甘い罠
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リシテアという女性を一言で表すならば、場違いな奴、だ。
政争に明け暮れる宮殿内では、心優しい騎士などただ食い物にされてしまう。
下手に地位が高いのもいけない。
本人は皇女で、弟を守るために騎士の道に進んだ変わり者だ。
これで実力があれば良かったのだが、残念ながら現実というのは非情だ。
リシテアはどんなに高く見積もっても一般的な騎士の能力しか持ち合わせず、秀でているものがなかった。
「すまない、公爵。私ではクレオを止められない」
呼び止められ一緒に廊下を歩いているが、リシテアは顔面蒼白で俯いている。
黙って話を聞いていると、最近のクレオについて語り始める。
「今のクレオは、権力を手に入れて人が変わってしまった。前は優しい子だったのに、今はカルヴァン兄上たちと同じ――いや、それ以上に酷い」
皇太子の地位に就くため尽力した俺を、クレオは激戦の地に送り込もうとしている。
普通に考えれば酷い裏切りだ。
だが、俺はクレオを恨まない。
――何故なら俺は、人間など最初から信用していないから。
クレオが裏切る事も予想していた。
尤も、ここまで酷い扱いを受けるとは思わなかったけどな。
リシテアは、自分自身の情けなさを嘆く。
「私の言葉は今のクレオに届かない。公爵には大変世話になっているから、今からでも手を取り合うべきだと言ったんだ。――クレオは聞き入れてくれなかった」
リシテアという人間は善性なのだろう。
だが、このような会話を宮殿内でするべきではなかった。
どこに目や耳が隠れているか把握し切れていない状況で、俺に近付いただけでもクレオは不満を抱くだろう。
リシテアが最近の自分の扱いを、自嘲気味に話す。
「あまりに私が五月蠅いからと、護衛の仕事からも外された。今の私はクレオと話をすることすら出来ない。だが――私はクレオの姉として、公爵にはどうしても謝罪したかった。出来れば――」
出来れば――クレオを恨まないで欲しい? もしくは、クレオを許して欲しい? そうした言葉を口にしようとしたリシテアも、恥を感じたのか続きを飲み込んだ。
――そうだ、それでいい。
リシテアにも、もう後戻りできない事くらい理解できているようだ。
俺はリシテアに微笑み、無難な返事をする。
「リシテア殿のお気持ちは理解しました。それでは、これから忙しくなるので失礼いたします」
足早に離れる俺の背中を、リシテアが見つめていたが振り返らなかった。
◇
以前暮らしていた高級ホテルの一室。
首都星に滞在する際は利用しているのだが、俺が来ていると知ると朝からひっきりなしに客が訪れる。
クラーベ商会のエリオットと、ニューランズ商会のパトリスなど、夜だろうとお構いなしにやって来た。
俺の前で険しい表情をしている二人から、最近の事情を聞いている。
「クレオはお前らを冷遇したのか?」
エリオットのクラーベ商会は、帝国の御用商人をしている商会でも大手的な存在だ。
そんなクラーベ商会ですら、帝国との取引が明らかに減っているらしい。
「酷いものですよ。こちらはクレオ殿下のために最大限の支援をしてきたというのにこの仕打ちですからね。リアム様には、是非とも別の方を擁立して頂きたい」
俺と親しい商会が目の敵にされている。
クレオが命令したのか、それとも周囲が気を遣ったのかは知らないけどな。
ただ――クレオも皇帝もこの程度かと、俺は落胆してしまう。
パトリスは随分と焦っていた。
「ニューランズ商会の幹部会では、リアム様を切り捨ててクレオ殿下に近付こうとする者たちが増えています。擁立するなら都合の良い方をすぐにでもご紹介しますわ」
落ち着いているように見せようとしているが、俺に急いでクレオの対抗馬を用意しろとせっついてきた。
「幹部会でお前の立場が悪くなったか?」
