第134話 首脳会議と第1の議題
首脳会議が始まります。新キャラは意外と少なかったりします。
メイド騎士達がエステア王国の王子達が乗った馬車を助けてから1時間が経過した。
現在、エステア王国から来た王子を含む使者達は、俺達の仮設住宅の近くに設置された新しい仮設住宅内でその身を休めている。
本当に幸いな事に、エステア王国の護衛の兵士達には死者はいなかったが、重傷者を含むケガ人は結構な数だった。
魔物の群れに追われる直前、馬車を出発させるための時間を稼ぐために、身を張った結果のようだ。
隠すような事でもないので、エステア王国の面々には魔物の襲撃に関して一通りの説明をしておいた。
実際に説明をしたのはメイド騎士なので、直接聞いたわけではないけど、王子が「やっぱりそうでしたか……」と呟いていたらしい。
何でも、ここまでの道程で何度も危険な目に遭っていたのだとか。
当然、エルガント神国の関与を示す証拠はないが、疑う相手も他にいない。
今更言っても仕方のない事だけど、エステア側の使者にも配下を付けておくべきだったかもしれないな。
王女経由でエステア王宮にも配下は紛れ込んでいるからね。
余談だけど、王族の配下が居る国には、王族以外にも国家中枢に配下は入り込んでいる。
立場としては基本的にメイドや側近だけど、有能だから結構重宝されていると聞いたことがある。元々の資質に加え、異能の恩恵を受けられるのだから当然だ。
話を戻そう。
エステアの使者達は仮設住宅で少し休んだ後、エルガント神国に到着の報告をしたのだけれど、エルガント神国側の宿泊施設に泊まることを拒否した。
理由は当然、『エルガント神国が信用できないから』である。
尤も、到着の報告をする前に俺達の話を聞いて、エルガント神国への不信感が最高潮に達していたことと、エステアの分の仮設住宅を建てる用意があることを伝えていたのも、無関係ではないだろう。なお、仮設住宅は有料である。
いくら友好的な国ではないとは言え、2つもの国に信用にならないと言われ、滞在を拒否されるということは、大国としての評判を著しく下げることになるようだが、俺達の知った事ではないだろう。信用できないのは事実なのだから。
「美味しいですね。この味……アドバンス商会のレストランで出されているモノと味付けが似ていますね」
そう言って料理を口に運ぶのは、エステア王国の王子だ。
エステア王国の王子、ルーアンが正式にお礼を言いたいと言うことなので、折角だからサクヤと昼食を共にしてもらうことにした。
ルーアンが今回の救援の件について感謝の言葉を述べ、サクヤがそれを受け入れる。その後は雑談タイム兼昼食会だ。
一応、毒見はしたようだが、ルーアンの様子を見る限り、最初からこちらの事を疑ってはいないようだ。
俺は護衛の振りだ。リコも側にいる。さくら達は顔バレしているのでこの場にはいない。
まあ、サクヤと俺達が知り合いと言うことはエステア王国の上層部は知っていることなので、バレたところで問題はないのだけど……。
どちらかと言えば、ジーンの正体がバレる可能性が高いのが問題だ。
ほら、さくら達の側に俺が居なくて、代わりにジーンって名前の正体不明の人間がいたらどう思う?俺なら同一人物だと疑うよ。
そもそも、ジーン何てバレやすい偽名を使った事が1番の失敗だったかもしれない。でも、ゲームの時に付ける定番の名前だし……。仕方ないね!
