突撃
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バンフィールド家――要塞級の格納庫。
そこにはリアムの専用機であるアヴィドが保管されていた。
黒く大きな機体は、主人がいないため出番がない。
そんな格納庫に入ってくるのは、一匹の犬だった。
アヴィドを見上げると一声鳴く。
すると、アヴィドのツインアイが光を放った。
エンジンが動き出し、周囲に魔法陣が浮かび上がるとそこからアームが出てくる。
大きなロケットブースターが三つ。
連結されたそれをアヴィドに設置していく。
動き出したアヴィドは、そのまま歩いて――ハッチをこじ開けた。
犬はいつの間にか姿を消しており、アヴィドが急に動いたことに慌てた整備兵が上司に報告する。
「おい、誰かアヴィドの出撃許可を出したのか!?」
『何を言っている? アヴィドはリアム様の専用機だ。動かせる人間がいるものか』
「だから、動いているんだって!」
『いや、だから――』
アヴィドはそのまま宇宙空間に出ると、ブースターを使用して敵陣の中へ突っ込むのだった。
◇
敵を狙い撃っていたが飽きてきた。
今は砲撃手に任せ、俺はシートに座って欠伸をしている。
戦闘が始まって数日が過ぎているが、敵が想像以上に脆くて驚いていた。
反撃も温い。
何というか――弱い。
セドリックが俺に話しかけてくる。
「特務参謀殿は余裕そうだな」
「もう終わったようなものだろ?」
「最後まで気を抜かない方がいいと思うけどな」
真面目なセドリックは、緊張した様子だった。
それなのに、ウォーレスの方はウトウトして眠りそうになっている。
――兄弟でこの差は何だ?
まるで俺が、ウォーレスという外れ皇族を引いたような気分になる。
部屋にでも戻ろうか考えていると、ユリーシアが俺に報告してくる。
「中将、敵の一部がこちらに向かって突撃してきます!」
「何?」
モニターを見れば、戦場を簡略化した映像で一部が俺の乗る旗艦に突撃をかけていた。
真っ直ぐに俺のところを目指している。
ティアがすぐに味方に指示を出す。
「旗艦を下げろ! 陣形を変更して奴らを囲め!」
すぐに艦隊が鶴翼のような陣形になり敵を包み込もうとするが、敵の勢いの方が勝っているように見えた。
俺は腕を組む。
「――無理だな。いずれこちらに届く」
よく突撃をしてきたので分かるのだが、通りそうな感じがする。
騒ぎに目を覚ましたウォーレスが、震えていた。
「ど、どうするんだよ! あんなに突撃してきたら、私たちの戦艦は耐えられるのか!?」
セドリックがウォーレスを羽交い締めにした。
「騒ぐな! 特務参謀、あんたはすぐに脱出しろ。あいつらの狙いはあんただ」
そんなことを言うセドリックに、俺は聞き返す。
「お前はどうするつもりだ?」
「悪いが、この船を気に入っている。うだつのあがらない人生の中で、ようやく手に入れた幸運だ。最後まで守ってみせるさ」
――こいつ、ウォーレスより使える人間だな。
ま、俺とは違うタイプ――真面目な奴だな。
「そうか。好きにしろ。だが、俺はこの程度で負けるつもりはない。ティア、機動騎士を用意しろ」
「リアム様!?」
俺が機体を用意しろと言うと、ティアが慌てて止めるのだ。
「いえ、ここはお下がりください。このような状況でリアム様を出撃させられません!」
マリーが俺の意見に賛成し、ティアに反論するのだ。
「リアム様がやれと命じたなら、従うのが騎士だ。てめぇの都合を押しつけるな!」
ティアが武器を抜いた。
「化石がぁ! リアム様に万が一のことがあったらどう責任を取るつもりだ! お前のゴミ屑みたいな命とは価値が違うぞ!」
口汚くなる二人の威圧感に周囲が口を閉じていた。
――いい加減うんざりだ。
「おい」
俺は二人に近付き、その頭を掴むと床に押しつけた。
「リ、リアム様!?」
「な、何を――」
狼狽するティアとマリーの二人は、必死にもがくが俺の力に逆らえない。
頭部を押さえつけられ、二人が尻を突き出している形になる。
戸惑っている二人に俺は言う。
「お前らは俺の目の前でいつまで五月蠅く争うつもりだ? 俺は自分の騎士に仲違いを許した覚えはない」
マリーが慌てて弁解してくる。
「ち、違います! これはリアム様の命令に逆らうこのミンチ女を――ひっ!」
更に強く床に二人の頭部を押しつけると――床がへこんだ。
「お前たちに許されたのは、俺の前に功績を積み上げることだけだ。そうすれば、俺はお前らを正しく評価してやる。いつまでも子供の喧嘩を俺に見せるな」
