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俺は星間国家の悪徳領主! 1~4巻 好評発売中です!
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キャラクターだけではなく、機動騎士もお楽しみいただけるかと。
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覇王国の重要拠点を制圧したティアは、続々と集まる味方の敗軍を宇宙港から眺めていた。
採掘の終了した小惑星を三つつなげた巨大な要塞は、兵器の開発から生産、そして居住区や軍事施設とほとんどが揃えられていた。
数万隻の艦隊を運用できる巨大な要塞。
周辺宙域の中核を担う要塞は、覇王国軍にとって重要拠点の一つだっただろう。
その重要拠点を陥落させたのがティアだった。
そんなティアは、小惑星同士を繋ぐ通路から味方の艦隊を見ていた。
円柱状の通路はオートウォークとなっており、歩く事なく移動できる。
そんな場所で、ティアは味方の艦に冷たい視線を送って唾棄するように呟く。
「バンフィールド家の面汚し共が」
攻略した要塞に次々に集結してくる多くの艦隊が、痛々しい姿をしていた。これが苦戦しながらも勝利したならばティアも奮戦を称えて手厚く迎え入れるだろう。
だが、彼らの多くは敗北している。
敗北した味方に対する言葉とは思えないが、バンフィールド家は軍に十分な報酬を用意していた。
十分な環境と装備も用意され、帝国の正規軍と比べても見劣りしない。
むしろ、多くの正規軍よりも好待遇を受けている。
そんな状況で実戦に出て敗北したとなれば、味方だろうと何をしているのかと言いたくもなる。
ティアの側にいた副官が、同様に敗軍を見下ろして侮蔑的な態度を見せている。
「逃げ惑う海賊を相手にしてきた者たちがほとんどです。同等、あるいは競り合う相手には脆さがありますね」
バンフィールド家は海賊に容赦がない。
急増された艦隊の多くが、バンフィールド家を恐れて逃げ惑う海賊たちを相手にしてきた。
その弊害もあり、同等の相手に弱さを見せてしまう。
訓練では補えない本物の実戦に、多くの軍人たちが戸惑っている。
副官がティアに体を向けると、今後の予定を確認してくる。
「再編を我ら第三軍に任されましたが、どのように扱うつもりですか? 我らの艦隊はリアム様の親衛隊より補充を受けていますから、無理に吸収する必要もありません」
重要拠点を攻略するために、艦艇の数が予想よりも減少している。
第三軍を評価したリアムにより、補充には精鋭を回されていた。
リアムの親衛隊は、多くが優秀な者たちだ。
リアムが当主になった頃のバンフィールド家を初期から支えてきた者たちで、激戦を何度も経験している。
ティアにとっては何よりも嬉しい知らせだ。
何しろ、リアムが自らの精鋭を割いた。
それだけ自分たちの価値を認めている証拠でもある。
「リアム様の親衛隊なら何の問題もないな。だが、敗北した連中にチャンスを与えるとは、いささか優しすぎる」
ティアならば即座に更迭していた。
場合によっては軍法会議にかけている。
副官は肩をすくめる。
「ラストチャンスとなれば、連中も本気を出すでしょう」
「――無能共が」
「負けた連中よりも、活躍した者たちはどうします?」
二人の前にある強化ガラスに、活躍した将軍や騎士たちのデータが表示される。
エリート揃いで脆さを持つ軍の中で、確実に成果を上げている者たちだ。
ティアは彼らに目星を付けていた。
「活躍した者たちには勧誘をかけておけ。クラウスやマリーには引き抜かれるなよ」
バンフィールド家の軍隊と言っても、ティアには率いる部下たちがいる。
有能な者たちを引き抜き、より強い艦隊を編制したかった。
特に――クラウスには負けられない。
副官の目つきも鋭くなる。
「もちろんです。今回も武功でクラウス殿に負けてしまいましたからね。これ以上、差を付けられるわけにはいきません」
ティアの表情が消える。
「リアム様の寵愛を独り占めしていられるのも今だけだ。必ず私が筆頭の地位に返り咲く!」
