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第119話 魔法無効と最終試練

前回のあらすじ:

強大な力を持った魔神を相手に未来の英雄、セラが立ち向かう。

その手に持つ大盾は自分の後ろに居る者を守るため。その手に持つ大剣は未来を切り開くため。

大罪を統べる邪悪な魔神との決戦が今、始まった。


魔神の運命やいかに!

「思っていたよりも呆気ないものでしたわね。まだ、鬼神の方が手応えがありましたわよ」


 セラがガッカリした表情を作って言う。

 少なくとも、鬼神の方が接近戦では手強かっただろう(座った状態でボコったが)。


「吾輩を侮辱するな小娘があああああ!!!」


 ブチ切れた魔神は、<煉獄魔法>と思わしき黒い炎を残った左腕からセラに向けて放つ。

 先程俺に向けたモノよりもはるかに大きく、セラを飲み込もうと襲い掛かる。


「だから効かないと言いましたわ」


 セラが剣を振るうと、当然のように黒い炎は消滅する。


 一応補足しておくと、セラの<敵性魔法無効>は持っている武器にもその効果を与える。

 なので、単純に武器の特殊効果にも『魔法無効』が付与されていると考えていいのだ。

 本人が魔法に直接触る必要もなく、盾で防御するだけで味方への影響すら完全に防げるチートスキルなのである。……ここまで、随分長い間セラと共に旅してきたが、まともにセラのスキルを説明するのが初めてな気がする。


 魔神はセラが魔法を消している隙に上空まで浮かび上がっていた。

 どうやら、セラと接近戦をするのは厳しいと判断したようだ。遅すぎる。


「く、くくくっ。確かに貴様は魔法を無効化する術を持っているようだな。だが、それ程までに強大な力、何かカラクリがあるのではないか?本当は全ての魔法を防げる訳ではないが、そういう風に見せているだけなのであろう」


 セラと距離をとることで若干余裕を取り戻した魔神が言う。


 まあ、確かに「魔法が効かない」としか言っていないし、その効果の詳細は説明していないよな。そもそも、詳細な説明をする義務はどこにもないし……。

 もっと言えば、戦闘中の相手の発言を真に受けると言うのもどうかしている。

 自分に都合の良い事しか言わないのが基本であり普通なんだからな。


 そう考えると、セラの発言を真に受けて早々に魔法攻撃を諦めた魔神は純真ピュアなのではないだろうか?純真ピュア魔神とか、ラブコメでもなければ需要はないだろうな。


「最初からこうしていれば良かったのだ。態々下賤な人間と同じ舞台で戦ってやろうとしたこと自体が間違いだったのだ。……その魔法無効とやらは、魔法で発生した熱全てを防げるのかな?くくくっ『サンライズ・ダウン』!!!」


 魔神が発動した魔法は、<火魔法>レベル10の『サンライズ・ダウン』。


 「日の出が落ちる」と言う意味不明な単語だが、レベル10に相応しい、高威力の広域殲滅魔法である。当然、消費MPも尋常ではない。

 そんなレベル10魔法を<無詠唱>スキルを適用して発動した魔神に驚きを隠せない。


 今まで<無詠唱>と言うスキルについて深く説明していなかったが、実はこのスキルには制約と代償が存在する。


 制約の方は、『<無詠唱>スキルレベル以下の魔法しか無詠唱にすることは出来ない』と言う事。レベル10魔法を無詠唱にするには<無詠唱>スキルレベルを10にしなければいけない。

 次に代償だ。これは『<無詠唱>を適用した場合、消費MPは魔法のレベルに応じて増える』というモノだ。詠唱をしない代わりにMPを多く消費すると言うのは、ある意味当然の事だろう(<拡大解釈マクロコスモス>から目を逸らしながら)。


 元々消費MPの大きいレベル10の魔法を<無詠唱>で発動するとどうなるか?

