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第135話 パシリ女王と第2の議題

本章では仁君が空気になること多数です。

もちろん、影響力だけは無駄に強いですが……。

 カスタール王国の控室を尋ねて来て爆弾発言をかましたのは、サノキア王国の女王、エカテリーナと4名の護衛だった。

 全員が見目麗しい少女だが、それなりの戦闘力はあるようだな。

 スキル構成はエカテリーナをヒーラーとすると、ナイト、ハンター、ソーサラー、シーフと言ったところか。滅茶苦茶バランス良いな。


 エカテリーナは俺達よりも少し幼い風貌で、白い法衣のようなものを着ている。

 肩まで伸ばした金髪はよく手入れされているようで、眩く光り輝いており、まるで天使のようだった(天使に良い思い出は有りません)。


「失礼ですが、ジーン様にどのようなご用件でしょうか?」


 メイド騎士は努めて冷静にエカテリーナに聞き返す。

 エカテリーナの爆弾発言により、カスタールの重鎮達も言葉を失っていた。


「はい。私の最も愛するお方から、進堂仁様へ……いえ、ジーン様とお呼びした方がよろしいですね。ジーン様への伝言を預かっております」

「女王が、伝言を届けるのですか……?」


 メイド騎士が不思議そうにするのも当然だ。

 それでは、まるで女王を使い走りにしているようではないか。


「はい。それが私達がこの会議に参加した1番の目的ですから」


 エカテリーナの目には一切の迷いが無かった。

 勇者とか、魔族とか、そう言ったモノよりも優先される目的があるのだろう。


「エカテリーナ様、まずは誠意を見せるべきではないでしょうか?」

「それもそうですね。皆さん、お願いします」

「はい」×4


 護衛の1人、女騎士の言葉に頷いたエカテリーナは、他の護衛に何かを促した。

 すると、護衛達は持っていた武器や防具を外し、床に並べた。


「カスタールの控室に入れていただけないでしょうか?見ての通り、全ての武装を解除いたします。これでも足りないようでしたら、衣類も全て脱ぎます」


 唐突なストリップ宣言!

 そして、エカテリーナの言葉に護衛達も頷いている。

 そこまでして届けなければいけない伝言があるのだろうか?


 メイド騎士が困ったように俺達の方を見る。

 カスタールの重鎮達は書類を片付けるので忙しそうだ。


 マップで見たところ、隠し武器のような物は持っていないようだが……

 まあ、折角だし剥いておこうか。覚悟の程が分かるだろう。


《下着以外を脱がせてから入れてくれ》


 俺は念話でメイド騎士に伝える。


「分かりました。では下着以外を脱いでお入りください」

「では、失礼いたします」


 メイド騎士がそう言うと、本当にエカテリーナ達はその場で服を脱ぎ始めた。


 エカテリーナは純白だった。

 多少の飾り気レースはあるが、それほど華美な印象は受けない。

 それが、エカテリーナの肉付きはあまり良くないが、清楚な印象の肢体とマッチしている。


 エカテリーナを護衛していた女騎士ナイトは黒だった。

 色はともかく、飾り気のない実用性を重視したような物が、それなりのボリュームのモノを包み込んでいる

 騎士だけあって、飾りよりも実用性重視と言うのは好感が持てる。


 ドレスを着た少女ソーサラーは真紅だった。

 ドレスも華美な赤だったが、中身も華美な真紅である。外見も中身もエカテリーナよりも派手である。

 なお、少女達の中では最大のサイズを誇り、零れ落ちそうである。


 弓を持っていた少女ハンターはサラシと褌だった。

 野性味溢れる肉体に人工物は似合わないとばかりに、未加工の布だけを纏っている。

 サラシによって潰されたモノが盛大な主張をしているのも高評価だ。恐らく、少女達の中では第2位を誇るだろう。


 小柄な少女シーフはヒモだった。

 布ではない。ヒモなのだ。色は灰色である。

 未成熟な身体はそれだけで隠しきれてしまう。


 ……俺は何故事細かに説明コメントをしているのだろうか?

