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第136話 会議の中断と剣帝流

今年は4月1日に面白いことは出来そうにありません。

本編を絡めたネタにするにはスケジューリングを間違えた……。

とりあえず、適当な短編は出します。

「うむ。余が聞きたいのはそれだけだ。誰か、回答をしてもらえると助かる」


 ゼノンが殺気を無視して質問を締めくくる。


「貴方は……女神様に選ばれた勇者様方が信用できないと仰るのですね?」

「当然であろう?人に負ける勇者が、人を越える魔族に勝てる道理が無いのだからな」


 リンフォースの放つ殺気はどんどんと強くなっていく。

 気絶する者もそれに比例して増えていく。あ、エステアのルーアン王子も気絶した。


「人に負けた、と仰いますが、エルディア王国に残っていたのは、そのほとんどが非戦闘向きの祝福ギフトをお持ちの勇者様ですし、その勇者様を殺したのは魔族の軍勢なのです」

「それは別によい。問題はカスタールに侵攻した勇者の部隊だ。100人以上いたそうだが?」

「確かに100余名の勇者様がカスタールで敗れたのは事実です。しかし、それにはいくつもの要因が重なった結果だと思っております」


 重なる程の要因ってあったっけ?

 サクッと殺った記憶しかないんだけど……。


「まず、勇者様に行軍の経験が無かったことが挙げられます。あくまでもパーティレベルの戦闘経験は有っても、軍隊レベルの戦闘経験がなく、個々の戦闘能力を発揮できなかったのではないかと考えております」

「ふむ、確かにエルディア王国もそんな部分まではフォローしていないであろうな」


 リンフォースの説明にゼノンが頷く。

 そうだね。勇者達は格上相手に戦力の逐次投入という最悪の悪手を打ってきたくらいだからね。


「加えて、戦地はカスタールです。カスタールの女王騎士であるジーン様の部隊が侵攻部隊を殲滅したとありますが、カスタールからは具体的な兵力についての説明は有りませんでした。……カスタールには有名な冒険者が多数存在しています。冒険者の力を借り、地の利を活かし、多大な犠牲のもとに勇者様達を打ち倒したのではないかと推定しています」


 冒険者の手助け?0人ですよ。

 多大な犠牲?0人ですよ。


「なるほど。カスタールがエルディアを挑発したのが意図的なモノならば、攻められた時の対策は出来ていて当然であろうな」


 おいコラ、ゼノンこの野郎!

 さっき終わったはずのカスタール陰謀論を、自然に話に混ぜてんじゃねえよ。


「まさか……」


 リンフォースもその可能性に至り、ハッとした表情を見せた後、すぐに殺気をこちらに向けて来た。うむ、心地よい殺気である。

 あ、ルドルフ財務大臣が必死に歯を食いしばって耐えている。


 ……おかしいな?予想していた会議の進み方と大分ずれているぞ?

 戦犯はゼノン君。間違いない。


「よくわかった。つまりリンフォース殿は、今回の一件は勇者の実力を貶めるようなものではなく、あくまでも例外的な事例だったと言いたいのであるな?」

「その通りです。勇者様がお亡くなりになったのは不幸な出来事ですが、それはエルディアのやり方に問題があっただけで、勇者様の権威を貶めるようなものではないかと思います」


 勝てば官軍負ければ賊軍とも言うからね。

 最終的に負けちゃったエルディアが悪いって言っておけば、大体問題ないと思うよ。


「また、歴代の勇者様よりも弱い、というのも否定させていただきたく思います」

「ほう、何か根拠があるのか?」

「我が国には、歴代の勇者様の祝福ギフトに関する資料があります。それによると、今代の勇者様の祝福ギフトの中には、過去の勇者様が持っていたものと同じものが存在していました。能力の規模も同程度と言う研究結果が出ています。過去に魔王を倒した能力があるのですから、不足と言うことはないはずです。後は、国のフォロー次第と言うことです」


