暗殺
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「――馬鹿なのか?」
昨晩、パーティー会場近くで騒ぎがあった。
ならず者たちが武器を持って走っており、それを見つけた俺の騎士団が捕縛を試みた。
武器を持っていたので銃を使ったそうだが、その際にならず者たちは爆弾を使って自爆したらしい。
らしいというか、爆弾が暴発したとか――とにかく、まだ調査中だ。
ルートを考えるに、俺たちを狙っていたのだろう。
しかし、その手段がお粗末すぎる。
警備もいるのに突撃をかけてくるとか、馬鹿なのだろうか?
すると、俺の影からククリが出現する。
「リアム様、ご報告がございます」
「何だ?」
「報告にあった襲撃者たちについてです」
「何か分かったのか?」
「賊はパーティー会場に紛れ込むつもりだったようです。事前に別の場所に移しましたが、問題は賊の他にも色々と手が加えられていました。賊は陽動でしょう」
パーティー会場内に様々な仕掛けが施されていたらしい。
「本来は中止するように進言するはずだったのですが、ウォーレス殿が仕掛けを全て撤去してしまいましたので」
「――何か悪い予感がするな。ウォーレスがここまで役に立つなんて不吉だ」
あいつの行動のおかげで俺が無事にパーティーを開けたと思うと、感謝もするが同時に気持ち悪い。
ウォーレスがここまで役に立つなんて思っていなかった。
有能なウォーレスなんて、ウォーレスじゃない。
「ま、それはいい。それで?」
「部下が二名やられました。手練れがこちらを狙っています」
仲間が殺されたのにククリの声に怒りはない。
世間話をするような感覚で、仲間の死を告げてくる。
「そうか。その二人はどうして死んだ?」
「賊たちの足取りを調べさせていました。敵の暗部が動いています」
優秀なククリたちに被害が出てしまった。
まぁ、元から数は少ない。
何をやっているんだと思う気持ちもあるが――数少ない有能な部下たちだ。
使い捨てにするには勿体ない。
「――お前らでやれるか? 何なら、手を貸してやるぞ」
「それでは我々の仕事がなくなってしまいますよ。ただ――出来れば、手に入れた暗部の死体はこちらに引き渡していただきたいですね。彼らの体はそれ自体が極秘情報ですから」
「仕事熱心だな。分かった」
「リアム様、どうやら手練れたちがかなり送り込まれております。しばらくは、気を付けた方がよろしいかと」
「問題ない。俺は幸運に愛されている。――それに、だ。敵対するものは全て斬り伏せてやる。一度は、暗部とも戦ってみたかったところだ。面白そうな連中がいたら、俺に回せ」
「リアム様の前に敵を出させないのが我々の仕事ですので、それは無理でございます」
何とも仕事熱心なやつだ。
これだよ。これ!
ティアもマリーも、もっとククリを見習って欲しいものだ。
「残念だな。――裏方は任せるぞ。今日は盛大なパーティーを開くから、敵も集まってくるだろう」
「はい」
ククリが俺の影に沈み込んで消えていく。
◇
シエルは連日のパーティーで疲れ切っていた。
ホテルの廊下を歩く足取りも重い。
「私、一生分のパーティーに参加した気がする」
回数だけではない。
その種類も豊富だった。
流石にバケツパーティーはなかったが、多種多様なパーティーに毎日が目まぐるしく流れている気がする。
「ま、負けない。早くリアムの化けの皮を剥いで、お兄様の目を覚まさせないと」
ただ、毎日を過ごすだけでやっとの状態だった。
「それにしてもリアムの奴、お父様たちを戦わせておいて自分は首都星で豪遊だなんて許せない。お父様も仕方がない、って受け入れているし!」
リアムが後方で兵站をしっかり支えていることも、遠征軍の家族を守っていることもシエルは知らなかった。
まだ、幼年学校にも通っていないのだ。
その辺りの知識は乏しい。
感覚的に、リアムが前線に出ずに逃げているように感じていた。
「――いつか絶対にリアムの化けの皮を」
疲れてフラフラしているシエルは、そんな状態でもリアムに敵意を向けるのだった。
すると、視界の端に動物が見えた気がする。
「あれ?」
足音も聞こえてきた。
「だ、誰よ。この階に動物なんて! きっとリアムの奴ね!」
リアムが住んでいるフロアは厳重に警備されており、動物が紛れ込むことはない。
連れ込めるのはリアムだけだろう。
