第146話 海賊と腹ペコ人魚
ある意味恒例の展開です。
2021/09/19改稿:
空中ではポータルを使えないので、ワープに変更。
船旅に出てから3日が経過した。
この3日間は平穏無事な船旅だった。
人魚姫は毎日のように海で泳ぎ、新鮮な魚を提供してくれている。
大海蛇もやって来て、水棲魔物2匹で泳ぐこともあった。
船には様々な施設があり、飽きることも無かった。
海まで行かなくてもプールがあるので、のんびりと泳いだりもした。
なお、セラは筋肉の比重が大きく浮かないため、常にプールサイドの置物だった。
スタイルは良いから、目の保養にはなる置物だけどな。
船旅の気分だけでも味わいたい者は、『ポータル』を使って途中参加している。
レガリア獣人国に着く頃には帰ってもらうが、船旅の最中なら問題はない。
当たり前のようにサクヤがやって来た時は、ちょっとどうかと思ったが……。
さて、俺は先程『この3日間は』平穏無事と言った。
何が言いたいかと言うと、『今は』平穏無事ではないのである。
「海賊ですわね。この船に目を付けるとは、本当に運のない連中ですわ」
「囲まれていますね……」
セラとさくらの言うように、この船は海賊船に囲まれそうになっている。
まあ、俺が海に出て平穏無事に終わる訳が無いのだけれど……。
海賊は割に合わないと言ったのに、結局海賊と遭遇しているのだから世話はないよな。
「気付いていながら、全く航路を変えないのも原因だけどね」
ミオがいつものように苦笑している。
《ごしゅじんさまは、にげないからー》
「そうだったわね。態々道を変えるのは嫌がるのよね」
マップがあれば、超遠距離でも海賊船の位置など手に取るようにわかる。
しかし、位置が分かったからと言って、俺達がそれを避ける理由などどこにもない。
そのまま進み、海賊達に囲まれるに至ったのだ。
言うまでもないが、海賊達は全員赤色(敵)マーキングだ。今も武器の準備をしている。
よし、殺そう。
「ちょっと海賊達を皆殺しにしてくる」
「ご主人様の山賊は皆殺しって方針、海賊にも適応されるの?」
「ああ、海賊、山賊、盗賊、もれなく殲滅だ」
「あらら、お気の毒に……」
「本当に運のない連中ですわね……」
基本的に賊と名の付く連中は殲滅することにしているからな。
それに、海賊との戦いは船旅の醍醐味と言ってもいいだろう。キャプテンうんたらとマスト上で戦うというのは、男の憧れの1つだ。
キャプテンうんたらは居るのかな?
A:いません。彼らは国家所属の海賊の為、マスターのイメージする海賊とは大きく異なります。
海賊が?国家に所属?
A:はい。国に所属する海賊が他国の船を襲います。他国の船はその国に対価を支払って襲われないように契約しております。契約のない船は容赦なく襲います。国家が後ろ盾になっているので、武装の性能はそれなりに高いです。
海賊と聞いて上がっていた俺のテンションが急降下する。
なんだよ。養殖物の海賊かよ。
海賊との戦いは船旅の醍醐味と言ってもいいはずなのに、国家所属の海賊と言うだけで、驚くほど興味が沸かなくなってしまった。
いつもなら女王騎士ジーンとして相手をするところだけど、そんな気持ちも起きない。
つまらない相手に時間をかけるのは無駄だよな。どうせ敵なのは間違いないし……。
「どうしたの?急にテンションが落ちたように見えるけど……」
「ああ、ちょっとな……」
「仁様、気が乗らないようでしたら、私が殲滅してきましょうか?」
マリアに頼むのも有りか?いや、それも時間の無駄だな。
「いや、すぐに終わる。と言うか、面倒だからすぐに終わらせる」
俺は10隻近い海賊船の乗員に対して<生殺与奪>を発動する。
全ての海賊達のステータスを根こそぎ奪い、HPを1にする。
そして、<森羅万象>(前に倒した黄龍のユニークスキル)でこの船の周囲に強めの風を巻き起こす。
海賊船は急に揺れ、中にいた海賊達は転ぶ。
海賊達は死ぬ。
<森羅万象>を実戦で初めて使ってみたけど、意外と使い勝手は悪くないな。無駄にスケールのデカい攻撃をする時には重宝しそうだ。