 へえ、そんな事も研究していたのか。


A:資料は既に写本済みです。その他、国家機密と思われる情報も全て写してあります。


 ……俺が足を踏み入れた土地の秘密って、基本的に無力化されるよね。


「ふむ、根拠があるのならば、先に言ってもらわねば困る。一度汚点の付いた勇者を擁立するには、それに足る根拠が必要なのは当然であろう?」

「……申し訳ありませんでした」


 ゼノンは納得した上で、さらに上から目線でリンフォースに説教をする。

 リンフォースも説明に不足があったのは事実なので謝罪するが、完全な無表情でとはいかなかったようだ。ほんの少しの悔しさと怒りが見て取れる。


「しかし、これでは本日の会議再開は無理でしょうね」


 リンフォースは自分のしでかした惨状を見て呟く。


 会議室の中は酷い有様だった。各国の重鎮が泡を吹いて気絶していたり、気絶して失禁していたりとまさしく死屍累々と言った様子だ。

 全員が無事なのは、勇者、グランツ王国、サノキア王国、レガリア獣人国、カスタール女王国(ルドルフ頑張った)くらいのものか。他の国では最低1人2人は気絶している。酷い所は護衛の騎士も合わせて全滅している。


「仕方がありません。本日の会議はここまでとし、明日は第2の議題の続きから始めようと思います」


 こうして、世界首脳会議の1日目は平穏無事に終了することになった。

 どこが平穏かって?人死にが出ていなければ平穏だよ。



 この後は各国の代表と勇者も参加する親睦会があると言うことだが、当然のようにカスタールとエステアは辞退することにした。

 普通に考えて、敵地でのんびり飯は食えないよね。


 俺達は一旦控室に戻り、他のメンバーと合流してから再び街の外に出ることにした。

 エルガント神国側が何とか街の中の宿に泊まるように言ってくるが、知った事ではない。


 今度は前回の反省を踏まえ、エルガーレから少し離れた林の中に仮設住宅を組むことにした。理由は仮設住宅の外で刺客を迎え撃つためだ。

 前回の場所では、エルガーレの外壁からの監視の目があったため、仮設住宅の中におびき寄せてから刺客を殺さなければならなかった。その度に掃除をしてもらうのは面倒なのだ。

