脱走
若木ちゃんm9。゜(゜^Д^゜)゜。「私が消えたと思った? 残念でした~」
若木ちゃん( ゜∀゜)ノ「あとがきを追い出されても、まだまえがきが残っているのよ! そして今日から11月ね。11月と言えば 【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻】 が 【11月30日】 に発売予定よ。この私も大活躍するから、是非とも購入して確かめてね」
覇王国軍の総旗艦。
巨大な六千メートル級の戦艦は、まるで移動する要塞のような姿をしている。
じき覇王であるアリューナの乗艦では、バンフィールド家の動きを察知して歓声が上がっていた。
ブリッジ内では、アリューナが総司令官の席から立ち上がって身体を震わせている。
そこに恐怖はない。
頬をほんのり赤く染め、まるで恋する乙女のような視線を――自分たちに向かってくるバンフィールド家の艦隊に向けていた。
「帝国軍は武人の心を持たないと思っていたが、バンフィールド家は違ったようだ。いいぞ。オマエは最高だ、リアム!」
リアムと戦うために、味方を分散して包囲を行った。
だが、その必要性がなかったことに、悔しがるどころかアリューナたちは歓喜している。
ブリッジにいる軍人たち、そして騎士たちが声を上げた。
「さすがは帝国の勇者!」
「帝国にはもったいない益荒男ぶりだ」
「これぞ真の英雄よ!」
奮い立つ覇王国の猛者たち。
アリューナが両手をモニターに映し出される敵艦隊に向け――広げた手を握りしめる。
「来い――我が潰してやる」
だが、そんなアリューナたちの前で――バンフィールド家の艦隊に不穏な動きが見られた。
気分を害されたアリューナの片眉が、ピクリと反応する。
「――なんだぁ」
低く苛立った声の原因は、バンフィールド家の艦隊の一部が離反しつつあるためだ。
それが作戦ならばアリューナも受け入れるが、敵艦隊の動きはどう見ても脱走している。
これから一丸となったバンフィールド家と戦えると思った矢先に、水を差された気分にさせられた。
「軍をまとめくれないとは、リアムとクラウスもこの程度か」
アリューナの中で、リアムの評価が僅かに下がった。
◇
その頃、マリーは乗艦のブリッジで唖然としていた。
「逃げた――だと?」
再編されたマリーの艦隊は、指揮下に数万の艦艇を加えていた。
その一部が離反している光景に、一瞬理解ができなかった。
だが、マリーも一流の指揮官だ。
すぐに自分の艦隊から脱走者が出ていると知ると、指揮下の艦隊に命令する。
「脱走した艦艇は全て撃ち落とせ!」
すぐに味方から攻撃を受けて、脱走した艦艇が撃破されていく。
だが、味方を攻撃する艦艇の数が少ない。
この戦いで率いた一万の艦艇と、純粋なバンフィールド家の艦隊しか命令を遂行しなかった。
副官が苦々しい顔をしながら、すぐに指揮下の艦隊を再確認する。
どれも他家から吸収した軍隊を母体にした艦隊だった。
そして、逃げ出す艦艇が増え始める。
「ゴミ共が」
副官の言葉で全てを理解したマリーだったが、もう流れを変えられなかった。
指揮下の艦隊から三割も脱走している。
他の味方を見れば、ティア率いる艦隊も二割が脱走していた。
かろうじて維持できているのは、リアムとクラウスの艦隊だろう。
二人の艦隊は、精鋭か純粋なバンフィールド家の艦隊から編制されている。
脱走する艦艇が少ないのは、そのためだ。
しかし、自分の艦隊から脱走者を出したことに変わりはない。
マリーから血の気が引いていく。
これまで、バンフィールド家の軍が精強で結果を出してこられたのは、軍の統制が取れていたからだ。
急激に拡大した弊害により、統制が失われつつあった。
リアムであれば時間があれば精強な軍隊を作り上げただろうが、今回はあまりにも時間が足りなかった。
「――殺せ」
「は?」
副官がマリーの絞り出すような声を聞き取れず、聞き返してしまう。
マリーは副官の胸倉を掴み上げた。
「全て殺せ。これ以上の脱走を許せば、戦う前にあたくしたちが負けるわ」