 ついでに言うと、エカテリーナと女騎士は恥ずかしそうにしているが、他の3人は平然としている。


「これでよろしいでしょうか?」

「はい。では、どうぞこちらへ」


 メイド騎士は服を脱ぎ終えたエカテリーナ達を俺達の元へと案内する。

 そっとマリアが俺を守りやすい位置に移動するのが見えた。


 俺達の前まで来たエカテリーナ達は、下着姿のままその場で跪いて礼をした。

 それは、明らかに格上の相手に対する礼だった。


「会議の場ではご挨拶できず申し訳ございません。改めまして、私はサノキア王国の女王、エカテリーナと申します」

「カスタール女王国、女王騎士のジーン」


 王族相手の挨拶には見えないだろうが、女王騎士ジーンは寡黙設定だからね(初耳)。


「早速ですが、伝言の方を届けさせていただきます。『彼女達を自由に使っていいよ』です」

「WHY?」


 思わず素が出てしまった。


「進ど……ジーン様なら、これだけでも十分に分かるだろうと仰っていましたが、不足でしたら、私の方で説明させていただきますけど……」

「確かに何となくは分かるが……」


 何故、何が言いたいのかがわかるかと言えば、エカテリーナの称号が全てを雄弁に語っているのだ。


名前:エカテリーナ

LV23

性別:女

年齢:15

種族:人間

スキル:<杖術LV1><光魔法LV2><回復魔法LV4>

称号:サノキア王国女王、咲の使者


 はい、これがエカテリーナのステータスですね。

 はい、称号欄を見てください。問題の称号はこれです。


『咲の使者』


 『咲』とは、俺の幼馴染(女)の水原みずはらさきに間違いないだろう。


 咲もこの世界に勇者として召喚されており、エルディアでは他の勇者達と同じように俺の事を敵意溢れる目で睨み付けてきていた。

 幼馴染だし、多少は気になっていたが、咲は何処でも生きていけるタイプだから、全く心配はしていなかった。


 俺の知っている咲の性格から考えると、俺に敵意を向けてしまった事を気に病んでいるのではないだろうか。自分の事が許せないのではないだろうか。

 その証拠と言えるかは微妙だが、未だに咲と再会していないのは、咲の方が俺を避けているからかもしれない。


 そうそう、『使者』の称号についても説明をしておこうか。この称号は他の4人も持っており、最初に見た時にアルタに確認をしたのだが……。


A:『奴隷』の称号と同じように、特殊なスキルで与えられる称号です。それ程大した効果はなく、『奴隷』の称号と重複することも可能です。


 との事だ。

 <奴隷術>と異なり、命令権のようなモノは発生しないらしく、何のために付けたのか理由が分かりにくい。強いて言うのならば、メッセンジャーの証明か。


「お前達は咲の使いで間違いないな?」

「はい。咲お姉様の使いでジーン様の元へと参りました。咲お姉様は……」


 エカテリーナが言い淀む。


「合わせる顔が無い、とでも言ったんだろ」

「はい。その通りです。良くお分かりで……」


 伊達に幼馴染はやっていないよ。


「それで、お前達の事を自由に使っていい、って言うのはどんな内容を指しているんだ?」

「それこそ、何から何まででも自由に使ってください。私達はジーン様の要求全てを飲む所存です。サノキア王国でも、私達の身体でも、全て自由にしていただいて構いません」


 唐突な奴隷宣言!&無条件降伏宣言!