ニヤニヤしながら聞いてやれば、パトリスが苦虫をかみ潰したような顔をする。
「手切れとして、私をクレオ殿下に差し出そうとする幹部が増えています」
身内に裏切られそうなパトリスの横では、エリオットが「それは大変ですね」と同情する言葉を言いながら冷めた目をしていた。
二人は友人ではない。
相手がどうなろうが、自分に不利益がなければどうでもいいという立場だ。
実にドライだが、人情など持ち出す奴らより信用できる。
力のない奴は利用されて捨てられる。
それは前世もこの世界も同じだ。
「パトリス、お前にはククリの部下を貸してやる。敵対する幹部は押さえつけておけ」
「それは助かりますね」
「それから、おまえには頼みがある」
「擁立する者の選定ですか?」
「その話は後でする。まずは、覇王国との戦いが迫っているからな。お前たちにとっては、稼ぎ時だろう?」
そう言うと、エリオットやパトリスの目の奥に光が宿った。
やはり商人は利にさとい。
エリオットが覇王国との戦いについて問う。
「儲けも大事ですが、リアム様は覇王国との戦争をどのようにお考えですか?」
誠心誠意国のために戦うのか、それとも戦力の温存目的で消極的に戦って最終的に退却するのか――俺が何を求めるのか気にかかっているようだ。
それなりに戦い、言い訳が出来る状態になったら撤退か交渉がベストだろう。
だが、俺はベターな選択はしない。
「もちろん、完膚なきまでの勝利だ」
◇
続いて俺の部屋を訪れたのは、兵器工場関係者だ。
第七兵器工場から派遣されたニアスが、俺を前にして涙を流している。
「これまで請け負っていた全ての仕事が取り上げられたんです! こんなの、あからさますぎるじゃありませんか! リアム様と懇意にしているからって、ここまでするなんてあんまりです!」
普段は徹底的に生産性と整備性、または性能を突き詰める変態集団の第七兵器工場だが、普段は帝国の兵器を生産している。
正式採用された兵器を第七兵器工場でも量産して稼いでいるのだが、それら全ての仕事がキャンセルされたそうだ。
おかげで、第七兵器工場は大赤字らしい。
俺の隣に立つのは、元第三兵器工場の関係者であるユリーシアだ。
今回は秘書のような立場で俺に付き添っているが、こちらも元職場からクレームが来ていることを俺に伝えてくる。
「第三兵器工場も仕事が減らされています。第三は人気があるので赤字にはなりませんけど、このまま帝国に冷遇されるとバンフィールド家との関係をすぐに考え直すと思いますよ」
クレオも皇帝も、どうしてこんなに詰めが甘いのか?
わざとやっているのではないかと勘ぐってしまいたくなる。
それとも――遊んでいるのだろうか?
泣いているニアスに、俺は大量発注をこの場で約束する。
「見ていて悲しくなるから泣き止めよ。覇王国との戦争が始まるから、予備機も含めて大量に発注してやるよ」
「本当ですか!」
喜ぶニアスを見て、ユリーシアは腕を組んで憐れんでいた。
この場を乗り切っても、将来的に赤字は確定しているから仕方がない。
そんなユリーシアにも第三兵器工場への大量購入を打診させるとしよう。
「ユリーシア、第三からも大量に買ってやると伝えろ。割引などしなくてもいい。割高でも買ってやる。そうすれば、帝国にも面目が立つだろう?」
「――本当によろしいんですか?」
既に身内みたいなユリーシアには、バンフィールド家の懐事情が知られている。
領内開発と軍事力増強に大きく予算を振り分けているため、あまり余裕がない。
錬金箱を使っても追いつかない程に、カツカツな状態だ。
「構わない。予算は俺が用意してやる」
「打診はしてみますが、あまり期待しないでくださいよ」
「二倍の価格だろうと購入すると伝えろ」
え、そんなに!? という顔をするユリーシアだが、ニアスは目の色を変えて手を組むと祈るように俺を見る。
