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第128話 馬車の旅と偽盗賊

第9章始まります。

一応、この章の最後まで書き終わりましたので、途中で止まることはありません。

 サクヤからエルガント神国の首脳会議に出発すると言う知らせを受け、俺達(+ベガ)は旧エルディア王国最北端、サノキア王国との国境に1番近い街へと転移することにした。


 旧エルディア王国(現エルディア領)から見て北側にサノキア王国があり、さらに北上することでエルガント神国がある。


 エルディア領、エルガント神国間の最短ルートは、サノキア王国にある森を馬車で突っ切るルートである。このルートを通る場合、通常は馬車で2週間かかるのが1週間で済む。

 今回、俺達が通るのは森のルートである。魔物の領域である森を進むので多少のリスクはあるが、俺達が同行する以上、危険は極限まで軽減されるはずだ。


 本当はエルガント神国まで劣風竜ワイバーンで行くのが手っ取り早いのだが、サクヤ曰く、他国を劣風竜ワイバーンで飛び越える訳にもいかないそうだ。

 仕方がないので、サノキア王国に最も近いこの街まで劣風竜ワイバーンで移動し、そこから馬車の旅でサノキア王国を越え、エルガント神国へと向かうのである。


「さて、それじゃあサクヤの元へ向かおうか」

「おー!」

《おー!》


 年少組ミオとドーラは相変わらず元気だな。


 現在、サクヤはこの街の領主の館で出発の準備をしている。

 流石に領主の館に直接転移をする訳にもいかなかったので、中継地点としてアドバンス商会の支店へと転移をすることにした。

 まあ、領主の館を取り仕切っているのはウチのメイドだから、直接転移しても文句を言う者は何処にもいないんだけどね。


 敗戦国なので当然のように活気のない街を歩き、領主の館へと向かって行く。

 マップを見れば迷うことも無いのだが、商会員メイドが案内をしてくれる。


 領主の館の前には6台の馬車が並んでいた。

 事前にサクヤに話を聞いた所、今回の首脳会議への参加者は可能な限り人数を減らし、サクヤを除いて重鎮は5名しか同行しないそうだ。

 護衛や侍従も合わせて50人に満たない小規模な集団と言うことになる。王の移動と考えると、心もとない人数だよな。……本来なら。


A:カスタールで行われた会議でも少ないという声は出ていました。しかし、サクヤが『ジーンとその仲間が同行する』と言ったことで、その様な意見は消えていきました。むしろ、人数が多いとジーンが守り切れなくなるからと、同行者を減らす方向に推移しました。


 ジーン、カスタールの重鎮に信頼され過ぎじゃね?


A:はい。サクヤの事はジーンに任せる方針だそうです。


 大国の女王の扱いが適当である。


 領主の館の敷地内に入ると、中で作業をしていたメイド達が気付き、すぐさま頭を下げる。


「ようこそいらっしゃいました」


 余談だが、今頭を下げたメイドの内の1人はこの街を取り仕切っている領主で、貴族位も持っている。件の奴隷メイド貴族である。


 メイド達に案内をされて敷地内を進むと、丁度こちらに向かって来たサクヤを発見した。


「あ、お兄ちゃん。丁度良かった。もうじき出発するから、騎士装備に着替えてくれない?」

「ああ、分かった」

わたくしもですわね」

「さくらちゃん達にはメイド服を用意しているわよ」

「サクヤちゃん、ありがとうございます……」


 俺とセラは『白銀の騎士』セットを着て護衛として、他の面々はメイド服を着て侍女としてサクヤに同行することに決めているからな

 さくらとドーラのメイド服は本邦初公開である。


 男女に分かれて更衣室へと向かう。

 鎧を付けるのにはメイドの手を借りることにした。1人で着けるのは面倒なんですよ。


「どうでしょうか……?」

《どーお?》


 再集結した後、メイド服を着たさくら、ドーラが俺に感想を求めてきた。

 メイド服が似合っていると言うのは、誉め言葉になるのだろうか?


