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13.始祖7.



「俺に助けてほしいって、何からだよ?」

「君に厄介ごとを押し付けることは申し訳ないと思っているだけどね。その前に、アルメイダはいるかい?」

「師匠ならここには――」

「ここにいるわ。お久しぶり、でもないですね、ラスムスさま」


 音もなくなにもないところから現れたアルメイダに、全員が目を剥いた。


「あら、すごい隠行ね。さすがジャレッドの師匠かしら」


 晴嵐から賞賛の声をかけられるも、幼さを残す明るい髪の少女は、ジャレッドたちに見せるような笑顔を浮かべることなく冷たい無表情のまま鼻を鳴らした。


「竜に会うのは何年ぶりかしら。とても会いたくなかったわ」

「そうでしょうね。私だって、実際にいるとわかっていても、こうして目にするのは初めてよ」

「じゃあ、私がずっと姿を隠していたのも理解できるでしょう」

「もちろんよ。ハーフエルフさん」

「――ハーフエルフ!?」


 声を大きくしたのはジャレッドだった。まさか、命の恩人であり、戦う術を授けてくれた師匠の素性が、空想の生き物だと思っていたエルフの血を引く者だとは思いもしなかったからだ。


「アルメイダさまが、現代にも生き残っていると言われるハーフエルフだったなんて」

「ごめんね。隠すつもりはなかったけど、別に公言することでもなかったから」


 きっと言っても信じないと思っていたのか、それとも過去に人間の手によって駆逐された過去を持つエルフの血を引くからか。


「ジャレッド、みんな、驚いたでしょうけど……私がずっと長生きしている理由がわかったでしょう?」


 寂しげな表情を浮かべる長い年月を生きたハーフエルフの気持ちは、誰にもわからない。

 アルメイダは困惑を浮かべる弟子に、優しげな笑みを浮かべた。


「ハーフエルフでも、私は今までと変わらないわ。手のかかるジャレッドの師匠で、ここにいるみんなの家族よ」

「当たり前だ。ハーフエルフだからって態度を変えるわけないだろ。そもそも、ありえない強さと、長い寿命を考えたら、むしろ納得できるからさ。師匠は師匠だ」


 弟子だけではない。この場にいる家族たちが、ジャレッドに同意するように次々と声をかけ、頷いてくれる。


「ありがとう」


 みんなと態度が変わらないことに安堵した少女は、嬉しそうに微笑んだのだった。


「さて、僕のせいで話が脱線してしまったけど、みんなが彼女を受け入れてくれて、僕からも感謝するよ。アルメイダを含め、みんなに聞いてほしい話だからね」

「ラスムスさまが感謝する必要はありません」

「そうもいかないさ。かつての婚約者として、君には幸せになってほしいんだ」

「はぁ!? こいつが、師匠の!?」

「どうして終わったことを今さら言うのかしらね。ま、過去の話よ。かつて魔導大国に仕えていたころのね。ラスムスさま、いい加減、話を元に戻してください。あなたはジャレッドに何をさせようというのですか?」

「はいはい。話を先に進めますよ、と。これで当事者が全員集まったからね」


 ぐるりと周囲を見渡し、満足げに頷くラスムスであったが、


「あら、でも、ラスムスさま。ワハシュがいませんよ。あの人だって関係者じゃないですか」

「うん。そうなんだけど、彼は負傷してしまったから、休ませているよ」

「お父様が負傷しただと!」


 始祖の血を引く少年の言葉に、誰よりも反応したのは、ワハシュの娘であるローザだった。

 彼女は一瞬でラスムスに肉薄すると、彼の胸ぐらを掴みあげる。


「ありえん。あのワハシュだぞ。休みが必要なほど負傷させるなど、私にだって不可能だ」


 かつて大陸一の暗殺組織であったヴァールトイフェルの長ワハシュ。その後継者であったプファイルもまた、ローザ同様に動揺を隠しきれていない。

 ジャレッドもそうだ。母の一件で戦ったが、手も足も出なく敗北したのは記憶に新しい。

 そのワハシュが負傷しているというラスムスの言葉は、到底受け入れることができるものではなかった。


「君たちは確かローザ・ローエンくんとプファイルくんだね。ワハシュくんは君たちを関わらせたくないようだったけど、僕としては君たちにも力を借りたいと思っているんだ」

「……話してみろ。お父様を傷つけるほどの相手が敵ならば、相手にって不足はない」

「ワハシュには大恩がある。いいだろう、貴様の手助けをしてやる。どうせジャレッドだけを巻き込ませるつもりはなかったからな」

「プファイル、お前」

「ふん。貴様を倒すのは私だ。ゆえにわけがわからないことに巻き込まれて勝手に敗北されても困る」

「ありがとな」

「……ふん」


 そんなライバルのやり取りを眺めていたラスムスは、眩しいものでも見るかのように目を細めた。

 そして、改めて全員の顔を見てから、胸に手を当てて、深く頭を下げた。


「まずは、君たちが前向きに僕の話を聞いてくれることに心からの感謝を。自分で言うのもなんだけど、はっきり言って僕は怪しい」

「だろうな」


 自覚があったのか、とジャレットはつい口に出してしまった


「静かに話しを聞きなさい」


 そばにいたオリヴィエに腕を抓られ、口を慌てて噤む。


「そこで僕の立ち位置をはっきりさせておこうと思う。改めて名乗ろう。僕はラスムス・ローウッド。始祖ユナ・ミハラサキの直系子孫であり、魔導大国が崩壊するとき第三王子の地位にいた」

「だけど、あんたは始祖を復活せようとはしたくない。だよな?」

「うん。始祖の復活は望まない。ゆえに、ジャレッドくんたちに力を貸してほしい。どうか僕と一緒に、始祖を目覚めさせようとする人間を止めてほしい」


 ラスムスの言葉を受けたジャレッドは、


「オリヴィエさま、イェニー、エミーリアさまが巻き込まれるかもしれないんだ。俺でよかったら力を使ってくれ」


 なにも迷うことなく、はっきりと言い切ったのだった。




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