「ほう、良い舌を持っておるのじゃな。その通り、アドバンス商会の関係者をメイドとして雇っておるのじゃ。旅の間の食事は非常に重要なのじゃ」
「はい。僕もそう思います。それにしても、アドバンス商会から料理人を雇う、ですか。……考えも付きませんでしたね。僕たちもそうすればよかったです」
ルーアンも旅の間の食事には悩まされていたのだろう。感心したように呟く。
「いや、それは難しいと思うのじゃ。あの商会は権力に全くなびかぬからの」
「その噂は聞いたことがあります。権力で無理矢理従わせようとすると、すぐにその土地を捨て、一晩で支店のあった場所は更地になると……」
メイド達の行動力なら、それくらい朝飯前だろう(夜間の行動なので)。
「うむ、妾も偶々伝手があったから頼めたのじゃが、中々に大変じゃった」
「それを考えると、伝手のないエステア王家では難しかったでしょうね。僕たちも便宜を図ろうとしているのですが、アドバンス商会はそれも受け入れませんから」
「権力に取り込まれること自体を良しとせぬようじゃな。恐らく、他に明確な目的があるのじゃろう。王家ですら見向きもせぬような目的がな」
ほんの少しだが、サクヤの意識が俺の方に向かったのを感じる。
「それを聞くと中々に恐ろしいですね。王族ですら制御不能な勢力が、各国、各地に存在しているのですから」
「本当にそうじゃな。そんな相手とは敵対しないに限る」
「全くです」
何故、王族同士の会談でアドバンス商会の事が話題に上るのだろう?
「そのアドバンス商会も、エルガント神国には一切支店を出していないようですね」
「そうじゃな。カスタール・エルディア戦争が終わるまでは、カスタールから見てエルディア方面には一切支店を出しておらんかったそうじゃ」
「後、勇者支援国の支店も驚くほどに少ないと聞きます。僕の国と同じで、勇者の事があまり好きじゃないのかもしれませんね」
中々に鋭いな。
やはり、カトレアの弟は将来に期待が持てる。
「勇者を殺した国として、責任を果たすつもりでこの国に来ましたけど、正直に言って後悔しているくらいです。あまりにもこの国の対応は酷い」
ルーアンはため息をつきながら言う。
「命を狙ってきておる時点で、対応も何もないと思うのじゃが……」
「……言われてみればそうですね。既に命を狙った行動に出ているんですよね」
既に嫌がらせを越え、物理的な手段に訴えてきているのである。
「……魔物の群れから救ってもらっておいて厚かましいお願いだとは思うのですが、今回の会議に向け、協定を結びませんか?」
ルーアンが言うには、エルガント神国が主催者の会議なのでカスタール、エステアは完全に敵地だ。数の暴力で無理難題を押し付けてくる可能性が十分にある。少しでもその状況に対抗するため、事前にカスタール、エステア間で協定を結び、フォローし合えるような関係を作りたいそうだ。
「それは願ってもない事じゃ。妾も他国とやり合う経験は少ないからのう。同じような立場の仲間がいるだけで心強いのじゃ」
「経験が少ないのは僕も同じですね。そもそもの話なんですけど、多分、王族の代表として集まる中で僕たちが最年少グループだと思いますよ」
残念!王族の中で最年少はグランツ王国の国王、ゼノン・グランツ君9歳だよ!
まあ、アレは多分肉体年齢だけの話だけどね。魂の年齢は知らん。
こうして、サクヤとルーアン。いや、カスタール女王国とエステア王国の協定が内々で結ばれることになった。
俺はすることが無いのでボーっとサクヤの護衛をしている。
「……………………で間違いないですよね?」
「うむ、そうなのじゃ。知っての通り、彼の名はジーン、妾の護衛にして、カスタールでも最強の騎士じゃ。護衛故、挨拶をせぬことは許していただきたいのじゃ」
はっ!俺の話題が出ている。
完全に話を聞いていなかった。アルタ、何の話?