《ミオ、ここは褒めるべきだろうか?》


 わからない時はミオに聞いてみる。

 ほら、ミオがこの中で1番女子歴が長いから。


《え、ここで私に聞くの!?まあいいか、ご主人様だし……。ええ、褒めるべきよ。『どう?』って聞いているんだから、褒めて欲しいに決まっているじゃない》

「ああ、似合っているよ」


 ミオのアドバイスを受け、すかさず2人を褒める。


「良かったです……」

《わーい!》


 余談だが、4人が来ているメイド服はスカートが長いクラシックタイプである。

 そりゃ、王族の侍女がミニスカメイドとか意味が分からないからな。


 もう1つ余談だが、ベガは秘書っぽいスーツを着ていたのでそのままである。メイドとしてではなく、秘書枠で参加するのでそのままで問題ないのである。


「私達はメイド服を着るのも久しぶりね」

「そうですね。今は本職の方にお任せしていますから」


 ミオとマリアも以前はメイド服を着ることがあったが、メイド達が増えてからはほとんどなくなっていた。

 本気でメイドをする訳ではないので、ガチメイドの横で同じ格好をするのは気後れしてしまうそうだ。本職の横でコスプレするのって勇気がかなり必要だよね。

 今回はそういう『役』と言うことで割り切っているようだ。


「準備できたみたいね。それじゃあ、馬車に乗りましょうか」

「ところで、カスタールの重鎮はどうしたんだ?領主館にはいないみたいだけど……」


 サクヤが馬車の方に向かおうとしたので尋ねてみた。

 マップで確認したのだが、この館には現在メイドとサクヤしかいない。


「ご主人様、今こっちに向かっているみたいよ」

「あ、ホントだな」


 ミオに促されてマップを確認すると、メイド達に連れられてそれっぽい人達が向かってきているのを発見できた。


「お兄ちゃんの異能前提で作業をしていたからね。関係ない人達には別の場所で待機してもらっていたわ。準備は終わっているし、お兄ちゃん達が来たから呼びに行ったのよ」

「じゃあ、これからは騎士っぽい喋り方にした方が良いのか?」


 ほら、サクヤってコレでも女王だろ?

 対外的には敬意を払った対応が必要なのである。


「その必要はないわよ。今回、同行するのは全員お兄ちゃんの事に気付いているから。万が一にもお兄ちゃんとトラブルを起こさないように、人選はかなり気を使ったからね。私も素の喋り方が出来るくらいには親しい相手よ」