 ここならば余程近づいて来なければ監視をすることは出来ない。それでも近づいてきたら排除すればいい。


「もー、やだー!」

「サクヤちゃん、服にしわが付きますよ……」


 仮設住宅が組み上がるや否や、テーブルに突っ伏したサクヤをさくらが窘める。


「何で私があんなバケモノ連中と会議しなけりゃならないのよー。いつ戦闘が始まるのか、ハラハラしっぱなしだったわよ、もー……」

「戦闘が始まったら、リコが守るので大丈夫です!」

「それは大丈夫って言わないー」


 不貞腐れるように言うサクヤをリコが励まして(?)いる。


 確かにあの会議場内で戦闘が始まっていたら、それなりの惨事にはなっていただろう。

 爆弾発言を繰り返したゼノン・グランツの戦闘力は言うまでもなく、教皇であるリンフォースも並の人間では勝てないレベルの存在だ。

 レガリア獣人国のシャロンは今回ほとんど発言していないが、戦闘となったらその力を存分に発揮するだろう。


「正直に言って、会議が何事もなく平穏無事に終わるとは思っていないぞ」

「そうなのよねー。はぁ……」


 いくつかの要素により、この会議の崩壊は既に目に見えているのだ。

 問題なのは、会議が崩壊するかと言うことである。

 いくつかの要素が集まって会議が崩壊するのではなく、単独で会議が崩壊する要素が複数あるのである。どれが起こっても確実に会議は崩壊すると思える逸品だ。


「会議室が壊れるくらいならともかく、被害が大きくなると配下以外の関係者を逃がすのも一苦労だろう。とりあえず、カスタールとエステアの人間は絶対に守りきるつもりだ」


 配下はどうにでもなるけど、カスタールの重鎮やエステア会議参加者はそうはいかない。

 会議が崩壊した時には、周囲は普通の人間が生存できる状況ではなくなると思われる。

 異能の恩恵を受けられない彼らは、俺達が助けなければほぼ確実に死んでしまうだろう。


「そこはお兄ちゃんを信頼しているから。心配はしていないよ。でも、他の王族を守るつもりはないでしょ?」

「もちろん」


 一応、サノキア王国の連中も俺の配下扱いだから守る予定だけど、その他の王族の安否なんて知った事ではない。

 よって、俺が自らの意思でもって守ることはない。


「他の王族が死んじゃったら、またもや各国が荒れるって言うのが問題なのよね」

「そりゃあ、荒れない理由が無いわよね」


 サクヤの呟きを拾い、ミオが当然であると頷く。


 どうやら、サクヤは自身の安全ではなく、世界が荒れることを懸念しているようだ。

 流石に女王サクヤの立場では、『他の国はどうでもいいです』とは言えないよな。


 ついでに言えば、サクヤの身の安全は俺が保証しているから、心配の対象外なのかもしれない。信頼されているね。


「一番楽なのは、騒動が起こる前に事前にその芽を摘む事なんだけど……」

「その騒動の芽を摘むのは、明らかに俺の主義に反するから、拒否させてもらう」

「お兄ちゃんはそう言うわよねー……。はあ、ホントどうしよ……」


 サクヤががっくりと肩を落とす。


 サクヤの言う騒動の芽と言うのは、大きく分けて3つ。

 1つ目は俺と全く関係のないモノ。簡単に言うと、身内以外に対する殺害計画だ。

 2つ目は自業自得なモノ。簡単に言うと、暗殺騒動の反動だ。

 3つ目はまだ明確に俺の敵ではないモノ。簡単に言うと、未来の敵だ。


 どれも、俺が積極的に関わらないタイプの相手である。

 身内でも好意的でも真っ当でもない相手を守るつもりはないし、他人の尻拭いをするなんて絶対に御免だ。敵は明確に敵になってから倒すから、敵候補に有無を言わせぬ先制攻撃など仕掛けたりはしない。