バンフィールド家内部でも、激しい競争が繰り広げられていた。
◇
その頃、第四軍の遊撃艦隊を率いるマリーは荒れに荒れていた。
旗艦のブリッジで司令官の席を蹴り飛ばして破壊すると、目を血走らせて救援した艦隊の司令官や参謀たちを睨み付ける。
「救援に感謝しますじゃあねーんだよ! リアム様から一万五千隻の艦隊を預かっておいて、一万隻の敵に敗北しただと? てめぇらの頭は飾りか!」
似非お嬢様口調が消えて、救援した者たちに当たり散らしていた。
暴走するマリーの周囲にいる部下たちだが、冷ややかな視線を他艦隊の司令官や参謀たちに向けていた。
マリーが腰に提げた剣の柄に手をかけると、司令官が慌てて謝罪をする。
「お叱りはごもっとも! で、ですが、軍規により私刑は禁止されております」
マリーが握った柄から刃が出現すると、それを司令官の首筋に当てる。
刃は怒りで震えていた。
「戦場ではいくらでも言い訳が立つんだよ!」
今にも味方を殺してしまいそうなマリーを止めるために、副官が近付いて司令官を殴り飛ばす。
そして、参謀たちに命令する。
「連れていけ」
「は、はい」
ブリッジを出て行く他艦隊の者たち。
怒りで呼吸が乱れているマリーに副官が視線を向けて、味方の無能さを一緒に嘆く。
「やはり実戦経験が足りませんね。本物の戦争を知らない者が多すぎます。それにしても、他家から吸収した艦隊が特に脆いですね」
「くそが!」
「――マリー様、口調が荒くなったままですよ」
「我慢の限界だ! どいつもこいつも、あたくしの足を引っ張りやがってよ!」
リアムと共に激戦をくぐり抜けた者たちの多くは、主要な面子に率いられている。
マリーが率いる艦隊も同じだ。
リアムがお忍びで各地を巡っていた際に編制した艦隊を中心に、高性能な艦艇や機動騎士を揃えた精鋭艦隊だ。
他の艦隊よりも優秀なのは間違いないし、これだけ予算をかけた艦隊を任せられるというのはリアムに信頼されている証でもある。
だが、マリーにはまだ足りなかった。
「筆頭のクラウスや、クリスティアナのミンチ女が次々拠点を攻略しているのに、あたくしは無能な味方のフォローだと? あいつらさえいなければ、目に見えた戦果を出せたっていうのに」
破壊した椅子の一部を掴み、そのまま握り潰してしまう。
本来ならば、マリーも拠点攻略や敵艦隊を狙いたかった。
それなのに、味方の救援依頼が多すぎて手が回らない。
副官は焦るマリーに、伝令からの報告を再度伝える。
「リアム様は我らを評価していると」
「あたくしが目指しているのはもっと上よ。クラウスやミンチ女以上の功績が欲しい。あいつら全員蹴落としてやる。リアム様の側に立つのは――あたくしだけでいいわ」
◇
第二軍のブリッジでは、伝令の大佐が戻ってきて胸を張って報告する。
「リアム様はクラウス閣下の活躍に大喜びでした!」
「え?」
報告会で軍功を認められたと聞いて、クラウスは戸惑う。
確かに功績は挙げているのだが、クラウスからすれば部下たちのフォローをしていただけだ。
それに、素直に喜べない理由もある。
(ま、まずいぞ。あまりに活躍しすぎると、またあの二人が騒ぎ出す)
あの二人とは、もちろんティアとマリーの事だ。
筆頭騎士であるクラウスの地位を常に狙っている。
あまりに自分が活躍しすぎれば、二人が何をするか分からない――と、クラウスは思っていた。
実際に二人には鬼気迫るものがあり、クラウスは暗殺に怯えていた。
あの二人ならやる! という確信がクラウスにはある。
本当ならば、今回は他艦隊のフォローを優先するつもりだった。
それなのに、チェンシーたちが敵地の奥へ奥へと進むために、引っ張られてしまっている。
大佐がクラウスの活躍を褒める。
「バンフィールド家の筆頭騎士に恥じぬ働き。いえ、帝国最強の騎士の二つ名は伊達ではないと覇王国に見せつけましてね」
「帝国最強?」
何の話だと思っていると、周囲の部下たちまでもがクラウスを持ち上げる。
「リアム様の右腕として各地で活躍される閣下の二つ名ですよ」
「二つ名!?」
(前にも神算鬼謀とか、変なのが色々とあったのにまた増えたのか!?)
