―05― 妹と実験
「それじゃ、私が先に入るから。大丈夫そうだったら合図を送るから、そうしたら入ってきて」
妹の制裁から生還した俺は無事に自分の部屋までたどり着くことができた。
「えっと、これとこれは必要だな」
俺は実験道具をカバンの中に詰めていく。
「そんなガラクタ、なにに使うのよ」
ふむ、妹にはこれらがガラクタにしか見えないのか。
「崇高な魔術の実験に使うんだよ」
「呆れた。まだ魔術を諦めてなかったの? お兄ちゃんには魔力がないんだからどうしたって魔術師にはなれないのに」
中々理解してもらえないものだ。
まぁ、俺の歩いている道は険しい道だ。常人に理解されないのも仕方がない。
「せっかくだし、これも持っていくか」
俺が手にしていたのは魔導書である。
魔導書は荷物になるため置いていこうと考えていたが、一冊ぐらいお守り代わりのつもりで持っていくことにしよう。
「ホントお兄ちゃん魔導書好きよね」
「この魔導書は特別な魔導書なんだよ。もしかして欲しいのか?」
「いらないわよ。読めないし」
俺が手にしているのは俺の魔導書コレクションの中で最も貴重な一冊。
魔術師の祖、賢者パラケルススが書いた七巻ある原書シリーズの一冊。
しかも現代語に翻訳されていない古代語で書かれたものだ。
見るからに古い時代に書かれたものなので、ほころびがあちこちにある。
「古代語読める人なんてお兄ちゃんぐらいよ」
「学校にもいないのか?」
「先生でも読めないわよ。別に読める必要なんてないし」
「そうか? 現代語に翻訳されたものより古代語で読んだほうがより理解が深まると思うがな」
「魔術師でないお兄ちゃんが言っても説得力ないわよ」
ふむ、そういうものか。
と、そうだ。
俺はある考えに至った。
火には空気が必要なのを俺は実験にて証明したわけだが、〈火の弾〉の場合はどうなんだろうか?
せっかく妹がいるし、今のうちに検証しておきたい。
「なぁ、このガラス瓶の中に〈火の弾〉を作ってくれないか」
蓋をしたガラス瓶を見せて、妹にお願いする。
「はぁ? なんのために」
「魔術の実験のためだ」
「いや、意味わかんないし」
「お兄ちゃんの一生のお願いだ! 聞いてくれ」
「まぁ、別にいいけど……」
なんだかんだ妹は俺の言うことを素直に聞いてくれる。
いい妹を持ったな。
お兄ちゃん感動で泣きそうだ。
「〈火の弾〉」
そう言うと、プロセルの左手の先に魔法陣が浮かび上がる。
すると、ガラス瓶の中に〈火の弾〉が発現した。
「もう一つ、同様の〈火の弾〉をガラス瓶の外に作ってくれないか」
「……わかったわよ。やればいいんでしょ」
そう言って、プロセルはガラス瓶の外にも〈火の弾〉を作る。
「そしたら2つとも限界まで維持し続けてくれ」
さて、俺の予想では密閉された〈火の弾〉の方が先に消えるはずだが、どうなる?
「ねぇ、これいつまで続ければいいの?」
5分ぐらい経っただろうか。
どちらの〈火の弾〉も消える気配がない。
「なぁ、どっちにも魔力を送り続けているんだよな」
「うん、そうだけど」
「どっちかの〈火の弾〉の維持が難しいとかないか?」
「別に変わらないけど」
おかしい。
俺の見立てでは、この2つにはなんらかの差がつくはずだか。
「あぁ、もう限界!」
そう言ってプロセルは2つの〈火の弾〉を消した。
密閉されたほうも、そうでない〈火の弾〉も同時に消える。
「なぁ、もう一度ガラス瓶の中に〈火の弾〉を作れないか?」
「えー、嫌よ。疲れるもん」
「別にさっきみたいに維持する必要はないからさ。〈火の弾〉ができたのを確認したらすぐ消していい」
「えー、どっちにしろ少し休憩させて」
そう言って、妹はぐでーとベッドに寝転がる。
そこは俺が使っていたベッドだ。
まぁ、魔力の消費には体力を使うらしいから、仕方ないか。
ふと、俺はある実験を思いつく。せっかくだし妹が休憩している間にやってしまおう。