「なにより、1番の問題は各国が荒れたら面倒だとは思っているけど、お兄ちゃんに無理を言ってでも助けたいとも思えないところなのよね……」


 要するに、サクヤ自身も会議参加者を心の底から守りたいとは思えないらしい。

 他国に対する『思いやり』が品切れ中なんだろうね。


「まあ、どうしても他国の連中を助けたくなったら言ってくれ。俺に主義を曲げさせられる対価が用意できるのなら、いくらでも守ってやるから」

「そんな対価、すぐに出てくる訳ないよ!」


 何故かサクヤが大声で叫んだ。

 この仮設住宅は、防音性もばっちりだ。

 スパイが聞き耳を立ててもいいように作られているらしい(メイド談)。仮設とは……。


「ご、ご主人様の主義を曲げさせる……無理じゃありません?」

「レ、伝説級レジェンダリーの武器ならどうでしょうか……?」

「さくら様、ご主人様の武器も神話級ゴッズですし、伝説級レジェンダリーならよっぽど面白い効果が無いと厳しいと思います」


 今まで比較的おとなしく話を聞いていたセラ、さくら、ミオが俺の主義を曲げるための対価を検討している。


「マリアちゃんとドーラちゃんならどうす……」

「私は常に仁様の主義を尊重いたします」

《ドーラもごしゅじんさまのみかたー》

「あ、はい」


 ミオの質問は最後まで言うことすら許されなかった。



 着替えを終えたサクヤは、重鎮達との打ち合わせに向かった。

 首脳会議が中断したからと言って、遊んでいられるほど暇では無いようだ。

 ゼノン君が引っ掻き回したとはいえ、カスタール女王国の置かれた状況は、依然として良いとは言えないからな。


 いつもの通りだが、俺はサクヤと重鎮達との打ち合わせには参加しない。

 サクヤの護衛もメイド達に任せてお休み中だ。

 メイド騎士も大勢いるし、俺が付きっ切りで護衛するような必要は全くない。


 つまり、何が言いたいかと言うと……。


「暇だ」


 遊んでいられるほど暇になったのだ。


 まだ日も出ているので、少し出かけるくらいなら出来るだろう。

 しかし、今の俺に行ける観光スポットが存在しない。この格好でエルガーレ観光に行くのは騒動の元だし、鎧を脱いでも勇者かおみしりに遭いかねない。

 変装をすればその辺の心配はなくなるだろうけど、そこまでしてエルガント神国を観光したいのか、と聞かれたら答えはNoだ。


 結局、することも見つからず、仮設住宅でゴロゴロする羽目になった。ドーラは癒しだ。


《ごしゅじんさまー♡》


 しかし、俺が面白い場所に行かなくても、面白いモノの方から来てくれると言うことも往々にある。

 俺はドーラを弄ぶ手を止め、今からやってくる人物のステータスをもう1度確認する。


名前:キーネ

LV75

性別:女

年齢:201

種族:エルフ

称号:剣帝、Sランク冒険者

スキル:<剣術LV10><身体強化LV10><剣帝LV->


 割とよくいる<剣術>特化の一芸さんですね。


 エルフの長い寿命を活かして、スキルレベルを上げてきたようだ。

 寿命が長い方がスキルレベルを上げるのには有利と思いがちだが、実際は長寿の種族ほどスキルレベルが上がりにくい傾向にある。

 もちろん、上がりにくいだけで上がらない訳ではないので、極めれば御覧の通りだ。

 代わりに、エルフらしい他のスキルを持っていないと言う残念ビルドではあるが……。


 さて、そんな残念ビルドのキーネさんにも、2点面白いポイントが存在する。

 1点は御覧の通りユニークスキル<剣帝>だ。


<剣帝>

称号「剣帝」を持つ者に与えられる。<剣術>スキルの効果を大幅に上昇させる。


 このスキルは称号とセットでなければ効果を発揮しないタイプのスキルだ。

 俺の<迷宮支配>スキルと「ダンジョンマスター」の称号と同じ関係性だな。


 しかし、比較的簡単に譲渡できる「ダンジョンマスター」とは異なり、「剣帝」の取得方法はいささか物騒と言わざるを得ない。

 その取得方法は『前の「剣帝」を殺す』と言うとてもシンプルなモノだ。

 前「剣帝」を殺した瞬間、称号「剣帝」と共にスキル<剣帝>を得られると言う訳だ。

 少なくとも、<剣帝>を持った者を相手に勝てる実力が無ければ、次代の「剣帝」にはなれないと言うことだな。


 パッと思いつく裏技は『相手が老いるのを待つ』かな?