覇王国と戦う前に、バンフィールド家の艦隊は敗れ去ろうとしていた。
副官が命令を出そうとすると、リアムからの通信が届く。
『マリー、脱走した連中は放置しろ』
通信越しのリアムは、慌てた様子もなく落ち着いていた。
椅子に座り、何事もないように振る舞っている。
「し、しかし、これでは我が軍は戦う前に崩れ去りますわ!」
『そうれがどうした? 今は目の前の艦隊に集中しろ。お前は俺の命令に従えばいい』
通信を切られてしまったマリーは、手を握りしめる。
「――リアム様の命令よ。脱走艦への攻撃を停止せよ」
◇
バンフィールド家五十万の大艦隊。
その内、十万もの味方艦が脱走を開始していた。
総旗艦アルゴスのブリッジにて、その様子を見ていたユリーシアは冷や汗をかく。
(敵との戦力差は広がるばかりね)
ただ数が多い相手ならば、バンフィールド家の艦隊は打ち破るだろう。
しかし、相手は覇王国だ。
練度が高く、最新鋭の兵器を持つ六十万の艦隊だ。
勝てる未来を想像できないユリーシアだったが、アルゴスのブリッジは落ち着いていた。
緊張感には包まれているが、まだ勝負を諦めていない。
(何なのよ、こいつら)
勝敗など決したような状況で、落ち着いていられるのが信じられなかった。
リアムは欠伸をしながらモニターで自軍の様子を見ている。
ユリーシアはブリッジにいる参謀の一人に近付き、声をかけた。
周囲では慌ただしく司令官や参謀たちが話し合っているが、その参謀はリアムの側で待機するのが役割だった。
「ちょっと」
「何ですか、少将?」
参謀の一人である大佐に、ユリーシアはブリッジの様子について尋ねる。
「ブリッジが随分と落ち着いているわよね? 何か切り札でもあるの?」
「切り札ですか? リアム様なら用意しているかもしれませんが、自分は存じ上げませんね」
「それなら、どうして落ち着いていられるのよ!」
ユリーシアに小声で責められた大佐は、リアムの方に視線を向けた。
「少将はご存じないのですね。我々はリアム様を初陣の頃から見てきました」
大佐はリアムが初陣した頃を思い出しているようだ。
「リアム様は常に巨大な敵と戦い続けています」
「で、でも、今回みたいな不利な状況は初めてでしょう?」
「まさか――リアム様が初陣の頃は、五倍以上の敵と戦って勝利しましたよ」
ユリーシアは、リアムが軍から絶対的な信頼を得ていることを実感する。
しかし、楽観視はできない。
「味方から脱走している艦が後を絶たないけど?」
「嘆かわしいことですね。おかげで、上官たちが大慌てですよ」
総旗艦に配属された司令官や参謀たちが、忙しそうにしているのはこのためだ。
ユリーシアは大佐を睨む。
「このまま、戦う前に負けるかもしれないのよ」
「――そうでしょうか?」
大佐が視線を向けたのは、慌ただしくしている参謀たちだ。
ユリーシアもそちらに視線を向けると、参謀の一人が艦隊司令の一人と話をしている。
ただ、その内容はユリーシアが想像していたものではなかった。
「そちらの艦隊から脱走艦は出ていないと?」
『くどい! 我々を他の恩知らずと一緒にしないでもらおうか』
「恩知らず?」
『我々の故郷はリアム様が救ってくださった。ここで逃げるような恩知らずになれば、故郷では裏切り者も同じ』
「――脱走艦が出ていないならばそれでいい。貴官の艦隊は、クリスティアナ閣下の第三軍の指揮下で戦え」
通信が途切れると、また違う司令官との会話が始まる。
脱走した艦艇も多いが、それでも残る味方がいる。
ユリーシアは驚きを隠せず、目を見開いていた。
(嘘でしょ。こういう場合は、脱走艦が増える度に我先にと逃げ出すはずなのに)
バンフィールド家の艦隊は、多くの脱走艦を出しながらもギリギリ艦隊を維持していた。
唖然としているユリーシアに、大佐が呟く。
「リアム様は相変わらず領民からの人気が高いですね。新しく手に入れた惑星の領民からも、高い支持を得ていますよ」
◇
その頃。
ティアは信じられない光景を目にしていた。