「リアム様、第七兵器工場は今後もリアム様を最大限に支援いたします! ですから、うちにもどうか五割、いえ、二割増しでいいので高く買ってください!」
俺という得意先を失えば、第七兵器工場はすぐに閉鎖される状況まで追い込まれているのだろう。
あと、こいつは本当にセールスが下手だな。
「お前の所は台所事情が火の車だろう? 高く買ってやるつもりはない。普通の値段で買ってやるから我慢しろ」
「そんなぁ~」
嘆くニアスを見て、ユリーシアが肩をすくめていた。
「足下を見られるのが悪いんですよ。まぁ、第三にはリアム様が足下を見られている形になりましたけどね」
「――そうだな」
悪いな、ユリーシア――お前の元職場である第三兵器工場は道連れにさせてもらう。
二倍の価格もそのための詫びみたいなものだ。
◇
客たちが帰った後。
俺の部屋にはティアとマリーがやって来て、先ほどの話について尋ねてきた。
ティアは商人たちを信じ切れていない。
「エリオットとパトリスが裏切らぬように、ククリの部下たちに見張らせておく必要があります」
マリーの方は、兵器工場関係者が腹立たしいようだ。
「第七はともかく、第三は気に入りませんわね。これまで、リアム様のおかげでどれだけ稼いでこられたと思っているのか。旗色が悪くなればすぐに足下を見てくれる」
今の俺の立場は危うい。
だから、離れていく人間も多かった。
ただ――俺はこの状況には満足している。
いや、想定していたよりも好ましい。
「クレオも皇帝も詰めが甘いな」
そう言うと、ティアとマリーが怪訝な表情をする。
俺に対してではなく、クレオや皇帝に対する不信感からだ。
ティアは、クレオや皇帝がもっと効果的な切り崩しを行わないことを疑っていた。
「確かに不自然ですね。今の状況ならば、鞭よりも飴の方が人気を取れるでしょう。バンフィールド家の力をそぐならば、締め付けるのではなく友好的な関係を築いて我々を裏切らせるべきでした。本気で切り崩しを考えているのか疑問ではありますね」
マリーはその後をドライに予想する。
「クレオの側に寝返ったところで、安泰とは言えませんからね。バンフィールド家を裏切った後に、クレオに裏切られれば、結局は同じですから」
商人や兵器工場の関係者たちも、どちらにつくべきか判断に困っているのだろう。
俺につけば帝国から睨まれる。
だが、クレオにつけば安泰だろうか?
俺を裏切りクレオについたとして、その後にこれまで通りの関係を維持できる保証はどこにもない。
俺がクレオの立場なら、今後の付き合いは優遇すると確約していたところだ。
「それだけ俺を過小評価しているのか、この程度は些事なのか――勝とうとする気持ちを感じられないな」
俺たちの素直な感想は、気持ち悪い――だった。
効果的なやり方をあえてしないクレオと皇帝には、どうにも不気味さを感じてしまう。
「――これも案内人の加護か?」
小声で呟いたのに、ティアとマリーが不思議そうに首をかしげる。
「リアム様、何か?」
「案内をする者がどうかされたのですか?」
俺の小声すら聞き逃さないようにしている二人に、若干引きつつ首を横に振る。
「何でもない」
俺に対して都合の良い展開が続いている。
これが罠なのか、案内人の加護なのか――判断が難しいな。
だが、今日も案内人にはしっかり感謝しておこう。
若木ちゃん( ゜∀゜)「あははは!! きっと今頃、案内人さんはのたうち回っている頃ね。でも、本当に迷惑な奴ってしぶといわよね」
ブライアン(; ・`ω・´)「そ、そうですね」
ブライアン(`;ω;´)「それはともかく 俺は星間国家の悪徳領主!4巻 本日発売でございます! みなさま、是非とも書籍でもリアム様の活躍をお読みください。Web版より増量されたリアム様の物語をお楽しみ頂けるよう、微力ながらこのブライアンも宣伝に励んで参りますぞ!」