他の部下たちも、クラウスの噂について話をする。
「帝国の宰相から勧誘を受けても、首を縦に振らなかった噂も広がっていますね。比類なき実力と高い忠誠心を併せ持つ最高の騎士とも呼ばれていますよ」
「は、初耳なんだが?」
(いや、無理だから。帝国の宰相からの期待に応えられる働きなんて無理だから断ったの! 何でみんなして私を過大評価するの?)
ブリッジは明るい雰囲気に包まれる。
「我ら第二軍も誇らしく思いますよ」
「クリスティアナ様やマリー様も凄いですけど、バンフィールド家と言えばクラウス閣下ですからね」
「少し前から、バンフィールド家では生まれた子供の多くが、クラウスと名付けられているとか。閣下は人気者ですね」
周囲の明るい雰囲気と反比例するように、冷や汗が噴き出てくる。
クラウスはちっとも楽しくなかった。
「過大評価だ。私はそのような人物じゃない」
「その謙虚な態度をリアム様は評価されていました。クラウス殿は本当に素晴らしい騎士ですね!」
何を言っても伝わらない状況に、クラウスは頭を抱える。
(何でだぁぁぁ!!)
そして、ブリッジにリアムから通信が入る。
敵地で傍受される可能性を無視した行いは、緊急性の高さを告げていた。
「閣下、リアム様から緊急連絡です!」
◇
第一軍はバンフィールド家からやって来た第二陣の艦隊と合流していた。
その数は三十万隻。
惑星アウグルで再編された艦隊も合流しつつあるが、やはり時間が足りないようだ。
旗艦アルゴスの会議室では、第二陣の司令官や参謀たちが第一軍の関係者たちを責めていた。
「何故攻め込んだ!」
「リ、リアム様のご命令だ」
「それをお止めするのも司令官や参謀の仕事だろうに!」
「お止めした! だ、だが」
第一軍の司令官や参謀たちが、俺にチラチラと視線を向けてくる。
ふんぞり返って椅子に座る俺は、第二陣の連中を見て微笑する。
「防衛よりも攻め込む方が好きだからな」
「大変危険な状況であるのを理解されての発言ですかな?」
不満顔の部下たちだが、トップである俺には逆らえない。
「もちろんだ。後ろには数百万、前には三十万の敵だろ?」
今のバンフィールド家は、七十万くらいか?
「先に三十万の敵を叩いて、帝国領に侵攻した艦隊を迎え撃つ。クラウスにも既に連絡は取っているから、すぐに合流するだろうな」
第二陣から報告されるのは、覇王国の総司令官についてだった。
「侵攻した艦隊を率いるのは、王太子の地位に就いたアリューナ殿下だそうです」
「アリューナ?」
思い出されるのは、覇王国との停戦記念のパーティーだ。
あの場で俺に「遺伝子をくれ!」と言ってきた女傑を思い出す。
「あいつか――それはちょっと嫌だな」
あいつはちょっと苦手、という意味合いだった。
それなのに、部下たちが勝手に勘違いをする。
俺がアリューナの実力を警戒していると思ったようだ。
「覇王国の王太子となれば、その実力は確かなものです。リアム様は以前にイゼル殿下を討ち取られましたが、あれは幸運も重なった出来事。次も同じようにいくとは思えません」
イゼル――俺に挑んだ馬鹿な奴だが、あいつは確かに強かった。
個人的に俺は勝利したが、結果的に帝国は敗北。
死んでも厄介な奴だったな。
強さを重視する覇王国ならば、王太子の強さは証明されたようなものだ。
部下たちが不安に思うのも仕方がない。
「この程度を乗り越えられずに、この先戦っていけるかよ。それに、俺はさっさと領地に戻りたいんだ。お前らもそのつもりでいろ」
若木ちゃん( ゜∀゜)「出世競争って大変ね。私は唯一無二だから、誰とも争う必要がないわ」
ブライアン(´・ω・`)「え? 以前に世界樹を――」
若木ちゃん( ゜言˚)「あん?」
ブライアン(´;ω;`)「ひっ!? 俺は星間国家の悪徳領主! 1~4巻が好評発売中でございます!! 増量されたリアム様のご活躍を、是非とも書籍版でお楽しみください――あとがきのアイドルを名乗る植物が怖くて辛いです」