、としか言えないな……」
シャロンは笑顔だが目が笑っていない。
冗談でも何でもなく、シャロンは言ったことを実行するだろう。
もちろん、俺の興味の範囲外です。
「それより、マリアさんは本当にレオパルドに勝てるのかい?王の名において、レオパルドが勝ったら減刑するって宣言しちゃったけど……」
そこで、シャロンの興味がマリアへと移った。
これから決闘だというのに、マリアは気負った様子も無くメイド服のままだ。
その姿にシャロンも若干の不安を覚えたようだ。
「あの程度の相手なら全く問題になりません。ミオちゃんの言葉を借りれば『朝飯前』です」
《ドーラ、おなか空いてきたー》
もうそろそろ、夕食の時間だな。
「自信満々だね。……獣化した僕の拳を止めたんだ。実力があるのは分かっているよ。でも、態々レオパルドを回復させる必要はなかったんじゃない?」
レオパルドには<回復魔法>をかけている。ドーピングの副作用もしっかりと消しておいた。『リフレッシュ』の魔法で一発だった。
レオパルドは気絶から立ち直った後、最初は不思議そうにしていたけど、決闘の話を聞いてすぐにそれどころではなくなった為、既に気にしていないみたいだな。
決闘にドーピングなんて、無粋以外の何物でもないよね。
「仮にも決闘を名乗るなら、可能な限りフェアな条件で行いたいからな」
「気持ちは分かる」
「うーん、僕にはあまり分からないな。有利ならそれで良いと思うんだけど……」
ファロンとシャロンにも感性の違いはあるようだ。
シャロンの場合、元々猫なのでフェアプレイの概念がほとんどなく、アドバンテージを手放す行為を理解しにくい模様。
一方のファロンは、エルガント神国で行われた七宝院との模擬戦でも見せたように、可能な限り対等な条件で戦おうとする。手を抜くのではなく、条件を合わせようとする。
「そう言えば、2人の意見が割れた時ってどうするんだ?」
俺の質問に答えてくれたのはシャロンだ。
「基本的にはファロンの意見を優先することにしているよ。今はジンが一緒だから僕の方が前に出ているけど、普段はファロンが主となっているからね。ファロンの考え方から大きく外れる様な事はしないつもりさ」
「普段の私なら、レオパルドをボコボコにしたりはしなかった」
「アレは王命を破ったレオパルドが悪いから、僕は謝らないよ」
シャロンはファロンを大切にしているようだが、レオパルドの件に関しては容赦がない。
「おっと、そろそろ準備が終わりそうだね」
準備と言うのは、レオパルドの逃走防止用に人員を配置したり、クロネコがテイムしたバルコニーで飼育されている魔物を別の場所に移したりと言った事である。
「そのようだな。マリア、もうすぐ出番みたいだぞ」
「はい」
《ところで仁様、あの方は瞬殺しても良いのでしょうか?それとも、出来る限りステータスを落として、訓練とした方が良いのでしょうか?》
一応、シャロンがいるので、ステータス云々の話は念話で行う。
比べ物にならない程のステータス差があるので、そのまま戦ったら瞬殺にしかならない。
そう言う場合、ステータスを落として、相手と近い、もしくは思い切って相手よりも低いステータスで戦う事がある。
理由は勿論、ステータスに頼らない技術習得のためだ。
《マリアに任せる。訓練になりそうならステータスを落とせ、そうでなければ瞬殺で良い》
《それでしたら、最初の応酬で決めようと思います》
《ああ、そうしろ。……何なら、アレの練習台にしても良い》
《よろしいのですか?秘匿しなくて?》
マリアの言う通り、本来アレは隠すべきなのだろうが、今回に限ってはそう思えない。何故だろう?
《ああ、むしろ公の場で使っておいた方が、後々の為になるかもしれない。……多分》
《承知いたしました》
アレって何かって?