ティアが泣きそうな目で俺を見上げていた。
「お、お許しください。何卒。何卒!」
「――これまでの功績に免じて許してやる。二人とも筆頭騎士と次席騎士の地位は剥奪だ」
ティアとマリーが絶望した顔を見せるが、そんなことはどうでもいい。
もっと早くに躾ておくべきだった。
「返事はどうした?」
ティアとマリーが「は、はい」とか細い声でそう言うと、解放してやり俺は笑顔で告げる。
「よし、出撃だ。機動騎士を出せ」
顔を床から上げたティアとマリーが、頬を染めて俺を見ていた。
きっと泣きたいのだろう。
それも仕方ない。
せっかくの地位を奪われたのだからな。
◇
リアムが去り、そしてついていったマリーもいないブリッジ。
そこでティアは頬を染めてウットリしていた。
ウォーレスがドン引きしている。
「おい、なんで嬉しそうなんだ?」
ティアは「ふっ」と言って、どうして惚けているのか分からないウォーレスに自分の気持ちを教えるのだった。
「私たち二人を片手で押さえつける膂力。そして死兵となって突撃してくる敵に向かう豪胆さ。これぞリアム様ですよ」
リアムに叱られることすらご褒美であるティアにしてみれば、今まであまり見られなかったリアムの姿に嬉しくなる。
セドリックが肩を落としていた。
「そいつはいいが、さっさと指示を出してくれないですかね?」
突撃してくる敵に対して、味方は押され気味である。
ティアはすぐに気持ちを切り替えると、次々に指示を出していく。
「機動騎士隊の出撃準備! 近距離に強い艦艇を前に出せ! 装甲に不安のある艦艇は下げ、砲撃に集中させる。味方を撃つなと伝えておけ」
切り替わると次々に指示を出し、機動騎士が活躍できる戦場を整えていく。
ユリーシアはその姿を見て呟くのだ。
「――本性はともかく、優秀ではあるのよね」
放置された司令官は、シートで祈るように生き残ることだけを願っていた。
◇
バークリー家の艦隊。
ドルフは敵が機動騎士を出撃させたと報告を受け、すぐに待機させていた機動騎士たちを出撃させる。
そして、リアムのアヴィド対策に用意していた機体も出させる。
「特機を出撃させろ!」
バークリー家が用意した特機――それは、アヴィドと同じ大型に分類される機動騎士である。
時代遅れだが、アヴィドを研究した第一、第二兵器工場が作った最新兵器だ。
もっとも、アヴィドを倒すために作ったと言っても過言ではない。
自分のところの新型機が、アヴィドに為す術なく破壊されたのを見た開発者が開発した新型機だ。
それを十二機も用意していた。
オペレーターが声を張り上げる。
「アヴィド、確認できません!」
「構わない! 出てこないなら、敵の旗艦を襲わせろ!」
訓練していない突撃ながら、バークリー家の艦隊は数を大きく減らしつつもリアムの喉元にまで迫っていた。
ドルフの執念と――案内人の加護によるものだ。
ドルフの隣に立つ案内人も叫ぶ。
「奴だ! リアムは確実に出て来ている! ドルフ、一番前の機体を破壊しろ!」
叫ぶように命令すると、聞こえていないはずなのにドルフがハッと気が付く。
「一番前の機体だ! 奴はそこにいるぞ!」
ドルフは直感でそう言ったつもりだが、案内人が側でリアムの位置を教えている。
案内人が両手を広げると、黒い煙が床に吸い込まれていく。
その黒い煙が――対アヴィド用の特機に入り込む。
「リアムゥゥゥ!」
案内人もヒートアップし、量産機に乗ったリアムに特機を向かわせるのだった。
◇
量産機のコックピット。
アヴィドと同じ機動騎士だが、どうにも華奢に感じてしまう。
「やっぱり量産機は駄目だな」
特注こそが金持ちらしい。
俺についてくるマリーが、俺の機体について説明してくる。
『リアム様、その機体は次世代機の初期ロットで特別製です』
「初期ロットとか不安しかないな」
そもそも、初期ロットなんて問題が出てもおかしくない。
次世代機とは言っても次期量産機というだけだ。
採用されるかも分からない。
「やっぱり、アヴィドを持ってくればよかった」
高級シートが懐かしい。
そう思っていると、バークリー家の艦隊からも機動騎士が出撃してくる。
随分と詰め込んでいたようで、何千という数が出撃してきた。
そして、今も次々に出撃している。
バークリー家の艦隊を中心に考えるなら、直上から襲いかかるのが俺たちで、敵は上がってくる形になっている。
もっとも、無重力なので向きなど関係ない。