 うん、奴隷宣言の方は割と慣れている気もしますね。奴隷って気付いたら増えているモノだし……。


 そして、無条件降伏宣言で確信を持った。

 少し前に起こったと言うサノキア王国の政変、クーデターに咲が関わっていたことを。

 その結果王位についたのが、このエカテリーナと言う少女なのだろうな。


 多分、『彼女達を自由に使っていい』と言うのは、咲なりの罪滅ぼしのつもりなのではないだろうか。罪滅ぼしで一国を明け渡すって言うのもスケールデカいけど……。

 まあ、咲ならばそれくらいのスケールで行動しても不思議じゃないか。


「お前達はそれでいいのか?」

「思うところが全く無い訳ではありません。ですが、それ以上に咲お姉様から嫌われるような事をしたくないのです。咲お姉様に嫌われるくらいなら、死んだ方がはるかにマシです」


 エカテリーナだけでなく、護衛達も頷いている。

 少しだけ、マリアが俺に向ける目と同じようなものを感じた……。


 しかし、納得できた部分もある。

 それで最初からマップの表示が青色(味方)だったと言う訳か。

 嫌々ではなく、咲の指示だから全力で俺の味方になるつもりだったのだろう。


 でも、普通に考えて、見知らぬ他人が最初から青色(味方)マーカーだったら怖いよ。

 だって、親友とか、恋人レベルの信頼を最初から持たれているんだよ……。

 敵ではない。それが分かっていても、自分からは声をかけたくないよね。


「もし、信用ならないと言うのでしたら、私達の事を奴隷にしていただいて構いません。控室に戻れば、奴隷術師も人数分の『隷属の首輪』も用意しております」


 身の削り方がハンパではなかった。


 なるほど……。『使者』の称号と『奴隷』の称号は重複できるんだよな……。

 しかも、丁度いい具合に半裸になっているから、<奴隷術>も掛けやすい。


 これが『咲の誠意』と言う事か……。


 どうするかなー。受け取らなくてもそれほど困らないんだよなー。

 でも、ここで『咲の誠意』を受け取らない選択肢を取ると、咲はきっと俺がまだ怒っていると勘違いをするだろう。そうしたら、次に何をしでかすか、想像もつかない。

 罪滅ぼしの一環として、国1つと王族を含めた少女達を差し出すんだぞ。

 本気で俺の許しを請おうとしたら、ドコまでの事をするのだろうか……。


 ここは、怒ってないよアピールをするのが吉だろう。

 ただ、称号に『咲の使者』がある内は異能を含めた手の内の説明はしないつもりだ。


「分かった。お前達を俺の奴隷としよう。その場合、咲の指示があったからと言って、奴隷契約の解除をしてやれる保証はないぞ?」

「それは勿論覚悟の上です。咲お姉様はもうしばらくジーン様から距離を置くと仰っていました。その間も、その後も、ジーン様のお役に立つように仰せつかっております」


 本当に咲の事しか考えていないんだな。


「それでは、どのようにして奴隷契約をいたしますか?」

「俺が<奴隷術>を使える。お前達は背中を向けるだけで良い」

「分かりました」


 そう言うとエカテリーナ達は横一列になり背中を向けてきた。

 俺は血の入った小瓶を取り出し、1人ずつ順に<奴隷術>を掛けていく。

 最初から下着姿なので、<奴隷術>が掛けやすい、掛けやすい。


「それではジーン様、何なりと御用を申し付けてください」


 晴れて俺の奴隷となったエカテリーナへの最初の命令だ。


「まず、この首脳会議でカスタール側に寄ってもらおうか。サノキア王国の他の重鎮と調整は必要だろうけどな。国を傾けろとは言いたくないし……」

「問題ありません。サノキアは腐敗していた期間が長く、膿を一掃した今、上層部に使える人材が育っていません。私達の決定に根拠を持って異議を唱えられる人材も同様です」


 国としては喜べるような事じゃないけど、今はカスタールに都合がいいね。


「そもそも、私達はエルガント神国側ではありません。勇者達のエルガント神国への亡命には手を貸しましたが、咲様の指示だからです。そうでなければ、特に興味もありません」


