経済戦争
今週の金曜日には「コミックウォーカー」様、「ニコニコ静画」様で公開中のコミカライズ版「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です」が更新します。
ついにアロガンツが登場しますので、楽しんでいただけると嬉しいです。
そして今週の8日に「コミカライズ版 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 1巻」が発売となります。
特典情報も出ているので、是非ともチェックしていただければと思います。
Twitterだと原画の潮里先生が特典について呟いていますね。
水着祭りだって言ってた。
欲しいけど、自分は手に入りそうもないです(^_^;
原作者なのに手に入らないという、ね。
興味があれば、是非とも購入していただければと思います。
士官学校では勝手に通信を行うことを禁止されている。
領地からの報告を聞く際も、通信室を利用するのが基本とされていた。
そのため、俺は通信室で天城と話をしていたのだが――。
「――借金取り共が押し寄せてきた?」
『はい。当家の財政状況が悪化したので、急いで回収したいとのことでした』
「財政状況が悪い? この俺が?」
意味が分からない。
領内で何かあったのだろうか?
「領地で問題でも起きたのか?」
『いえ、順調に成長しております。以前ほど急激な伸びはありませんが、開拓惑星への入植も無事に成功しましたから問題はありません』
「ならどうしてだ?」
天城が「不確定情報ですが」と前置きをしてから話し始める。
『バークリー家が裏で動いています。どうやら、金融関係の企業のいくつかはバークリー家が裏に控えているようですね』
「デリックの実家か?」
幼年学校時代に喧嘩を売ってきた男がいた。
そいつは機動騎士を使用した試合で俺を殺そうとしたので、返り討ちにしてやった。
だが、デリックの実家は大変怒っているようだ。
『バークリー家は親類縁者が多く、大変厄介とのことです。多くは男爵家の様子ですが、侍女長のセリーナが随分と警戒しておりましたね』
「男爵家が集まって、伯爵の俺に対抗しようってことか? 雑魚がいくら集まっても雑魚だが、確かに面倒だな」
貴族というのはどこで繋がりがあるのか分からない。
そのため、デリック一人を殺してバークリー家と敵対したら、その親類縁者も出て来て大勢を敵に回してしまったのだ。
もっとも――この程度はどうということはない。
「借金は全額返済してやれ。貯蔵していたレアメタルをトーマスに売り払ったらどうだ?」
現金に換えるのも面倒だったので放置してきたが、返して欲しいなら望み通りにしてやる。
もっとも、俺に舐めた真似をしたことは許さないけどな。
『打診しましたが、全ての量を捌けないとのことです。そのため、現金の用意ができていません。現物で納めると言うと、レアメタルの買い取り価格が市場の半額以下にされるため、旦那様の判断を仰ごうかと』
「借金取りが、俺のレアメタルを安く買い叩くだと?」
俺が嫌いなものは多い。
その中でも借金取りというのは大嫌いな存在だ。
前世、俺はあいつらにとことん追い詰められた。
自分が作った借金ではないのに、本当に酷い取り立てを経験して借金取りが嫌いになった。
ただ、こちらの世界では、俺の祖父母と両親が莫大な借金を作ったのは事実だ。
しっかり返してやるつもりだったが、無理に取り立てようとするなら容赦などしない。
「安く買い叩かれるのは癪だな。どうせ安く買い叩かれるなら、帝国に買い取ってもらえ」
『よろしいのですか? 帝国に売ると、借金取りたちに売り払うよりも価格が下がってしまいますが?』
「借金取りたちを儲けさせるよりもいいからな」
それに、レアメタルなどいくらでも用意できてしまう。
そもそも俺は金銭的な問題から解放された状態に近い。
案内人がくれた“錬金箱”と呼ばれる凄い道具が、ゴミからレアメタルを作り出してくれるのだ。
「誰に喧嘩を売ったのか分からせてやるとしよう。バークリー家に圧力をかけてやれ」