「サクヤちゃんが色々と本気です……」

「当然よ!お兄ちゃんを敵に回すなんて、絶対に御免だからね!」


 さくらの軽いツッコミに強く頷くサクヤ。

 下手な貴族を同行させて、俺とトラブルでも起こされたら堪らないと、事情を大体把握している者を選んだそうだ。


「なるほど、理解した。それじゃあ、それほど気を使わなくてもいいんだな?」

「うん、護衛の騎士と侍女メイドはお兄ちゃんの配下から選んだからね。そっちも何も問題が無いわよ」

「メイドはともかく、護衛の騎士も俺の配下なのか?」

「ええ。メイド騎士を連れて行くことにしたわ。戦力的にもその方が安心だからね。いざという時にはお兄ちゃん関連のサポートも受けられるし」


 要人であるサクヤの護衛の為、カスタールの騎士にはメイドを潜り込ませてある。

 彼女達は通常の騎士ではなく、サクヤの近衛兵でもある女王騎士と言う役職に就いており、その実力は高い評価を受けている……らしい。

 なお、サクヤの護衛をするのは今回が初めてだが、ジーンも女王騎士である。


「お兄ちゃんとトラブルを起こす訳も無いし……」

「サクヤちゃんとしては、後者の方が重要ですよね……?」

「もちろんよ、さくらちゃん!」


 さくらの言葉に強く頷くサクヤ。

 まあ、身内で固めれば余計なトラブルを起こす可能性は無くなるよな。


 それからしばらくして、件の重鎮達が領主の館へとやって来た。


 中年男性4人と20代後半の女性が1人だ。

 中年男性の1人が俺とサクヤの存在に気付いて近づいてくる。


「騎士、ジーン。こうして直接挨拶をするのは初めてですな。私は財務大臣のルドルフと申します。この度は女王の護衛を受けて頂き、感謝いたしますぞ」


 ルドルフ財務大臣は明らかに俺を騎士ジーンとしては扱っていなかった。

 だって、大臣が自国の女王を護衛する騎士にお礼を言う訳が無いもの……。


 初めましてと言っていたが、実際にはルドルフ財務大臣と会うのは初めてではない。

 カスタールで書類仕事をしていた時、挨拶を受けているし、軽く話をしたこともある。

 俺の事を様付けで呼んできた大臣である。頭の悪い貴族に腹パンをした大臣と言った方が分かり易いだろうか。


A:サクヤとマスターの婚姻賛成派の筆頭でもあります。


 なん……だと……。


「礼を言われるような事じゃない。エルディア王国侵攻の件は俺もガッツリ関わっているからな。流石に無視はできない。サクヤの護衛はそのついでだ」

「え、私の護衛の方がついでなの?」

「ああ、ついでだな」


 サクヤが素の状態で呟いたが、重鎮達が気にも留めていないと言うことは、いつもの「のじゃ」無しで話が出来る相手と言うのは間違いが無いようだ。


「それでも、サクヤ女王陛下の護衛として、貴殿以上に安心できる者もおりませんからな。本当に助かりましたな」

「俺に期待しすぎじゃないか?」

「あれだけの実力を見せつけられて、期待するなと言う方が難しいと思いますな」


 完全に進堂仁として扱われていますね。

 正直、カスタール相手にはあまり能力を隠していないからね。

 具体的な説明はしていないけど、大臣達も身の回りで不思議な出来事が起こった経験は、1度や2度じゃないだろうから……。


「まあ、やるからには手を抜くつもりはないけれどな」

「是非、お願いいたします」


 そう言って頭を下げるルドルフ財務大臣。


 その後、他の4人からも挨拶を受けたが省略する。

 基本、カスタール城でよく見かける顔ぶれである。見かけはするけど、名前は知らない人も2人程いた。

 皆、一様に俺の正体を理解しているような口ぶりだった。


 挨拶が終わった後は、すぐさま馬車に乗り込むことになった。

 時間が少し押しているらしい。


 馬車は6台で護衛だけが乗った馬車。重鎮が2人乗った馬車(+護衛、メイド)。サクヤと俺達が乗った馬車。重鎮2人が乗った馬車(+略)。重鎮1人が乗った馬車(+略)。護衛だけが乗った馬車、という順番で進むことになった。