 消費MPが馬鹿みたいに多くなるに決まっている。魔法特化の魔神ですら、MPが3分の1くらい無くなる程だ。


 え?俺の場合?俺の場合は『サンライズ・ダウン』を<無詠唱>で100発撃ってもMPは100分の1も削れないよ。

 『サンライズ・ダウン』がどのような魔法かと言えば、上空から50mくらいの火の玉を落とすと言う単純なものである。なお、避けなければ自爆することもあり得る。

 現在、魔神は上空にいるので、『サンライズ・ダウン』を避ける自信があるのだろう。



 魔神の宣言通り、上空から巨大な火の玉が落ちてくる。

 その威力は戦略級と呼ぶに相応しく、都市くらいなら簡単に消し飛ばせる程だと言う。


「フハハハ!!!これで貴様らもお終わりだ!吾輩に逆らったことを後悔しなが……」

「<飛剣術>!」


 魔神の言葉を途中で遮り、セラは上空の『サンライズ・ダウン』へと<飛剣術>を放った。


-ポン!-


 斬撃が『サンライズ・ダウン』に触れた瞬間、50mあった火の玉が小気味いい音を立てて跡形もなく消滅した。


「は?」


 消滅した『サンライズ・ダウン』を見上げ、魔神が間抜け面を晒す。


「魔法は効かないと何度も言っておりますわよね?聞こえていないんですの?それとも、態々私が触れなければ、無効化出来ないと言う愉快な勘違いをしたんですの?」

「ば、馬鹿な……」


 セラの武器に魔法無効化の効果を付与できるのだ。

 <飛剣術>で飛んで行く斬撃にだって、魔法無効化の効果は付与できるに決まっている。


 タメが大きく、当たり判定も大きい広域殲滅魔法など、セラを1人置いておくだけで丸ごと無効化できるのである。

 広範囲・高威力の魔法に価値を見出している者など、セラにとっては良いカモでしかない。


「ク、クソ!これならどうだ!『アブソリュート・ゼロ』!」


 <氷魔法>レベル10の『アブソリュート・ゼロ』。

 絶対零度の名に相応しく、半径500mの範囲内の気温を一瞬で−200℃くらいまで下げると言うとんでもない魔法だ。

 地味に絶対零度(−273.15 ℃)になってないのが名前負けポイントでもある。

 直接的な攻撃にはならないが、「生命の生存できない環境にする」と言う意味では、何よりの攻撃であるともいえる。

 当然、アホみたいなレベルの消費MPであり、魔神のMPが2%くらいまで減る。


「く……」


 流石の魔神も魔力切れになったら体調が悪くなるらしい。

 頭を押さえながら少し辛そうにする。


 『アブソリュート・ゼロ』は一瞬で範囲内に効果を及ぼすわけではなく、徐々にその範囲が広がっていくと言う発動形態をとる。

 上空に浮かぶ魔神を中心に効果範囲が素早く広がっていき、<天駆スカイハイ>によって空中に留まるセラへと至る。


「ク、クハハッ!今度こそ終わりだ!今度は目に見える攻撃対象は存在しない!効果を及ぼすのは空間全てだ!さすがの貴様も空間を斬ることは出来まい!」


-パリン-


 氷点下の世界がセラに触れた瞬間、何かが割れる様な音がして、『アブソリュート・ゼロ』は消滅した。


「………………………………………………………………とう!!!」


