士官学校
今月の予定は――。
6/7日 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です コミカライズ 8話更新!
6/8日 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です コミカライズ【1巻】発売日!
原画:潮里 潤 先生 キャラデザ:孟達先生 原作:自分!
――と、なっております。
モブせかもいつにコミカライズが発売ですね!
予約も開始しているので、チェックしてもらえると嬉しいです。
アルグランド帝国士官学校。
そこは惑星一つを軍の教育施設とした場所だ。
市街地、密林、砂漠、雪原――全てが訓練施設になっている。
宇宙でも港やら軍艦、そしてスペースコロニーまで使って帝国を支える軍人たちの育成に力を入れていた。
そんな士官学校に入学した俺【リアム・セラ・バンフィールド】は、エリートが集まる戦略科に在籍していた。
将来的に参謀、司令などを目指す軍でも花形のコースで、非常に人気がある。
基本的に貴族の他には優秀な士官候補生たちが集まっている。
まさにエリートが揃っているような場所なのだが、将来の公爵である俺は成績に関係なく戦略科を専攻できた。
一般の士官候補生たちなら優秀な成績でないと入れないのに、貴族だからという理由で戦略科に入れる。
そう――貴族だからだ。
「世の中、生まれが全てではない。だが、生まれが大きく影響すると思わないか?」
士官学校の食堂。
栄養を重視したまずい食事を前にそう言うと、坊主頭のウォーレスが硬いパンをかじりながら答える。
「いきなりどうした?」
士官学校は基本的に坊主頭だ。
そして、女性はショートヘアーまでしか許されていない。
――だから、俺も坊主頭だ。
これが三年生になると、少しは髪型の自由も出てくる。
「生まれた家が貴族だった。それだけでエリートコースに進める。一般の候補生たちからすれば憤慨ものだろうと思っただけだ」
勝ち組に生まれた俺は、そうでない者たちを見下して悦に浸っていた。
そんな俺を見て、周囲を気にしながらウォーレスが注意してくる。
「リアム、もっと小さな声で話せないのか? 周りの目を見て見ろよ」
周囲を見れば、俺を睨み付けてくる負け組共がいた。
中には賛成しているような視線を向けている候補生たちもいる。
きっと彼らは貴族出身だな。俺の意見に同意しているのだろう。
「事実だろ? 文句があるなら俺に直接言えばいい。言えるなら、な」
周囲を一瞥するが、そんな気概のある候補生たちはいない。
俺を睨み付けていた候補生たちは、視線を向けると一斉に顔をそらした。
そうだよな。――大貴族の俺に逆らうなんて怖いよな。
士官学校の規模が大きすぎて、候補生たちの顔や名前はいちいち覚えていられない。
だが、俺を睨んできたのは間違いなく一般の候補生だろう。
これだ。これなのだ。
これこそ俺が望む悪徳領主の姿である。
すると、そんな俺の物言いに腹を立てたのか、最上級生が絡んできた。
「随分と強気の態度だな」
ウォーレスがその先輩を見て驚く。
「ドルフ先輩!?」
士官学校の規模が大きすぎて、他の候補生のことなどいちいち覚えていられない。
だが、その先輩は俺でも知っている男だ。
何しろ最高学年の首席だからな。
貴族ながら、平民いじめをしている俺に注意するくらいに正義感があるらしい。
――俺の嫌いなタイプだ。
「成績は優秀と聞いていたが、その程度で随分と大きな態度に出ているようだね。恥ずかしくはないのかな?」
俺を嫌っているのか、嫌みが多い男だった。
整髪料で濡れたように固めた髪はオールバックにされている。
名前は【ドルフ・セラ・ローレンス】――貴族であるのに、平民の肩を持つ変わった男だ。
少し細いが、軍人として鍛えられた体の持ち主だ。
いかにもエリートですという顔が気にいらない。
「学年首席様が何の用だ?」
「――上級生に対する態度じゃないな」
上級生だが、相手は格下の貴族だ。
将来公爵で、現伯爵の俺が下手に出てやる理由はなかった。
軍の規律? 俺が一体どれだけ士官学校に寄付をしていると思っている? そんなの黙認されるに決まっている。
ウォーレスが俺を見て首を横に振っていた。
関わるなと言いたいらしいが、こういう正義感を持つ奴は嫌いだ。
前世の自分を思い出す。
何の得にもならない正義感を持ち、いい子ちゃんでいるのがいいと考えていた。