そりゃあ、アレだよ。
「それでは、これよりマリー様とレオパルド様の決闘を始めたいと思います」
そう言って場を取り仕切っているのはセインだ。
なんというか、仕切り役が似合っている感じがする。慣れているというか……。
既にレオパルドの拘束は解かれ、マリアと1対1で向かい合っている。
「ルールの確認はよろしいですね?」
「はい、問題ありません」
「ああ、分かってる。降参出来るのはそっちの小娘だけ。武器の持ち込みは禁止、獣化は有り、魔法も有り、時間無制限……だったよな?」
武器の持ち込みを禁止したのは、万が一レオパルドが逃亡を図ろうとした際、余計な被害が出ないようにするためだ。武器の扱いに慣れているようには見えないが、レオパルドが適当に投げるだけでも十分な凶器になるから。
マリアにもチェックが入り、両者が武器を持っていない事が確認されている。
「ええ、その通りでございます」
「なら、さっさと始めようぜ。……っと、その前に一つ言わせてくれ。おい!そこの小娘」
そう言ってレオパルドはマリアを指差す。
「何でしょうか?」
「多分、テメエ強いんだよな?冗談でガキが出て来るような状況じゃねえからな」
「ご想像にお任せします」
「はっ!そうじゃなけりゃ、処刑が確定している俺の相手として出てくる訳がねえ!」
意外と冷静に判断で来ているんだな。
今更評価が少し上がっても、何も変わらないけどさ。
「だがな……。俺がそんな簡単に殺れると思ったら大間違いだ!!!グガアアアア!!!」
レオパルドは得意の<神獣化>と<獅子奮迅>の同時発動により、黄金の獅子へと変化をした。100%獣状態だ。
試合開始してから呑気に変身する時間はないと判断したのだろう。
「さア、さッさと始メろ……」
複合スキルの影響でイントネーションのおかしいレオパルドが促す。
「……分かりました。お2人とも、準備はよろしいですか?」
「はい」
「あア」
「それでは……始め!」
「グガアアアア!!!」
セインの合図とともにレオパルドが吠え、マリアに飛び掛かる。
レオパルドはマリアに向けて振り下ろす様に爪を振るった。
-ドゴオオオン!!!-
当然のようにマリアが回避し、その爪は石畳を砕いた。
爪の振るわれた場所にクレータが出来るくらいの威力の攻撃だ。まともに当たったらただでは済まないだろう(一般論)。
「すばシッこいヤつだ!だガ、俺もはヤさには自シンがあル。グルゥアア!!」
そう言って、レオパルドは再びマリアに接近した。
今度は飛び掛かるのではなく、足を素早く動かし、連続攻撃を意識しているようだ。
「ガア!グルゥア!ゴアァ!」
爪を振るい、噛みつこうとし、体当たりを狙う。
一撃の威力は初撃より低そうだが、レオパルドの高い身体能力が下地となっている以上、当たればただでは済まないだろう(一般論)。
「フェイントの一つも入れないのですか」
「ナに!?」
マリアは自分に向けて振るわれた爪を懐に入り躱す。
そのまま、レオパルドの腕(前脚)を掴んで、かなりの勢いで一本背負い投げをした。
「グギャ!」
-ドスン!-
背中から地面に叩き付けられたレオパルドが苦悶の声を上げる。
「グ……、ちクしョう……」
レオパルドはヨロヨロと起き上がる。
地味に見えるけど、今の背負い投げ、相当威力高かったよね。投げ飛ばす、ではなく地面に叩き付ける事を目的として、ほぼ垂直方向に綺麗に投げ落としたから。
「少しの受け身も取らないとは……、この戦いで学ぶことは期待できませんね」
マリアが淡々と言うが、正直なところ俺も同意見だ。
レオパルドは一本背負い投げをされた時、何も反応できずにそのまま投げられた。
武の心得がある者、もしくは野生の獣なら、可能な限り受け身を取り、少しでもダメージを減らそうとするものだ。
シャロンに聞いたのだが、レオパルドは素の身体能力の高さだけでここまで上り詰めたようで、筋トレはしても、武術の鍛錬はしたことが無いらしい。
強靭な肉体のせいで攻撃を受けてもほとんどダメージにならず、大抵の事は力だけでゴリ押しできる為、受け身の重要性に気付くことも無かったのだろう。