「久しぶりにご主人様のステータス強奪を見たけど、恐ろしい事になっているわね……」
「戦いにならない、と言う言葉を体現していますわ……」
ミオとセラが戦慄して言う。
「マップ上で異能を発動してHPを奪い、天候を操作するスキルで船を揺らして残ったHPを削る……。言葉にするとそれだけだけど……、コレ、防ぐ手段ある?」
「無理……ですわね。海賊達もどうして死んだのか理解できなかったと思いますわ」
「仁君相手にあまり言いたくないですけど……。完全に神の所業ですよね……」
さくらが言い難そうに言うが、正直言って俺も否定が難しい。
戦いにすらなっていない一方的すぎる粛清だからな。神の所業と言われても無理はない。
実は<生殺与奪>を<拡大解釈>で強化した結果、マップ上にいる相手なら誰からでもスキルを奪えるようになったのだ。
敵ではなく、貸しのない相手からスキルやステータスを奪うのは趣味じゃないし、普通に使うと経験値が得られないから使う機会はなかったが、今回のように周囲に被害を出さず、多数の敵を相手取る時には丁度いいだろう(興味のない相手に限る)。
「何が良いって、海賊船にも被害がないから、そのまま鹵獲できる点だよな」
仮にも海洋国家の建造した高性能な船だ。
無傷で入手できるのなら、サクヤへの良いお土産になるだろう。
「仁様、メイド達がすでに回収に向かっています」
「ウチのメイドは本当に優秀だな」
メイド達が小舟で海賊船に近づき、<無限収納>へと仕舞っている。
中にいた海賊は全員死んでいるので、そのまま回収できるのだ。
海賊を殲滅し終わって今更の話だが、2つの理由から船同士の海戦を行うという選択肢は最初からなかった。
1つは海戦をすると敵味方問わずに傷つくからである。『クイーン・サクヤ号』が傷つくのが嫌なのは当然として、敵の船もここまで綺麗な状態で入手できなかっただろう。
2つ目は船搭載の『兵器』で敵を殺しても何も入らないからである。
少しこの世界の仕様について説明をしよう。
この世界の仕様の1つに『腕力・魔力が一切影響しない武器では経験値が入らない』と言うものがある。ついでに言うと、経験値だけでなく、<生殺与奪>によるスキルやステータスの強奪も出来ない。
より厳密に言うと、攻撃の瞬間に腕力・魔力の影響がない場合、経験値が入らなくなる。
分かり易く説明すると、弓はOKでボーガンはNGと言うことだ。
一般的に『兵器』の多くは誰が使ってもほぼ同じ攻撃力となる。そこに個人の腕力・魔力は影響しない事が多い。
つまり、『兵器』を使うだけでは経験値が入らないのである。
腕力も魔力も使っていなければ、戦っているとカウントされないのだ。
逆に、『腕力・魔力が影響しない武器には、武器としての性能以外の攻撃力が乗らない』という仕様もある。
例えば、同じ条件で同じだけ弦を引いた場合、ボーガンよりも弓の方が強かったりもする。
これは『人が弦を引く』と言う動作があることで、攻撃力が計上されるからである。
これが何を意味するか、考えてみると面白い事が分かるはずだ。
さて、そんな事を考えている内に海賊船の回収が終わったようだ。
先程、船の中にいた海賊が全員死んでいると言ったが、実は海賊以外の生き物も船の中にいる。当たり前のことだが、海賊以外は殺していない。
船を回収するにあたり、その生き物も回収することになった。
その生き物がコチラ。
名前:ミュール
性別:女
年齢:255
種族:人魚
スキル:
<水棲LV9><潜水LV9><魅了の歌声LV4>
見ての通り、人魚ですね。
人魚姫と共に行動している時に、別の人魚に遭遇するというのは運命的なモノを感じる。ただ、こちらは姫ではないようだ。
ユニーク級のスキルは無く、全体的に地味だが、<水棲><潜水>と言った泳ぎに関するスキルは突出している。
なお、見た目は20代中頃で青い髪と鱗の美人さんだ。当然、トップレスだ。
意識を失い、腕には手錠を嵌めており、足には重りがついた状態でつれて来られた。
暴れたようで、手足の枷には血がついている。
一体、どうゆう状況?