 その点を考えると、エルフのキーネさんはいろいろと有利ですね。


 <剣帝>の話はこのくらいにして、次に2点目の面白ポイントをご紹介しよう。


煉獄怨嗟の呪剣

分類:片手剣、呪い

レア度:伝説級

備考:人系種族の殺害数に応じて強化、自動修復


 どこかで見たことがあるような効果だが、これはエルディア王国脱出の際に戦った山賊、ドルグの持っていた『怨嗟の大斧』に似ているのだ。

 アルタ曰く、同じ製作者の後期作らしい。それ故、こちらの方が強力な効果だし、レア度も高いという。すこぶる迷惑な製作者である。


 そして、この剣を使いこなしている段階で、持ち主は人斬りであると断定できる。

 何故ならば、この剣の殺害数カウントって、所持者変更でリセットされるから……。


 さて、そんなキーネさんが何故カスタールの仮設住宅に向かって来たのか。

 簡単に言うと『刺客』である。


 そう、例の司祭の奴、暗殺組織だけでは飽き足らず、外部の存在、それもエルガント神国で活動をしているSランク冒険者、キーネを刺客として差し向けてきたのだ。

 どうやら、キーネと司祭は古い知り合いのようで(実は司祭もエルフ)、俺達を殺してくれと依頼をしたようだ。そして、キーネがその依頼を受けた。

 普通に考えればSランク冒険者は暗殺者ではないので、そんな依頼を受ける訳が無いのだが、キーネは少し事情が違った。


 彼女の趣味は『強い剣士を斬り殺す』ことなのだ。

 厳密に言えば、『強い剣士と戦う』なのだが、死合に負けたものが生きているのはおかしい、という物騒な主義により、倒した相手は全員殺しているので同じことだ。


 どうしてこんな奴がSランクになったのかは不明だが、一応Bランク以上の冒険者とは戦わないという協定を冒険者ギルドと結んでいるらしい。

 それ以外の相手とは、双方の同意があった『死合』ならばと黙認されている。


 司祭はジーンが冒険者でない事。エルディア王国を襲った魔族を蹴散らした事。そして、剣士である事をキーネに伝えたのだ。

 そうなれば、依頼の有無に関係なく、キーネが動かない訳が無い。

 Sランク冒険者の刺客の出来上がりだ。


 キーネはそのままズバリ剣帝流と言う流派の師範で10名程の弟子がいる。

 今回、その弟子達を引き連れて仮設住宅のある林にやって来ている。


 弟子達の役割は2つ。

 1つ目は死合の証人であり、死合の合意があった事と勝敗をギルドなどに報告する。

 2つ目は相手を煽り、死合に引きずり出すことだ。大人数で煽り、死合を成立させる。

 弟子を引き連れ、死合を申し込む。死合を拒否したら臆病者とあざ笑う。死合を受けたら倒して殺す。……なるほど、面倒極まりない刺客である。


「仁様、如何なさいますか?」


 マリアが聞いてきたのは当然、キーネをどうするか、と言うことだろう。

 余談だが、護衛として俺の傍にいるマリア、撫でまわしている最中のドーラ以外のメンバーは別行動中だ。


「さて、どうするかな……」


 キーネの扱いをマリアに問われ、俺は少し考えてみることにした。


 まず、キーネの生死だ。

 これは残念ながら「死亡」以外のルートが見つからない。

 相手は刺客として俺を殺そうとしている。暗殺ではないが、殺す前提で死合を挑むのだから、言い逃れを許すつもりはない。

 そして、もう1つの判定基準。真っ当か否か、と言うのもアウト判定だ。人斬りを配下に加えるつもりはない。

 よって、キーネは確実に殺すことになるだろう。


 次に考えるのはスキルだ。

 キーネを殺すと言うことは、キーネの称号「剣帝」と<剣帝>を引き継ぐと言うことだ。

 しかし、折角取得のチャンスが訪れたユニークスキルなのに、<剣帝>を使ってみたいという気持ちが微塵も起きないのである。不思議な事もあるものだ。


「仁様はあまり<剣帝>スキルを欲しいとは思っていないのですね?」

「よくわかるな」

「使ってみたいスキルを前にした時とは、仁様の目の輝きが違いますから」

「よく見てるな」


 どうやら、俺の反応の方が分かり易かったようだ。


「仁様の事は常に見ていますから。……それで、もしよろしければ、彼女の相手は私にさせていただけないでしょうか?」

「別に構わないが、何か理由があるのか?」

「はい。本来なら、強力なスキルは少しでも多く仁様に取得していただき、仁様の身の安全をより確かなものにしたいと考えています。ですが、仁様は興味のないスキルは有用なモノでもあまり使おうとはしません」


