案内人とグドワール
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7月末に発売した二冊ですが、どちらも重版が決定しました。
これも応援くださった読者さんたちのおかげです。
本当にありがとうございます!
グドワール覇王国の首都星では、王太子イゼルの後釜を巡って早くも権力争いに熱が入り始めていた。
次の王太子に――次代の覇王に相応しいのは誰なのか?
王族ばかりではなく、我こそは最強と名乗りを上げる貴族や平民たち。
各地で小競り合いが起きている。
帝国との戦争後ということもあり、争いの規模は大きくはない。
だが、国内では誰もが今後荒れるだろうと予想していた。
そんな覇王国の首都星にあるコロシアムを思わせる闘技場では、グドワールが八本の脚を伸ばして鞭のように振るっていた。
振るう相手は帽子姿の案内人だ。
「痛い。痛いから止めて!」
叩かれている案内人は、叩かれてへこみ、吹き飛び、転がって砂で汚れている。
グドワールは激怒しており、案内人の言葉が聞こえていない。
「イゼルはようやく俺の僕になれる人間だったのに! お前のせいで、お前のせいで!」
案内人が余計なことをしたからだと怒り狂っている。
八本の脚をウネウネさせて、頭部――タコの部分を真っ赤にしていた。
その姿を見上げる案内人は思う。
(ふざけやがって。自信満々にするから期待したのに、お前のところの秘蔵っ子はリアムに勝てなかったじゃないか。何が最強だよ。肩透かしだよ)
腹を立てながらも、今の自分ではグドワールに勝てない。
それを理解している案内人は下手に出る。
「グドワール、気持ちは理解しますよ。けれど――」
「俺の気持ちがお前に理解できるか! イゼルを育てるためにどれだけ俺が見守ってきたと思っている! あいつがギリギリ達成できそうな苦難を与え、乗り切る度に興奮してきた。時に無理と思える困難もあいつは乗り切ってきたのに!」
奇跡が重なり誕生したイゼルという存在。
案内人は何故か嫌な予感がしてきた。
(超えられない困難を与えてきたのに、それを乗り切るリアムって何なんだ?)
グドワールがイゼルを育てるために、とても苦労してきた。
対して、リアムは絶対に超えられない困難を与えても、平気な顔で乗り越えてくる。
案内人にしてみれば、恐怖以外の何物でもない。
(これは、下手に手出しをしない方が正解なのではないだろうか?)
正解に辿り着こうとする案内人だったが、グドワールのたこ足が襲いかかってへこむ。
「へあっ!?」
変な声を出してプルプルと震える案内人に、グドワールが命令をする。
「お前にも手伝ってもらうぞ。まずは、リアムを殺すために、代わりの戦士を用意する。それから最高の兵器だ!」
イゼルで駄目なら、量産型のイゼルを用意して優秀な兵器を与えればいい。
グドワールは数で圧倒する計画らしい。
案内人はへこんだ帽子を戻し、小さな手で砂を払う。
(そんな計画でリアムが倒せるなら苦労するかよ)
リアムが死ぬまで遠くに逃げようと考えていた案内人だが、グドワールに捕まってしまいそれも不可能だった。
「リアムは必ず殺す!」
案内人は恐る恐る聞く。それは一つの疑問だった。
「リアムのような強い者なら気に入ると思ったのですが?」
もう、リアムをグドワールに押しつけて逃げ出したい案内人だが、それは許されなかった。
「――俺が育てた戦士じゃないから、あいつは別枠だ」
「あ、そうですか」
どうやら、自分が育てた戦士以外は認めないらしい。
グドワールがたこ足を伸ばして案内人を持ち上げる。
「お前にも協力してもらう。逃げたら――必ず追い詰めて消滅させてやるからな」
「ひっ!」
リアムにこだわったために、逃げられなくなった案内人は逆恨みをする。
(どうして私がこんな目に! これというのも、全てリアムが悪い。おのれ――おのれリアム!)
復讐の気持ちを新たに、案内人とグドワールの魔の手がリアムに伸びようとしていた。
◇
首都星に戻ってきた俺は、クレオ殿下との面会を終えてホテルに戻ってきた。
待っていたのは――ロゼッタだ。
「ダーリンお帰りなさい!」
飛び付いてきたロゼッタが、俺の首に腕を回して体を密着させてくる。
大きな胸が当たっているとか、いい匂いがするとか――そんなのはどうでもいい。ただ、恥ずかしくて仕方がない。
打算のない好意を向けられるとムズムズする。
「は、放せ」
「ダーリン、聞いて。あのね!」
「後で聞く。それよりも部屋に行くから誰も通すなよ」
俺から離れてしょんぼりするロゼッタを見ていると、何だか忘れた罪悪感が呼び起こされてくる。
もっと強い頃のお前に戻ってくれ。
「――すぐに終わる。三十分後に話を聞いてやるから、お茶の用意でもしていろ」
目に見えて表情が明るくなるロゼッタは、俺に笑顔を向けてくる。
「すぐに用意するわね!」
パタパタと走り去っていくのだが、あいつは自分でお茶の用意をするつもりか? お前、公爵夫人になる人間が、それでいいのか!?