「ほら、お出ましだ!」
フットペダルを踏み込み加速すると、どうにもコックピット内部にも多少の揺れを感じてしまう。
アヴィドならこの程度では揺れなかった。
俺を目指して次々に機動騎士が向かってくる。
敵も最新鋭の機体か、現在主流の機体ばかりだ。
宇宙空間で機動騎士にブレードを持たせ、すれ違いざまに振り抜けば一機撃破する。
襲いかかってくる光や弾丸――ミサイルを避け、刀を振って破壊する。
「デリックよりは歯ごたえがあるな!」
俺に襲いかかろうとした敵を、味方の機動騎士がライフルで撃ち抜いていく。
『リアム様、援護します!』
マリーが俺の援護に入る。
おかげで厄介な敵をマリーが倒すので、俺は敵を撃墜し放題だ。
機動騎士が刀を振り抜けば、一気に五機が爆発した。
「宇宙空間で爆発って凄いよな! どういう原理だろうな!」
圧倒的な力で倒していく。
機動騎士で一閃流を再現しているが、やはりアヴィドと違って反応が悪い。
再現率も低かった。
俺の後ろに回ろうとした機体を、マリーが撃ち抜いて破壊していく。
目の前の敵を倒すだけで、撃墜スコアは増え続ける。
「ま、初期ロットにしては上出来か」
そう呟くと、敵の中に随分と大きな機体が混じっていた。
マリーがライフルで撃ち抜こうとするも、装甲や出力が違うのか弾丸もビームも弾いてしまう。
『こいつら! リアム様、お下がりを!』
「馬鹿。こういう奴を待っていたんだろうが」
機体を前に進ませブレードで斬りつけると、敵はバリアシールドを展開して球体状の光に包まれる。
その出力は非常に高い。
俺の乗っている機体がリアル系なら、相手はスーパーロボット系だな。
「その発想は嫌いじゃない。でも、駄目だ!」
敵が俺を捕まえようと動いたので、その両腕を斬り飛ばす。
何が起きたのか分からない敵は、焦って下がろうとしていた。
「もっと俺の相手をしろ!」
踏み込んでブレードを振り下ろすと、敵のバリアシールドを破って――装甲に阻まれブレードで両断できなかった。
「ちっ」
舌打ちしてブレードを手放し距離を取ると、俺がいた場所にビームやら弾丸が襲いかかる。その攻撃に飲み込まれ、敵の機体は爆散した。
「――少し硬すぎるな」
見上げると、そこにいたのは同じような大きな機体が十一機。
赤いツインアイが輝きを放っていた。
マリーが俺を庇うように前に出る。
『リアム様、こいつらは危険です。数で囲んで叩きます』
「そうしたいが、周りが許してくれそうにないな」
敵の戦艦が俺に船首を向けて攻撃を開始しようとしていた。
味方が取り付いているのを無視している。
ここは素直に下がるかと考えていると――。
「――アヴィド?」
気配を感じて視線を向ければ、敵艦の間を縫うようにこちらに向かってくる機体があった。
マリーが通信を受けて混乱している。
『アヴィドが勝手に? 馬鹿を言うな! いったい誰が乗っている!』
どうやら、バンフィールド家の艦隊からアヴィドが飛び出したらしい。
一人で――勝手に。
俺は笑みが浮かんだ。
「完璧なフォローだよ、案内人!」
アヴィドに向かって機体を突撃させ、そこから相対速度を合わせると周囲に敵が集まってきた。
それらをアヴィドが手を広げ、光を放ち破壊する。
アヴィドに取り付けられたブースターが切り離された。
俺の乗っている機体を両手で捕まえると、コックピットのハッチを開けて俺を迎える準備をした。
「いい子だ」
ヘルメットのバイザーを下げ、コックピットハッチを開けて飛び出す。
すると、アヴィドが手を伸ばして俺を捕まえるとコックピットに放り込む。
中に入ると、広々とした懐かしのコックピットがそこにあった。
ヘルメットを脱ぎ捨てる。
「お前に乗るのも久しぶりだな」
シートには誰も座っていない。
――つまり、これは案内人のアフターフォローの一環だろう。
やはり、あいつは頼りになる。
最高のタイミングでアヴィドを届けてくれた。
「あいつには何かお礼をしてやらないといけないな」
シートに座り操縦桿を握ると、久しぶりにアヴィドを暴れさせてやれる。
ブライアン(´;ω;`)「リアム様が勘違いして辛いです。リアム様違いますぞ! アヴィドを届けたのは犬ですぞ! 案内人に感謝しては――ん?」
ブライアン(´・ω・)「……感謝していいなら、これでOKですかな?」
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犬 ゝ-じ,゜._゜,.)「ク~ン」
し-じ-J