きっと、こいつは平民を馬鹿にしている俺に腹を立てたのだろう。
いい子ちゃん過ぎて反吐が出る。
「それで? 何の用だと聞いているんだが?」
気安く話しかけてくるなと言いたい。
ドルフはアゴを少し上げ、俺に対して怒っているのか額に血管を浮かび上がらせていた。
「シミュレータールームに来い。お前に上級生に対する態度というものを教えてやろう」
「――それは是非とも教えてもらおうじゃないか」
挑発的な笑みを浮かべてやると、食堂が一気に騒がしくなってくる。
「おい、リアムとドルフ先輩がシミュレーターで戦うみたいだぞ」
「あの二人が?」
「これは見物だな」
盛り上がる食堂で、ウォーレスだけは頭を抱えていた。
「リアム、どうしてお前って奴は――」
◇
シミュレータールーム。
そこには見物するため、多くの候補生たちが集まっていた。
一年で成績上位のリアムと、六年生の首席であるドルフがシミュレーターで艦隊を率いて戦うのだ。
興味を持つ候補生たちは多くて当然だ。
ウォーレスは観客たちの身分が見事に別れているのを見て、溜息を吐くのだった。
「リアムは平民に大人気だね」
ドルフを応援しているのが、リアムを嫌う貴族出身者たちだ。
対して、リアムを応援しているのは多くが平民だった。
貴族もいるが、圧倒的に平民から支持されている。
「それにしても、食堂で貴族相手に喧嘩を売るような言動をするなんて――しかも相手はドルフじゃないか」
ローレンス家の次男坊であるドルフは、分かりやすい貴族主義者だ。
貴族が優遇されて当然と思い込んでいる。
そんな相手に「生まれが貴族だから成績に関係なくエリートコースを歩んでいる」と喧嘩を売るようなことを言ってしまったのだ。
(まずいな、ドルフは悪い噂の絶えない先輩だが、実力は本物だぞ)
最上級生。しかも面倒なドルフに喧嘩を売ったリアムをウォーレスは心配していた。
五年という歳月は短いようで長い。
いくらリアムが優秀でも、軍で五年以上も首席でいるドルフを相手にするのは難しい。
(ま、首席であり続けるのも怪しい話だけどね)
そんなドルフの悪い噂とは、簡単に言えば首席でいるために優秀な候補生たちを潰しているというものだった。
自分とライバルになりそうな候補生がいたら、冤罪で退学にさせたなど色々と噂がある。
悪い連中と手を組み、ライバルの家族を人質にとって退学させた話もある。
(なりふり構わない相手に喧嘩を売るなんて、リアムの正義感には恐れ入るよ)
口では悪いことを言いながらも、リアムは正義感が強い。そして、実力も兼ね備えている。
そんなリアムは、平民たちにとっては希望であり、貴族たちにとっては目障りな存在だ。
――シミュレーターが起動する。
二人が操作パネルで艦隊を動かすと、リアムがすぐに攻勢をかけた。
その動きにドルフが駄目出しをしている。
「海賊が相手なら通じる戦術だろうが、私には通用しないぞ」
「あ?」
ドルフがリアムを挑発しているが、実際にリアムの方が徐々に数を減らしていた。
「猪のように突撃しかできないお前は、私の敵ではないと言うことだ」
リアムの艦隊は攻撃に特化している。
逆に、ドルフの艦隊は防御に特化しており、リアムにとって状況はかなり不利だった。
シミュレーターを使用する前にお互いに数や編制を決める。
ただし、どのような編制にするかは相手には分からないようになっている。
だが、まるでドルフはリアムの編制を最初から見破っている様子だった。
リアムがどんな艦艇を揃え、どのように陣形を組むのか知っているような戦い方だ。
(まずい。ドルフの奴、何かしたな)
リアムがいきなり不利な状況になると、ドルフを応援している貴族たちが声を上げていた。
「何だ、その程度か海賊狩り」
「海賊相手に通用しても、ここではお前など凡人だと覚えておけ」
「田舎者は身の程を知るんだな」
強気の態度を見せる貴族たち。
逆に、平民たちは、貴族たちが何かしたのだと気が付いていても抗議できなかった。
証拠がなければ、抗議してもリアムに恥をかかせることになるだけだからだ。
ドルフが何か不正を働いたのは確実だが、証拠がなくどうにもならない。
(このままだとリアムが負けるな)
ウォーレスでも勝敗が分かるほどに、リアムの状況は不利だった。
◇
シミュレータールームの天井に逆さに立っている男がいた。
シルクハットに燕尾服姿の男は、帽子を深くかぶって目元が見えない。