ロゼッタが去って行くと、慌てて側付きのシエルも追いかけていた。
――しまった。シエルをからかおうと思っていたのに、ロゼッタを追いかけてしまった。
俺たちの様子を見ていた天城が、話しかけてくる。
「それでは、旦那様の部屋には誰も通しません」
「天城は良いぞ」
用意された執務室へと向かうと、先に待っていた人物がいた。
――ククリだ。
膝をついて待っており、その側には俺が名前を付けたクナイの姿もある。
ククリは俺が椅子に座るのを待ってから、報告をはじめた。
「調査の結果、マリオンの情報は間違ってはおりませんでした。覇王国は次代の覇王を決めるために内乱に忙しいようです」
マリオンの情報を鵜呑みにすることはしない。
当然のようにククリたちを使って調べさせている。
「今戦えば勝てたな」
「覇王国に限れば勝てるでしょう」
ククリは、覇王国以外にも危険があると考えているようだ。
「どこが動く?」
他の星間国家が、弱った帝国を狙っている。
その情報を掴んだようだ。
「確実なのはパラレル連邦です」
パラレル連邦――いくつもの独立した星間国家がまとまって出来た巨大星間国家は、共通ルールを持った星間国家の集まりだ。
連合王国と同じようなものだが、違いがあるとすれば大統領制ということだな。
貴族が存在していない。
ルストワール統合政府と似ているが、違いがあるとすればまとまりが強くないことだ。より、星間国家の集まりというのが強い。
「パラレル連邦か。伝手がないな」
「バンフィールド家からは遠く、戦争が起きた場合は駆り出される心配はありません。今回は、グドワール覇王国との争いに参加しましたからね」
俺はグドワール覇王国と戦い、武功も上げているので今回は免除される可能性が高い。
参加しろと言われたら、資金や資源を出してお断りするつもりだ。
「これで領地に引きこもれるな」
長い修行期間も終わり、後は好き勝手に動ける。
これからが本番だと意気込んでいると、天城が俺に水を差してきた。
「そうですね。旦那様も、領地に戻ってロゼッタ様との結婚式が待っています。そうすれば、当家は公爵家になりますね」
「――え?」
「修行が終われば一人前の貴族です。そして、旦那様はロゼッタ様との結婚が行われれば、そのまま公爵に陞爵ですから」
「そ、そうだった」
忘れていた。俺はロゼッタと結婚しなければならない。
あいつの実家の爵位は欲しいが、今のロゼッタと結婚していいのだろうか?
あの鋼のような反骨精神を持ち合わせたロゼッタではなく、今のチョロいロゼッタで本当に俺は満足するのか?
しかし、ここでロゼッタを捨てると、貴族社会で俺の評判は地に落ちる。
取り返しが付かない。
俺の反応を見て、天城が目を細めていた。
「この後に及んで逃げるつもりではないでしょうね? 許しませんよ」
ククリとクナイは、俺のナイーブな話題に関わりたくないのか黙っていた。お、お前ら、こういう時は主人を助けろよ!
だが、天城に言われては俺も逆らえない。
「そ、そんなことはないぞ! 戻ったら結婚式だ。そう、戻ったらな!」
せっかくの修行期間――色々とあって遊べなかった俺は、もう少しだけ独身時代を楽しみたい。
ロゼッタには悪いが、数年は我慢してもらうとしよう。
何か理由を付けて首都星に残って遊んでやる!
俺が今後の計画を練っていると、ドアがノックされた。
ユリーシアの声がする。
『リアム様、エクスナー男爵とクルト様がお見えになりましたよ』
男爵とクルトが?
◇
ホテルの応接間を借りてエクスナー男爵に面会すると、修行が終わって軍人として正式に働いているクルトの姿もあった。
相変わらず高身長の爽やかイケメンのクルトだが、その顔は苦々しい表情をしている。
そして、エクスナー男爵は俺の前で土下座をしていた。
「リアム殿、本当に申し訳ない!」
何度も床に頭をぶつけて謝罪してくるエクスナー男爵の横では、クルトに睨まれているシエルの姿があった。
俯いて涙目だ。
俺はエクスナー男爵の土下座を前に戸惑っていた。
「どうしたんですか、男爵? とにかく、ソファーに座ってください」
「それは出来ない!」
エクスナー男爵が本気で焦って謝罪してくるので、俺はシエルを睨み付けているクルトに視線を向けて説明を求めた。
クルトも俺に見られて申し訳なさそうにする。
「すまない、リアム」
「だから、何があったんだよ?」
「――シエルが、君に隠れてロゼッタの親衛隊に口出しをしていたんだ」
「お、おぅ」
クルトに叱られたのか、シエルは涙目で俯いている。
――ごめん、それ知っていた。なんて言い出せない雰囲気だ。そもそも、シエルが何をしても俺に情報は筒抜けだった。
ロゼッタに足りない反骨精神を持つポンコツのシエルは、俺にとって癒しそのものだ。
それなのに、どうしてエクスナー男爵やクルトが、シエルの行動を知っていたのか?