A:エルガント神国が武力行使に出てきた場合について話し合っています。エステアも精鋭を連れてきていますが、カスタールの騎士の強さには及ばないだろう。そして、マスターがエルディアをほぼ単独で落としたジーンで間違いがないか、と言った内容です。
ああ、助かったよ。
「ええ、それは大丈夫です。態々正体を隠しているのに、無遠慮に暴こうなどとは考えていませんので」
「……念のため、と言う奴じゃよ。有名になれば面倒も増えるからのう」
「理解しています。……それにしても凄い装備ですね。武器防具には造詣が深くはありませんが、素人目に見ても凄まじい存在感を放っているように見えます」
「ふむ、そうじゃな。じゃが、ジーンの強さは武器に頼った強さではないのじゃぞ」
よせやい。照れるじゃないか。
「それも何となくわかります。多分、あの凄まじい武器よりも、ジーン殿本人の方が凄いですよね?武器を見る目は有りませんけど、これでも人を見る目には自信があるのです」
「鎧越しですけどね」と最後にオチを付けてくれた。
雑談をしながら書類をまとめ、今後の方針を定めた所でお開きと言うことになった。
なお、お互いのフォローの一環として、メイド騎士を数名、エステアの仮設住宅の方に配備した。騎士の戦闘力と言う意味では、エステアには申し訳ないがこちらの方が上だからな。
一夜明け、いよいよ待ちに待った首脳会議の開催日だ。
待ちに待ったのは、早く帰りたいからである。
昨日も昨日でしっかりと刺客がやって来ていたからね(当然、皆殺し)。毎日刺客のやってくる国なんて、好きになれる訳が無い。
俺達は人がいなくなる仮設住宅を一旦撤去し、馬車に乗ってエルガーレの門をくぐった。
門番に先導され、大聖堂へと向かって行く。街中とは言え、中心にある大聖堂までは距離があるので、当然のように馬車による移動だ。
他の街同様、白を基調とした建物が多く、……いや、ほぼ全ての建物は白い。流石は神都、他の街以上に徹底しているな。
綺麗で平和そうな街並みだが、心が全く揺さぶられない。俺の中ではエルガント神国は既に観光地扱いではないからだろう。
マップを見れば、既にほとんどの代表者達が集まっているようだ。
多分、俺達が最後と言うことになるのだろう。別に悪いとは思わないけどな。
事前に決めてあった通り、俺とセラがサクヤの護衛として、リコがメイドとして会議に出席することになった。
他のメンバーは大聖堂の控室で待機することになる。こちらは国ごとに割り振られており、会議場の様子を伺うことが出来るテレビのような魔法の道具が設置されている。この魔法の道具……絶対、勇者関連だ。
同行した大臣も全員が会議場で参加する訳ではなく、代表として財務大臣のルドルフが同行する。他の大臣は控室行きだ。
ルドルフ財務大臣はその役職名とは異なり、財務以外にもいくつか重要な政務を担っており、サクヤとルドルフがいればカスタールに関する大抵の事は決められる。
むしろ、2人がいないカスタールの方が大変である。
A:メイドがいるので問題がありません。
……普通に考えたら、メイドがいるからどうしたんだと言う話だが、ウチは別だよね。
とにかく、否が応でもメンバーが分断されてしまうので、注意、いや警戒が必要になる。
流石に大聖堂内で会議中に刺客はやってこないよね? ……うん、何の保証もないや。
しばらく進み、ようやく大聖堂へと到着した。
事前に決まっていたことだが、大聖堂内への武器の持ち込みは禁止されていない。
王族の護衛なのだから武器を持っていて当然である。
尤も、騎士ごっこ(建前を無視した身も蓋も無い表現)をするのを止めるのであれば、武装を禁止されていても何の問題も無い。
その場合、格好いい鎧を着て殴る蹴るの暴行を加える、ワイルド系騎士が誕生するだけだ。
素手の肉弾戦が1番得意って言うのが、最も手強い相手の1つだよね?
大聖堂の中を進み、控室組と別れる時が来たので、念話であいさつを済ませる。
《じゃあ、行ってくる》
《行ってきますわね》
《仁様、お気を付けください。セラちゃん、仁様をお願いいたします》
《もちろんですわ》
《ごしゅじんさま、がんばれー!》
相変わらず、マリアは心配性だな。まあ、ここまで敵が多いと無理もないか。
《私も忘れないでくれると嬉しいかなー。一応、女王だし……》
《サクヤちゃん、頑張ってください……》
《うん、頑張るね。さくらちゃん、気を使ってくれてありがと》
当然だけど、首脳会議では俺よりもサクヤが頑張らないといけないからね。
《こっちはこっちで油断できるわけじゃないからね。例の司祭も刺客の準備をしているみたいだし……》
《結局、そうなるのか……》
ミオの言うように、件の司祭は首脳会議中に控室の方に刺客を放つ算段のようだ。
とりあえず、タモさんでも放っておくとするかな。<分裂>で結構増えているから、そこそこの数連れてきたんだよね。
ほーれ、行ってこい。
《ご主人様、何をしたの?》
《タモさんに刺客達の母集団である暗殺組織を壊滅させるように指示をしたんだ。司祭をこの場で殺すと面倒だし、まずは手足を奪うのが1番だろ?》
司祭の指示があるとはいえ、刺客を何10人も送り込んでいるような組織なのだから、組織自体を敵とみなしても何の問題も無いだろう。
そして、敵である以上、容赦をする理由はない。残念ながら、俺が直接行くわけには行かないので、タモさんにお願いすることになるのだが……。
《暗殺者タモさんかー。少し想像してみただけでも、とんでもなく恐ろしいわね……》
《そう言う訳だから、これ以降は刺客の相手をする頻度も減ると思う。別の組織があるかもしれないから、完全に0になるとは限らないけどな》
《りょーかい》
タモさんを放って安全を確保した後、俺達は会議室、他のメンバーは控室へと歩き始めた。
会議室は4階にあり、昇降機的な魔法の道具に乗って上まで行く。この魔法の道具、欲しい!