 さっきも言ったけど、本当に咲の事しか考えていないんだな。


「ご主人様、ちょっといい?」

「どうした?」


 ミオがちょんちょんと俺の服(鎧から出ている部分)を引っ張る。


「ご主人様の正体を隠すって指示と、何でご主人様の正体が分かったのかって質問はしなくていいの?」

「ああ、それも必要だったな。俺の名前はジーンだ。進堂仁と呼ぶことは禁止する。少なくとも、この姿の時は。それと、何故ジーンの素性が分かった?」


 実は後者の質問については、回答も予想できているんだけどね。


「お名前の件、承知いたしました。ジーン様の素性に関しては、咲お姉様にお聞きしました。そのお名前と行動から、間違いないと仰っていました」


 まあ、付き合い長い相手には流石にバレるよね。

 仕方がない。これは仕方がない事なんだ。


「そうか……。他に話しておくようなことはあるか?」

「そうですね。咲お姉様からのお詫びの品もお預かりしています。ジーン様が私達の事を仮にでも受け入れて下さった場合、そちらもお渡しするようにと仰せつかっています」


 そう言って、エカテリーナはメイド騎士に頼み、先程武装解除した中からアイテムボックスを持って来させた。

 俺はアイテムボックスを受け取り、中身を確認する。


 ……ヤバいね。

 希少な素材や魔法の道具マジックアイテムが馬鹿みたいに入っているよ。

 普通に一財産だよ。それも、俺がの希少素材だから、入手したことが無い物ばかりだ。

 流石は俺の幼馴染だな。……だが織原、お前は駄目だ。


「有難く受け取っておこう」

「そうですか。咲様もお喜びになると思います」


 怒ってないよアピールは大事だ。

 ただ、普通に欲しいと言う気持ちも否定はできない。


 さて、他にエカテリーナ達にしておいた方が良い指示はあるだろうか……。


「……折角、サノキア王国がカスタールの側に付くのだから、この場で会議に参加してもらった方が手っ取り早いな」

「分かりました。カスタールの都合に全面的に合わせます」


 サノキアの国益をガン無視する宣言をしたエカテリーナを連れ、重鎮達の元へ……行く前に服を着直させた。奴隷にしたのだから、もう剥いておく必要もないだろう。

 改めてサクヤやルドルフ財務大臣の元に向かう。


「サノキア王国の協力が得られることになった。カスタール側の方針や要望を伝えてくれ」

「横で聞いておりましたが、いやはや、とんでもない事態ですな……」


 俺達の話を聞いていたルドルフ財務大臣がこめかみを抑えながら言う。


「ルドルフよ。考えるだけ無駄なのじゃ。そう言うものと思って受け入れるのじゃ。少なくとも、カスタールにとって損にはならぬ」

「そうですな……。今はそれで納得するしかないでしょうな」


 ルドルフ財務大臣は深く考えることを止めた。


 メイド達が持ってきた椅子に座り、エカテリーナがカスタールの打ち合わせに加わった。

 途中、エステアのルーアン王子も打ち合わせに来て、サノキアの王族がいることに驚いていたが、結局3ヶ国合同で協力体制を作ることになった。



 予定の時刻になったので、第2の議題について話し合うために会議室へと向かった。


 第2の議題は『勇者の今後について』なのだから、当然と言えば当然なのだが、勇者が3名会議室に来ているようだ。

 その内の1人は要注意人物でもある木野あいちだ。

 多分、勇者達の中でも有力者達を集めたのだろう。祝福ギフトはどれも中々に強力だ。

 加えて、祝福ギフト以外のスキル構成も悪くない者が多い。


 控室の距離的な理由もあり、今回は俺達よりも集まるのが遅い国があるようだな。

 まだ空席の目立つ会議室へと入っていく。


 勇者達は円卓から少し離れた場所に設置された卓に座っている。


 あれが木野あいちか……。

 まるで日本人形のように整った容姿をしているな。

 うーむ、何となくどこかで会った事があるような気がする。……どこだっけ?あれ?木野の横にいる女子(美少女)も見たことがあるような……。年齢を見る限り、同級生みたいだし、学校で会ったのかな?