A:海賊の話を聞いていたのですが、この人魚は海賊達の前に無防備に現れたそうです。何かを訴えかけるようにしていましたが、海賊達には通じず、そのまま捕らえられました。本拠地に戻った後、売られる予定だったそうですが、その帰り道に本艦と遭遇しました。
なるほど、鴨が葱を背負って来たようなモノだな。
海賊が鴨葱扱いされるって言うのも面白い皮肉だよな。
さて、この人魚は何を訴えかけてくれるのだろうか?
海賊達の話から、言葉が伝わらない前提なので『翻訳』の魔法は必須だろう。
ミュールは現在、医務室のベッドで寝かされて……いない。
『クイーン・サクヤ号』のプールにぶち込まれている。何でも、身体が乾燥しすぎて気絶しているような状態らしい。
アルタによると、人魚はたまに水に入る必要があるそうだ。河童?
枷を外し、手当てをした後は水の中に放り込むことにした。
そして、プールに放り込んでから1時間。
プールサイドのメイドから、ミュールが起きたという連絡を受けた。
俺とさくら、マリア、ミオが様子を見に行く。
セラは迫力があるのでお留守番。いきなりレーラを見せるのも不安があるのでお留守番。レーラと一緒に遊んでいる竜人種達もお留守番である。
プールに到着すると、ミュールがメイドに向けて何かを訴えかけていた。
なお、いつの間にかミュールはブラを着けていた。
「ルーラールールー!?」
おっと、やっぱり何を言っているのかわからないな。
と言う訳で、『翻訳』を発動。
「ルーラールールー!?(話が通じないの!?)ルールー!(助けて!)」
「どうしたんだ?お前は何を求めている?」
「ルーラーラー!?ルールー!ラールールー!(貴方は私の言葉がわかるの!?助けて!私達を助けて!)」
俺がプールサイドに立って声をかけると、言葉が通じたミュールが即座に反応する。
やっぱり、人魚の言葉は人間とは異なるようだな。レーラの事もあるので、幼い時から教えれば覚えられるようだけど、そもそも教えるという発想に至る者がいないのだろう。
……と言うか、『ル』と『ラ』だけで通じるものなのか?
A:正確には音程が細かく分かれています。言語体系を確認いたしますか?
いや、覚えても使えないだろうし、必要はない。
「落ち着け。落ち着いて詳しく話せ」
「ルーラールー!(それどころじゃないの!)ラーラー!(早く!)ラーラールールー!(早く助けて!)」
本当に助けて欲しいのなら、まずは状況を説明すべきだというのに、全く意味のない事だけを言っている。
錯乱している相手には言葉だけでは通じないな。
と言う訳で、軽く殺気を向ける。
「落ち着け」
「ル……(はい……)」
一発で大人しくなるミュール。おいおい、プールの中で漏らすなよ。ここは幼児用プールじゃないんだぞ?
………………。ああ、殺気が洩れてミオの方に!
「ぴっ!?な、なんで私まで……」
何でと言われたら……ついで?