シエルが追いかけると、行き止まりの場所に辿り着いた。
「見失ったわね。ロゼッタ様に報告しないと」
面倒な仕事が増えたと思っていると、その場に何かを発見する。
それは電子ペーパーだ。
「安物の電子ペーパーがなんでここに落ちているのかしら? ――あれ、これって」
シエルは大急ぎで、電子ペーパーをロゼッタに届けることにした。
◇
「ダーリン大変よ!」
騒がしいロゼッタが俺の部屋に駆け込んできた。
俺は目隠しをしてバランスボールの上に立っているエレンに、指導していたところだ。
呼吸が乱れ、今にもバランスを崩しそうになっている。
玉の汗をかき、疲労はピークに来ているが終わらせるつもりはない。
「どうした?」
ロゼッタが握りしめていたのは、使い捨ての電子ペーパーだ。
俺は金持ちなので使用しないため、随分と珍しいものを持っていると思った。
ロゼッタが呼吸を整えてから、俺に電子ペーパーに掲載されている動画を再生して見せてくる。
「こ、これを見て!」
「何だよ――何だこれは!?」
俺はロゼッタから電子ペーパーを奪い取り、その内容を見て怒りに震えた。
アーレン剣術の総本山を襲撃した剣士のことが書かれている。
俺は総本山襲撃に驚いたのではない。
襲撃者について驚いていた。
「一閃流を騙る奴がいるだと」
怒りがこみ上げてくる。
襲撃者は一閃流を名乗り、剣聖である当主を倒してしまったらしい。
剣聖はどうでもいいが、その際に一閃流を名乗っているのが問題だ。
流派同士で争いになると、剣術世界が荒れるとか――そんなちっぽけなことはどうでもいい。
問題は、一閃流を名乗ったことだ。
「ついに偽物まで現れたか」
剣聖を倒したらしいから、それなりに強いのだろう。
俺はお気に入りの刀に視線を向ける。
俺が持つ刀の中で、こいつが未だに一番だ。
ゴアズ海賊団と戦った際の戦利品だが、今まで色んな刀を使ってきたがこいつ以上の刀には出会わない。
「一閃流を騙る偽物は容赦しない。俺が叩っ斬ってやる」
そこで師匠の顔が思い浮かんだ。
師匠も弟子を捜していたのだから、俺以外の一閃流がいてもおかしくはない。
本当に俺以外の一閃流がいる可能性はある。
「――見極める必要があるか?」
とりあえず、お気に入りの刀は持っておこう。
エレンが転んでしまいそうだったので、背中に回り込んで受け止めてやった。
「す、すみません、師匠」
「エレン、まだ五感に頼っているな? お前は目がいいから視覚に頼りすぎる。もっと他の感覚も磨け」
「はい!」
エレンが大きく頷くのを見ていたロゼッタが、何とも言えない顔をしていた。
「いつも思うのだけど、一閃流って厳しい流派ね。よく、現代まで受け継がれてきたと感心するわ」
一閃流と出会えたのは奇跡だな。
それにしても、今頃師匠は何をしているのだろうか?
◇
その頃。
安士は一人の女性に追いかけ回されていた。
「この結婚詐欺師がぁぁぁ!」
追いかけているのは、眼鏡をかけた黒髪の美女だった。
怒っていなければきっと知的な女性に見えるだろう。
今はその面影もない。
美しい女性が、鬼気迫る形相で追いかけているのが安士だ。
安士は必死に逃げている。
何しろ、その女性の手には包丁が握られていたからだ。
「だ、騙すつもりはなかったんだぁぁぁ!」
「待てコラァァァ!」
その女性はどこかニアスに似ていた。
フラフラとやって来た惑星で、彼女と知り合った安士は調子に乗って口説いてしまった。
タイプの女性なので何とか口説き落とせた時は喜んだが、思っていたよりも束縛が強かった。
金も使い果たし、ダラダラと女性に世話になっていたのがいけなかった。
安士に「定職に就け」「結婚しろ」と迫ったのだ。
しかも――女性の背中には赤ん坊の姿がある。
騒がしいのにすやすやと眠っていた。
――ダラダラと関係を続けていたら、子供が出来た。
逃げるタイミングを逃し続け、ようやく今日になって逃げ出す準備が出来た。
そしたら、見つかってしまったのだ。
「お前は絶対に逃がさないからな!」
「勘弁してくれ!」
安士は家庭や責任から逃げだそうとしたので、女性に追い回されていた。
そして、安士はこけてしまう。
「あっ」
間抜けにもこけてしまい、そして美女に追いつかれて――。
「女の敵めぇぇぇ!」
「嫌ぁぁぁ!」
――女性の包丁が安士に振り下ろされた。
◇
パーティー会場の控え室。
今日も楽しくパーティーだ。
飽きないのか?