いや、それよりも問題は――。
「謝罪しても足りないのは理解している。ここは、私が責任を取る! そ、その、クルトに後を継がせるのは認めて欲しい。賠償金はクルトの代になっても必ず払わせる」
責任をとって当主の座を降りるだけならどうでもいいが、エクスナー男爵の口振りと雰囲気からは自らの命も賠償に含まれている気がした。
そんなの困る! 大事な悪徳領主仲間じゃないか!
クルトがシエルを睨んでいた。
「お世話になっている家で、好き勝手に振る舞うなんてあり得ない。リアム、僕からも謝罪させてくれ。本当にすまない。――シエル、君も謝るんだ」
泣き腫らした目で頭を下げてくるシエルだが、まだ俺への反抗的な気持ちを残していた。
いいぞ、お前はそれでいい! だが、クルトはシエルの扱いを決めていたようだ。
「リアムが許してくれるなら、妹は絶縁した後に辺境に送ろうと思うんだ。リアムが許せないなら――その時は君の判断を受け入れるよ」
それって連れて行くって事か!? 今、俺の手元にいる女性の中で、シエルほどの癒し枠はいないんだぞ! チノは別枠だし、エレンは弟子枠で――だ、駄目だ。
シエル以上の人材がいない。
混乱する俺の横では、話を聞いていたロゼッタが俺にお願いしてくる。
「ダーリン、私からもお願いするわ。シエルの命だけは助けてあげて欲しいの。この子は、私も指導に関わってきたわ。だから、どうかお願い」
ロゼッタがシエルの助命を願い出てくるが、そんなの最初から決まっているんだよ!
今大事なのは、シエルを俺の手元に残すことだけだ。
俺はエクスナー男爵に近付いて声をかける。
「男爵――幾らですか?」
「賠償ですか? それなら、リアム殿と相談したいと――」
「いえ、違います。シエルを幾らで許してくれますか?」
「は?」
エクスナー男爵は何を言われたのか理解できなかったのだろう。俺は、丁寧にエクスナー男爵に説明する。
「シエルは許します。そして、今後も当家でしっかり教育させて欲しいのです。こんな形で放り出すなんて、俺の評判に関わりますからね。――それで、幾らで男爵は納得してくれるのですか? 五千ですか? 一万?」
ちなみに、ここでいう五千は桁をいくつも省いた数字だ。
「え? いや、どうしてうちがもらうんです? 普通は逆――」
納得すれば良いんだよ!
「ならば、二万でどうです? そうだ。軍に知り合いが沢山いるので、クルトのことをよろしくと伝えておきますね」
エクスナー男爵が首を横に振る。
「いやいやいや、受け取れないです。シエルを引き取って、正式に謝罪をさせてください」
「そこを何とか! このままうちで預かりますから! ――分かりました。五万払いましょう。軍にもクルトの事を頼んでおきます。えぇ、それはもう、どんな圧力だってかけてやりますよ! 二階級特進は確約しましょう!」
クルトが「縁起が悪いから止めて!」とか言うが、シエルを手元に残すためだ。
シエルも困惑しているが、その横でロゼッタが諭していた。
「――いい、シエル。ダーリンが優しいから今回のことを許すのよ。本来なら、追い出すのが普通なのよ。それだけのことをしたと、しっかり自覚しなさい」
「は、はい」
納得できていないシエルだが、ロゼッタに言われれば従うしかない。ただ、ここで心を入れ替えるとか、そんなことをされたら追い出していた。
俺への反骨精神だけはなくさないで欲しい。
「男爵、よろしいですね?」
「――リアム殿がそれでいいのなら」
理解できないという顔をするエクスナー男爵が、ようやく俺の提案を受け入れてくれた。
一安心だが、どうしてシエルの件が外部に漏れたのだろうか?
若木ちゃん(;´Д`)「た、たとえ、ここで私が倒れても――第二、第三の私が必ず宣伝するわ。宣伝がある限り、私は不滅――ぐふっ! コミカライズ版【乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です 4巻】は明日発売――そして、コミカライズ23話も明日更新予定――よ」
ユメリア(ノ・∀・)ノ「いい子になれ~いい子になれ~」
若木ちゃん(((( ;゜д゜))))「いやぁぁぁぁあぁぁ!?!?!!???」
若木ちゃん( ゜д゜)「……」
若木ちゃんヽ(°▽、°)ノ「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です シリーズは好評発売中! 俺は星間国家の悪徳領主! も好評発売中! コミカライズ版も4巻が【明日】発売! みんな~、どっちのシリーズも応援してね!」
ユメリア(´∇`)「いい子になりました!」
ブライアン(´;ω;`)「色々と酷くて辛いです」