 しばらく話を続けてみれば思い出すかもしれないけど、現時点では難しいだろう。

 向こうからしてみればジーンは同郷の人間を殺したかたきなのだから、友好的な関係を築くこと自体が困難と言わざるを得ない。

 その証拠にほとんどの勇者はマップ上の表示が赤色てきマーカーである。

 例外は黄色きいろが混じった木野だけ……と思ったら、木野の横にいる女子も黄色交じりだった。名前は……七宝院か……。確か元の世界で有名な金持ちの名前だった気がする。


 そんな事を考えていたら、いつの間にか空席は埋まり、会議が始まろうとしていた。


「皆様お揃いいただけたようですので、これより第2の議題について話を進めさせていただきたいと思います」


 全員が着席したのを見て、リンフォースが会議の再開を宣言した。


「第2の議題は、勇者様達の今後についてのお話となります。カスタール・エルディア戦争において、戦争を厭われた勇者様達はエルガント神国に所属を移すこととなりました。エルディア王国が滅んだ際、エルディアに所属していた勇者様はほぼ全員がお亡くなりになったため、ほぼ全ての勇者様がエルガント神国の所属となっております」


 中には例外もいるんだろうけどな。

 例えば、織原とその関係者、後は俺を避けている咲だな。……俺の幼馴染、例外多いな。


「エルディアが滅んだため、今までの勇者支援のお話が空中分解してしまったので、再びその辺りのお話をさせていただけたらと思います。今回、皆様に快くご協力いただけますように、数名の勇者様をお招きしておりますので、まずはご紹介させていただきたく思います」


 そう言ってリンフォースは会議に参加する勇者達の紹介をしていった。

 勇者は全員で12名。むしろそちらが円卓を使うべきだろうと言いたい。

 紹介とは言っても、全員にコメントを貰う訳にも行かないので、名前を呼ばれたらその場で立ち上がり、軽く会釈をするくらいだ。


 その後、リンフォースは現在予定されている勇者に関する政策、その為に必要な資金を含めた支援について根拠を明確にした上で説明をしていった。


 その支援の内容から、勇者全体の戦力強化に重きを置いていることが分かった。

 どうやら、カスタール・エルディア戦争で勇者が大敗を喫したのは、エルディア王国の勇者に対するフォロー不足が原因と捉えているようだ。

 エルガント神国の基本的なスタンスとして、『しっかりと鍛えた勇者は誰にも負けない』と言うのがあるようだ。

 これは長い歴史の中で、魔王は必ず勇者が討伐していたことを根拠とするモノらしい。


「…………以上の理由から、各国には勇者支援国になっていただき、魔族討伐のための協力をいただければと思います。それでは、何か質問がある方はいらっしゃいますでしょうか?」


 リンフォースが促すと、第1の議題でサクヤに絡んで来た女性が再び手を挙げた。


「勇者様の戦力強化のために協力が必要なことは理解できましたわ。ですが、以前エルディア王国にお支払いしました、勇者支援のための資金はどうなったのです?あの時も少なくない対価を払い、勇者様達からの保護を約束頂いたと思いますわよ?」


 エルディア王国に支払われたお金?

 カスタールを襲うための軍備と、勇者の与えた被害に対する補填で消えたらしいよ。


「大変申し訳ないのですが、エルガント神国ではエルディア王国との間に交わされた契約について保証することは出来かねます。勇者様を召喚した国が魔王討伐前に人間同士の争いで滅びたのは今回が初めてですので、前例に倣うと言うことも出来ません」

「それでは、エルディア王国を滅ぼしたカスタールはどうお考えですの?エルディア王国が滅びたことにより、周辺諸国に少なくない影響が出ていますわよ?」


 リンフォースの回答を聞き、女性は矛先をカスタールに変えた。

 意訳すると、『私達が支援でお金を払った国をよくも潰してくれやがって』かな?