その後、落ち着きを取り戻したミュールに詳しい話を聞く。
人魚語は有っても無くても変わらないので省略する。
「私達の……人魚の国を助けて下さい。私達の国は現在、危機的状況に陥っています」
人魚の国があるのか。まさしくファンタジーだな。
一体、どんなファンタジーな危機に陥っているのだろうか。不謹慎ながら楽しみである。
「何があったんだ?」
「食糧難です」
「食糧難!?」
普通!普通の危機!
人魚の国と言うファンタジーワードを現実に引き戻す普通の危機!
まあ、ある意味中世風の舞台に相応しい危機とも言えるけどさ……。
「今、私達の国では主食である魚がほとんど捕れません。多くの同胞が既に動けない程衰弱しています。私は最も泳ぎが得意なので、数少ない食料を頂き、助けを求めに出ました」
人魚の主食って魚なのか。
まあ、魚だって他の魚を食うし、共食いとは言わないか。
「私達は国から出ないので知らなかったのですが、人間には言葉が通じませんでした」
「人間との交流は全くないのか?」
「はい。少なくとも私が生まれてから今まで、人間と交流を持ったという話は聞きません」
俺の問いに答えるミュール。
ミュールは255歳だから、少なくともそれ以上は交流がないんだな。
「人間の存在はおとぎ話として古くから伝わっていました。人魚を捕らえる恐ろしい存在だから、よほどの事がない限り近づいてはいけないと言われています。他にも、好奇心が強く国から出た子が人間の様子を見に行ったりします。帰って来てから、その話を聞きます」
結局、余程の事が起きたから近づいたけど、おとぎ話の通りになってしまったのか……。
それにしても、人間からしてみればおとぎ話の住人である人魚に、逆におとぎ話扱いされるというのは中々に愉快な話だよな。
「最初に助けを求めた人間には言葉が通じず、ショックを受け、気が動転している間に捕らえられてしまいました」
ここまで話を聞いていて、1つ疑問に思ったことがある。
「俺達の行動にも関わる事だから聞きたいんだが、人間に何をお願いするつもりなんだ?」
「それは勿論、人魚の国を助けて下さいとお願いします」
「何をすれば食糧難から助けた事になる?」
「大量の食料を持ってきて貰おうと思っています」
「どうやって?」
「人間は船で海に出るのですよね?船で食べ物を大量に運んでもらおうと思っていました」
船に関する知識はあるのか。
好奇心が強く、国を出た事のある人魚がもたらした情報だろう。
「何を対価に?」
「対価?」
首を傾げるミュール。
もしやと思って聞いてみたが、やはり対価の概念が存在していないようだ。
そんな気はしていたんだよな。だって、ミュールは価値のありそうなものを何も持っていなかったから……。なお、海賊船にもそれらしきものは無かったそうだ。
と言う訳で、軽く対価について説明してみた。
「そんな……。それでは、どうやってみんなを助けてもらえば……」
打ちひしがれるミュール。
例え言葉が通じたとしても、何の担保も無しに大量の食料を都合するような奇特な人間はそうはいないだろう。
いや、食料を持って行くフリをして、弱った人魚を捕まえに行くというのは有りか?
「対価の後払いも可能だが、担保が……保証が無ければ難しいだろうな」
「対価……対価……」
必死に頭を働かせているミュールに助言をする。
正直、人魚の国にはすごく興味があるので、助けに行くのはやぶさかではない。
しかし、いつもの如く対価は必要だ。
「この場で思いつかないなら、まずは俺達を人魚の国まで案内してみないか?もし、俺が望むような対価があるのなら、食料の援助をしてもいいぞ」
「た、助けてくれるのですか……?」
縋る様な目を向けてくるミュール。
メイド達の作った迷宮産の作物は山のように(比喩ではなく)あるので、食料の援助自体は容易だと思う。
そして、いつもの如く、対価の筆頭はレアスキルである。
行ってみて、レアスキルがあればレアスキルを1ポイント貰い、後は適当に価値のある物を対価として要求すればいいだろう。
「俺の望む対価があればの話だ。まあ、仮にも国を名乗るのだから、差し出せるものが1つもないなんてこともないだろう。後、念のために聞いておきたいんだが、お前は国に対価を要求できる立場にいるのか?」
空手形を切られても困る。
まあ、その場合は酷い事になるだけなのだが……。
「は、はい。助けを求めに行くことは女王様の指示ですので、大丈夫だと思います」
ほう、人魚の国は女王が治めているのか。
……そう言えば、ウチの人魚姫ってどういう立場なんだろう?