 しばらく固まっていた魔神は掛け声とともに、俺達のいない方向へと全力飛行を始めた。


「あ、逃げた……」

「逃がしませんわよ!」


 俺の呟きと同時にセラも<天駆スカイハイ>を駆使して追いかける。

 片腕が無く、魔力切れでふら付いている魔神に追いつくのは難しくなかったようで、あっという間にセラが距離を詰めた。


 あ、逃げている最中の魔神をセラが後ろから一刀両断にした。



>拡大解釈がLV2になりました。

>新たな能力が解放されました。

拡大解釈マクロコスモスLV2>

効果対象が20に拡張されました。


>拡大解釈がLV3になりました。

>新たな能力が解放されました。

拡大解釈マクロコスモスLV3>

効果対象が30に拡張されました。


 何故か俺の異能がレベルアップしました。

 しかも、<拡大解釈マクロコスモス>オンリー。

 まあ、効果対象が増えて悪い事はないからいいんだけどさ……。


「ご主人様、終わりましたわよ」


 魔神の死骸を格納したセラが<天駆スカイハイ>で戻って来た。


「お疲れ様。なかなか面白い戦いだったぞ」

「セラちゃんお疲れー」

《お疲れー》

「お疲れ様です……」

「セラちゃん、見事でした」

「ええ、ありがとうございます……」


 口々にセラを労う仲間達だが、セラの表情はあまり晴れやかとは言えない。


「どうした?何か不満でもあるのか?」

「いえ、あまりにも相性が良すぎて・・・・……。達成感があまりないのですわ……」


 俺が尋ねると、不満そうな顔のまま答えた。


「ああ、なるほど……」


 魔法特化で武術スキルのない巨体。

 確かにセラが相手になった時点で、万に一つも勝ち目のない相手だよな。


「逆に言えば、セラちゃんの得意な事が全部見せられたとも言えるじゃない!魔法を無効化して、接近戦で圧倒してと大活躍よ!」

「そうとも言えますわね……。ええ、気にするのは止めにしますわ!満足ですわ!」


 ミオのフォローでセラも考え方が変わったようだ。


「それで、早速武器を見せてちょーだい!」

「ええ、こちらになりますわ」


 ミオが催促すると、セラが持っていた武器をこちらに見せてくる。


守護神の大剣

分類:大剣

レア度:神話級ゴッズ

備考:『守護神の大楯』装備時に効果大幅上昇、戦闘中背後の味方の数だけ大幅強化、魔族特効、不壊、所有者固定


守護神の大楯

分類:大楯

レア度:神話級ゴッズ

備考:『守護神の大剣』装備時に効果大幅上昇、戦闘中背後の味方の数だけ大幅強化、ノックバック完全無効、不壊、所有者固定


 守護者が守護神になって、お約束の「不壊」と「所有者固定」が付いて、強化部分に「大幅」の単語が付いたと……。概ね予想通りの変化ですね。

 単純強化とは言え、元々がかなり安定していたセット装備だから、不満なんてあるはずもないよな。うん、順調順調。


 ちなみに、ビジュアル面では白ベースに青いライン、銀の細工に加え、金の細工が追加されて更に神聖さが増しました。

 あまり華美になると下品になりやすいが、上手く神聖さだけを増すことに成功している。

