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―27― 生徒会室

 会長に通されて仕方なく生徒会室に入る。

 中にはいるとすでに生徒たちが何人かおり、談笑していた。

 立食パーティーのつもりなのか、皆立ちながらなにかを食べている。

 そういえば昼食の時間だった。


「会長、随分と遅かったですね」


 髪を刈り上げているガタイのいい男子生徒が生徒会長に話しかけてくる。


「彼を連れてくるのに時間がかかりまして」

「あぁ、この男が例の……」


 そう言って刈り上げは、俺を値踏みするような視線を投げかけてくる。


「アベルくんもお昼一緒に食べませんか?」

「それより早く工房を見せてほしいんですが」

「ん~、仕方ないですね。でも、工房を見終わったら、お昼つきあってくださいね」

「まぁ、いいですけど」


 工房を見せてくれるならお昼をつきあうぐらいいいだろう。


「か、会長! まさか工房を見せるのですか!?」


 ふと、さっきの男が慌てていた。


「ええ、そうですけど」

「わ、我々だって入ったことないのに、なんでこの男に……」

「だって約束しちゃいましたから~」


 会長はのほほんといった調子で答える。


「約束って……」


 刈り上げは会長の答えに煮えきらないような表情をしていた。


「アベルくんだけに見せるんですからね。あと、驚かないでくださいよ」


 そう言って会長は扉に鍵をさす。

 扉の上には生徒会長室と書いてあった。

 生徒会長室を自分の工房にしているのか。

 中は薄暗かった。

 昼間なのにカーテンを閉めていたから、意図的にそうしているのだろう。


「……蛾か?」


 視界に茶色のひらひらとした物体が入って、そう呟く。

 それは宙を飛んでいる蛾だった。

 いや、一匹どころじゃない。

 部屋の壁を埋め尽くすように、蛾がうじゃうじゃとひしめきあっている。


「うげっ」


 虫は苦手だ。特に蛾は苦手だ。

 なんであの体の構造で空を飛べるのか、理解できないところが気持ち悪い。

 その、あまりにも不快な光景に俺は思わずえずいた。


「わたくし、使役魔術を得意としているんです~」


 そう言って会長は手をのばす。

 すると、何匹かの蛾が会長の指の先に集まった。


 使役魔術。

 対象を意図通りに操る魔術。

 操られた対象は使い魔なんて呼ばれる。


「なぜ、蛾なんですか?」


 使い魔は一般的に猫や鳥が多い。それらは知能の高い生き物だからだ。知能が高いと主人の意図も組みやすい。だから、使い魔として使われることが多い。

 虫を操るなんて聞いたことがなかった。


「かわいいじゃないですか」


 会長は蛾を手で愛でるように撫でいていた。

 この人の感性は理解できそうにないな。


「それに、虫のような比較的単純な生命のほうが都合よかったんです」

「都合がよい……?」

「魂を魔力に変換する。それがわたくしが研究している魔術です。ですので、魂の構造が単純な虫が最適だったんですよ」

 虫の魂を魔力に変換する。

 おもしろいな。

 それなら魔力がゼロの俺でもできるか?

 いや、そもそも使役魔術ができないからな。そううまくはいかないか。


「それで、その魔術は完成したんですか?」

「ん~、完成したにはしたんですが、思ったとおりにはいきませんでした」

「それはどうしてですか?」

「計算上では膨大な魔力を得られるんですが、実際に蛾から得られた魔力はほんの僅かだったんです」

「……そうなんですか」


 そう頷きつつも、思い出す。

 一度、俺自身の魂を削って獲得した魔力で魔術を発動させたとき、魔力が足りず失敗に終わったことを。

 確かに、俺もあのとき、会長と同じことを考えていた。

 想像よりも手に入れた魔力が少なかった。

 なぜそんなことが起きるのか、実に興味深いな。

 ふと、机の上に紙の束が置かれていることに気がつく。

 びっしりと字が書かれていることから生徒会長の研究成果が書かれているのだろう。

 無意識のうちに紙の束を手にとっていた。


 そして目を通そうとして――


「ダメですよ~、勝手に見ちゃ」


 と言って、取り上げられる。


「少しぐらい見せてくれてもいいじゃないですか」

「アベルくんの魔術についても教えてくれたら見せてあげますよ~」

「それは難しい相談ですね」

「でしたら、これ以上は見せられません」


 部屋から追い出された。

 もう少し観察したかったのに。


「それじゃあ、アベルくん。交流会のほう始めましょうか」


 そういえば、そんなのあったな。

 面倒くさいが、約束してしまった以上参加しないわけにもいかなかった。


「それでは順番に自己紹介をしましょうか。まずわたくしから。生徒会長を務めてますユーディット・バルツァーです。みなさん、今後ともよろしくお願いいたしますね」


 生徒会長が皆の前で頭を下げていた。

 すでに交流会は始まっていたが、生徒会長が来たので改めて仕切り直しということでみなで自己紹介をすることになった。


「俺は副会長のガルブ・ガルボーだ。新入生は緊張していると思うが、気軽に接してほしい」


 この部屋に入ってきたとき、俺のことを見てきた刈り上げの男はどうやら副会長らしい。

 それから他の生徒会の面々や一年生たちが自己紹介をする。

 俺も自分の名前を名乗っては無難に自己紹介を終えた。

 自己紹介が終われば、あとは自由に過ごしていいらしく各々お昼を摘みながら好きにしゃべり始めた。



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婚約者を殺された冤罪で、ダンジョン奥地に投獄された俺は、ヤンデレ勇者がくれた〈セーブ&リセット〉のスキルで何度やり直してでも、このダンジョンを攻略して、村人全員に復讐することを誓う


予約始まりました! よろしくお願いします!

魔力ゼロの最強魔術師〜やはりお前らの魔術理論は間違っているんだが?〜

魔力ゼロ
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