この場で明かした方が良いのかな?それとも、内緒にしておいた方が良いのかな?
……よし、内緒にしておこう。
《レーラの事は公開しない方針で行きます。以上》
とりあえず、この場にいるメンバーに方針を伝えておいた。
他のメンバーにはアルタから伝えておいてくれない?
A:承知いたしました。
状況を見て、さりげなく探りを入れて行こうと思う。
「対価を払う意思があるのなら、まずは人魚の国に連れて行ってくれ」
「はい!わかりました!」
こうして、俺達は人魚の国へと向かうことにした。
人魚の国への出発が決まってから30分後。
「人魚の国で1番と言うだけあって、泳ぐ速さは中々だな」
俺は天空竜の背に乗って呟いた。
「全然大したこと無いわよ。私、全く本気出してないし」
「そりゃあ、ブルーと比べたら可哀想すぎるだろ。俺の騎獣なんだぞ」
「分かっているなら良いのよ」
嬉しさを隠し切れない声色のブルー。
現在、俺達はミュールの案内で人魚の国へと向かっている最中だ。
メンバーは俺、さくら、マリア、ミオの4名。そして、騎獣としてブルー、リーフ、ミカヅキの3名が付く。
『クイーン・サクヤ号』は今もレガリア獣人国に向かって進んでおり、人魚の国に行くメンバーだけが竜人種に乗り、泳ぐミュールの後を追っている。
人魚の国は海中にあり、『クイーン・サクヤ号』で行くメリットが無いのである。
なお、いつものメンバーからセラとドーラがいないのには理由がある。
セラは海中にある国に拒絶反応を示したからだ。
筋肉質で浮かないので、水に沈む感覚が好きじゃないらしい。
ドーラは『クイーン・サクヤ号』に残されたレーラと遊ぶことを優先させたからだ。
見た目はチグハグだが、レーラのお姉ちゃんを自称しており、可愛がっている様子。
同年代……と呼んでいいのかは微妙だが、似たような境遇、似たような精神年齢の遊び相手のいなかったドーラにはいい刺激なのかもしれない。
「仁様、エリアが切り替わり、人魚の国が見えました」
「どれどれ……」
一緒にブルーに乗っているマリアからの報告を受け、俺もマップを確認した。
今いるエリアから3エリア離れたエリアの人魚を検索すると、思っていた以上に多くの人魚が生息していた。その数、およそ5000。
国としては規模が小さいが、海中の国と考えるとそれなりに多いのではないだろうか。
「飢餓状態の人魚しかいないな。ミュールの言った通りだ」
「兵糧玉は足りそうですね……。一応、ルセアさんに<無限収納>内に追加するようにお願いしておきます」
飢餓状態の相手と言うことで、食料の代わりに『エナジーボール』の魔法で作り出した兵糧玉を用意してきている。
普通は飢餓状態の者が急に普通の食事を満腹になるまで食べると死ぬ恐れがあるらしい。ミオが豆知識として教えてくれた。
アルタ曰く、兵糧玉ならばその懸念も無いらしいので、ストックしてある兵糧玉を配布する予定だ。なお、セラはストックが減ると聞いて少し慌てていた。
……今更だが、セラを購入した時、餓死寸前の状態で大量に飯を食わせたのはヤバかったのかもしれない。
A:セラの場合、何も食べていない訳ではないので、問題は有りませんでした。栄養失調の方が近かったです。
問題なかったのなら良いんだけどね。
今なら『快方』や<回復魔法>があるから、そもそも問題になることが無い。最悪、『死者蘇生』で……。
飢餓の人魚を見ていても気が滅入るだけなので、人魚の国の外を見ることにした。
なお、人魚の国自体は行ってみてからのお楽しみにしようと思っている。
人魚の国の周辺には陸地が無い。
2エリア分くらいは何もなく、漁に来るような船も無い様だ。
現在はミュールの言うように魚もほとんどおらず、生命を感じない海となっている。
その理由もすぐに明らかになった。それがこちら。
亡霊船長・ジャック
LV100
<剣術LV6><統率LV8><身体強化LV6><呪術LV5><亡者LV6>
備考:死霊海賊団の頭領。
亡霊海賊×多数
LV50
<剣術LV3><身体強化LV3><呪術LV3><亡者LV3>
備考:死霊海賊団の海賊。スキル構成が違う者も多いので、代表的な1人の情報。
見ての通り、人魚の国の隣のエリアに亡者海賊団が存在していました。
よっしゃ!海らしい敵が出てきた!