ただ、口元だけは笑みを浮かべていた。
「――面白いことをしていますね」
リアムとドルフとの対決を見守っていた【案内人】は、以前よりも力を増していた。
帝国の首都星で力を蓄えたおかげで、苦しみからようやく解放されていく余裕が生まれていたのだ。
もっとも、今もリアムの感謝を受けて体を蝕まれている。
放置していては、いずれ痛みに苦しむだろう。
今のリアムは、領内の領民たちから慕われている。
そんなリアムの感謝の気持ちというのは、領民たちの気持ちも加わりとんでもない力を持っていた。
案内人も無視できない力を集めており、リアムを直接不幸にするのは難しくなってきていた。
そのため、リアムを陥れるアイデアはないかと様子を見ていたのだが――ドルフを見た案内人は一つ思い付く。
余裕の表情を見せるドルフに近付くが、この場で案内人に気付く者はいない。
「随分と人を不幸にしてきた男のようだ。私の好みですね」
ドルフという男が、今まで首席でいるために多くのライバルを潰してきた。
その怨念がドルフにまとわりついている。
また、リアムとは違い素で悪い貴族でもあり、案内人からしてみれば素晴らしい人材だ。
更に、リアムに勝つためにシミュレーターにも細工をしている。
この徹底した部分もいい。
「――いいことを思い付きました」
そう言って、案内人がシミュレーターに手を触れる。
すると、ドルフの艦隊が押され始める。
今まで一方的にリアムの艦隊が負けていたのに、徐々にその差が縮まり始めていた。
ドルフが困惑している。
「な、何だと!?」
逆にリアムは笑みを浮かべていた。
「どうした、最上級生! この程度で先輩面か!」
調子に乗っているリアムを見て、案内人は口角を上げて白い歯を見せて笑う。
「いいぞ。調子に乗れ。リアム、それが命取りになるのだよ」
リアムが憎い案内人は、この場でリアムを勝たせるために行動したのだ。
理由は――。
「くそ! くそっ!」
ドルフが慌てて艦隊を動かすも、そのせいで隙を作ってリアムに攻め込まれ更に形勢が不利になっていく。
「ど、どうしてだ!?」
勝てると思っていたドルフは、青い顔をして狼狽えていた。
そんなドルフに案内人が声をかける。
その肩に手を置くが、ドルフは気が付いた様子がない。
「ドルフ君、君には期待している。ここでの敗北は、きっと君の大きな糧になるだろう。そして、君を敗北させたリアムを――君は絶対に許せなくなる」
実際に、ドルフは額に血管を浮かべてリアムを睨んでいた。
首席であるために、誰にも負けないために不正までしているドルフだ。
リアムに――それも随分と下の後輩に負けるのは屈辱だった。
「こんなことが!」
シミュレーターがリアムの勝利を判定すると、部屋では多くの一般候補生たちが歓声を上げて盛り上がる。
対して、貴族たちは負けたドルフを蔑んだ目で見ていた。
「学年首席もこの程度か」
「あいつは卑怯者だから、この程度なのさ」
「不正を働いてもリアムに負ける程度、か」
嘲笑っている者もいる。
それがドルフには屈辱だった。
リアムがドルフに向かって言うのだ。
「シミュレーターしか知らないからこうなる。少しは本物の戦争を経験した方がいい。今後は俺が人生の先輩として色々と教えてやるよ――ドルフ君」
勝ったことでおごるリアムを見て、案内人は満足そうに頷く。
何しろ、ドルフが凄い形相でリアムを睨んでいるのだ。
「貴様ぁぁぁ」
低い声を出すドルフを見て、案内人はほくそ笑む。
「そうだ。もっとリアムを憎むんだ。そして、いずれ君がリアムを倒すことになる。その戦場も用意してやろう」
余裕が出て来た案内人は、直接リアムを倒すのではなく真綿で首を締め付けるように念入りに準備をしていた。
痛みに苦しみ短絡的になっていたことを反省し、まずはリアムを調子に乗らせておくことを考えたのだ。
そして――時が来れば一気に叩き落とす。
「リアム、今だけは調子に乗るといい。そして、全てを失う時、お前がどんな顔をするのか楽しませてもらおう」
そう言って、案内人は床に沈み込むように消えていく。
後に残ったのは奥歯を噛みしめ、リアムを睨み付けているドルフだけだった。
「――絶対に許さないぞ。絶対に!」
リアムを憎む将来のエリートが誕生した。
ブライアン( "・ω・゛)「辛いです。士官学校編とも言える今回の章ですが、どう考えてもこのブライアンに出番が多いと思えないのが――辛いです」