 元々、セラの『守護者セット』は親友の浅井がカスタールに残したもので、昔やっていたゲームの武器デザインがそのまま使われている。

 その武器には上位武器や強化武器はなかったので、完全オリジナルと言う事になる。


「かなり強化されたのが見るだけで分かりますわ。良い武器ですわね」


 セラが強化された装備を見て満足そうにうなずく。


「これで、仁様、私、セラちゃんが<超越者>のスキルと強化された武器を手に入れました」

「と言う事は、次はいよいよミオちゃんの番よね。いやー楽しみだわ。どんな相手かしら?」


 マリアの発言を聞き、ミオが頷きながらずいっと前に出てくる。

 大丈夫だよ。忘れてないから。


「今までの経験から行くと、~~神とかそんな感じの相手が多いよな」


 『最終試練』の敵をリストアップすると、始祖竜、鬼、魔と言った具合になる。全員、「神」の文字が付いている。


「同じようなルールで来るとなると、次は何神だろうな?」

「邪神とか、海神とかがゲームだと一般的かな?ああ、後は死神ね」


 ミオがありがちな名前を挙げてくる。


「順当に行けばその辺かな。……マヨネーズ神とか出て来たら、ミオに勝ち目がなくなるな」

「ちょ、変なこと言わないでよご主人様!ホントにそんなのが出てきたらどうするのよ!? ……いえ、多分、八つ当たりで本気を出すわね。皆殺しよ」

「ミオちゃん……。目が本気です……」

「イヤですねー、さくら様。目だけじゃなくて、完全に本気ですよ」


 俺の冗談を聞いて驚いた後、冷静に考えた結果、ミオが出した結論はマヨネーズ神の殲滅だった。逃げろ!マヨネーズ神!



「ああ、そうですわ。忘れないうちに魔神を吸収しては如何です?今回も魔神専用スキルを使うために、ご主人様が吸収するのでしょう?」

「そうだな。タモさんには悪いが、専用スキル持ちは俺が吸収しておかないとな」


 セラが言うように、専用スキル持ちの魔物の遺体は俺が吸収することになっている。

 <生殺与奪ギブアンドテイク>のLV8効果で、遺体や魔石を吸収すれば、専用スキルすらも使えるようになるからな。


「ちなみに、<多重存在アバター>による疑似人格生成は行わないぞ。あんな奴イラン」


 明らかな人類の敵だったし、それほど面白い相手でもなかった。

 ああ、最後の最後で逃亡したあたりはちょっとだけ面白かったけど……。


「まあ、ご主人様でしたらそうなりますわよね。わたくしも、あんなのが味方と言われても承服しかねますし……」

《まっとーじゃなーい!》


 見たところ、セラとしても良い印象は持っていないようである。

 戦った相手が是非にと言えば、疑似人格化も一考の余地はあるが、それもなさそうだ。


 後、ドーラが俺のよく使う「真っ当」と言う単語を覚えた。


「とりあえず吸収だな。ハイ終わり」

「早!?」


 ミオは何を驚いているのだろうか?

 <無限収納インベントリ>に収納された魔神の遺体を吸収するだけなのに。


「<精神攻撃>とか使えるようになったけど、誰で試そうかな……」

「そこで私を見ないで!?」


 ミオが半べそになりながら首をイヤイヤと振る。

 嫌だなー。流石にそこまでやるとやり過ぎになるから、冗談に決まっているだろ?