「エルディア王国が滅びたのは、エルディア王国が仕掛けた戦争が原因。それ以上でも以下でもありません。不条理に戦いを挑まれた我が国が、負けたエルディア王国の尻拭いをする道理は有りませんな」


 しかし、ルドルフ財務大臣はバッサリと切って捨てる。


 他の国からの支援金を本来の目的と違うことに使用したエルディア王国。

 国庫が空になりそうなら、残る資金をつぎ込んで戦争を仕掛け、その分の補填をしようとするエルディア王国。

 しかし、戦争では返り討ちに遭い、本当の意味で国庫が空になったエルディア王国。


 そんなクソ国家が周辺諸国と交わした契約を、戦勝国であるカスタールが負担する?……クソくらえだよな。


「ですが、それでは周辺諸国が納得しないと思いますわ。魔族との戦いに必要不可欠な勇者を殺すと言うことは、周囲国家の国防にも関わることですわよ?」


 女性の言葉に周辺諸国の重鎮達(親エルガント神国)が頷く。

 この辺の連中は反カスタールの国々なので、カスタールが考慮する相手の対象外ですね。


「何度も言わせないでいただきたいものですな。カスタールはエルディア王国の持っていた責を一切負う気はありません。周辺諸国が何をどれだけ言おうと、それは変わりません」

「ですが……」

「ならば、逆にお主達に問おう」


 サクヤが立ち上がり、まだ何か言おうとしていた女性を制した。

 サクヤの言葉には、場の空気を変える力があるからな。声も良く通るし。


「エルディア王国の国庫は戦争終結時点でほとんど空だった。つまり、カスタール・エルディア戦争には勇者支援のための資金が使われていたことになるのじゃ」

「それがどうしたのですか?」


 サクヤの言いたい事が分からないのだろう。

 女性が訝し気に尋ねる。


「お主らの支払った金で、我が国の民が傷ついたことをお主らはどう考える?間接的に、お主らが我が国を攻めたとも言えるじゃろう。どうして、妾達が攻めてきた相手の保証をしてやらねばならぬのじゃ?」

「まあ、何て酷い事を仰るのでしょう!?我が国にカスタールを攻める意思などありませんわ!あれはエルディア王国が勝手にやった事ですわよ!」

「勝手にやらせたのも問題じゃ。金を払うだけ払い、その使い方に目を向けなかったという責はあるじゃろう。お主らがもっとエルディアの行動に注意を払っておれば、カスタール・エルディア戦争は防げていたのかもしれんのじゃぞ?何を勝手に被害者ぶっているのじゃ」

「ぐっ……」


 サクヤの容赦のない理屈に女性がひるむ。

 サクヤは「ふんっ」と鼻を鳴らすと、そのまま着席した。


「私の予想ですが、エルガント神国はエルディア王国の反省を活かし、予算の分配に関してあらかじめ細かすぎるくらいの予定を立てていたのではありませんか?予算の説明がやけに具体的でしたからね」

「ええ、その通りです。勇者支援の資金を戦争に使うというのは前代未聞の事態です。今後、その様な事が無いように予算管理は厳密に定めさせていただきました」


 ルドルフ財務大臣の問いに、リンフォースが肯定する。


「それはつまり、エルディアのやり方、当時の周辺諸国のやり方には反省すべき点が多かった、そう言っているのと同じです。なのに、その責任には言及せず、言ってみれば被害者である我が国カスタールにエルディアの責を求める。……少々、恥を知った方がよろしいのではありませんか?」


 ルドルフ財務大臣、意外と言うねぇ。


 サクヤとルドルフ財務大臣の物言いに、周辺諸国の代表が剣呑な雰囲気になる。

 いつの間にか、サクヤ達からも『穏便』という言葉が消えている気がする。

 流石にそろそろ我慢の限界が近いんだろうね。


「少々、カスタールの代表はお言葉が過ぎるのではありませんか?カスタール女王国は周辺諸国を敵に回すことをお望みなのですか?」


 リンフォースも表情を変えず、雰囲気だけを剣呑にして問いかけてくる。


「くはははっ!」


 しかし、剣呑な空気をぶち壊すように笑い声が響いた。


「くくくっ、そうして、敵対した周辺諸国がカスタールに戦争を仕掛け、エルディア同様返り討ちに遭うのか?エルガントが攻めれば、今度こそ勇者が全滅するかもしれぬな。いや、これは愉快、愉快!」