『経済戦争になりますね』
「俺が勝つに決まっているけどな」
そもそも錬金箱を持つ俺とは勝負にならないけどな。
相手が可哀想になってくる。
『無理のない範囲で圧力をかけさせていただきます。それはそうと、士官学校での生活はいかがですか? 怪我や病気はされていませんか?』
「士官学校など師匠の修行に比べれば温すぎる――とは言えないが、何の問題もないな。いや、むしろ学ぶことがなくて困っているくらいだ」
『学ぶことがない?』
「最上級生が喧嘩を売ってきたから、シミュレーターで返り討ちにしてやった。天城にも見せてやりたかったぞ」
ドルフを見事に倒したことを自慢するが、天城はあまり喜んではくれなかった。
「どうした?」
『――旦那様、自惚れていませんか?』
「自惚れるのは悪徳領主の嗜みだ。だが、正義感を振りかざす馬鹿を倒したのは事実。あれが最上級生の学年首席とは笑わせてくれるよな」
士官学校もたいしたことがない。
ニヤニヤしていると、天城が俺に釘を刺してくる。
『学生同士の喧嘩で満足されては困ります。旦那様には、士官学校でしっかり学んでもらわなければなりません』
――今日の天城は手厳しかった。
「俺にそんな態度を取れるのはお前くらいだぞ。他の者なら首をはねてやるところだ」
『旦那様に必要なことを進言しているだけです。いつでも首をはねていただいて構いません』
天城の首をはねる? それはちょっとあり得ないというか、冗談でも言うべきではなかった。
俺は両手を挙げて降参のポーズをとる。
「お前の進言に従おう。そう怒るなよ」
『怒っていません』
「――ところで、だ。その――ロゼッタの様子はどうだ?」
俺と一緒に士官学校に入ると言いだした困った女は、屋敷で大人しくしているのだろうか?
あいつ、俺を「ダーリン!」と呼んでつけ回してくるし、どうにも苦手だ。
見た目は美人だし、将来のハーレム候補に入れてもいいとは思うが――何かが違う。
『ロゼッタ様なら侍女長に厳しく作法を学んでいます。いずれ修行として他家に預けることになるとのことですが、バークリー家と揉めている現状では下手な家に預けられないとのことです』
「またバークリーか。いい加減に嫌になってくるな」
どこに行ってもバークリー家の名前を聞く。
帝国では田中さん並みにメジャーな苗字らしい。
「ま、後は頼むぞ」
『お任せください』
通信が切れると、俺は椅子から立ち上がって背伸びをした。
「さて、天城にも言われたことだし、少しは真面目に授業を受けるとするか」
◇
翌日の授業は艦隊戦についての基礎を教える授業だった。
教育カプセルで学んだ内容だが、こうして実際に教師から聞いていると――冷や汗が出てくる。
教壇に立ち、教官は淡々と現代の戦争について語っていた。
「艦隊戦は数が増えるほどに接触までの駆け引きが長くなる傾向にある。これは突撃が危険だからだ。待ち構えている方が基本的に強いため、突撃は控えなければならない」
立体映像が艦隊戦を再現しており、分かりやすく候補生たちに教えてくれる。
「これが艦艇の質、クルーの練度も関わってくるが、同格の相手にむやみやたらに突撃するのは危険だ。やるにしても、入念な準備が必要だな」
教官は付け加える。
「現在の突撃というのは、敗走する艦隊を追撃する場合が一般的だな。無闇に突撃してヒーローを目指す者がいないことを祈るぞ」
候補生たちが苦笑いをしていた。
だが、俺は笑えない。
何しろ、突撃はバンフィールド家の十八番とも言える必勝の戦術だ。
これが現代では通用せず、通用しても海賊のみとは――。
俺は教官に質問する。
「教官殿、ならば突撃するにはどれだけの戦力差があれば可能ですか?」
「リアム候補生か。君に今更教える必要もあるとは思えないが――そうだな。最低でも四倍の数は必要だろうな」
四倍。
そうなると、バンフィールド家が相手に出来る敵の数は一万隻もないじゃないか。
突撃重視の艦艇やら武装――おまけに突撃重視の訓練を受けてきた兵士たち。
編制を明らかにミスっている。