「安心しろ。後で適当な魔物に食らわせるだけにするから」

「ホント!?ホントよね!?絶対に止めてよ!洒落にならないから」

「仁様は本当にミオちゃん弄りが好きですね。やっぱり、羨ましいです」


 必死に縋ってくるミオを、マリアが羨ましそうに見る。


「ならマリアちゃん代わって!」

「いえ、前に仁様に聞いたのですが、『マリアだとYesとしか言わないから張り合いがない』と言われて却下されてしまいました」

「Noーーー!!!」


 がっくりと項垂れるミオを見て、俺は『そうそう、こういう反応が欲しかったんだ』と満足気に頷く。やり過ぎは良くないので、この辺りで終わらせよう。


「さて、いつまでもミオ弄りを楽しんでいる訳にもいかないし、そろそろ戻ると……」

「どしたの?ご主人様?」


 ミオが立ち直って聞いてくる。

 ミオも冗談だと言う事は理解しているようで、前の話を引きずることはない。


「いや、ちょっと思い出したんだけど、この森の魔物ってほぼ全滅しているだろ?折角だから本当に全滅させて、全滅ボーナスの魔物でも相手しようかなと思ったんだよ」


 折角、適度に魔物が減らされたエリアにいるのだ。

 全滅ボーナスのレア魔物を相手にしないなんて勿体ないだろう。

 それに魔神が復活して、俺達が戦った土地だから、何か面白い事になる予感があるんだよ。


「確かにそんなに残っていませんね……」

「じゃあ、ミオちゃんにお任せ!」


 さくらがマップを確認して呟いた直後、ミオが弓を出してあちこちに矢を放つ。

 狙い違わず、全ての矢はこのエリアに残っていた魔物達に直撃し、そのHPを刈り取る。


「お見事」

「いやいや、これくらいなら朝飯前よ」


 えへんと胸を張り、ミオがやり遂げた顔で言う。

 全滅させるのは大した手間ではないとはいえ、ミオが狙い撃つのが1番早いのは間違いないだろう。ほら、他のメンバーが遠距離攻撃すると、大抵の場合は過剰戦力になるから。



 森の魔物が全滅してから10分程経過した頃、マップ上に赤いマーカーが現れた。

 ほぼ間違いなく全滅ボーナスの魔物だろう。


 俺達の現在地から見て、かなり近くにポップしたみたいだな。


「やっと出てきたか」

「いつもより少し長かったですね……」


 さくらの言う通り、いつもよりも再ポップまでの時間が長かった。

 レアなのが出るときは再ポップに長く時間がかかる、と言う訳でもないが、何となく期待してしまうのは仕方のない事だろ?

 ゲームとかだと、読み込みが長いとレアが出るみたいなこともあるし……。


 あえてマップで確認せず、まずは直に見てみようと思う。

 皆を引き連れて、ポップした魔物の元へと向かった。


 さあ、どんな奴が出てくる?


仔神獣(レア)

LV1

備考:神の名を冠する獣の仔。人類に課せられた最終試練の1つに至る可能性を持つ。また、人類の守護者になる可能性も併せ持つ。


 なるほど。『最終試練』との戦いの跡地に産まれたのが、『未来の最終試練』と言うのは中々に皮肉が利いていて面白いな。

 そもそも、どうやって『最終試練』になるのかは不明なんだけどさ……。ゲームの魔物モンスターみたいに進化でもするのかね?


A:します。


 ああ、やっぱり進化するのか……。


「か、可愛いです……」

「うん、ほんと可愛い」


 さくらとミオが仔神獣を見て口々に『可愛い』と言う。

 ちなみに見た目は白猫と小型犬を足して2で割って白い羽が生えた不思議小動物である。確かにかなり可愛らしく、相当のモフモフ力を誇る(こっちが重要)。


「『最終試練に至る』と言う事は、現時点では『最終試練ではない』と言う事だ。スキルの1つも持っていないし、倒さなくても良さそうだな」

「良かったです……。こんな可愛い魔物を討伐しないで済んで……」


 さくらには悪いが、例え可愛かったとしても邪悪な魔物だったら容赦なく潰すよ。

 しかし、備考を見た限り、コイツの将来がどうなるかは育て方次第のようだ。生まれたばかりで悪い事もしていないし、テイムするのが妥当だろう。


「はい!はい!ミオちゃんがテイムしたいです!」


 手を挙げたミオがピョンピョン跳ねながらアピールしてくる。


 ミオがテイムを希望するのは珍しいよな。

 それだけ、この仔神獣を気に入ったと言う事だろう。

 折角のミオの希望だ。叶えてあげるのもやぶさかではない。


「ああ、構わないぞ。もちろん、俺もモフモフさせてもらうけど、良いよな?」

「ええ、もちろんOKよ。これでやっと私優先のモフモフが仲間になるのね……」

「ポテチは?」

「チクチク、ゴワゴワ……」


 ポテチの毛触りを思い出して、ミオが苦い顔をする。

 ミオの従魔であるフェアリーウルフのポテチは、モフモフしていないそうだ。


「ミオちゃん、私もモフモフさせてください……」

「もちろん、さくら様もOKです!」


 まだテイムに成功したわけでもないのに、捕らぬ狸を数える俺達である。

 ちなみに、仔神獣は現在、寝起きのようにボーっとしている。横で俺達が騒いでも全然気にしていない。


「ポテチに対して、そんなに不満があるんですの?」

「え?いや、そんな事ないわよ。ポテチは駄目な子可愛いわよ。ただ、ただ唯一、モフモフしてないことだけが心残りなの……」


 セラの問いに対して、本当に無念そうに言うミオ。

 俺が言うのも何だが、モフモフの重要度が高すぎないだろうか?