「『ワープ』!」
「『召喚』」
アンデッド系の魔物を認識するや否やミオが『ワープ』で逃亡を図ったので、すかさずに『サモン』で呼び戻す。
「後生だから帰してー……」
「駄目」
ミオから<固有魔法>を取り上げる。
これでミオは『ワープ』を使えなくなった。
亡霊海賊団の話に戻そう。
かつて倒した不死の王と同じように、奴らは周囲を<呪術>スキルの瘴気によって汚染する。
瘴気は毒と同じように身体の小さい生き物程影響を受けやすい。魚達は瘴気を避けるために周辺海域からいなくなった。
そして、身体の大きい人魚は微量の瘴気に気付かず、そのまま生活を続けてしまったのだろう。故に人魚は食糧難に陥ってしまったと言う訳だ。
原因は分かったけど、人魚への食糧支援の方が優先度が高いので、今は放置の方針です。
1つ残念なのが、死霊海賊団の連中は敵としては面白いものの、レアスキルを何も持っていないのは残念かな。戦う旨みはあるけど、倒す旨みは少ない。
海賊と言いつつ、碌にお宝も持っていないから、余計にそう感じてしまう。
とは言え、レアスキルもお宝も持っていなくても、海賊を名乗っている以上は殲滅するつもりである。
海賊船は10隻ほど存在しているのだが、どれも動く様子が無い。
帆も畳んでいるようだし、一体何をしているのだろう?
瘴気を垂れ流すことが目的とか?何のために?
しばらく進むとミュールからの合図があったので、竜人種達に指示をして海面に近づいてもらう。
既にほぼ人魚の国と言っていい程に近づいており、後は潜るだけとなっている。
なお、ここに来る前に<潜水>と<環境適応>を含む水中向けのスキルをセットしているし、水着も着用しているので準備は万全である。
「じゃあ、ブルー達は先に戻っていてくれ」
「分かったわ。帰りは『ポータル』?」
ブルーの問いに頷く。
「ああ、一応そのつもりだ」
「ホントは帰りも乗って欲しいけど、仕方ないわね」
「ブルーちゃんは本当にご主人さまがすきですねー」
「……そうよ」
リーフが微笑ましそうに言う。
ブルーは顔を赤くしているが、絶対に否定しようとはしない。
「レガリア獣人国に着いたら、また乗る機会があるから、それまで我慢しろ」
「絶対だからね?」
「ああ、また頼むぞ」
そう言って俺はブルーから飛び降り、海へと着水する。
すぐにマリアも飛び込んでくる。
「リーフちゃんもお疲れさまでした……」
「いえいえー。全然平気ですよー」
さくらもドボン。
「ミオさんも頑張ってくださいね」
「ミカヅキさん、アリガト……」
元気のないミオもボチャン。
全員が海に入ったところで、ミュールの案内に従って潜り始める。
マリアの泳ぎが速いのは当然だろう。マリアは何をやらせても器用にこなすからな。
ミオはそれほど泳ぎが得意ではない様で、少しゆっくり目のペースだ。……幽霊関係で気が重いだけかもしれない。
意外なのはさくらだ。
普通に泳ぎは得意なようで、すいすいと進んでいく。
後で聞いた話だが、泳ぎは必要に迫られて覚えたそうだ。特に着衣水泳が得意らしい。……詳しくは聞いていない。……聞けない。
さくらの得意不得意ってバラツキが激しいよな。
俺の知っている限り、苦手なモノはグロいモノと運動と料理くらい?料理は俺も他人の事言えないけどさ……。