そのくせ、普通の獣程の野生も無いため、直感的に反応することも出来なかった。
中途半端なレオパルドは、『大きなダメージを防ぐことに慣れていない』のである。
武道家、獣ならば鍛錬になるが、単純にステータスだけが高い中途半端な相手では、得られる物は決して多くないのである。
「得られる物が無い戦いをジーン様の前で長々と行う理由もありません。もう、終わりにしましょう」
マリアはレオパルドとの戦いに見切りをつけ、終わらせることを決めた。
「舐メるなァ!!!」
再び飛びかかるレオパルド。
獣の攻撃と言うのは、速さや威力は厄介だが、攻撃手段自体は限られているので、技のある者にとっては対応が楽なのだ。
とは言え、レオパルドの攻撃は先程よりもコンパクトになっており、背負い投げを警戒していることが窺える。
一応、学ぶことは学ぶようだが、まだ足りない。
本来なら、100%獣化を解除して、ほぼ人型となる80%獣化くらいに変更すべきだ。その方が、攻撃バリエーションが増え、まだ戦いになった可能性は高い。
もちろん、変身中にマリアが追撃しない事に賭けた上で、であるが……。
本気でレオパルドとの戦いに興味が無くなったマリアが呟く。
「<草薙剣>」
マリアの呟きと共に、両手から光り輝く剣が現れた。
-ガキン!-
「なニ!?グえッ!」
その剣でレオパルドの爪を受け止め、更に無防備になった腹に蹴りを入れた。
「武器ダと!?持チ込みハチェっクしたハずだ!まサか、俺を騙シたのか!」
距離を取ったレオパルドが吠える。
「これは私の魔法で作り出した武器です。持ち込んだ訳ではありません」
<草薙剣LV->
光で出来た剣(不壊、魔族・魔物特効)を作り出すことが出来る。本数は無制限。ただし、使用者が持っていないと消える。また、通常の武器に重ねて発動することも出来、その場合は攻撃力上昇と魔族・魔物特効の付与が入る。
<草薙剣>はマリアの<勇者>スキルがLV7になった際に現れたスキルだ。
今まで<勇者>のレベルアップで現れたスキルと異なり、レベルを持たないユニークスキルのようだ。
俺の予想でも、そろそろ魔王を殺す為の、必殺級のスキルが出てくると思っていた。
<勇者>スキルのレベルアップは、『地災竜・アースクエイク』を倒した際に起きた。
まだ、スキルポイントが足りないと思っていたのに、急激にポイントアップしてレベルアップしたのだ。<勇者>らしい行いと言う事なのだろうか?
補足しておくと、俺は<勇者>スキルに関してはポイントを割り振ってレベルを上げると言ったことをせず、マリアが自然に上げるのに任せている。
<勇者>のような特殊なスキルは、出来るだけ手を加えないようにしているのである。
「それデも反則ニは違いねエだろうが!」
「魔法の使用は禁止されていません。それに、禁止されていたのは武器の持ち込みです。使用は最初から禁止されていません」
「テめエ!最初カらこれヲ狙ッて!」
ええ、もちろんそうですよ。
魔法を禁止していないのは、<草薙剣>を使う為だし、魔法で作った武器も武器だと言われたときの為に、禁止したのは持ち込みだけにした。
別にこんな小細工する必要は無いんだけど、やってみたかったんだ。仕方ないね。
「チ、ちクしョう……」
<草薙剣>は、それこそ伝説級武器以上の存在感を放っている。
獣としての本能が低いレオパルドも、流石に無視できないようだ。
「くソ!」
そして、レオパルドはマリアのいる方向とは逆向きに逃走した。
……逃げたか。
まあ、命がかかった決闘だから、在り得ない事じゃ無いよな。
バルコニーから飛び降りようと走るレオパルド。
逃走防止に配置された人員が、武器を構え……ない。
ああ、そうだよな。そこに配置されたのは、レオパルド派の兵士だからな。
最初から、いざという時に逃走を補助するつもりだったんだよな。
シャロン側の人員として、ずっと前からレオパルド派に情報を流していたんだよな。
でも、悪いね。
「もう終わりにすると言いましたよ」
マリアから逃げ切れる訳ないだろ?
