婚約式
若木ちゃん( ゜∀゜)「元アイドルよりも現役アイドルの方がみんなに喜ばれるわ! みんな、苗木ちゃんが登場する乙女ゲー世界は――」
(*´∀`) ;y=ー( ゜д゜)・∵. ターン「もぶひょい!」
モニカ(*´∀`) 「――セブンス8巻をよろしくお願いいたします。さて、お掃除をしなくっちゃ」
屋敷の自室。
大の字になってベッドに横になる俺は、天城の膝枕を楽しんでいた。
実家に帰ってきたという気がしてくる。
「天城、ロゼッタの様子はどうだ?」
「屋敷の案内をさせ、休憩時間はご家族と談笑しております」
――つまらないな。
もっと絶望するか、反抗心をむき出しにして欲しかった。
だが、今は家族で再会できたことが嬉しいようだ。
もう少し時間をおいた方が良いのだろうか?
「そうか――もっと自覚を持って欲しいものだな。俺に全てを奪われた、とな」
「全て、ですか? もう抱かれたのですか?」
「え? 何で?」
天城が困った顔をしている。
可愛いじゃないか。
「旦那様、もう奥様を迎えられるのですから、あまり私にばかり構っていると愛想を尽かされてしまいますよ」
「その時は女の方を捨てる。それだけの話だ」
「ロゼッタ様を捨ててしまえば、旦那様は貴族社会の信用を失います。爵位も失ってしまいますよ」
「なら、軟禁か? 俺のやることにケチを付ける女は嫌いだ」
前世の妻が――最後はそうだった。
何をしても文句を言ってくる。
プレゼントにもケチを付け、ゴミ箱に捨てていたのは今でも覚えている。
胸くそ悪い。
もしも再会したら、この手で殺してやるけどな。
案内人に頼んだら、もしかして連れてきてくれるのだろうか?
だが、よく考えると――もう会いたくもないので、現状維持がベターか?
この積もり積もった鬱屈した感情は、ロゼッタで吐き出させてもらうとしよう。
あいつはきっと、俺にだって抵抗してくる。
そんなロゼッタを徹底的に――。
「旦那様」
「どうした?」
天城に言われて妄想の世界から、現実世界に引き戻される。
「ロゼッタ様は旦那様の奥様です。優しくしてあげてくださいね」
その優しくという言葉に、俺は答えを返せなかった。
何しろ、いたぶるためだけにロゼッタを妻に迎えたからだ。
あと、天城やブライアンの「お嫁さんまだかなー!」というプレッシャーもあって、少し焦ってしまった感は否めない。
天城が俺の頭を撫でる。
「婚約式は幼年学校の卒業後を考えております」
「――そうか。いや、待て」
上半身を起こして天城に振り返る。
「どうなさいましたか?」
「婚約式はすぐに行うぞ。この長期休暇中にやる」
「ですが、それでは準備期間が足りません」
「構わない。ロゼッタのために贅沢に婚約式をするつもりか? 控えめでいいんだよ。とにかく急がせろ」
「ロゼッタ様の教育もあります。カプセルを使用した教育に、最低でも三ヶ月は必要です」
ロゼッタは教育カプセルを使った教育、肉体強化を最低限しか行っていない。
幼年学校での成績も、そこに原因がある。
そのため、長期休暇中にカプセルに放り込み、少しでも成績改善を目指すようだ。
「さっさとカプセルに放り込んで、婚約式の準備だ」
「――承知しました」
いくら鋼の心を持つロゼッタでも、婚約式を行えば嫌でも現実を知るだろう。
そして、俺はクラウディア家から公爵という地位を奪うことが出来る。
まだ正式に結婚していないので、公爵予定――みたいな立場だけどな。
「あ~、楽しみだな」
ロゼッタ――お前の心を必ず折ってやる。
バンフィールド家の屋敷にある教育カプセル部屋。
そこには、医師や護衛のメイドロボたちがいた。
ロゼッタが薄い布で体を隠している。
「実家にある簡易の教育カプセルとは違うわね」
もはや別物――高級品の教育カプセルの周囲には、専門の女性スタッフが調整を行っていた。
女性医師が説明する。
「今回は短期間の調整になります。リハビリ期間も考えると、四ヶ月程度は拘束されるとお考えください」
「長期休暇のほとんどが終わるわね」
俯くロゼッタを見て、女性医師が慰める。
「お婆様の件は聞いております。もっと側にいたいでしょうが、これはリアム様の決定です」
「えぇ、分かっているわ。お婆様もそれを望んでいるもの」
涙を拭う。
泣いてばかりのロゼッタだが、実は祖母の体調がよくない。
エリクサーを使ったとしても、大事な精神が既に折れてしまっている。
エリクサーを使えば、どんな怪我や病気も治る。
しかし、寿命には限界がある。
多少の延命は可能だが、ロゼッタの祖母はかなりの年齢だ。
肉体はともかく、心やら魂は限界に来ている。
もう――時間がなかった。
「ロゼッタ様、短期間に出来るだけのことをしますが、あくまでも付け焼き刃である事を忘れないでください。本格的な教育カプセルの使用は、幼年学校の卒業式後になります」