まったく飽きないね。
飽きたとしてもパーティーをするのが悪徳領主だ。
領民たちの血税で贅沢をしていると思うと、気分は最高だ!
――あと、今日はちょっと俺も緊張している。
「今日も綺麗だぞ、天城」
ドレス姿の天城が、今日はパーティーに参加するのだ。
メイド服ではない天城を前に、俺は心臓の鼓動が速くなる。
「旦那様。私をパーティーに出さないと約束をしましたが?」
「安心しろ。今日は会場を暗くしているから、お前のことなど誰も気付かない。いや~、ウォーレスに相談してみるものだな。会場を暗くすれば誰も気付かない、なんて盲点だった。これでお前とパーティーに参加できる」
「約束の話はどうなったのですか?」
「い、一回くらい、パーティーに出てくれてもいいだろ」
「まったく。――今回だけですよ」
「よしっ!」
いつも後ろに下がってしまう天城を、パーティー会場に連れ出せて俺は満足していた。
昨日は興奮して寝付きが悪かったくらいだ。
「どうして私をパーティーに参加させたいのですか?」
「お前と一緒に楽しみたいんだよ」
天城には恥ずかしい台詞も素直に言える。
何故って? ――本心だからだ。
生身の人間は裏切るから嫌いだ。
ロゼッタもそうだ。
鋼の女だと思っていたのに、手に入れた途端にデレデレしてくるとか――こんなの裏切りである。
正直、今はシエルの方がからかっていて楽しいくらいだ。
控え室にウォーレスがやって来る。
「リアム、そろそろ時間だよ」
「分かった。さぁ、天城」
手を伸ばすと、天城が遠慮がちに俺の手を取ってくれた。
そのまま俺たちはパーティー会場に入ったのだが――俺はすぐに気分が悪くなる。
よりにもよって、今日かよ。
空気の読めない奴らがいたものだ。
「――カルヴァンか? あいつは本当にタイミングが悪いな」
天城が不思議そうにしていた。
「旦那様、何か?」
ウォーレスも気付いていなかった。
「リアム、どうしたんだい?」
俺は天城の手を離し、ククリを呼び出す。
「ククリ」
ククリは俺の刀を持って出現したので、そのまま刀を受け取った。
「リアム様、どうやら敵が集まっております。通信も阻害され、救援が呼べません」
「分かった。お前は外の連中を排除しろ」
ククリが影に沈み込み消えていくと、ウォーレスが慌てていた。
「リアム、待ってくれ。警備は厳重だよ! それに、身元のチェックは抜かりない。変装したってこの会場には入り込めないよ」
「いや、外からだ」
◇
ククリが外に出ると、同じように部下たちも出てくる。
その数は百人もいない。
対して、パーティー会場の周囲には暗部と思われる存在が千人はいた。
ククリはクツクツと笑う。
敵を前に恐れなど見せなかった。
「随分と数を揃えてきましたね。見たこともない一族や組織も多いですが、やはり現代まで残っていましたか。火の一族とは縁がありますね」
ククリが「火の一族」と呼ぶ忍者たちが、次々に現れるとその中の一人だけにククリの視線は向けられる。
「おや、こんな時代にもいるものですね。全盛期の我々と比べ、どの組織も弱体化したと思っていたのですが――貴方、随分な手練れですね」
忍者の頭領が刀を構える。
「――ここはお前のいるべき時代ではない。死を受け入れろ」
ククリたちが武器を構える。
ククリだけは両手を広げていた。
「それは残念! ですが、お断りします!」
一斉に暗部たちが襲いかかってきた。
火の一族たちだけではなく、ククリたち一族を真似て作られた暗部まで混ざっている。
ククリは思う。
(我々の存在を嗅ぎつけ、潰すことを選択しましたか。実にいい!)