再びしばらく進み、会議室が見えてきた。
各国の王族を集めるだけあって、大聖堂内の会議室の中でも、飛び切り広くて豪勢な部屋になっているようだ。
「どうぞお入りください。他の国の方々は既に揃っておいでです」
案内人が促すと、会議室の前を守っていた兵士達が扉を開けた。
案内人の言った通り、既に会議室の中には大勢の参加者が集まっていた。
巨大な円卓が中心に置かれ、国ごとに首脳達が集まって座っている。その後ろには護衛の兵士、騎士達も並んでいる。
また、円卓には遠距離通信用の魔法の道具である『遠見の合せ鏡』も並んでいた。
人の身長よりも高く、幅も広い姿見が、まるで会議参加者のように円卓に並んでいるのは微妙に滑稽である。
「お待ちしておりました。どうぞ、席におかけになってください」
そう言って着席を促すのは、この会議の主催者であるエルガント神国の最高権力者である女教皇だ。
パッと見は20代後半くらいの穏やかそうな女性だが、マップの表示は赤(敵)なので、全く油断はできない。
カスタールからはサクヤとルドルフ財務大臣、エステアからはルーアンともう1人の重鎮が、それぞれ国名と名前の書かれた席に座る。
護衛である俺達はサクヤ達のすぐ後ろに、侍女達はさらにその後ろに控える。
もう少し奥の席だったら、窓から外の景色が見られたのに……。
サクヤ達が座ったのを見て、女教皇が再び話を始める。
「それでは、全員お揃い頂けたようですので、首脳会議を始めましょう。まずはこの場にお集まりいただいたことを心よりお礼申しあげます。私はこの会議の主催者であり、エルガント神国の教皇でもあります、リンフォース・メイ・エルガントと申します」
うん?マップの表示と名前が違うな。
A:表向きの偽名のようです。
じゃあ、仕方ないね。俺も文句を言えるような立場じゃないし。
「この首脳会議はカスタール・エルディア間の戦争を発端としており、大きく3つの議題について話し合いたいと思っています。1つはカスタール・エルディア戦争についての説明。1つは今後の勇者様達の扱いについて。1つは今後の魔族への対抗策についてです」
俺達が問題にすべきなのは、1つ目と3つ目だな。
勇者の扱いはどうでもいいが、戦争の責任を求められたり、魔族との戦いに駆り出されるのは御免だからな。
「まずは第1の議題から進めていきましょう。カスタール・エルディア戦争についての説明です。これはどの国にとってもあまりにも急な出来事でした。そして、終わったのも一瞬でしたので、ほとんど情報が入っていないのです。カスタール側から、事の顛末を直接お聞かせ願えればと思っております」
女教皇、リンフォースに促されてルドルフ財務大臣が起立する。
「カスタール女王国の財務大臣、ルドルフと申します。私の方から、カスタール・エルディア戦争について、顛末を説明させていただきたいと思います」
そうして、ルドルフ財務大臣はカスタールが勇者支援国にならなかったことで徐々に不仲になっていった事。エステアで起こった勇者(日下部の事だな)殺害の件をカスタールがかばい、それ以降はエルディアに目の敵にされてきた事。宣戦布告も無くリラルカの街を占拠された事を説明し、戦争が始まったと締めくくった。
「ありがとうございます。ここまでで何かご質問はありますでしょうか?」
リンフォースが質問を促すと、1人の少女が手を挙げた。