ロゼッタが顔を上げる。
「――お願いするわ」
カプセルに入る前に布を外し、裸で液体の中へと入る。
カプセルの中、ロゼッタは胎児のように丸まった。
(お婆様に、何としても婚約式に参加してもらわないと――)
意識が遠のき、そしてカプセルを使用した勉強と肉体強化が始まる。
リアムの御用商人――トーマスは、大慌てだった。
「急げ! 婚約式までに必要な物をかき集めるんだ!」
バンフィールド伯爵家の婚約発表。
しかも、婚約式まで半年もなかった。
部下たちが大急ぎで船にコンテナを積み込む。
「こんなに急ぐ意味はあるんですか? 婚約式なんて、幼年学校の卒業式後でもいいじゃないですか!」
忙しさに不満を口にする部下に、トーマスは言う。
「公爵令嬢――ロゼッタ様の祖母はもう長くないそうだ」
部下が色々と察してしまう。
つまり――リアムが婚約式を急ぐのは、ロゼッタの晴れ姿を祖母に見せるため、である。
トーマスはその気持ちに応えようとしていた。
「今まで辛い日々を過ごされていたそうだ。ここで我々が頑張らなければ、バンフィールド家の御用商人など名乗れない。すまないが、協力して欲しい」
部下は黙って作業へと戻る。
おかしい。
領内の様子がおかしい。
普段から、奇抜なファッションが流行る領内だが、今回の流行は――俺の美談だ。
何故か、俺が婚約式を急ぐのは、ロゼッタの婆さんのためとなっている。
今もモニターでニュースを見ていると、キャスターが婚約式のことを説明していた。
『リアム様が婚約をお決めになったロゼッタ様ですが、これまで随分とご苦労をなさってきたようです』
ロゼッタの身の上話に始まり、クラウディア公爵家がどんな扱いを受けてきたのかを細かく説明している。
俺でもドン引きの過去だった。
ウォーレスから聞いていた内容の倍は酷い。
そして、そんなロゼッタを救って――結婚までするリアム様凄い! だって。
領内のマスメディアは俺の支配下にあるが、ここまで露骨におだてられると逆に気持ち悪い。
裏があるのではないかと勘ぐってしまう。
『そして、ロゼッタ様の祖母であられる先代の公爵様は、体調が優れず――』
エリクサーを使って何とか延命している状況なのは聞いていた。
だが、俺がそれを気遣い、婚約式を急がせていると聞いたのは――今日が初めてだ。
俺の身の回りの世話をしている天城に視線を向ける。
「どういうことだ?」
「旦那様とロゼッタ様の婚約は、美談ですからね。話に食いつく者は多いのでは? ちなみにですが、これまでの流れをドラマや映画にするという話も進行中です」
「――嘘だろ」
俺とロゼッタの出会いを運命的なものにしたいらしい。
そんな要素が一ミリもないのに、感動的な作品にしたいそうだ。
俺の領民たちは大丈夫なのか? もしかして暴走手前か?
税を絞りすぎたか? ちょっとお休みさせて、しばらくしてからまた搾り取ろう。
「天城、税は少しだけ軽くしろ。少しだぞ」
「急ですね。では、婚約式と同時に税を下げますか?」
「それだ! とにかく、少しだけ安くして領民たちを休ませる」
「では、そのように手配いたします」
俺は汗を拭う。
領民たちが心配になってくる。
俺にとって都合がいいように仕向けたが、一瞬怖くなったぞ。
いや、待て――この状況は使えるな。
俺との屈辱的な出会いを美談にされたロゼッタは、さぞかし悔しい顔をしてくれるだろう。
今からの楽しみだ。
「婚約式が楽しみだな」
ニヤニヤする俺を、天城が微笑みながら見ていた。
長期休暇も残り僅かとなった頃。
バンフィールド家の屋敷には、大勢の客が押し寄せていた。
ウォーレスは礼服に身を包み、その中で飲み物を飲んで過ごしている。
「もっと豪勢なパーティーを予想していたのに、えらく落ち着いた感じだな」
招待されたクルトも、礼服姿で婚約式に参加していた。
「僕から見たら凄く豪華だけど?」
「伯爵家にしてみたら、落ち着いた感じだよ。別に質素という意味じゃない。奇抜さがほとんど無いから、安心できるという意味だ」
時に、貴族たちはパーティーに趣向を凝らしすぎて――理解できないパーティーになることが多い。
「奇抜なパーティーで成功したのは、バケツパーティーの他には数えるほどしかない」
「バケツパーティーって、一応は定番だよね」
「あぁ、私も何度か参加したが、アレは凄いよ。定番になる訳だ。考えた奴は天才だよ」
立食パーティーのような形式で、参加者たちは食べ物や飲み物を楽しんでいた。
クルトが周囲を見る。
「参加している貴族が多いね。父上も挨拶回りで大変そうだ」
以前よりも貴族たちが大勢参加している。
ウォーレスはその理由が分かった。
(リアム――これを狙っていたのか?)