 心当たりは大量に有りますね。

 有効か、有用か、よりも興味の有無で使用を決める方向にあると自覚している。


「今回のスキルは称号が無いと使えません。仁様が称号を得て死蔵するよりは、私が取得して仁様をお守りするために使った方が良いのではないかと考えました」


 なるほど。他のスキルならともかく、称号とセットのスキルとなると、取得する時点でその後の事を考えておく必要があるんだよな。

 考えてみれば<超越>スキルの運用と同じだな。


「分かった。じゃあ、キーネの相手はマリアに任せようと思う」

「ありがとうございます」


 こうして、「剣帝」キーネとの死合はマリアが行うことになった。

 『剣帝VS獣人の勇者』。これは熱いマッチングだね!



 ジーン装備を着こんだ俺とメイド服を着たマリアは、仮設住宅を出て林の中を進む。

 俺達の向かう先では、メイド騎士達とキーネの一団が問答を繰り返している。


 キーネ達は『死合をするからジーンを出せ』の一点張り。

 メイド騎士達は『そんなことに騎士を出すわけには行かない』の一点張りだ。

 常識があるのはどちらだと思う?


 キーネ達は近づく俺の存在に気が付いたようだ。


 キーネはエルフらしく長身かつスレンダーで(偏見)、緑色の髪を短く揃えた美人だった。

 とは言え、性格が顔ににじみ出ているのか、『きつめの』と頭に付くタイプの美人だ。


「白銀の鎧……。貴様がジーンだな!私の名はキーネ、剣帝流の師範だ!私と死合をしろ!断るなら、剣帝流で永遠に笑いものにしてくれる!」

「そうです!臆病者でないのなら死合を受けなさい!」

「少し有名になったからって、いい気になってんじゃねえぞ!」


 キーネが死合の宣言をし、弟子達がそれに追従して煽ってくる。

 キーネは女性だが、弟子達は男女が半々くらいだな。どうでもいいか。


 煽られたら、煽り返すしかないよね?


「俺と戦いたい?俺は雑魚の相手をするほど暇ではない。どうしても俺と戦いたいというのなら、俺の専属メイドを倒してから言え。まあ、お前達には無理だろうがな」


 キーネ達をあざ笑うかのような声色で回答して、専属メイド……マリアの事を指し示す。

 余談だが、遊んでいられるほど暇でした。


「メイドが、そんな小娘が私の相手をするだと?冗談は大概にしろ!そんな奴、私の弟子でも余裕で倒せるわ!臆病風に吹かれ、メイドを犠牲に差し出す気か!」

「そう思うのならば、試してみると良い。行けるな?」


 憤慨するキーネを無視して、マリアに確認を取る。


「はい。お任せください」


 「行けるな?」も何も、マリア自身の望みだから、問題なんてあるはずも無い。


「師範!俺にやらせてください!あんな小娘、一発で真っ二つにしてやりますよ!」

「ソルトか。まあ、いいだろう。ジーンよ、貴様のメイドと私の弟子を戦わせる。私の弟子が勝ったら、次は私と貴様が戦う番だ。貴様のメイドが勝ったら、私がそのメイドの相手をしてやろう。メイドが負けたら、次は貴様の番だ。……これでどうだ?」


 ソルトと言う弟子がキーネに掛け合うと、キーネは頷いた後で俺に提案してきた。

 マリアが負けた時点で俺とキーネの戦いになるって事だな。まあ、問題はないだろう。


「良いだろう。試合形式は?」

「当然、1対1で時間制限はなし。どちらかが死亡するまで続ける」

「降参は?」

「なしだ。命をかけた戦いに降参など許されない」


 俺の問いに躊躇なく答えるキーネ。弟子達も頷いている。

 全く、本当に物騒な連中だ。真っ当な戦闘狂である格闘吸血鬼ラティナを見習ってほしいよ。


「了解した。少しだけ歩いた場所に開けた空間があるから、試合はそこで行おう」

「ああ、分かった」


 俺の提案に従って少し歩き、林の中で開けた広場に出る。

 1対1で戦うには丁度良い広さだろう。


「では、まずは剣帝流門下生ソルトとジーンの専属メイドの……」

「マリーです」

「マリーの死合を始める。両名、前へ」


 広場の中心でマリアとソルトが向かい合う。

 マリーがマリアの偽名なのは、今更言うまでもないだろうか?


