桜の国チェリンと七聖剣【百九十二】
2021/11/04【追記】あとがきにお知らせを追加!
レイア先生の凄まじい殺気が場を支配する中、
「――私の<玉蟲頭>は、『隠形特化』の魂装なのですが……。さすがはレイア様、これほどあっさり見破られるとは思ってもいませんでした」
遥か後方、鬱蒼とした木々の狭間から、黒服の男がヌッと姿を現す。
(あれが隠形特化の魂装か……初めて見たな)
彼が魂装を解除し、姿を見せるその瞬間まで、全く気配を感じなかった。
正面切っての戦闘には向かないが、暗殺・斥候・遊撃など、幅広い用途に使えるいい能力だ。
(それにしても、やっぱり凄い……)
黒服の隠形も凄いが、それを一瞬で見抜いたレイア先生はさすがだ。
普段はろくすっぽ働かないうえ、捻くれ曲がった性格の駄目人間。しかし、『戦闘』という一点、ここにおいてだけは本当に頼りになる。
「その制服……『狐金融』の者だな。いったいなんのようだ?」
「我が主リゼ=ドーラハイン様の命を受け、ローズ=バレンシア様をお待ちしておりました」
黒服は空の両手を上にあげ、敵意がないことを示しながら、ローズの方へゆっくりと足を進め――深々と腰を折る。
「白銀の髪に真紅の瞳……貴方がローズ様ですね?」
「……『血狐』の使いが、私になんのようだ?」
強い警戒を滲ませるローズに対し、黒服の男は淡々と用件を告げる。
「我が主はバッカス様に大恩があり、それをしかと返すべく此度の行動に出られました。『世界最強の剣士』にふさわしい墓所を用意し、国有地であるこの島を強引に買い上げ――桜華一刀流の正統継承者であるローズ様へお渡しする。これをもって義理を果たさんとしております。こちらが島の権利書です。どうぞご査収ください」
黒服が取り出した封筒。そこにはこの島の権利書が入っており、所有者の欄にはローズ=バレンシアと記されていた。
「ちょ、ちょっと待て……お爺様と血狐は、面識があったのか!? いやそれよりも、大恩とはなんだ!?」
「申し訳ございません。私は所詮ただの連絡係、詳しいことは何も知らされておりません」
黒服の男性は抑揚のない声でそう述べた後、
「次の仕事が控えておりますゆえ、このあたりで失礼いたします」
恭しく一礼をしてから、静かにこの場を去った。
「……なるほど、フェリスの一件の恩返しというわけか……」
「『フェリスの一件』……何か知っているのか?」
先生の呟きに対し、ローズが反応する。
「あぁ。リゼの妹であり、氷王学院の理事長――フェリス=ドーラハイン。あの馬鹿がまだ学生だった頃、とある大きな事件に巻き込まれ、拉致されたことがあってな。それを救ったのがバッカスの爺さんだった。『強そうな剣士がいたので、勝負を持ち掛けてみたら……案外そうでもなかったわい』と残念がっていたそうだ」
……なんともまぁ、バッカスさんらしいお話だ。
「リゼはいけ好かん奴だが……筋を違えるような真似だけは絶対にしない女だ。この立派な墓と土地の権利書については、おそらく本当にあいつなりの『恩返し』だろう」
「そう、か……。それは……感謝しないといけないな」
やっぱりリゼさんは優しい人だ。
あの人が五大国や聖騎士協会を裏切り、神聖ローネリア帝国へ情報を横流ししているだなんて……とても考えられない。
【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
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こちらなんと、過去最高レベルの『超大量の加筆修正』を行っております!
アレンの激闘・日常の会話・イベントの深堀りなどなど……。とにかくスーパーボリューミー!
それにしても、書籍版はついに桜の国チェリン編へ……。
もうすぐWeb版に追いついちゃいますね。
ちなみに……メロンブックス様でお買い上げいただいた場合は、店舗特典として書き下ろしSS『アレンたちの打ち上げ』がついてきます!
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今後とも応援、よろしくお願いいたします……!
(※お待たせしているWeb版の続きは、近日中に更新する予定なので、もう少々お待ちくださいませ……っ)
月島秀一