「――艦隊が維持されただと」
脱走艦が増え続け、覇王国軍とぶつかる前に敗北すると予想していた。
しかし、四十万隻まで減ってしまったが、バンフィールド家の艦隊は残っていた。
二割近くが脱走したが、まだ戦える状態にある。
ティアはブリッジで笑いがこみ上げてくる。
「さすがはリアム様と言うべきか?」
一時はリアムだけでも逃がすために、ティアは命令を無視する覚悟だった。
だが、その必要がなくなってしまう。
副官がティアに指示を求める。
「ティア様、艦列が整いました」
「――目の前のことに集中しなさい。これから覇王国軍とぶつかるわよ」
「はっ!」
ティアは、モニターの一部に映し出されている脱走艦の集まりをチラリと見る。
(生き延びたら私の手で殺してやりたいが――それは無理そうね)
◇
バンフィールド家の艦隊から脱走した艦艇たちが、集まって即席の艦隊を作る。
指揮するのは、かつて他家で司令官を務めた男だ。
戦艦のブリッジから、覇王国軍の本隊に突撃するバンフィールド家の艦隊を見ていた。
「馬鹿な連中だ。あのまま突撃して勝てるかよ」
副官が心配そうに司令官に尋ねる。
「このまま逃げられるでしょうか? 周りは覇王国軍の艦隊ばかりですよ」
「少数の艦隊を狙ってぶち抜けばいい。馬鹿正直に総大将の首を狙うとか、リアムの小僧は本当に突撃馬鹿だな。狙うなら、敵の弱い部分だろうが」
「ですよね! やっぱり司令は頼りになりますよ。リアムとは大違いです」
口のうまい副官が、司令官をおだててご機嫌を取る。
彼らにリアムに対する忠誠心など少しもない。
他家の軍隊から吸収されたのも理由の一つだが、本来課せられた再教育を受けていなかった。
他家で手を抜くことばかり覚え、いかに貴族を騙して楽をするか? そんなことばかり考えていた軍人たちだ。
彼らばかりに責任があるのではない。
貴族たちが、彼らを冷遇した結果でもある。
忠誠を尽くしても無意味であると、長年の経験から学んだ結果だった。
司令官は今後の展望について話をする。
「幸い、装備は最新鋭だ。これだけの規模があれば、海賊として成功するのは間違いない。これからは、貴族様たちを脅して贅沢三昧だ」
かつては志を持っていた男も、長年貴族の下でこき使われている内に腐りきってしまった。
副官が報告してくる。
「司令、一万隻の艦隊を発見しました。あいつらを倒して抜ければ、この包囲網を突破できます」
「覇王国の連中も馬鹿だよな。包囲網を広げすぎなんだよ。この程度の数なら、簡単に食い破れるぜ」
脱走艦隊が一万隻の覇王国軍に向かって突撃をかけると――事態は一変する。
一万隻の艦隊と戦闘可能距離まで近付いた瞬間に――艦隊の両脇から覇王国の艦艇が短距離ワープで出現してきた。
その数は数万隻。
「なっ!?」
驚く司令官に対して、覇王国軍の司令官が通信を開いた。
『この大馬鹿者共が! アリューナ殿下の戦に泥を塗った臆病者共は、この場で殲滅してくれる!』
続々と集まる覇王国軍は、何故か脱走艦隊に激怒していた。
少数の艦隊は囮。
そこを攻めたら、すぐに周囲から味方が駆けつけ包囲する作戦だった。
リアムが少数の艦隊を狙わなかったのは、罠だと理解していたためだ。
それを、司令官は見抜けなかった。
司令官が敗北を悟り、すぐに降伏を申し出る。
「待ってくれ! 我々は降伏する!」
すると、敵司令官が冷たい視線を向けてきた。
『――貴様らはこの場で宇宙のゴミとなれ』
脱走艦隊は、こうして覇王国軍に滅ぼされる。
ブライアン(´;ω;`)「辛いです。どこにでも根を伸ばして、浸食する極悪植物がまえがきを乗っ取って辛いです」
ブライアン(`・ω・´)「そして今月は 乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 9巻 が発売となりますぞ。11月30日発売ですので、是非ともご予約をお願いいたします!」
ブライアン(´・ω・`)「予約……嬉しい……みんな……幸せ……辛くないです」