「ポテチも、弟分?妹分?が出来れば、少しはしっかりしてくれるかしら?」

「ミオの中では2匹はそう言う立ち位置なんだな」

「ええ、同じ獣系だし、兄弟みたいに仲良くやって欲しいと思っているわよ」


 水を差すようなことを言わせてもらえば、ポテンシャル的には仔神獣の方が圧倒的に上なんだよな。お兄ちゃん、下の子に能力で抜かれてグレないと良いけれど……。

 ちなみに、仔神獣は現在、前足で顔を洗っている。まるで猫の様である。


「そうか。じゃあ、そろそろ弟だか妹だかをテイムしてやろうか」

「おー!」


 ミオが大声を出したので、仔神獣がビクッとする。

 ミオ、すかさず<魔物調教>を発動して仔神獣に陣を当てる。


「いざ、尋常に勝負!あ、手加減手加減……」


 <手加減>しないと完全なオーバーキルです。


 ミオに戦いを挑まれたことが分かったのか、仔神獣が「みゃうー」っと唸っている。

 全く威圧感はない。


「えっと、ナイフ……、は危ないから止めて、『こん棒』を装備!えいっ!」

「みゃうん!」


 <手加減>を機能させるために打撃武器である『こん棒(武器屋で500G)』を装備し、仔神獣に軽く当てる。

 仔神獣、避けもせずに頭に『こん棒』が直撃してふらつき……。


「うみゃう……」


 バタンと倒れた。


「「弱!?」」


 俺とミオの声がハモる。

 仔神獣のあまりの弱さに驚愕が隠せない。


「あ、テイム成功した……」


 気絶する直前、敗北を受け入れてミオに従うことを選んだようだ。

 こう書くと格好いいが、素直に言えば痛みに耐えかねて屈服しただけである。


 ミオは気絶した仔神獣に『ヒール』を掛けながら、さりげなくモフモフしている。


「もふもふ……。あ、この子メスね」


 ついでに性別を確認したらしい。

 ステータスを見ればすぐにわかるのに、なぜ態々直接調べたのだ……。


 それからしばらくして……。


「いい、私の名前はミオ。アナタの名前はミャオよ。これからよろしくね」

「みゅうん」


 仔神獣が目を覚ました後、仔神獣の気絶中に考えていた名前をミオが付けた。

 仔神獣、改めミャオが喜んでミオの周りをくるくると回る。小動物である。


「名前の由来は鳴き声か?」

「それもあるけど、『ミオ』の間に1文字入れてみたの。『ポテチ』も『ポチ』に1文字足したでしょ。あれと同じ理屈で少し捻ってみたのよ」

「なるほど……」


 多分、俺よりはミオの方がネーミングセンスあるよな。



 この森ですることもなくなったので、カスタールの屋敷に戻ることにした。

 正確には、タモさんに森の死骸の清掃を頼んだ後に、である。タモさんは死体を吸収して強くなる。森は死骸が消えて清浄化される。良い事尽くしである。


「さあ、ポテチ。この子が私の新しい従魔、ミャオよ。ポテチの妹分だから、ちゃんと面倒見てあげるのよ」

「みゃおん!」

「ワン!」


 『ポータル』により屋敷に戻って早々、ミオは玄関で番犬(風)をしているポテチにミャオを紹介し始めた。

 ポテチとミャオはすぐに打ち解けたようでじゃれ合っている。じゃれ合いを見る限り、現時点ではポテチの方が力強いようだ。将来的にどうなるかは別の話だが……。

 ポテチの将来に幸が多からんことを……。


 ミオはもうしばらく2匹の従魔のじゃれ合いを眺めているそうなので、俺達は先に屋敷へと入っていく。


「お帰りなさいませ」×20

「ああ、ただいま」


 ずらりと並んだメイド達が一斉に頭を下げて出迎えてくれる。

 まるで貴族か何かのような状況だが、随分と慣れてしまった自分がいる。


「ラティナはどうなった?」