「剣帝流を馬鹿にしたことを後悔させてやる」


 そう言って、鋭い目でマリアと俺の事を睨み付けてくるソルトは、年齢が15歳らしいのだが、180cm近くある長身のため、マリアと比べると年齢以上の差を感じる。

 まあ、この世界って見た目はほとんど役に立たない参考情報に過ぎないんだけどね。


 ソルトは両手剣(希少級レア)を正面に構えている。

 巨躯と言うのもあって、それなりに迫力はある。


 マリアに持たせる装備は悩んだのだが、最終的に『宝剣・常闇』にした。

 カスタールにいた頃にマリアに使わせていた武器だ。

 神話級ゴッズを持たせるような相手ではないし、出来れば見せたくもない。

 そして、キーネの伝説級レジェンダリーを相手にするのだから、多少は格の釣り合う武器出ないと見劣りしちゃうからね。一応、レア度は1つ下の秘宝級アーティファクトだから大丈夫だろう。


 マリアは剣を構えることなく自然体だ。


「マリーよ。構えなくてよいのか?」

「問題ありません。始めてください」

「ガキが!舐めやがって!」


 キーネの問いにマリアが答えると、ソルトは舐められたと思い激高する。


「ソルト、文句があるのなら剣で示せ」

「……はい」

「それでは、両者準備が出来たようなので始めさせてもらおう。……それでは、死合開始!」

「うおおおおおおおお!!!」


 キーネの開始合図とともに、ソルトがマリアに向けて真っ直ぐ突っ込んで行った。

 そのまま、上段振り下ろしを放つ。


 力まかせに振るわれた技のない剣がマリアに届く訳もなく、マリアは半歩動くだけでその一撃を避ける。

 ガツンという音と共に、剣が地面を抉る。


「避けてんじゃ、ねえええええ!」


 ソルトは振り下ろした体勢から剣を横薙ぎに振るい、マリアを切り裂こうとする。

 しかし、急いたせいか力の乗り切っていない斬撃がマリアに届く訳もなく、軽く飛んだマリアがソルトの剣を足場にしてもう1度跳躍をした。


「ぐえ!」


 そのまま、ソルトの頭を踏んづけて背後に立つ。


「どうやら、貴方から学べることは多くはなさそうですね」


 マリアがガッカリしたように呟く。


 剣帝流と言う流派の剣士と言うこともあり、少なからず学ぶことがあることを期待していたのだろう。

 しかし、蓋を開けてみれば、マリアに届く訳のない攻撃しかしてこないような相手だった。

 これではガッカリするなと言う方が酷である。


「俺を馬鹿にするのもいい加減にしろおおおおおお!!!」


 振り向きざまに剣を振るうソルトだが、やはり大した技術も無く、力も乗り切っていない。


「もう、良いです」


-スパッ-


「えっ……?」

「なっ!?」


 マリアは剣が届く前にソルトを斬り捨てた。

 あまりの早業に、キーネ以外の剣士達は反応も出来なかった。


 遅れて、袈裟懸けに斬られたソルトから血が噴き出す。

 マリアは既に距離を取っており、返り血すら浴びない。


ソルト君に塩対応。これが言いたかっただけです。

剣帝流に関する話は次回の前半で終わります。ぶっちゃけ本編への影響力0なので。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[気になる点] 「どうやら、貴方から学べることは多くはなさそうですね」ではなく、「なにもなさそうですね」のほうが良いと思います。逆にソルトから学べるものが少なくともある、ということになってしまいますか…
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