バークリー家と敵対すると宣言したようなリアムだ。
敵ばかりかと思ったが、良識のある貴族たちがリアムに集まりつつある。
まだ様子見をしている段階だろうが、これにはウォーレスも驚いた。
(これは、下手をすると――バンフィールド家とバークリー家の戦争に、他の貴族も関わって帝国内の代理戦争になるかもな)
良識のある貴族たちと、悪徳貴族たちとの勝負になる。
良識派の代表がリアムだ。
「あ、リアムだ」
空に映し出された映像に、リアムが登場する。
ロゼッタと共に純白の衣装に身を包んでいた。
婚約式。
大勢の前で誓いのキスをするのは、地球も星間国家も同じらしい。
こんなところは似ているんだな――そう思ったが、今はベールに包まれたロゼッタの顔が見たかった。
神父みたいな役回りの男が、誓いのキスをしろというので向き合う。
「ロゼッタ、気分はどうだ?」
声をかけると、答えは返ってこなかった。
きっと、悔しさで顔が凄いことになっているはずだ。
「お前の全ては俺のものになる。お前の家族も、お前が受け継ぐはずだった爵位も――全て俺が手に入れた」
ゆっくりとベールを持ち上げると、ロゼッタの顔がアゴから見えてくる。
化粧した肌は白く綺麗だった。
口紅で鮮やかになった唇は、瑞々しい。
――あれ? おかしいな? ここで歯を食いしばっていると思ったが、そんなことはなかった。
これは無気力になっている状態か?
だが、心が折れたならそれはそれで見物だな。
ゆっくりとベールを持ち上げ、ロゼッタの顔を見ると――頬を染めていた。
潤んだ瞳は輝き、俺だけを見ている。
――おい、ちょっと待て! これはおかしいだろ!
もしかして、もう諦めたのか? お前、それでも鋼の精神を持つ女か!
ロゼッタの顔を見て固まっていると、
「――こんな私を受け入れてくださりありがとうございます。ダーリン、私は! 私はずっとダーリンの側にいます!」
――ダーリン!? お、お前は、変な物でも食べたのか?
もしかして、教育カプセルで俺を忖度した医者が、こいつを洗脳したのかと疑うレベルだ。
だ、だが、メイドロボたちは「通常の処置を行いました」と俺に告げている。
そこに何もなかったという証拠だ。
あいつらは、俺に嘘がつけないから、それは間違いないと思うのだが――。
ロゼッタが目を閉じて、俺に身を寄せてくる。
もっと嫌がると思っていたのに、これは想定外だ。
それにしても――よく見ると可愛いというか、美人?
よく見ると綺麗だった。
とにかく俺は、婚約式を進めるためにキスをした。
ロゼッタが一筋の涙をこぼす。
もしや、俺を騙そうとしているのか?
そ、それならまだいいのだ。
俺の寝首をかこうとするだけの心が残っている証拠だからな。
唇を離す。
「ロゼッタ――これからが楽しみだ」
お前を屈服させてやるという気持ちを込めた言葉だった。
ついでに笑みを見せると、ロゼッタが指で涙を拭い――輝くような笑顔を俺に向けてくる。
「はい、ダーリン」
――ちょっと待てよ! お前、本当に堕ちてないよな!?
会場では、戸惑っているリアムを見て笑い声が上がっていた。
馬鹿にするものではなく、初々しいと微笑ましく見守っている。
そんな中、ウォーレスは――整列したリアムの騎士団を見ていた。
筆頭騎士にクリスティアナ。
次席にマリー。
二人とも、急に出現した有能な女性騎士だ。
「リアムはどこから人を探してくるんだ? あの二人、宮殿でも滅多に見かけないレベルの騎士だな」
そして、婚約式では、届いた祝辞が読み上げられている。
その中には宰相のものもあった。
ウォーレスは静かに酒を飲む。
(宰相もリアムに期待しているのか? いや、あの古狐はそんな優しい奴じゃない。きっと、バークリー家と天秤にかけているはずだ)
だが、リアムは、帝国の宰相が目をかけるだけの存在ということになる。
ウォーレスは笑みになる。
「パトロンが有能で嬉しい限りだ。私も少しばかり協力するとしよう。――パトロンがいなくなったら困るからな」
ブライアン。・゜・(ノД`)・゜・。「ひっぐ――リアムさまぁぁぁ! おめで、おめでとうござ――ひっぐ。言葉が出てこなくて辛いです」