「サノキア王国の女王、エカテリーナです。1つ、質問しても良いでしょうか?」
サノキア王国の女王か……。
彼女も色々と気になる人物ではあるが、少なくとも敵ではないから、今は考えなくてもいいだろう。
「はい、何でしょうか?」
「そもそも、なぜカスタールは勇者支援国にならなかったのですか?エルディア王国に隣接するカスタールは、魔族の侵攻があれば大きな被害を受けると思うのですが……」
「大きく、2つの理由があります。1つは…………」
エルディア王国の所業、カスタールの内情を知らない国も多いのだろう。
そのような質問が出る可能性は考慮済みのようで、ルドルフ財務大臣は淀みなく答える。
ルドルフ財務大臣が語ったのは、エルディアが隣国を宣戦布告無しで攻め滅ぼし、勇者召喚により責任を逃れたと言う事実と、カスタールのSランク冒険者騎士の数と質を根拠とした勇者に頼らない戦力の話だ。
信用ならない国に援助をして頼るくらいなら、自分の身は自分で守ることを選ぶのは自然な流れであると言って回答を終えた。
「エルディアがそのような事をしていたという証拠はあるのですか?」
「あります。戦後、エルディア城内で侵略戦争に関する書類が多数見つかっております」
エカテリーナの問いに即答するルドルフ財務大臣。
よくそんなものを見つけたな。
A:重要な証拠になりそうだったので、配下のメイドに見つけさせました。
アルタの手引きでした。
それじゃあ、どんな重要書類も隠しようがないよね。
「分かりました。質問は以上です」
他に質問も無いようなので、ルドルフ財務大臣は話を続けた。
戦争が始まるといよいよ俺、登場である。
リラルカの街を占拠されたので、女王騎士ジーンが冒険者と協力して解放し、カスタール内部に攻め込んできた軍を殲滅。
その後、劣風竜による急襲部隊でエルディアを攻め、魔族によって壊滅的な被害を受けていた王都を魔族ごと制圧したところまで話す。
と言うか、大体の話が終わったな。
それにしても、ジーンさん大活躍だね。
配下(身内)以外から客観的に話を聞くと、化け物としか思えない働きっぷりだよね。
「ありがとうございました。さて、他に質問はありますでしょうか?」
リンフォースが促すと、今度は先程よりも多く、4~5名が挙手をした。
リンフォースが1人を指名し、その人物が名乗った後に質問をしてきた。
聞いたことのない国だが、その人物は赤色(敵)マーカー、つまりエルガント神国側についている国のようだ。
「何故、カスタールは戦争で勇者を殺したのですか?勇者様達は魔族との戦いになくてはならない存在。それをカスタールの一存で殺すなど、人類に対する敵対行動ではありませんか?」
思っていたよりも攻めてくるのが早かったな。
それに、エルガント神国が直接糾弾してくるんじゃないのか。
……いや、関係する他の国に糾弾させて、全体でカスタールを攻めあげるのが目的かな?
「それはつまり、カスタールはエルディアの侵略行為に対し、無抵抗を貫き、滅べば良かった、と仰るのですか?」
「いえいえ、その様な事は申しておりません。ただ、他にやり様があったのではないかと思っただけですよ。真に人類の事を想うのなら、ですけどね。私の質問は以上です」
最初は(結構踏み込んで来たけど)軽いジャブのつもりなのだろう。
喰い下がらずに話を強引に切り上げる。
会議の空気をカスタール悪し、と言う風に染め上げたいのかな?