-ザシュッ!-
「が……、ア……」
先回りしたマリアの<草薙剣>により、上半身と下半身に分かれるレオパルド。
レオパルドは死んだ。
スキル、有難くいただくよ。
当初の約束通り、決闘の後始末をシャロン達レガリア獣人国の者に任せ、俺達は最初に通された防音設備の整った部屋に戻ることにした。ユリシーズとブルーも一緒だ。
「ご主人様、さっきのアレがマリアちゃんの<勇者>で獲得したスキルよね!?滅茶苦茶カッコ良かったわよ!」
ミオが目をキラキラさせて言う。
「ああ、そうだ。<勇者>がLV7になったことで獲得できた<草薙剣>だな。切れ味も中々、使い勝手は上々。問題があるとすれば、今後<勇者>スキルのレベルアップで手に入るスキルが予想できてしまう事かな」
「まあ、ほぼ間違いなく3種の神器で来るでしょうね」
多分、LV8とLV9で来るだろうな。
「ミオちゃん、後で説明をお願いします」
「あ、うん。分かった」
また1つ、マリアの日本知識が増えることになる。
「あの!皆、何の話をしているの?」
そこで、話に全く入れないユリシーズが声をかけてきた。
俺の奴隷になったとはいえ、今までのゴタゴタと、一応は部外者であるシャロンの存在により、ユリシーズへの説明は全く為されていないのを忘れていた。
「俺の秘密の話だよ。俺の配下以外には伝えていない話だ」
「それじゃあ、私にも教えてもらえるの!?」
「良いけど、聞いたら二度と奴隷から解放してやれなくなるぞ」
「構わないわ!」
清々しいまでの即決だった。
それじゃあ、アルタ頼む。
A:お任せください。
「え?頭の中に声が直接……」
はい、お約束頂きましたー。
「マリアちゃんの<勇者>だけでなく、仁君の異能もレベルが上がったんですよね……?」
「ああ、レベル制の異能は全部レベルが上がったな」
俺の異能の内、レベルを持つ物は<生殺与奪>、<拡大解釈>、<多重存在>の3つである。
これらの全てがレベルアップしたのだから驚きである。
後、地味にブルーの<竜魔法>もLV4に上がっていた。脅威の2レベアップである。
まあ、騎竜に攻撃力なんて求めていないんだけどね。
「ゲーム的に言うと、スキル経験値が滅茶苦茶高いのかしら?」
「いや、<格闘術>のスキルポイントは手に入らなかったし、<勇者>や異能の様な一部だけに影響があるんだろうな」
そもそも、異能のレベルアップ条件って細かく分かっていないんだよな。
最初の頃は俺本人のレベルアップが条件っぽかったけど、今はそんな事ないし……。
今現在、一番有力なレベルアップ条件候補は『強敵(笑)を倒す』である。
「へー、そうなんだ。……なら、もし次に似たような相手と戦う機会があったら、シンシアちゃんとかリコちゃんも連れて行った方が良いのかもね」
「そうだな。<勇者>のスキルレベルを大幅に上げるチャンスみたいだし、可能ならば積極的に狙って行きたいな」
俺はミオの提案に頷く。
態々、『地災竜』なんて名乗っているのだから、他の災竜がいる可能性もある。
上手く行けば、<勇者>や異能をさらにレベルアップできる。
「仁君……、今の話を聞いて、1つ疑問に思ったことがあるんですけど良いですか……?」
「ああ、何だ?」
「仁君、もしかして亜空間で『地災竜・アースクエイク』を殴り殺したんですか?上がるスキルレベルの候補として、<格闘術>と言っていましたから……」