「四倍。四倍か」
俺が考え込んでいると、のんきなウォーレスが声をかけてくるのだった。
「どうした?」
「――いや、軍備を増強しようと思った」
「何で?」
すぐに突撃重視の方針を変更して、数を増やす必要がある。
悪徳領主なのに、軍備に不安があるとか許されない。
俺は安全な位置から他者を踏みにじりたいのであって、危険な場所にいたくはない。
「軍備――軍備と言えば――」
兵器工場に連絡するとしよう。
あと、天城にもすぐに連絡しよう。
方針を変更しても、現場にまで俺の方針が伝わるのは早くても数年はかかってしまう。
全体に伝えるなら、もっと時間がかかるだろう。
くそ! ――失敗した。
これまで突撃すればどうにかなっていただけに、油断していた。
思えば、ドルフとの戦いも序盤は突撃したせいで劣勢だったのだ。
だが、俺はすぐに対応できる男である。
今回は早く気付けたと、プラスに考えることにしよう。
「とりあえず、目標は二倍の六万隻にするか。いや、三倍の九万隻か?」
俺の呟きにウォーレスが「え? そんなに増やすの?」と、驚いていた。
当然だ。
軍備だけは手を抜くことが許されない。
何故なら、軍事力こそが悪徳領主である俺の力そのものだからな。
どんな相手も、軍事力があれば黙ってくれる。
いや、黙らせられる。
暴力――その究極が軍隊だ。
だから俺は手を抜かない。
そうだ。忘れていた。
天城が言う通り、俺はこんなところで自惚れている暇などない!
今の俺は絶対に安全と言えるだけの軍事力を持っていなかった。
「俄然やる気が出て来た」
真剣な表情になる俺を見て、ウォーレスは何だか分からないという顔をしていた。
「そ、そうなのか? まぁ、それはよかったのかな? が、頑張れよ」
俺の舎弟であるお前も頑張るんだよ!
◇
カシミロは執務室でその報告を聞いて、咥えていた葉巻を落としてしまった。
「な、なんだと?」
通信で報告してくる息子も動揺を隠しきれていなかった。
『バンフィールド家が、保有しているレアメタルを大量に放出しやがったんだ。帝国に全て納めて、それで現金を用意しやがった』
バンフィールド家の力を削ぐつもりが、こちらのフロント企業が信用を落としただけという結果に終わってしまった。
「とにかく攻め続けろ! ここであの小僧を放置すれば、バークリー家が侮られるぞ!」
『わ、分かった』
通信が切れると、カシミロは頭を抱えるのだった。
「ふざけやがって。ただの貧乏貴族じゃなかったのか!」
経済的にそこまで余裕があるとは考えていなかった。
(金を持ちつつ借金もして――使える金額を増やしていたのか? 田舎でチマチマ領内を発展させていると思っていたが、こいつはかなり厄介だな)
こうなってしまえば、どちらが先に音を上げるか勝負するしかない。
手を引いてしまえば、バークリー家がその程度の財力しかないのかと侮られるからだ。
やるからには勝たなければ意味がない。
そう――始めてしまえば厄介というのが、大貴族同士の争いだった。
「こっちにはエリクサーだってある。いざとなれば、売り払って大金なんかすぐに作れるんだよ。レアメタルを大量に保有していようが、先に倒れるのはバンフィールドだ」
星を枯らせてしまうというデメリットはあるが、エリクサーを欲しがる人間というのは沢山いる。
カシミロは、リアムがいずれ音を上げると考えていた。
「それにしても、小僧に経済的な喧嘩を売ったのはまずかったな。こっちもかなり被害が出ている」
フロント企業は信用を失った。
バークリー家との繋がりも露呈している。
こうなると分かっていたなら、もっと別のやり方で喧嘩を売っていた。
「――これ以上、あの小僧に負けるわけにはいかん」
戦いは徐々に激しさを増していく――はずだった。
ブライアン(´・ω・)「リアム様がよく“ハーレムを作る”と言っておりますが、早く作って欲しいのが家臣一同の願いだったりします。なのに天城は別枠で、ロゼッタ様には手も出さない――辛いです。ハーレムを作る作る詐欺をするリアム様が――辛いです」