 総メイド長のルセアに、先に転移させたラティナの様子を尋ねる。

 マップを見れば現在の状況は分かるが、詳細は人に聞いた方が確実だろう。


「まだ、気絶したままです。眠りは深いようで、しばらくは起きそうにはありません。……強制的に起こした方がよろしいでしょうか?」

「いや、自然に起きるのを待とう」

「かしこまりました」


 狂化を解除した後は、精神的にかなりの負担があるようで、目を覚ますのには時間がかかるだろう。無理をさせれば起こせないことはないだろうが、それも可哀想な話である。

 メイド達は俺が『やれ』と言ったら、多少の倫理観はあっさりと無視するからな……。

 だからこそ、余計な事は口に出せないのである。


「部屋に戻って着替えるから、その間に夕食の準備を頼む」

「かしこまりました」


 ルセアに夕食の支度を頼み、俺は一旦部屋へと戻る。

 他のメンバーも各々自室へと戻って行く。ドーラは俺と一緒の行動だ(俺の部屋にもドーラの着替えはある)。


「仁、お帰りなのー」

「お帰りなさい」

「お帰りなのじゃー」

「ああ、ただいま」

《ただいまー》


 俺の部屋にいた灰人アヤ天空竜ブルー始祖神竜エルに挨拶を返す。

 個別に部屋を用意すると言ったのだが、俺と一緒の部屋が良いと言って聞かないので、3人とも現在は俺の部屋の居候となっているのだ。


 邪魔になったら追い出すと言っているので、俺がいるときは基本的に3人とも大人しくしているのだが、いない時は自由に過ごしているらしい。

 今も3人はトランプ(非売品)で遊んでいる所だった。


 よく考えれば、エルは俺の使い魔扱いのはずだが、全く気にせずに別行動をとっているな。

 まあ、いてもいなくても大差ないし、別にいいか。


「仁も帰って来たし、そろそろお開きにするの」

「ぐぬぬ……。今日は妾が負け越してしまったのじゃ。精進あるのみじゃな」

「今日1番負けたエルは、1番勝ったアヤに食後のデザートを渡すのよね?」

「ゴチになるの!」

「仕方あるまい……」


 どうやら、食後のデザートを賭けていたようだ。

 この3人の中に普通の人間は1人もいないが、甘いものが好きと言うのは種族に関わらず女子共通の生態らしい。アヤが嬉しそうに、エルが悔しそうにしている。

 俺?俺の場合はデザート2つ欲しいと言ったら、2秒で出てくるから……。


 ササッと着替えを終えて、夕食へと向かう。


「じゃあ、行くか」

《ごっはんー。ごっはんー》


 ドーラも着替えて家用のワンピース姿になっている。


「あ、私達も行く!」

「付いて行くのー」

「待つのじゃ!まだトランプの片づけが……」


 3人が慌てて俺達についてくる。


 その日の食後のデザートは、イズモ和国で修業したメイドの作った苺大福だった。

 エルはとても悲しい顔をして苺大福をアヤへ手渡していた。


 聞いた話によるとエンドも完全に復興したみたいだし、のんびり期間中に1回くらいはエンドに立ち寄ろうかな。


8章でエンドには行きません。少なくとも本編としては。

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マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔神とか始祖神竜の名前って誰が付けてるの? 女神という正式?の神様がいるのに神の名のついた生物や武器があるのは違和感がある
[一言] ドルアーガの塔のブルーラインシールドを思い浮かべた
[気になる点] 仔神獣がいるのならどこかに神獣もいるのかも?
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