そして、次の質問は……。
「そのジーンと言う騎士は何者かお教えいただきたいですわ。勇者様を相手に出来る程の実力を持ちながら今まで無名だったことを考えると、何か後ろ暗い過去でもあるのではございません?」
今度は俺についての質問だ。
ある意味、これは想定内の質問だな。
「彼について私の方から申し上げられることはほとんどございません。彼はサクヤ女王の近衛騎士で、恐らく最も信の厚い騎士、私どもにとってはそれだけで十分ですので」
「それでは何の説明にもなっていませんわよ!ならばサクヤ女王、貴方の口から説明してくださいませ!」
ルドルフ財務大臣の説明に質問者の女性は声を張り上げる。
その言葉を聞き、サクヤが立ち上がる。
「カスタール女王国の女王、サクヤじゃ。1つ聞きたいのじゃが、何故妾達が自国の戦力について語らねばならぬのじゃ?」
「それは、カスタール女王国が戦争についての釈明をする場ですので……」
「釈明ではない。説明じゃ。妾達はあの戦争において、何1つ悪いと思うような事などないのじゃからな。妾達がするのは『戦争の説明』だけじゃ。戦争に使用した戦力の説明や、戦争の結果生じた誰かの不利益について問答をするつもりはない」
サクヤは質問者の言葉を遮って宣言する。
これからも色々と言われるだろうから、早い段階でサクヤが自分達の立ち位置を主張すると言うのは悪くないだろう。
ただ、あまりにも強気な発言は各国の反感を買いやすいので、注意が必要だ。……今更必要か?
「まあ、何て身勝手な事を!もとはと言えばカスタールが……」
案の定、質問者の女は声を張り上げる。
しかし、サクヤはその言葉を無視してリンフォースの方を向く。
「妾達は、聞いていた物とは全く違う趣旨の会議に呼ばれてしまったのか?ここは戦争の説明をする場で良いのじゃよな?どうなんじゃ?リンフォース殿?」
「サクヤ様の言う通りです。あくまでも第1の議題は第2、第3の議題を進める上での情報共有の場です。カスタールには、不利益になることは答えないと言う選択も可能です」
ほとんど表情は変わっていないが、ほんの少しだけ残念そうにリンフォースが言う。
ここまで早い段階でカスタールが拒絶してくるとは思っていなかったのかもしれない。
リンフォースは数の暴力で押し切ろうと思っていたのだろう。だが、俺が守ると宣言したのが効いたのか、今のサクヤは自信満々だ。
「他に質問はございますか?」
流れを変えたせいか、先程まで手を挙げていた質問者がいなくなった。
この場で無理にカスタールを追い込もうとすれば、むしろ自分の方が立場が悪くなると判断したのかもしれない。
そんな中、1人の少年が挙手をした。
ご存知、グランツ王国国王、ゼノン・グランツである。
グランツ王国の席には、ゼノンとたった2人の側近の姿しかない。控室に残している訳でもないようだ。
「1つ、良いか?」
「はい、どうぞ」
「グランツ王国の国王、ゼノンである。先程の話で1点気になったのだが、どうして魔族はエルディア王都に攻め込んだのだ?勇者や兵士が戦争に出ており、王都には戦力となる者がいなかったのであろう?何故、狙いすましたかのように戦力不在の際に魔族が攻めてきた?」
織原が俺と1対1の状況を作るために魔族を引き入れたからです。
い、言えねぇ……。そして、言いてぇ……。
「きっと、カスタールが魔族と手を組んだのですわ!そのせいでエルディア王国は!」
さっきジーンについて質問した女が再び声を張り上げる。
「……少し黙っておれ。少し考えればわかることであろう。もし、カスタールが魔族と手を組んでいたのなら、カスタールが魔族を殲滅するのは不自然であろう。魔族も味方が死ぬ前提でそんな協力などせぬであろうからな」
何と、マトモな意見で女の戯言を切り捨てたのはゼノン君でした。
「余もいくつか想定できるが、カスタールはどう考えておる?」
あ、ゼノン君の一人称、『余』なんだ……。
「大きく2つ。魔族がエルディアに潜伏していたか、エルディアに内通者がいたかのどちらかでしょうな。少なくとも、現状でどちらか確定できる証拠は見つかっておりません」
ゼノンの問いに答えるのはルドルフ財務大臣だ。
サクヤは既に席に座り直している。
「ふむ。内通者となると、この国に居る勇者が怪しいな」
「この国に居る勇者様達を疑うと言うのですか?」
ゼノンの言葉に反応したのはリンフォースだ。
表情は変わっていないが、纏う雰囲気が険しくなった。
流石の彼女も、自国に来た勇者を貶める発言は許せなかったようだ。
「何を憤っておる。事実から想定できる意見を述べているだけであろう?戦争が始まることを知る事が出来、かつ自身は安全な場所に逃げられる。可能性は低くないと思うが?」
「勇者様に魔族と通じるような者がいる訳がありません。それ以上言うと、我が国への挑発行為とみなしますよ。よろしいのですか?」
魔族と通じる勇者、いますよ?