自分に近付いた暗部をその長い手で斬り裂き、そして頭領へと近付くため駆ける。
周囲では部下たちがこの時代の暗部たちと壮絶な殺し合いを開始し、敵も味方も次々に倒れていく。
ククリが頭領に近付き、その両手を振り下ろすと刀で受け止められた。
「貴様らは終わりだ。もう、貴族たちはなりふり構わぬ。意地を張りすぎたな」
頭領の言葉にククリは距離を取ると、首都星の空に一隻の宇宙戦艦が浮かんでいた。
ここに立ち入りは禁止されているはずで、戦艦が入り込むなどあってはならないことだ。
敵は――戦艦でリアムたちを吹き飛ばすつもりのようだ。
ククリが目を細める。
「困ってしまいましたね」
ククリたちなら逃げ切れるが、建物の中には護衛対象たちが沢山いるのだ。
ついに、貴族たちはなりふり構わずルールを破って力業でリアムを殺しに来た。
ククリがリアムのもとへ向かおうとすると、頭領が斬り込んできた。
頭領の刀に炎がまとわりつき、防いだククリの腕を焼く。
頭領は、ククリをリアムのもとにいかせないつもりのようだ。
「お前らはここで我らと共に消えていけ!」
「自爆覚悟ですか」
ならず者たちに襲撃された件とは別に、様々な暗殺をククリたちが防いできた。
そのため、敵は捨て身で自分たちを殺しに来ている。
ただ――ククリは笑っていた。
「本当に貴方たちは愚かだ」
「何!?」
ククリの体から昆虫の足のような機械が飛び出し、頭領の腕を斬り飛ばした。
その腕は空中で炎になり消えて、頭領の腕に炎が出現すると再生してしまう。
ククリはそれを見て羨ましがる。
「肉体を捨てるとは、随分と便利な体になりましたね。残念なことに、我々には採用できそうにありませんが」
頭領が刀を構える。
ククリたちに、頭領が目を細めて嫌悪感を示していた。
「お前たちは危険すぎる。お前たちは強すぎたのだ。だから、時の皇帝はお前たちを恐れ、石に変えたのだ」
ククリは首をかしげた。
その角度は九十度を越えて、首が折れているようにも見える。
「恐れた? 何も知らないと好き勝手に言えますね。恐れたのなら消せばいい。あの悪趣味な存在は、我々を石に変えて笑っていましたよ」
「皇帝陛下に何という物言いか!」
暗部でも忠誠心が高いのだろう。
だが、ククリはその時代を生きてきた。
当時の皇帝と接している。
「いえ、ただの屑でしたよ。皇帝などと言ってもしょせんは人間。なんの威厳も風格もない。人の苦しむ姿を見て喜ぶ卑しい存在でした」
「そのようなお前らだから、石に変えられ葬られたのだ」
ククリは言う。
「そうかもしれませんね。ですが、一つだけ感謝しているのですよ。あの屑のおかげで――我々影が仕えるに相応しい光に出会えたのですから」
その言葉の直後、建物から一人の人物が現れる。
刀一本を持ったリアムだ。
頭領が目配せをし、部下たちを向かわせた。
「愚かな。一人外に逃げるつもりか? 人間が戦艦から逃げられるものか」
リアムに襲いかかろうとしていた忍者たちだが、途中でククリの部下に阻まれる。
ククリの部下はそのまま自爆――忍者たちを巻き込んでいた。
ククリはその行動を見もしない。
リアムならきっと無事に切り抜けられただろうが、それでは自分たちの存在意義が疑われる。
これはククリたちの仕事だ。
そして、死ぬのも仕事だ。
だから仲間が死んでも悲しまない。
「さぁ? それはどうでしょう」
再び、ククリと頭領の戦いが開始された。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様のピンチの時に、その師匠は女性問題でピンチ――辛いです。あと、子供さんの誕生おめでとうございます」
風華( ゜∀゜)「やっべー! 師匠の子供だって! お祝いしないと!」
凜鳳( ゜∀゜)「僕たちの新しい兄妹だ!」