「ゼノン様。貴方は一体何を口走っているのか理解しているのですか?」


 そう、またしても場の空気をぶち壊したのはゼノン・グランツである。

 リンフォースの叱責を受け流して続ける。


「これがカスタールの策ならば、恐ろしいものよ!自らは手出しをせず、有力な国家を挑発し、先に手を出させたところで殲滅、併呑する。あくまでも自分は戦争を仕掛けられた被害者。これほどの大義名分はそうはあるまい!何と言う手管。まさに称賛に値する。そして、カスタールの真に恐るべき点は、殲滅できる対象に勇者が含まれる程の戦力であるな!」


 ゼノン君が大仰にリアクションを取ってカスタールの策を暴く。

 いや、そんなつもりはないんですけど……。


「まさか、カスタールはその為に会議に……」


 リンフォースさんも今まで無表情だったくせに、こんな時だけ驚愕の表情を浮かべないで下さいます?


「酷い陰謀論ですな。我が国に他国との戦争を望む意思などありません。魔族と言う共通の敵がいるというのに、人間同士で争うなど、愚かなことだと思いませんか?」

「いやいや、魔族と言う強大な敵がいる混迷期だからこそ、それに乗じて領土を拡大するというのも、悪くはない手だと思うぞ?余も見習いたいものだな」


 ルドルフ財務大臣の言い分はゼノンによって、真逆の意味に書き換えられる。

 ゼノン君、どんだけカスタールを黒幕にしたいのさ。


 見てよ。周辺諸国の連中、今まではカスタールに明確な敵意を向けていたのに、いつの間にか畏怖と戦慄の表情を浮かべて、明確に目を逸らしているよ。


「何を言っても、悪い方に捉えられては話が出来ませんな……。リンフォース殿、随分と話が逸れておりますが、この話をまだ続ける予定ですか?先にも言いました通り、我が国にエルディアの責を負うつもりはありません。それとも、不毛な水掛け論をお望みですかな?」

「いえ、それはこの会議の本来の目的から大きく外れます。よって、この質問は、この話題はここで打ち切らせていただきます」


 リンフォースが脱線した話題を打ち切った。

 その後は比較的普通の質問が続いた。カスタールに関する話題は出て来ない。


 時折、勇者の方にも話題が振られるが、答えるのは教師と七宝院の2人だけだ。

 人前で話すことに慣れている教師はともかく、七宝院は普通の女子高生だったはずだが、随分と貫禄があるように見える。

 木野と七宝院が時々俺の方をチラ見すること以外、変わったことは……。


A:マスター。少々ご報告したい事がございます。


 アルタがこう言ってくると言うことは、変わったことがあったんだろうな。

 相変わらず、絶妙なタイミングだよな……。


 アルタの報告を聞き、マップを確認してみる。

 ……へえ、これは面白い事になりそうだな。


「余からも1つ質問がある」


 ゼノンが質問のために挙手をしたことで、会議室に息を飲む音が響いた。

 ゼノンの発言は大体トンデモ発言だからね。


「今代の勇者は本当に魔王を倒すことが出来るのか?余の知る限り、勇者を擁する国が人間の国相手に戦争を仕掛けた事も、ましてや返り討ちに遭ったことなど1度もない。よもや今代の勇者は、歴代の勇者達よりも弱いのではあるまいな?」


―ざわっ!―


 ゼノン・グランツの発言は、この会議の根底を疑問視するモノであった。

 会議室の中はざわつく。そして、この発言を許せない者も当然のように存在した。


「言いたい事は、それだけですか……?」


 ご存知、リンフォースである。

 基本系の無表情のままに、凄まじい殺気を放っている。

 実力者であるリンフォースの殺気を浴びて、周囲の席の者達の中には、泡を吹いて気絶している者もいる。


 ああ、こちらも面白い事になって来た!


会議編の主役はサクヤとゼノン君です。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
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[気になる点]  マップで見たところ、隠し武器のような物は持っていないようだが……  まあ、折角だし剥いておこうか。覚悟の程が分かるだろう。 《下着以外を脱がせてから入れてくれ》 [一言] えーと、こ…
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