 サクヤの乗る馬車を真ん中に配置し、安全を確保するそうだ。


「いざという時は私達の事は切り捨てて構いませんぞ。サクヤ女王陛下の身の安全を第1に考えて頂きたい」


 とは、ルドルフ財務大臣の弁であり、その背後で他の重鎮達も頷いていた。

 サクヤが重宝しているだけあって、良く出来た家臣達である。



 配下のメイド達に見送られながら、名も無き街(注:名前はあります)を出発して2時間が経過した頃、ようやくサノキア王国との国境が見えてきた。


 たった2時間の移動に『ようやく』と付いたのは、マップ上では出発する前から国境の様子を伺えていたからである。4エリアを確認できれば国境も見えるのだ。

 そして、マップで見えている場所に行くのに2時間と言われると、やたら長く感じる。

 最近、移動速度が尋常じゃなく上がっているからな。


 余談だが、今俺達の乗っている馬車を引いているのは、エルディアを出るときに買った馬達である。最近、馬車に乗る機会が少なかったので、久しぶりに頑張ってもらう予定だ。


「ここを通るのも久しぶりですわね」

「うん?セラはここに来たことがあるのか?」


 窓の外を見たセラの呟きを拾って聞き返す。


「ええ、売られるときにこの道を通ったはずですわ。朧気ながら見た事のある光景ですから」

「そう言えば、セラちゃんはサノキア王国の出身でしたね……」


 さくらの言うように、セラは元々サノキア王国の貴族令嬢だったが、スキル<英雄の証>による食事量のせいで奴隷として売られたと言う経緯がある(露骨なおさらい)。

 他にもサノキア王国からエルディアへと向かうルートはあるが、セラが通ったのは丁度このルートだったようだ。


「あー、悪いな。嫌な事を思い出させたか?」

「いえ、ご主人様が気にするような事ではありませんわ。多分そうじゃないかとは思っていましたけど、言う必要も無いと思っていたことですので」


 俺が謝るとセラは首を横に振った。

 表情を見てもまったく気にしている様子は見られない。


「ミオさん、マリアさんと同じですわ。この国に帰属意識はありません。今が充実しているので興味も無いですし、行きたいとも行きたくないとも思わないのですわ」

「良い思い出も無いみたいだから当然よね」

「例え良い思い出があったとしても、売られた時点で台無しになっていると思います」

「そりゃそうよね」


 セラの言葉にミオとマリアも頷いている。


「正直に言えば、ご主人様に買われる前の事は、随分と記憶が薄くなってきていますわね」

「あ、それ分かる!ご主人様に買われてから起こったイベントのインパクトが大きすぎて、それ以前の記憶がドンドン薄れていくのよね!」

「ええ、そうですわ。マリアさんはどうですの?」

「私は仁様に忠誠を捧げた時点で、それ以前の私を全て捨てています」

「薄れたんじゃなくて捨てたんだ……。マリアちゃんらしいわね」

「ですわね……」


 奴隷組の3人は、既に奴隷として売られたことを心の傷とは思っていないようだ。

 何気にこの3人はメンタル強いよな。


《ごしゅじんさまー、おなかすいたー》


 『ぐー』と言う腹の音と共に、ドーラが空腹を主張した。

 腹の音の時点で、これ以上のない主張ではあるが……。


「そろそろお昼の時間ね。国境付近で昼食にしましょうか。国境を超えると30分もしないで森に入るから、その前が良いわよね」


 サクヤの提案で国境を超える前に食事をとることにした。

 態々魔物のいる森で食事をとる必要もないだろう。タモさんを放っておくだけで安全は確保されるけどね。重鎮達はそれを知らないから。


 馬車を進め、国境へと到着した。

 重鎮達が警備兵とやり取りをしている間に、侍女メイド達が食事の準備をする。


「これは……思っていたよりはずっと豪華な食事ですな。最短距離でエルガント神国に向かうと聞いた時から、粗食は覚悟しておりましたが……」


 準備中の料理を見てルドルフ財務大臣が驚きの声を上げる。


「アイテムボックスがあるからな」

「なるほど。では、豪華な食事をとれるのも精々夕食までと言うことですかな?」


 通常、アイテムボックスや『格納』の魔法で料理を保存することはあまりない。

 俺の<無限収納>とは異なり、中の料理は時間経過の影響を受けるからだ。

 ルドルフ財務大臣の言う様に、街で料理を入れたなら夕食までに食い切るべきだろう。


 本来、貴族が馬車で移動する場合、極力街を経由して野宿などはしないようにする。

 そして、極力街で食事をしつつ、料理をアイテムボックスに入れ、次の街までの食料とするのだ。


 今回、俺達は森を突っ切るルートを通る。

 つまり、道中で料理の補充が出来ないので、夕食が最後の豪華な料理となる……訳はない。

 俺が、この俺が食事の質を落とすとでも思うのか?

 そんな訳が無いだろう。


「いや、俺のアイテムボックスは特別製だから、料理の鮮度を維持できるんだ」


 完☆璧な言い訳である。


「森を突っ切る間の料理も、コレと同程度を期待してくれて構わないぞ」

「そ、そんなアイテムボックス、聞いたことがありませんぞ。……いや、何も突っ込むまい」


 驚き、最後には諦めたような顔をするルドルフ財務大臣。

 これで<無限収納インベントリ>の事、誤魔化せたよね?


A:…………。


 警備の都合上、料理は馬車の中でとることになっている。

 その間は護衛が交代で外に立ち、護衛をしていない方が食事をとる。俺達はサクヤと一緒に飯を食べている。護衛のすることではない。今更である。

 なお、馬車の中で食う理由の1つに俺とセラが兜を脱ぐから、と言うのもある。

 口だけ出すことも出来るので、そのままでも食べられないことはないのだが、普通に嫌である。


 馬車の外から『美味いぞー!』、『何だこの美味はー!』と言ったセリフが聞こえてくる。

 どうやら、重鎮達が料理の美味さに絶叫しているようだ。城の料理よりも格段に美味かったのだろうな。


「うん。やっぱり、お兄ちゃんのところの料理人が作る料理は美味しいね」

「でしょー」


 サクヤの絶賛に料理人の筆頭であるミオがえへんと胸を張る。


「今回は長旅になるって分かっていたから、皆と一緒に作り置きしてたのよ。100人が1月くらいなら生きていけるだけはあるわよ。もち、メニューのバリエーションも豊富よ」

「100人×3食×30日……9000食分!?」


 ちょっと聞いたことのない数字ですね。


A:マスターが遠征に行くと言うことで、配下の料理メイド達が張り切ったようです。


 ちょっと張り切りすぎですね。

 ……まあ、道中の食料の心配が無いのは良い事だから、気にしないでおこうか。

 一応聞いておくけど、市場の食料流通量に影響とか与えてないよね?