「ほう、それは面白い。エルガント神国が滅んだら、次はどの国が勇者を擁することになるのであろうな?ああ、その場合、勇者が生き残っているとも限らぬか……」
「な!?」
悉く挑発的なゼノンの物言いに驚いたのは周辺諸国の方だ。
ゼノンの言い方では、エルガント神国とグランツ王国が戦争になった場合、滅びるのはエルガント神国だ、と宣言したような物なのだから。
「勇者様を、我が国を相手に良くそこまでのことが言えますね」
「小国と思って侮るなよ。爪を研いでいるのはこちらも同じだ」
リンフォースの目が鋭くなるが、ゼノンは意にも介さない。
「良いでしょう。グランツ王国とは後でしっかりと話し合いをしたいと思います。今は会議の場ですので、この話は終わりとします」
「良かろう」
この場でガンガンやり合う予定はないようで、双方矛を収めた。
「恐らく、内通者の調査を進めても芳しい成果は得られないかと思います。ただ、その様な存在がいるかもしれない、という点だけは頭に入れておいてください」
リンフォースがこの議論についてまとめる。
内通者の調査をするとなると、エルガント神国も勇者に探りを入れる必要が出てくる。
それを避けるため、調査自体を進めないと言う方針に誘導するつもりのようだ。
まあ、俺は真相を知っているから、どうでもいいんだけどね。
リンフォースが他の質問が無いか聞いたが、結局それ以上の質問者は出なかったので、第1の議題は終了と言うことになった。
昼時と言うことで、一旦控室に戻り、昼食兼各々情報を整理する時間が設けられる。情報の整理に時間がかかるだろうと言うことで、長めの3時間が与えられることになった。
また、第2、第3の議題は第1の議題と比較して圧倒的に長くなると思われるので、慌てて進める必要はないという判断もある。
第1の議題は、あくまでも前提条件の説明の場でしかないのだから当然である。
カスタールの重鎮達も控室に戻り、ミオの料理に舌鼓を打った後は、話し合いを始めた。
俺はもちろん不参加だ。基本的に政治に口を突っ込む気はないからな。
重鎮達が話をしている辺りから離れ、俺達は俺達で雑談をする。
「ここに来てから刺客は来ていません。暗殺集団が壊滅したのが大きかったのでしょう」
「やっぱタモさん怖いわねー」
マリアの説明にミオがうんうんと頷く。
「でも、別の伝手を使って人を集めているみたいですから、油断は禁物ですわ」
「素直に諦めてくれないんでしょうかね……」
《しつこーい!》
司祭も司祭でまだ諦めてはいないようだ。
ドーラじゃないけど、本当にしつこい。
「まあ、考えようによっては悪い事じゃないよな」
「何故?」
俺は笑顔でミオの質問に答える。
「だって、普通の魔物があまり持っていない<暗殺術>スキルが得られるし、他にも人間ならではのスキルを増やす絶好の機会だろ?」
「とうとう人間扱いからスキルポイント扱いになった……。ご主人様、ヤバい」
戦慄するミオを無視して、次に来る刺客のスキル構成について思いをはせる。
レアスキル持っていると良いなー。
昼休憩が始まってから1時間が経過した頃、こちらに向かってくる人物を捕捉した。
敵ではないが、警戒が要らないと言う訳ではない。
-トントン-
ノックがあったので、メイド騎士が対応をする。
「こちら、カスタール王国の控室で間違いありませんよね?私、サノキア王国のエカテリーナです。こちらにいらっしゃるジーン様、いえ、進堂仁様とお話がしたくて参りました」
エカテリーナは厳密には新キャラではありません。
進堂仁の名を知っているサノキア王国の人間、一体誰なんだ……。