そうか、さくらの使っている平面上のマップでは、細かい戦闘風景は分からないんだよな。
処理能力が高い者、アルタや探索者組のケイトなんかは、立体情報を含むマップを使っている。そっちなら、戦闘の内容も詳しく分かるんだけど……。
「はい、殴り殺していました」
「殴り殺したわよ」
俺の戦いを見ていたマリアとブルーが、さくらの問いに答える。
「ご主人様、相変わらず、頭のおかしい方法をとるわね」
「ユリシーズさんの話では、殴ってどうにかなる存在じゃなかった気がしますわ」
「でも、それを仁君は殴ってどうにかしたんですよね……」
化け物扱いされそうなので、とりあえず自己弁護をしておこう。
「いや、『アースクエイク』は上空を攻撃してこないし、安全地帯と殴りやすい背中があったから殴っただけで、それほど難しい事はしていないぞ」
さくら達が苦笑いになる。
「まあ……、仁君ですから……」
《!? ですからー!》
問答を、諦められてしまった。
補足だが、話を聞いていなかったドーラは、慌ててテンプレ台詞を口にしていた。
「ご主人様が人間を止めている話は置いておいて、異能のレベルアップでどんな効果を得られたの?」
完全な化け物扱いをしてくるミオである。
また、漏らさせてやろうか……。
……他所様のお宅で漏らさせるのも良くないか。ミオよ、命拾いしたな。
「簡単なのから説明すると、<拡大解釈>はLV10になって、強化枠が1000個に拡張した」
<拡大解釈LV10>
効果対象が1000に拡張。
元々LV8でLV9に上がったのだが、そのままLV10に上がったので意味はなかった。
後、実はLV10になったことで、効果対象が無限になるのではないかと期待したが、そこまで甘くはなかった様子。
「それは普通に便利ね」
「はい、ルセアさんが喜ぶと思います」
以前、マリアから聞いたのだが、<拡大解釈>の強化枠は総メイド長が管理しているそうだ。
正確には、俺に必要な物を除き、それ以外で工面した強化枠をルセアが預かり、必要な配下に割り振っているとの事だ。
ルセア、どんだけ仕事を抱えているんだよ……。
A:細分化してそれぞれの業務にトップを立てているので、最終承認が主な業務になっています。そこまで、負担は大きくないと思います。ベガも補佐をしていますので。
良かった。そこまでブラックな労働環境ではなかったようだ。
「単純な効果アップだから、コメントしにくいわね」
「そもそも、コメントできることが多くないよな」
間違いなく助かるんだけど、コメントは出来ない。
「それじゃあ、次だな。まあ、<生殺与奪LV9>と<多重存在LV7>は事実上のセットだな。単体だと使えない」
「前もそんな事があったわね。今度はどんなことが出来るの?」
俺は出来るだけ平常心を心がけながら続ける。
「簡単に言うと、とてもヤバいことが出来る」
「ご主人様に面と向かってヤバいって言われるのは、本当に怖いわね……」
ゴクリ、と唾を飲む音が聞こえた。
異能の新しい能力は非公開のまま無駄に引っ張ります(10話ちょい)。
要望が多ければ、前書きか後書きで詳細をご紹介いたします(斬新すぎるネタバレ方法)。
コーダの好物
・三種の神器(途)
・四聖獣(済?)、四天王(途)
・陰陽五行(未)
・七つの大罪(済)、北斗七星(未)