《さくらってグロいモノと運動と料理以外に苦手なモノってある?》
《どうしたんですか……?》
《ちょっと気になっただけだよ》
とりあえずさくらに念話で聞いてみることにした。
ああ、分かっている。下手をすると地雷を踏みかねない話題だと言うことは。
《仁君は相変わらず唐突ですね……。そうですね……。船酔い……は治りましたから、他には……。あ、会話と人付き合いが苦手です……。理由は、察してください……》
《……………………》
聞くまでも無いというか、何と言うか……。
《ミオちゃんはお化けが苦手です……》
《知ってる》
ハイライトの消えた目でミオがアピールをしてくるが無視である。
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設定
・魔法について
魔法系のスキルを持つ者は、MP消費と引き換えに魔法を使用することが出来る。
魔法を使用すると魔法陣が発生し、詠唱状態となる(実際の詠唱は必要ない)。
魔法ごとに定められた時間経過後、魔法の発動を強く意識することで魔法が発動される。魔法名を唱える事でも、同じような効果があり、魔法を発動できる。
この詠唱には結構な集中力が要求され、詠唱中はMPが徐々に減っていく。詠唱時間とは、MP消費時間とほぼイコールである(さくらの魔法は除く)。集中力が途切れ、魔法に失敗しても消費したMPは返ってこない。
魔法系スキルの獲得方法は2つ。
1つ目は先天的に魔法系スキルを覚えている事。2つ目は魔法獲得用の魔法の道具を使う事だ。
魔法獲得用の魔法の道具とは、高レベル<魔道具作成>の使い手が作成できる物で、『魔導書』と呼ばれている。当然、高級品だが、一般人でも買えない訳ではない。
この『魔導書』はスキルオーブ(第5章竜人種の秘境編初出)とは異なり、確実にスキルを得られる訳ではない。
『魔導書』は、前回の『スキルについて』で説明した熟練度を上げる効果がある。
つまり、成長率が0の者が使っても、スキルを得ることは出来ない。
しかも、『魔導書』は使い捨ての為、「使ったのに魔法を覚えられない、詐欺だ」と言う顧客や、実際には才能があるのに偽物をつかまされて魔法の道を諦めてしまう者などもいる。
『魔導書』を購入する場合は、しっかりとした店で、『魔法を得られなくても文句を言わない』と言う証文にサインをしてから使用することが推奨されている。
尚、これらの話題は仁には一切関係ないので、本編では話題にすら上がらなかった。
仁の成長率は全て0だからである。
魔法系スキルはレベル毎にいくつかの魔法が使えるようになる。
しかし、種族特性によっては全ての魔法が使える訳ではない。概ね、使用種族の知能レベルによって使える魔法は変わる。
全ての魔法を十全に使えるエルフは、自分の種族の知性が高いと勘違いして、増長しやすい傾向にある。
魔法系スキルの中には、<無詠唱>など魔法の使用を補助する者も複数ある。
こちらは『魔導書』がなく、関連する行動をとりにくいため、ほぼ先天的な物に限られるスキルとなっている。
恒例の寄り道です。ただし、短い寄り道なので章を使い潰すことはありません。ホントだよ!
ちょっとゲーム買ったせいで残機がヤバめです。
なーに、残機なんて0になってからが勝負だよ(それが出来ないタイプの人間)。