 俺の遠征のためにどこかの街で食料不足が起こった、とか言うのは嫌である。


A:当然、迷宮を含めた内輪の食材を使用しております。


 なら良し。


「遠征の後、残っていたら食べていいですの?」

「駄目ですの。残った分は非常食としてそのまま保存しておく方針ですわ」

「ミオさん!わたくしの真似は止めて下さる!?」


 セラの食欲駄々洩れな問いかけに対して、ミオがセラの口調で拒絶する。


「ご馳走様でした」×7(ベガは食事不要)


 食後のデザートまで食べ、十分に食休みをしたところで出発することになった。

 余談だが、重鎮達が食事を用意したメイドを引き抜けないか交渉に来た。

 メイド達の料理に魂を持って行かれたらしい。当然、断った。



 何の問題も無く国境を越え、馬車の旅が続く。


「……どこからか情報が洩れたのかね?」

「どうしたんですか……?あ、仁君の独り言……」

「いつものパターンね。どれどれ……」


 俺の呟きを拾ったさくらとミオがおもむろにマップを確認する。

 行動パターン、読まれちゃっていますね。


「ほら、俺達が通らなかった、普通のルートの方だよ」


 隠すような物でもないので答えを教える。


「うげっ、何この集団……」

「多分、盗賊、ですよね……?」


 マップを見ると一目瞭然なのだが、森を迂回するルート付近に100名以上の武装した集団が潜伏していたのである。


「ただの盗賊じゃないな」

《えものー?》

「獲物と言う意味でもないな」


 ドーラの中で盗賊は獲物になっている様子。

 あ、俺の教育の成果だわ。それ……。


「装備が盗賊に相応しいものではありませんわね」

「ええ、統一された規格の……間違いなく軍や騎士団の装備ですね」


 戦闘要員であるセラとマリアは気付いたようだな。

 盗賊達の装備は統一された高品質の物で、そこらの盗賊が持っているには分不相応なのだ。それに、潜伏の仕方が明らかに統制されたものであり、単なる商人の馬車を狙った盗賊には見えない。

 ほぼ100%間違いなく刺客だろう。俺達を襲うために盗賊に偽装しただけの騎士か軍人に間違いないだろう。


「どこからか情報が洩れて、待ち伏せされたと考えるべきか?」

「うーん、旧エルディア王国からエルガント神国へのルートなんてそう多いものでもないから、ルートを予想して待ち伏せを仕掛けたんじゃないかな?」

「マスター。サクヤの予想の方が正しいです。盗賊団の中に先程の街に潜伏していた者がおります。マスター達が先遣隊を出していないので、道中で襲う計画を立てています」


 ベガが俺とサクヤの疑問に答える。

 全員に聞こえるように話すときは、アルタの念話よりも端末ベガが話した方が聞きやすい。


 (金のある)貴族が馬車の旅などをする場合には、危険を減らすために先遣隊を出し、道中の安全を確保してから進むことがある。

 どうやら、先遣隊が通る間は身を隠し、その後で本隊が通る際に襲撃をする予定だったらしい。そのタイミングを見計らうために街に潜伏した者が居たそうだ。

 今回、俺達は先遣隊を出していないので、潜伏者が先回りして情報を伝え、盗賊団が襲撃の準備を整えているということだ。


「それにしても……見事なまでの徒労だな」

「そうですね……。私達の通らないルートで待ち伏せをするなんて……」


 そう、彼らの行動は全くの徒労。無駄骨なのである。

 だって、俺達その道通らないんだもの。


「いや、普通に考えたら王族が森を突っ切るとは思わないからね。お兄ちゃんが一緒じゃなきゃ、そんなルートは絶対に選ばないって……」


 普通に考えて王族の乗った馬車が魔物の領域を突っ切るとは思わないよね。

 逆に言えば、その情報を知らないと言うことは、カスタールの者が情報を漏らしたのではなく、首脳会議の情報を持っている何処かの国の者と言うことだな。


「マスター。彼らはエルガント神国の東部にあるグランツ王国の兵士です。兵士の一部にグランツ王国の貴族である旨が記載されております」


 もちろん、答えてくれたのはベガである。


「エルディアよりも北側には全く行ってないからな。どんな国なのかわからん」


 戦争が始まるまでエルディア方面には近づかなかったので、エルディアの北東にある国の情報なんて持っていないのだ。

 興味がない事にはとことん無関心だからな、俺。


「マスター。グランツ王国はカスタール、エステアよりも狭い国で、特筆すべき特徴も大した歴史もない小国です。最近、国王が崩御して、9歳になる王子が王位に就いたそうです。配下を送っていないので、集められる情報はその程度です」

「お飾りの王様って事かな。……もしくは、魔族の陰謀か」


 周囲の人間に都合の良い国王と言うことで、9歳の王子が選ばれたと言うのならともかく、魔族の陰謀と言う可能性もあるのだ。

 カスタール女王国で魔族ロマリエが行ったサクヤの成り済まし事件は記憶に新し……くもないか。結構前だよね。


「カスタールの陰謀の成功例って事よね?うう、他人事じゃない……」

「仁様が居なければ、カスタールも無事ではすみませんでしたからね」

「うん、ホントお兄ちゃん様様よ」


 身に覚えのあるサクヤが苦い顔をしている。


「でも、そのグランツ王国を手中に収めて魔族は何をするの?」

「確かグランツ王国はエルガント神国と隣接していましたわよね。カスタールとエルディアでやろうとしたことをもう1度、と言う可能性はございません?」


 国の位置関係を覚えていたセラが、ミオの疑問に意見を出す。

 カスタールの高レベル冒険者を使い、エルディアを攻めると言うのが魔族ロマリエの策だった。

 現在、勇者の大半はエルガント神国にいるので、隣接国を手中に収めれば、今後色々とやりやすくなるだろう。当然、攻めることも出来るはずだ。ただ……。


「セラ。それは難しいかと思われます」

「あら、どうしてですの?」

「セラ。それは、エルガント神国とグランツ王国の戦力差が大きいからです。グランツ王国がエルガント神国を攻めた場合、勇者無しでも全く勝ち目がありません。カスタールの場合は勇者に匹敵するSランク冒険者が複数いたからこそできた策なのです」


 ベガが答えたようにカスタールの焼き直しと言うのは考えにくいだろう。

 魔族が表立って動くならともかく、魔族の関与を隠して戦った場合、グランツ王国に勝ち目はないらしい。


「そもそも、失敗した策を別の場所でそのまま使うかね?縁起も悪いし、別の思惑があると考えるべきかもな……。後、グランツ王国が俺達を狙う意味も分からないからな」

「グランツ王国が魔族の手に落ちているのなら、カスタールがエルディアで魔族を殺しまくったから、その報復って線はない?」


 ミオが中々鋭い事を言う。

 うん、その可能性は考えていなかったな。

 言われてみれば、謎の騎士ジーンはエルディアで1000人近い魔族を殺しているから、その報復のためにグランツ王国を動かし、俺達を襲わせる可能性もあるだろうな。


「よし!グランツ王国の貴族もいるみたいだし、直接聞くのが早いだろう!」

「仁君……、何をする気ですか……?」

「当然、盗賊狩りだよ。俺のマップの届く範囲にいる盗賊に、生存権なんてある訳ないだろ?」


 盗賊の振りをして、襲い掛かってくるのなら、盗賊と同じように狩って何がいけない?



 6台の馬車が盗賊のいる街道に差し掛かる。


「やれ!」


 男の掛け声とともに周囲に潜伏していたグランツ王国の兵士達が一斉に姿を現す。

 皆一様に薄汚れた格好をしており、盗賊の類にしか見えない。

 しかし、その動きは洗練されており、100名近い盗賊兵士が乱れることなく馬車へと襲い掛かっていく。


「敵が来たぞ!全員武器を取れ!」


 馬車に乗っていた御者が馬を止めて声を上げると、馬車から武装した騎士が降りてきた。

 騎士達は襲い掛かってくる盗賊兵士達の攻撃を盾で防ぎつつ馬車を守る。無理に攻めずに馬車を守り、他の騎士が降りてくる時間を稼ぐつもりのようだ。


「早く攻め込め!」


 盗賊兵士の中でも隊長格の男が檄を飛ばすが、騎士の防御を崩すことは出来ない。

 次々と騎士が馬車から降りてきて、徐々に盗賊兵士達の形勢が不利になっていく。

 しかし、騎士達はほとんど攻撃をしない。


「おい……。これは何なんだ……?」


 隊長格の男がそう呟いた時、馬車の中から出てきた騎士の数は100名を超えていた。

 騎士達はまだまだ馬車から降りてくる。


 しばらくすると、一際豪華な白銀の鎧を着た騎士が馬車から降りてきた。

 その騎士は周囲を見渡すと大きな声で言い放った。


「女と貴族は捕らえろ!他は皆殺しだ!」

「はい」×250


 その時、馬車から降りてきた騎士の数は250名を超えていた。

エルガント神国に無事、向かいました。

まあ、新章1話時点ではそれらしい動きをするモノですからね。その後は知りません。

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[気になる点] 拡大解釈がレベルアップをしてるんだから、マップ機能もレベルアップするのでは?
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